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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
九話 ~海水浴と面食いマーメイド〜
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ドキッ! 水着だらけの美少女コンテスト 後編

 何の利益もないコンテストも折り返し地点。ここまでは極めて短い時間の審査ではあったが、俺への負担(主に肉体的)は想像を絶する苦痛さだった。


 だが、俺としてはここからが本番だ。恐らく、控えている残りのメンバー数は残り三人。その三人が俺にとっての真の試練だ。


 ……いや、もしかしたら四人の可能性もあるかもしれない。だがもしそれが真実だったとしたら、“あの人”が出た時点で俺は確実に死ぬ。


 ……精神的に。


「それでは、どんどんいきましょう! エントリーナンバー四番! どうぞ!」


「はいはいはいど〜も〜」


 手を叩く音を立てながら出てきた四番の異星人。例の如く、ゴミクズのご登場だ。


「では、自己紹介をお願いします!」


「ほぃほぃ。ど〜もど〜も、以前は神様として天国的な場所で生活をしておりました、コヨミと言います〜。いやぁ、こんなお熱い中でわざわざワシの芸を見に来てくださって、本当にありがとうございます〜。ではまず始めに軽い一発ギャグから――」


「それではアピールタイムをどうぞ!」


「あっ、駄目? 掴みすらやらせてもらえない? 時間巻き巻きの流れ? 手っ厳しいのぅ」


 コヨミはスタスタと歩いて近付いてくると、特に妙なことをされることなく目隠しを取られた。


「ふふふ……さぁ、にーちゃんよ。まずはワシの水着姿に赤面するんじゃ!」


 黄緑色が目立つホルスターネックのビキニ。リースに負けず劣らずの魅力を誇るコヨミの姿が、目の前にあった。


 そんな彼女に俺は――


「…………ぺっ!」


 唾を吐き捨てた。


「マジすかにーちゃん。こんな時でもワシは差別対象?」


「当たり前だろーが、自惚れてんじゃねーぞゴミクズ。出会った当初のお前なら鼻血物だったかもしれないが、お前のゴミっぷりをよく知ってるせいで、見た目云々関係無しに白けんだよ」


「なるほど……ならば仕方無い。正直この手は不本意なんじゃが、ワシだけ不発というのも興が乗らないしのっ。手段を選ばずに攻めさせてもらうとするぞぃ」


「けっ、やれるもんならやってみろよ」


 どんな手を使われようと関係ない。所詮相手はコヨミだ。コンテスト参加者で最も危険視していなかった奴に、俺の貴重な血液を分けてやるわけにはいかない。というか、コヨミに見惚れるとか絶対に嫌だ。


 だがそんな俺の意思に対抗するよう、コヨミはニヤリと不敵に笑っていた。


「危険視されていない……か。それは浅はかじゃよ、にーちゃん。お主は知っているはずじゃ。ワシの型破りな究極奥義というやつをのぅ」


「勝手に心を読むんじゃねぇ。何が究極奥義だ。んなハッタリに騙されるかよ」


「ふっ……ならば見せよう、その奥義を!」


 するとコヨミは、手を合わせて忍者のような印を結んだ。瞬間、突如発生した煙に身を包んだ。


 やがて煙は晴れていき、コヨミの姿がまた顕……に……。


「どーも! フィート族のウサちゃんです!」


 リースやミーナに殴られた時より、俺の鼻から勢い良く鼻血が噴き出した。


 完全に誤算だった。まさか変身能力を使われるなんて、すっかりその能力のことを忘れていた。


 しかもだ。奴は俺がクリーナー星で暴露してしまったことを覚えていやがった。実は俺は、獣耳美少女萌えの性癖を持った痛い男だと。特に犬、猫、狐、兎は俺好みのドンピシャだった。


 そして今、コヨミはその枠の一つである、兎耳のスタイル抜群美少女に変身した。しかも水着がこれまた際どい物で、黒の紐ビキニという狂気の防具だった。


 ズルい。以下に中身がコヨミと言えど、こんな能力に刃向かえるはずもないじゃないか!


 再び煙に包まれると、元に戻ったコヨミは妙な決めポーズを決めて観客にサインを送った。


「この勝負……もらったのぅ」


 くそがぁぁぁ!! よりにも寄ってこいつに遅れをとるだなんて!!


「これはまた強烈なアピールでしたねー。如何でしたか翠華姐さん?」


「これはにぃに君の弱点を突いた素晴らしいアピールでした。鼻血の量も申し分無し。獣耳美少女萌えな反応はちょっとアレでしたが……今回はコヨミさんの作戦勝ちですね。見事リースさん、ミーナさん、ヒナさんの成績を上回りました!」


 まさかのコヨミの野郎がトップに出てしまった。冗談じゃない。コンテストの結果なんてどうでも良かったが、コヨミが一位というのは納得いかねぇ!


