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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
九話 ~海水浴と面食いマーメイド〜
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深海ツアーに貪欲者

「後生です王子様! どうかワタクシに今一度婚活のチャンスを!」


「リース、こいつの口にガムテープ貼っといてくれ」


「良いだろう。ふんっ、これで少しはその耳障りな口を閉じていろ」


「んんっ〜〜!?」


 夜が明けて次の日。なんやかんやでリリスに“協力”することにしたミコさん、リース、そして俺は、再びリリスの身体を縄で拘束して海の方へとやって来た。


 リースの手によって口をガムテープで塞がれたリリスは逃げようにも逃げられずに、じたばたと砂浜で動き回っている。まるで浜に打ち上げられた小魚のようだ。


 何故こいつは逃げ出そうとしてるのかを説明するのであれば、それは至って単純明快。俺達でこいつが今まで住んでいた場所に送り届けようとしているからだ。


 本人がそれを拒んでいようが関係無い。とにかくこの面倒事は、こいつを親の元に届けない限り解決しない。それが達成できた後に、婚約云々についてできる限りフォローしてやろう。正直気は全く乗らないけど。


 とは言え、リリスの住んでいた場所は、どう考えても海の底にあるっぽい。俺達はえら呼吸なんてできないし、俺達の手だけだと何もできない。


 だが幸いにも、どっかの元神(バカ)のお陰でその問題はなんとかなった。この海に来てヒナと一緒に使う予定だったらしいのだが、俺から話を通して貸してもらうことができた。


 前には異星へと自由自在にワープすることができる転送装置を作り上げた元神(バカ)とウニ助。そして目の前にあるこれは、その第二弾の発明品らしい。


 深海5kmまで水圧に耐えることができる四人乗りの乗り物。それは何処からどう見ても、潜水艦にしか見えない。というかぶっちゃけ潜水艦だ。


 日に日に思うが、一体あの二人は何を目指しているんだろうか。いつかノーベル賞とかとっちゃったりしたらどうするんだろう……?


「準備できたぞぃ。運転はゲーム感覚じゃから、後は勝手にやっとくれ」


「悪いなコヨミ。できるだけ早く帰って返しに来るわ」


「それは別に急がなくても良いが、分かっとるなにーちゃん? これは所謂“貸し”じゃ。故に、にーちゃんは帰って来た後にその対価を身体で払――」


「フフッ……コヨミさん?」


「あっ、いえ、やっぱりなんでもないです……」


 ミコさんの威圧感ある黒い微笑みに、コヨミは大人しく引き下がった。こいつの前でそんな暴言吐いたらそりゃそうなる。


 とぼとぼとコテージの方に戻って行くコヨミを見送ったところで、俺達は潜水艦を見つめた。


「よし、んじゃ行くか。運転は――」


「私が引き受ける。異論は認めん」


「へぃへぃ分かったよ。でも一応俺達の命を抱える形になるから、絶対に妙な操作はするなよ?」


「私を子供扱いするな愚人め。何処ぞのゴミクズじゃあるまいし、そんなミスはせぬ」


「だったら良いけどさ……」


 ちなみに、何に襲われても対処できるように、武装はちゃんとしてある。着ているものは全員水着ではあるけれど、リースはいつもの傘を携え、俺もお馴染みの木刀を身に付けている。ミコには物騒なことはさせられないので、リリスが逃げないように監視役を頼んである。操縦者も決まったことだし、後は出発するだけだ。


 さて、今回はどんな体験をすることになるのやら。せめて穏便に事が解決することを祈ろう。


 操縦者のリースに続いて、縛られたリリスを担ぎながらミコの手を引いて潜水艦の中に入る。中は思っていたより広くて、まるで小さな水族館のようだった。


「わぁ、凄いですね。私なんだかワクワクしてきました」


「浮かれるな家事狐。今から行く場所は私達にとって未知の海域だ。常に気を引き締めていなければ……命を落とすぞ」


 そういうリースの瞳は、キラッキラに輝きを放っていた。こういう冒険好きそうだもんなぁこいつ。


「では、出発する。以後私の事は隊長と呼べ。良いな?」


「何でも良いから早よ行け」


「…………ふんっ」


 ぷいっとそっぽ向いて拗ねつつも、起動スイッチを押して潜水艦を起動させた。そしてリースによる操縦が開始され、車と同じくらいの速さで海の中へと潜っていった。


「ミコ。そいつのガムテープ外してくれ」


「分かりました。失礼しますね、リリスさん」


 ミコがビリッと口のガムテープを剥がしてやると、リリスは血眼になってミコに噛み付こうとしたが、縛られているために身動きが取れずにカチカチ歯を動かすことしかできなかった。


