表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

友好と握手のウィンリンン

 私の荷物は、昨日のうちに寮の部屋へ送られている。

 服とか日用品とか、私が家から送った物のほかに、学校から支給された教科書や制服なんかもいっしょに届けられているらしい。

 だから私は、今まで学校に持っていっていた学生鞄だけを提げて、ほとんど身一つでエルフ国に来れたのだ。



 ムンゲルおばさんに先導されて、私は赤レンガの女子寮の一階を移動する。

 執事さんは、寮の中へと案内されて行く私の背中を見届けて帰ってしまった。ろかにも仕事があるって言ってたけど、どんな仕事かは想像もつかない。

 おばさんは私の唯一の荷物である学生鞄を預かってくれようとしたけど、そんなに重くないから大丈夫です、って断った。

 お仕事ですので、とおばさんは一度食い下がったが、私がもう一度断ると笑顔のままでその手を引っこめた。

 寮の一階は、ただ四角い廊下の内側に中庭があるだけだと思っていたけど、それはどうも違っていたらしい。

 緑の中庭を囲む廊下は、それぞれの通路の中ほどで外に向かって枝を作って、その先にさらにたくさんの部屋を広げていた。それがどこまで続いていて、扉が並んでいるのかは、ひと目見ただけでは掴めない。

 廊下の壁には間隔を空けて、雰囲気のある絵画が飾られていた。()いた人の名前らしきものがその下のプレートに書かれているけど、ノルド語で、なにより筆記体だったので私には読めなかった。

「舟星様、長旅はお疲れだったでしょう」

「はい、ちょっとだけ。でも久しぶりに六本脚の馬に乗れて楽しかったです」

「まあ、それはよかったですわ。エルフ国でも、セクショールニル──六本脚の馬に乗ったことのある方は少ないんですよ」

「え。そうなんですか?」

「ええ。ウェンジュレグリョール──四本脚の馬は、今でも市民の交通手段として広く使われていますが六本脚の馬となると、なかなか。騎士様をはじめ、特別なお仕事をしている方でないと乗ったことはないかもしれません」

「……じゃあもしかして、私ってけっこう貴重な体験してたりします?」

「もちろん」

 六本脚の馬って、人間の世界でいうとヘリコプターみたいなものなのかも……なんとなくそう思った。

 そんな会話を楽しみながら、私はムンゲルおばさんの後ろをついていく。

 建物の外側は全部赤いレンガだったけど、内側、つまりいま私が歩いている廊下の床や壁、天井はさわやかな木造りだ。明るい色の木板(きいた)に、うっすらと木目調が浮かんでいる。大工さんとかの経験はないから種類まではわからないけど、場所によって使う木材を変えているらしかった。

 何度か右に左に通路を曲がって、やがて長く枝の広がる廊下の、突き当たりの一つが見えてきた。

 ムンゲルおばさんはその直前ぎりぎりまで近づいて、

「こちらです」

 くるりと振り向いて、手近にある一つの扉を手で指した。

 「168」と「SUNNIUÆ」と記された(けやき)のプレートがかかったそこは、一階の端っこの一室。



「わあ……すごい!」

 ぎいっと音を立てて扉が(ひら)いた先には、いかにも寮らしい部屋があった。

 午後の暖かい日の光が差し込む、とっても心地のいい部屋だ。二人くらいは十分に住めそうな広さで、清潔さも申し分ない。お父さんたちには悪いけど、今までの私の部屋よりずっと素敵だ。

 南側に面した窓のそば、つまり部屋の奥には木組みのベッドが置かれていた。布団ももう用意されている。

 ベッドの足元を辿ると壁際にちょっとしたサイズのクローゼットが立っている。これも木製で、両開きの扉の表面には綺麗な模様が彫られてある。これだけで私の部屋にあった家具一式を新しく揃えてしまえそうだ。

 その手前、ドアを開けて右手の方向には、壁に向かう形で勉強机が据えつけられていた。机の上に本立てが引っついていて、椅子が収まる部分の横に収納があるタイプだ。エルフ国でも一般的なんだ、これ。

 扉の左手側には腰くらいまでの高さの収納棚が置いてある。その(わき)には、私が送っておいたトランクが壁に立て掛けられていた。

 天井にはランプの形をした電球が一つ。

 そういえばエルフ国には電気がないから、どうやって使えばいいんだろう。前に泊まったシャルノのお家ではスイッチ式だったから気にならなかったけど、ここはどうなんだろう。直接火を点けるか、もしかしたら魔法で明かりを点けるのかもしれない。

 部屋を四角く覆う壁紙も床のカーペットも、パステルカラーで私好みだった。

「すごくいいです、気に入りました!」

 弾んだ声で言う私に、

「喜んでいただけて嬉しいです」

 嬉しそうに返して、ムンゲルおばさんは私の後ろから室内に入った。

「寮についての詳しいご説明は、後日改めてさせていただきます。今日のところは、ゆっくりお休みくださいね。夕食の時間は七時頃、三階の広間で寮生みんなでの食事になりますので、お忘れなきようお願いいたします」

