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狩りへ向けて


青ざめた顔のミルツを引きずりながら兵舎の自室に戻り、狩りの準備をする。

食堂で打ち合わせたとおり、キラーラビットの狩りを行う準備だ。

昨日の晩に新しく調達した弓を藁のベッドの上に放り出し、同じく新調したショートソードを腰ひもにしっかりと結びつける。

季節は冬で寒いので見習い狩人に支給される淡い緑色のポンチョをガバっとかぶってちょっと値の張ったふかふかのショールをぐるぐると首に巻きつける。

その上から背中に矢筒を背負って準備完了だ。

自室を出たところで「今日も狩場へのエスコートお願いしますよ。小さな狩人さん。」

なんてこれも毎回繰り返されるミルツとの罵り合いをしながら兵舎を出る。

ユーキの町の西の防壁から出て街道沿いに進んだ草原に生息する小型の魔物、キラーラビットの生息地までは徒歩30分といったところか。


狩場までの道すがら、今日の狩場についてのさらなる打ち合わせをミルツとすることにした。


「キラーラビットは僕たち子供の狩人でも倒せるとはいえ、巣穴付近で攻撃すれば群れで反撃してくるから侮らないでね。

大人の狩人なら一人でも油断しなければ群れを全滅させるくらいの魔物ではあるけれど僕らじゃ弓の威力が劣るからね。」

「俺はあと1年で成人だからそろそろキラーラビットくらいなら一人で全滅させられると思うんだけどなぁ」

「そう言って昨日リトルベアにちょっかい出して僕の弓を壊したのは誰だっけ…?」

「あれは…ほら、なんてーの?あのリトルベアはリトルじゃなかったんだよ…多分…」

「1000ゴールド…」

「へ…?」

「新品の弓、新品のショートソード…合わせて1000ゴールド…」

ショートソードに関しては逃げている最中に僕が落としてしまったからなのだが、ミルツのせいで一目散に逃げる羽目になったんだから請求するのも問題ないはずだ。

恨めしそうなじと目で睨むと自分の目の前で両手をぶんぶん振りながら

「いやーやっぱ俺らは最強タッグだからな!二人でやろう二人で!なーっはっはっはっ!」

なんていいながらさっさと先に進んでしまった。

本当に調子がいい奴だとあきれながらも僕は苦笑いを浮かべる。

「そういや来年は俺も成人だから一人で狩りに出るようになるぜ?コウはどうすんだよ。新しい相棒の充てはあるのか?」

「んー。隣室のシシムの相棒も来年成人だって言うからシシムとしばらくは行動してみるつもりだけど…どうだろうね。こればっかりは相性もあるし。」

ミルツと打ち合わせとも雑談ともつかない会話をしながら草木を刈り取っただけの整備されていない街道をてくてくと歩きすすむ。

「はぁ、一人で狩りに出れるから収入が上がるのは歓迎するけど危険が増えるのは勘弁願いたいなぁ。」

そんなことをぼやきながらミルツは頭の後ろに手を組み空を見上げながら歩く。

隕石の粉塵が未だに晴れていないのか、空は今日もうっすらと灰色の膜を掛けている。

「収入が上がれば上質な武器や防具だってそろうじゃないか。10歳から今まで見習いとはいえ毎日狩りをして生きてこれたんだ。ミルツはきっといい狩人になって王都に戻れるよ。」

「10歳からこっち、毎日毎日狩り狩り狩り…ほんと退屈な毎日だよ。」

「だからって防壁の中で自由もない食事も満足に出来ない生活なんてミルツは我慢できないんだろう?」

あったりまえだ。とミルツは小石を蹴飛ばす。

そりゃそうだよなぁ。僕だって嫌だもの。と考えながら僕もミルツにならって道端の小石を蹴飛ばした。

10歳になれば子供は防壁の中での下働きをするか、狩人となって防壁の外で魔物を駆除するかを選ばなければならない。

下働きには直接的な命の危険は無いけれどその代わりに自由が無い。

旧世界の奴隷と似たような扱いを受けることになるので特別な事情がない限りは殆どの子供が狩人を選択する。

狩人は15歳まで無事に生き残ることが出来たなら一人前と見なされ、見習いではなく正式な狩人として一人での狩りが認められる。

旧世界では大人になるのは20歳で平均寿命は80歳位だったって神父様は言っていたけれど今の地球での平均寿命は40歳と半分ほどに低下している。

魔物との戦いで命を落とすものや、旧世界のような高度医療技術も無いので病で人は簡単に死ぬようになり、生存率が激減した、というわけだ。

そして30歳を迎えるまで無事勤め上げたら王都に戻って王都の守護を担うことになる。

王都の周辺は比較的弱い魔物しか生息していないため、至って安全に生活できるがここに辿り着けるのは狩人の中でも1割ほどだ。

それほど今の世界は人間に厳しい状況なのを再度自分の中で確認する。


更にこの町には僕たちのような子供の面倒を見てくれる大人が非常に少ない。

旧世界で地球に降り立った人間はわずか500人だったし、そこから300年以上たったとはいえ、魔物の脅威に脅かされ続けている人間は数を増やせないでいると聞く。

王都であるのカイナードですら王族、貴族、平民を合わせても300人そこそこみたいだし、ユーキの町に至っては50人程度しか人はいないのだ。

ところが町の周辺の魔物は、少し放っておくだけでどんどん数が増えていく。

人間の増加数より魔物の増加数が勝り、危険な魔物の駆除に狩人が駆り出され、そして死んでいく。

囲まれた世界でしか生活ができない人間と自由気ままに大地を駆け巡る魔物とを比較すれば少しおつむの足りないミルツにだって弱肉強食の意味が分かるだろう。


子供の狩人はツーマンセルで行動するし、町の周辺でしか狩りをおこなわないように徹底されているから危険度はそれほど高くはないが、大人の狩人はそうはいかない。

町の周辺や山の麓だけではなく、渓谷から迷い込んでくる強力な魔物も駆除しなければならないからだ。

狩人の人数が少ないため、大人の狩人は基本的に一人で行動し、魔物を駆除していかなければならない。

おかげで生存率も低い過酷な環境に置かれている。

数年前に大人の狩人も生存率を上げるためツーマンセルでの活動を行っていたらしいが、カバーできる範囲が狭まったおかげで魔物の大量発生を引き起こし結局元の体制に落ち着いた。

王都にはには紙片の騎士団という強力な戦力があると言われているが、こんな辺境の町まで防衛を行うほどの戦力は裂けないので僕らが頑張るしかない。

おかげで魔物を倒して金貨を得られるのだからまぁまんざらでもないけれど。


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