「女狐めっ! このド腐れ女狐めっ! このワタクシを縛り上げるなんて、後で覚えておきなさい!」


「縛り上げたのは俺だけどな」


「あらそうなのですか? ならワタクシは構いませんわ……」


 ポッと頬を赤らめるドMマーメイド。その嬉しそうな顔を見てるだけでぶっ飛ばしたくなるが、この潜水艦の中では我慢だ。溺死なんて真っ平御免被るからな。


「で、リリス。お前の家はどの方向に進めばあるんだ?」


「そ、それは……いくら王子様の頼みとあっても、そんな自ら墓穴を掘るような真似はできませんことよ」


「言ってくれたらお前との結婚を考えてやらなくもないかもしれないぞ」


「とにかくこのまま真っ直ぐかつ、下の方へ進んでくださいませ。そしたらすぐに着きますわ」


 馬鹿ってなんでこんなに扱い易いんだろうか。楽だから不満は何も無いけど。


「……弥白さん?」


 いや、楽じゃなかった。凄い剣幕で詰め寄ってくるお狐様がいた。ハッタリだってことくらい見破れないのかこいつは。


「落ち着けミコ、そんな怖い顔するなって。こんなの冗談に決まってるだろ?」


「でしたらその証拠を求めます。た、例えばその……キスとか……」


「そうしたいのは山々だけど、ここでイチャついたらそこの隊長に今度こそシバかれるから、そういうのは二人きりの時にしてくれると助かるんだが」


「ぶぅ……分かりました」


 代用としてミコの頭を撫でて宥めてやり、少し不満そうに口を尖らせるも素直に言うことを聞いてくれて、視線を海底の方に移した。やれやれ、世話の焼ける女達だな。


「おい愚人。ここまで一隻も軍艦と遭遇していないが、この潜水艦に魚雷は何発装填されている?」


「お前は何と戦うつもりなんだよ。んなもん付いてるわけねーだろーが」


「何だと!? それではもしもの時に反撃できないではないか! 馬鹿なのか貴様は!? 残機はたった一つしか無いのだぞ!?」


「残機ってなんだよ!? シューティングゲーム感覚かっ! ゲームと現実を一緒にするんじゃねぇよ! 現実とゲーム世界の区別が付かない廃人かお前!」


 何でさっきまでワクワクしていたのか、その原因はそういうことだったわけだ。俺が思ってた以上に子供だったんだなこいつ。いや、単に好奇心旺盛なだけかもしれないけど。


「ふんっ……まぁ良い。万が一の時は、わたしが直々に海に出て残滅してやろう」


「出れるわけないだろ。ハッチを開けた瞬間に海水入ってきて終わりなんだからよ」


「ならもうどうしようも無いではないか! 敵襲の際にどうするつもりだ貴様は!?」


「だから有り得ないって言ってんだろーが。ここは異星じゃなくて日本なんだっつの。軍艦に襲われるような物騒な場所じゃねーんだよ」


「しかしサメの大群に襲われる可能性があるではないか。敵が意志ある生き物だけだと思うな馬鹿め」


「んな危険な生き物が日本にいてたまるか! ここは外国の海じゃねーんだよ!」


 今回の地震メンバーの中では、こいつと話すのが一番疲れる。おめでたい思考の持ち主だな全く。


 無駄話をしているうちに、結構な海の底の方へとやって来ていた。周りには様々な深海生物が泳いでいて、今まで見てきた水族館よりも見応えのある景色だった。


「見てください弥白さん! 魚の群れですよ魚の群れ! 私ああいうの初めて見ました! 実際に見ると迫力がありますね!」


 先程のリースのように、今度はミコの方が純粋無垢な瞳を輝かせて海の中を覗いていた。意固地な隊長と違って、こっちは見てるだけで癒されるなぁ……。


「フッ、まるでお子様ね。図体だけは無駄に大人なのに、ワタクシ的に全然女がなっていませんわね貴女。そんなので王子様の女が務まると思っていますの?」