 だが……きっと大丈夫。多分、後の二人がコヨミを上回る成績を残してくれるはずだから。


 ……いや大丈夫じゃねぇな。それって今より鼻血を出すってことだろ? 死ぬぞ普通に。現に頭の中がクラクラしてきてるし、輸血している状態とはいえ、このままじゃ俺の身体は峠を越えてしまう。


 例の如く目隠しをされ、瀕死寸前の状態でもコンテストは続いた。


「続いてエントリーナンバー五番! どうぞ!」


「やれやれ、やっと私の出番かぃ。待ちくたびれたよ」


 来やがったか。俺が最も警戒していた内の一人が。


「では、自己紹介からどうぞ!」


「あいよ〜。以前は宇宙中を旅して、何でも屋稼業で飯を食べていたよ。元伝説の傭兵ことアマナだよ。皆さん方、よ〜ろしく〜」


 軽い自己紹介が終えられた瞬間、男子勢の子供達が歓喜の声を上げた。なんだってんだそのテンション。つまりは……そういうことなのか?


 近付いてくるアマナの気配。ま、まずい、まだ心の準備ができてない。とにかくこれ以上鼻血を出すことだけは避けなければ!


 ……目隠しが取られない。目の前にいることは分かるが、何故かアマナは目隠しを取って来なかった。


「……そうだねぇ。ただ勝つってのも面白くない。ここは一つ、ハンデでも加えてやろうかねぇ……」


 俺だけに聞こえる声で密かに呟くアマナ。戦闘馬鹿というか、今のこいつは勝負事馬鹿らしい。つーかなんだよハンデって……。


「お前さん方! ハンデを付けてやるよ! 私はお兄さんの目隠しを取らずに、鼻血を出させてやるさね! 無論、暴力という安い手段を使わずにねぇ!」


「……は?」


 まさかのトンデモ発言に、俺は唖然とばかりに間抜けな声を漏らした。


「ハンデとはなんじゃ〜! こういうのはフェアにやるのがルールじゃろ〜が〜!」


「大概にしろ貴様ぁ! 何処までも私を舐め腐って図に乗るなぁ!」


 アピールを終えた皆から批判の声が上がる。ま、当然といえば当然の反応だな。


 何せ、こいつは勝負前から相手を見下すようなことをしてるんだ。しかも圧倒的不利の条件まで付け加えるし、一体何を考えて……いや、勝つことだけを考えてるのか。


 やはりこいつは曲者だ。視覚が遮断されているというのに、どうやって暴力以外に俺をノックダウンさせるつもりなのか。俺本人から言わせてもらうと、それは非常に難易度が高いぞ。


 そうだ、大丈夫だ。如何にこいつが曲者と言えども、この状態で鼻血を出すわけがない。俺という器を図り損ねたな。視覚が塞がれればどうということはない!


「……口元がニヤけてるねぇ。それは余裕の笑みかぃ?」


「当たり前だろ。お前が何をするのか知らねぇが、俺もそこまで落ちぶれちゃいねぇよ。今回は不発でカタをつけさせてもらうぜ」


「さて、それはどうかねぇ。ここまでアピールを見て来たが、皆は一つ大きな穴を見落としてる。そこを突けばイチコロなのに、どうして気付かないかねぇ」


「……どういうことだ」


「ニャッハッハッ。要はこういうことさね」


 ウニ助のアピールタイム宣言を前に、アマナはアクションを起こした。


 その手段は至って単純。だが、その威力は俺の想像を遥かに超えたアピールだった。




 その手段とはボディタッチ。




 分かりやすく言えばハグ。




 更に具体的に言えば、人生初のぱふぱふ。




 我、一切の悔いなし。




「ゴハァッ!!」


「おほっ、血液のオンパレードだねぇ」


 鼻血だけでは飽き足らず、尋常じゃない量の血反吐を吐き出した。耳からも噴き出たし、目からも涙目代わりの血涙が溢れた。


「お、おぉ……これはまさかの展開! アマナさんの大胆なアピールに、やっさんがついに崩れたー!!」


 し、死ぬ……今の量はやばかった。既に俺のHPは限界だ。ノミの体当たりでも、くらえばパタリと崩れ倒れてしまうだろう。それだけ今の俺は、ガチで瀕死だ。


「この調子じゃ満足に動けもしないだろうし、拘束も解いてやるさね」


 するとそこで、磔にされていた身体の拘束が解かれた。おまけに目隠しも解かれた。


 目の前には黒の三角ビキニを着たアマナがいた。死に掛けの蝉のようになっている俺を見下し、ニヤニヤと憎たらしい笑みを浮かべている。


「弄り甲斐のあるお人だねぁ。可愛いよ、お兄さん」


「お前……一つだけ……言わせろ……」


 そうだ……俺にはこいつに言わなくちゃならねぇことがある!


