白い影
エレベーターを昇ったマンションの5階はギリギリ新宿の街を見渡せる位置にある。
その突き当りの茶色の扉の部屋がボクのお城だ。
カバンの中には緑のスワロフスキーが中央にあるクロスが手探りでも鍵の在り処を教えてくれる。
お気に入りのチャームだ。
鍵はそっと右へ回すとカチャっと音を立てて開いた。
「ただいま~」
誰もいない部屋。
でも、ボクはいつもそう言って部屋に上がるのが習慣になっている。
鍵をかけて、金色のドアガードを横に倒した。
最近は都内の静かな住宅街のほうが物騒なので用心に越したことはない。
しかし、それ以上に来客は勘弁して欲しい。
ちょっと派手な玄関マットに足を置くとふわっとした感触が足の裏側に直接伝わった。
白いエナメルでかかとの少しある靴を丁寧に揃えて一つしかない部屋へのドアを開けた。
「はぁ~~ 今日も疲れた」
真っ白なソファーにそのまま倒れ込んだ。
「何もしたくないなぁ」
「このまま寝ちゃおっかなぁ」
自分の中のナマケモノがすぐに顔を出してくる。
目を閉じるとすぐにでも落ちていきそうだ
「あ、やばい!やばい!」
その場に服を脱ぎ捨てお風呂場に走った。
「顔、顔、、、、落とさなくっちゃ」
「今朝洗っておいて良かった」
湯船にお湯の蛇口をひねると、もの凄い勢いで湯気が上がって一瞬で浴室が真っ白くなった。
ぼんやりとした視界の中、真っ白に映し出されている影が鏡の中に浮かんでいた。