「女云々の前に、異星人としてすらも疑わしい人格持ってる奴が言える台詞じゃねーよ。もう黙ってろお前は」


「いやん王子様。こんなところでまた束縛プレイだなんて……い・け・ず☆」


 ペロリとお茶目に舌を出してきたところで、容赦無く腹に渾身の一撃を叩き込んでやった。リリスは口内から体液を吐き出して白目を剥き、ピクリとも動かなくなった。こっちは見てるだけで殺めたくなるなぁ……。


 それからまたしばらく海の中を進んでいく。ミコは飽きずに海底の景色を見続けていて、俺とリースで前方の様子を確認していた。


 やがて光も閉ざされた海の底までやって来ると、潜水艦に備えてあるライトを点けた。流石に海の景色をのんびり見ることもできなくなり、少し緊張した様子でミコも前方を見つめて気を引き締めていた。


「むっ、何か見えてきたな」


 光が差し込まない暗闇の深海のはずなのだが、先の方からぼんやりとした妙な光が見え出した。渦巻き状にできた白っぽい光だ。


 ゲームの世界に出てくるようなワープゲートに似てるが……もしかしてあれがリリスの家に繋がってるのか? 何の根拠も無いけど、一番可能性があるとしたらあれしかない。


「よし、そのまま突っ込めリース。俺の予想が正しければ、あれを抜けた先にこいつの故郷があるはずだ」


「ふんっ、貴様に言われなくとも分かっている。貴様はしっかり捕まっていろ家事狐」


「は、はい!」


 目的地が分かった途端、リースは一気に潜水艦の速度を上げた。気付かないうちに結構下の方に潜っていたようで、速度を上げたと共にキリキリと潜水艦から軋む音が聞こえた。


 しかしその音によって不安を煽られることなく、俺達は眼前に見える白い渦巻きを見据えて、躊躇うことなく中へと入って行った。


 やがて潜水艦は真っ白な光に包まれ――地上に出た。


「……何だここは」


 海の中だったはずの潜水艦は、ぷかぷかと水面に浮かんでいた。地上に出たと言えば出たことになるんだろうが……ここを正直に地上と言っても良いのだろうか?


 辺り一面が石景色。それはまたゲームに出てきそうな世界感溢れる遺跡の雰囲気を醸し出していた。


「おい愚人、本当にここで間違いないのか? 少なくとも何者かが住んでいる場所には見えないぞ」


「俺に聞かれてもなぁ……ミコ、ちょっとそいつ貸してくれ」


「分かりました」


 ぐったりとしているリリスをミコから預かる。次また発勁したらこいつの内部が破裂しかねないし、仕方無くリリスの身体を揺すった。


「おい起きろドM。ここは何処なのか説明しろ」


 しつこく何度も揺すってみるが、返事がないまま口元から涎を流し出した。こんな軽い仕打ちもこいつにとっては快楽らしい。


「……リリス。実は俺の知り合いに結婚願望があるイケメンが――」


「イケメンッ!!」


 甘い誘惑の嘘を言うと、リリスは餌に吊られた魚のように飛び起きた。寝ても起きても根っこはあくまで面食いなんだな……。


「イケメンとは誰ですの!? 何処!? 何処にお知り合いのイケメンが!?」


「んなの嘘に決まってんだろ馬鹿。さて、ここが何処なのか説明してもらおうか」


「嘘……嘘だなんて……もう、王子様ったらまたそうやって――」


「御託は良いからはよ言えや」


 只でさえこいつの対応にストレス感じてイライラしてるのに、これ以上そのノリでいられたら俺はこいつを本気で殺し兼ねない。


 眼球をギンギンにして頭蓋を鷲掴みにすると、リリスは呻き声を上げながら数回首を縦に振った。


「実はですね王子様。先日話した通り、ワタクシは独断で地上に出てはならないという禁忌を犯しましたの。それはつまり、ワタクシ達オーシャン族にとって咎められる行為ですの。例えそれが姫という立場であってもですわ」