「はい。……えっと、すみません。まだここの造りがよくわからなくて、迷子になっちゃいそうなんですけど……」

「それでは、お時間になりましたらお迎えに上がります。それまでどうぞ、お(くつろ)ぎください」

「わかりました。お願いします」

 ぺこりと頭を下げると、おばさんもていねいにお辞儀を返してくれた。

 そしてムンゲルおばさんは私にお茶が欲しいかと尋ねて、私が断るとでは、と残して部屋を後にした。

「…………」

 提げていた学生鞄を勉強机の上に置いて、部屋を一周ぐるりと見渡す。

 ずっと、気になっているものがあった。

 部屋の真ん中を仕切るように、アイボリー地のアコーディオンカーテンがかかっている。

 カーテンには小さな街をモチーフにした可愛らしい絵柄がプリントされていた。

 問題はその向こう側。

 カーテンで覆われた空間と壁のすき間に、こちら側にあるのと色ちがいの布団が見える。

 私はなんとなくためらいながら、結局一分くらい悩んだすえに勢いよくアコーディオンカーテンを横に引いた。

「……?」

 そして、首をかしげた。

 カーテンの向こう側には、たしかに私が思ったとおり、もう一脚のベッドがあった。

 でも、もう一つあったのはそれだけじゃない。

 さっき私の目についたクローゼットや勉強机、収納棚、電球。全部がもう一つずつ、カーテンの向こう側に揃っていた。

「………」

 なんだか、いやな予感がする。

 よく見ると、机の上にはすでに何冊か教科書みたいなのが積まれていて、本立てにも本が刺さっている。扉が半開きになったクローゼットの中にも、数着のワンピースみたいな布地が見え隠れする。

 カーテンの向こうに隠れていたベッドの枕元には、かわいい犬のぬいぐるみが置かれていた。

 部屋の中は全体的に掃除が行き届いているけど、

「…………」

 なんというか、生活感がある。

 というかこのベッド、誰かが使ってるよね。

 そんなふうに不審がって、顔を見せた二つ目のベッドを見下ろしていると、


 がちゃっ。

「え?」

「Hvað?」

 私の後ろのドアが内側に開いて、誰かが部屋に入ってきた。


 私が驚いて振り向くと、彼女も同じように驚いて、二人の動きが止まった。

 彼女──闖入(ちんにゅう)者は、私と同じ年頃の女の子だった。

 まず目に飛び込んできたのは、ウェーブがかった明るい金髪と、見開かれたピーコックグリーンの丸い瞳。

 背は私より少し高いくらいだけど、腰の位置が私よりかなり上のほうにあるのは、気のせいじゃないはずだ。細さと柔らかさを(あわ)せ持つ白い身体は、見ているだけでこっちがどきどきしてしまいそうになる。

 顔立ちは、ちょっぴり童顔だろうか。私にはない長いまつ毛や高い鼻、そして尖った耳が、彼女が典型的なエルフだということを教えてくれた。

 胸も控えめだけど私よりは〝ある〟し、なんというか、美人と美少女のちょうど中間、みたいな印象を受けた。

「えっ、と……」

 私は戸惑いを隠せなかったが、

「Ó! Góðan dag! Þú heitr Funahoshi, réttr? Ek heiti ……」

 先に話しかけてきたのは彼女のほうだった。

 明るい笑顔と弾んだ声で私に近寄ると、エルフの言葉で早口にまくし立てる。きゃーきゃー、とライブでお目当てのアイドルと握手できたみたいに私の手をとってはしゃぐ彼女だが、残念ながら私には興奮しか伝わってこない。

 私が微妙な笑顔で反応に困っていると、

「Ó, fyrirgefðu……ごめんなさい」

 目の前でぴょんぴょん跳ねていた彼女は、私の困惑に気づいたらしく日本語で謝った。

「あなたは、ふなほし……さん。ですよね?」

「は、はい。そうです」

 金髪の美少女の口から出てきた突然の日本語に面食らいつつ、私は頷く。

 彼女は、ぱあっと花が開いたような笑顔を見せて、

「こんにちは! お会いできて、うれしいです!」

「え、ええ。こちらこそ」

 屈託のない笑顔に気圧されて、私は彼女と握手を交わした。

 どうやら、悪い人ではなさそうだ。というより、すごくいい人な気がする。

「Ó,そうでした」

 彼女は気づいたように、

「はじめまて、ふなほしさん。私の名前は、Sunniuæといいます」

 丁寧な日本語で自己紹介をしてくれた。しかし、

「はい? えっと、ごめんなさい。名前……なに?」

 流れるような音を聞き取れず、私は思わず訊き返す。

「Ó. えーと、日本語ふうに発音すると………」

 彼女は天井を仰ぎながら唇に指を当てて考えて、


「スンニュアエ、です」

「すんにゅあえ……さん?」

 なんとなく復唱した私に、

「はい。ルームメイトとして、今日からよろしくお願いしますね!」

 彼女は私に衝撃の事実を伝えて、微笑んだ。



 * * * * *



 新学期。


 それは不安と期待を胸に秘めた、何かが変わっていこうとする時節。

 人も国も異なる懐かしの異世界で、私は一人、〝新学期〟へと足を踏み入れる。

vinrinn -友達、友人



 桜雫あもる です。


 長く時間を空けてしまいました、すみません!

 作中に出てくる言葉は、古ノルド語(と一部アイスランド語)です。意味はきちんと調べたものですが、そんなに気にしないでください。

 気になった方は、wiktionary(英語版)などで調べてみてくださいね!



 再三色んなところで言っていると思いますが、大学生活がかなり忙しくてですね。言い訳じゃないんですが、リアルに書くのに使える時間や(心の)余裕が減っています。激減です。

 書くこと自体は楽しいので継続してはいますが、安定した更新をできないのが悔しくてなりません。この次の話も、プロットは決まっているのですが肉付けに時間がかかってしまいそうな予感。


 でも安心してください。




 今回、美少女が出ます(ドヤァ……



 一応女性向けファンタジーでやってるのですが、女友達にかわいい女の子大好き星人がいるので、需要はあると思ってます。

 半分自分の趣味ですが、これから活躍する予定です。かわいい金髪碧眼娘の描写書きたいので、これからも頑張ります。



 それでは、引き続き『ほうき星エプリ』をお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