「ほぅ……なんだい?」


「…………」


 すぅっと息を吸い込み、俺はアマナ――の胸を見ながら言った。


「ありがとうございます!!」


「……くくっ……ニャッハッハッハッハッ! やっぱり面白いねぇお兄さんは」


 恨むはずもなく、憎めるはずもなかった。何故なら、アマナは夢の一つを叶えてくれた奴だから。俺がこうなったのは自己責任だし、むしろ俺はアマナに心から感謝しよう。


「さて……と。コンテストの審査はこれで詰みだろうけど……お兄さん。私からも一つ言っておくよ」


「なん……だ?」


「うん。私にお礼を言うのは構わないんだけど……自分の立場を今一度確認しておくことをお勧めするさね。ま、もう手遅れだと思うけどねぇ。んじゃ、私はちょっと散歩にでも行ってくるよ」


「……?」


 アマナが何を言いたいのか分からないまま、あいつは浜辺の奥の方に姿を消した。


 自分の立場って……何のこっちゃ? 俺はただの一般ピーポーで、力だけが馬鹿強い以外は普通の学生だ。別に特別な立場な人間ってわけじゃないんだけど……そういうことじゃないのか?


 気が付くと、それなりに盛り上がっていたコンテストが打ち切られ、各々がまた好き勝手に遊び出していた。


 おいおい何だよざっけんなよ。こちとら息を引き取る寸前まで追い詰められてたってのに、何事も無かったかのように事を終わらせやがって。結局は俺に対する嫌がらせで終わりってか? 張り倒したろかこいつら全員。


 献血用のスタンドを杖代わりにして立ち上がる。異様に身体が軽くて立ち眩みが半端ないが、どうにか動くことはできた。


「…………あっ」


 虫の息のまま歩き出そうとしたところ、まだ残っていた一人の人物――ミコがすぐ隣に立っていた。


 幸いミコは水着の上からラッシュガードという白いパーカーを着ていたため、一目見て死に至るということはなかった。


 ……ただ……俺を見る目が物凄く冷めていた。言葉にするのであれば、軽蔑、拒絶といったところだろう。


 その目を目の当たりにして、ようやく俺はアマナの言っていた言葉の意味を理解した。


 恋人がいる前であんな発言をしたらどうなるか。その結果は――とどのつまり、これだ。


「〜〜〜ッ!!」


 一気に血の気が引いていき、俺は献血パックを手に取って全て一気飲みした。そうして半ば強引に肉体を回復させた。


「えーと……べ、弁解の余地は?」


「…………ハァ」


 一息の短いため息。それだけすると、ミコは俺から視線を逸らしてコテージの方へと歩き出した。


 怒ってらっしゃる。完璧に沸点通り越していらっしゃる。だがこれも自業自得だっ!


「ま、ままま待ちぃよミコ! せめて言い訳くらいさせてくれ! いや、させてください!」


「……そういうのいいです」


 つ、冷たい! 伸ばした手がひんやりと凍り付きそうだ!


「後生です! せめて謝らせて! お願い!」


 ミコの前に回り込み、手の平を合わせながら土下座をした。


 ……何事も無いように通り過ぎるミコ。


 心にヒビが入る音が聞こえたが、ここで引いたら一生口聞いてもらえない気がするっ!!


「待てぇぇぇい!! あ、いや、待って下さい。出来心だったんです。俺も決してまともじゃなくて、思春期特有の下心を持った男なんです。だからほら……ね? つまりはそういうことで――」


「……弥白さんは」


 そこでようやく口を開いてくれたミコ。


 ……だが。


「水着姿の女の子なら……誰でも良いんですね」


 現実は、想像以上に残酷でした。


 動揺の汗で身体中がぐっしょりと濡れた。心の底から謝罪したいのに、言葉が何一つ出てこなかった。何より、ミコが「しばらく話し掛けないでください」と目で訴えて来ていた。


 おかしい。俺はこの海でミコとイチャラブるはずだったのに、どうしてこうなってしまうのか。なんで毎回毎回肝心な場ですっ転ぶ? マジで勘弁してくださいよ……。


「……死にてぇ」


 力無くうつ伏せに倒れ、子供達や異星人の皆が騒ぎ立てる声を聞きながら、俺は一人干からびていった。

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