「……で?」


「しかし、罪とは償えるもの。それがこの試練ですの。この先に待ち受ける海底遺跡の試練を乗り越えた時、ワタクシはその罪を償うことができますのよ」


「それってつまり、その試練とやらを乗り越えないと家には帰れないと?」


「要はそういうことですわ。だから王子様、ここはもう諦めてワタクシと結婚してくださいませ! 少なくとも過去にこの試練を乗り越えられた人はいないのですからぶぁ!?」


 清々し過ぎる態度に我慢の限度を超えたのか、リースはリリスの頬を思い切りぶん殴った。その後に両手で頭を掴み上げて吊るし上げた。


「貴様……それが人に物を頼む態度か? 調子に乗るなよ二代目ゴミクズが」


「ぐふっ……そ、そもそもワタクシは帰りたいなどと頼んだ覚えはありませんわ。ましてや貴女方メス豚の手を借りるなど、ワタクシの名誉が汚れてしまいますわ」


「愚人、こいつをここで抹殺する許可を寄越せ」


 本気でブチ切れそうになっているのか、リースの瞳の色が真っ赤に染まり、牙のような八重歯が生えてきていた。久し振りに見たなこの顔。それだけこのドMが気に食わないんだろう。この有様じゃ無理もないか。


「落ち着けリース、その気持ちは痛いほど分かる。でもだからこそ今は耐えろ」


「耐えろだと? 貴様はまだそんな腑抜けたことを抜かすのか!」


 吊るし上げていたリリスを遺跡側の方に投げ捨てて、今度は俺がリースに凄い険悪な顔で詰め寄られた。


 俺はそんな将軍様の肩に腕を回し、困った顔をしているミコに背を向けた。ミコに気付かれないよう、リースと二人でひっそり話し合うために。


「いいかよく聞けリース。俺だって本来ならこんな甘っちょろいことは言わずに、こんな奴はとっくの昔に半殺してるところだ」


「だったら半殺せば良い話ではないか。ついにその頭の中身が腐りでもしたか?」


「むしろぷるぷるに潤ってるっての。なぁリース、冷静になって考えてみろよ。仮にもあいつは一族の姫なんだ。つまり、その愛されているであろう姫を送り届けた時、俺達は相当感謝されることになる。そしたらお礼もそれなりの物が貰えるんじゃないか?」


「ふむ……例えばなんだ?」


「例えば……質屋で高く売れそうな何か、とか。そしたら俺達の手には届かないような大金が手に入って、お前の好きな珍味は買い放題だなきっと」


「…………ふっ」


 ガシッと力強く手を握り合う俺達。今ここに、見返りを第一の目的とした貪欲同盟が結成された。


「おいゴミクズ二号。是が非でも貴様を故郷に送り届けてやる。懐の広い私に感謝するが良い。では行くぞ」


「は、離してくださいまし! というか気安く触らないでくれますかしら!? 私に触れていいのはイケメンに限るのですわぁぁぁ…………」


 上手いことを言えたお陰で、気分が良い方に一転したリースはリリスを引き摺って遺跡の奥へと進んで行った。強情というか利己的というか、がめつい奴だなあいつ。


「一体何を言ったんですか弥白さん? あの状態のリースさんを説得するどころか、凄くご機嫌になっていましたけど……」


「大したことは言ってないよ。ただあいつにも餌をチラつかせてやっただけさ」


「……?」


 と言っても、その餌を狙っているのは俺もなんだけどな。誰も超えたことがない試練だか何だか知らないが、未だギリギリの家計のために精々利用させてもらう。


 そして、俺もミコを引き連れて遺跡の奥へと進んで行った。


 ……寿命を縮めることになることも知らずに。

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