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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
九話 ~海水浴と面食いマーメイド〜
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ドキッ! 水着だらけの美少女コンテスト 前編

 俺は……パラダイスを味わいに来たはずだった。


「よし、こんなもんだろうねぇ。後は好きにしなさいな、姫さん」


「ありがとうございますアマナさん」


 なのに何故……こんな仕打ちにあっているんだ?


「それではウニ助さん。司会の方を宜しくお願いします」


「分かったよ〜。それじゃ、始めようか」


 キィィィンとマイクの音が響き渡り、ウニ助はマイクを手にして宣言した。


「それでは……第一回!『ドキッ! 水着だらけの美少女コンテスト』の開催を宣言しまーす!」


「「「「「イェエエエエ!!」」」」」


 孤児院の子供達によるノリノリの声援が響きに響き渡った。


 おかしい。俺は海に遊びに来たはずなのに、どうしてこんな茶番に付き合わされているんだろうか。


 しかもだ。今の俺は、身動きが取れないように丸太に縛り付けられてるし、目隠しまでされている。視界が遮られているのは助かるが、何も磔にしなくてもいいんじゃないだろうか?


「あのー、すいません。俺もうコテージの方に戻りたいんで、この拘束解いてくれません?」


「ルール上、それは認められません。諦めてください」


「ざけんなぁ!! なんでこんな余興に付き合わなくちゃいけねーんだよ!?」


「それは自業自得です。諦めてください」


 何故こんな事になってしまったのか。それは少し前に時を遡る。


 あの後、リースに首根っこを掴まれていった俺は、皆の姿を見ないように目を瞑ったまま戻って来た。


 その様子は誰から見ても不自然極まりないものだったようで、心配したミコに怒られながら皆に周囲を囲まれ、軽い尋問にあった。


 その尋問に耐え兼ね、とうとう俺は白状してしまった。水着姿の皆が眩しくて見られない、と。恥ずかしくてしゃーない、と。


 そんなことを聞いて黙っていられるはずがない。そんな奴らは不幸な事に沢山いた。特に、コヨミとアマナはニヤリと屈託ない笑みを浮かべていたことだろう。


 そこで、水着耐性のない俺に提案をしたのが、ムッツリだかオープンだか分からないエロ野郎、ウニ助だった。


 奴は言った。「だったら耐性が付くように、ちょっと面白……リハビリをしようよ」と。


 そしてその結論がこれだった。磔にされて撤退という選択肢を奪われ、ただ俺をからかうために開催された水着コンテストの餌食に合う羽目になってしまった。


 海って楽しいところのはずなのに……なんでこんな……後から後から涙が出てくるぜ……。


「それではルールを説明します。解説の翠華お姐さん、宜しくお願いします」


「はい、任せて下さい」


 翠華姐さんはコンテストから対象外らしい。というか、アンタもノリノリなんですね姐さん。もう俺はアンタをまともな人だとは思わないからな!


「えー、ルールと言っても単純です。エントリーナンバーを呼ばれた方は、まず皆さんの前に出てきてください。それから今大会の重要審査委員の方であるにぃに君の前に行き、目隠しを取った後で自分の魅力をより引き出せるようアピールしてください」


 やっぱり俺が審査員か!! 無理無理勘弁してください!! 誰が何をしてくるかスゲェ怖いし、何より水着姿を見て平常心を保っていられる自信が無い!!


「ちょっといいかぃ解説さん。やることは分かったけど、具体的に審査の基準ってのはどうやって決めてもらうのさね?」


「それも単純です。審査の基準は、にぃに君がどれだけの鼻血を吹き出すか。つまり、にぃに君により多くの鼻血を吹き出させた方が優勝となりますね」


 やべぇ、俺今日で死ぬかもしれん。


「なるほどのぅ……それはまた面白い審査の仕方じゃな」


「……燃えてきた」


 ヤバイよヤバイよ、参加者もやる気出しちゃってるよ。しかも優勝したいという願望が糧になってるわけじゃねーよ絶対これ。どうやって俺を弄んでやろうか、という悪意の塊がやる気の引き金になってるよ絶対これ。


「いやだぁぁぁ!! 誰か助けてくれぇぇぇ!!」


「喧しいわよ審査員。大人しく私達の遊び道具になりなさい」


 遊び道具っつったよ! 間違いなく遊び道具っつったよ! 今大会の趣旨が丸見えになっちゃったよ!


「それでは、早速始めたいと思います! エントリーナンバー一番! どうぞ!」


「ふっ……先陣を切るのは私だ!」


 一番最初はリースだった。何も見えないが、堂々たる面立ちで皆の前に出ているだろうと想像できた。


「まずは軽い自己紹介からどうぞ!」


「ふっ……宇宙の果てを駆けに駆け、あらゆる星で名を上げてきた大将軍! 我の名はリース! 宇宙最強の大将軍である!!」


 大歓声が上がり、傘を掲げてドヤ顔を浮かべるリースの姿が手に取るように伝わってきた。楽しそうだなぁ将軍様も。


「それではリースさん。アピールタイムに入りますので、やっさんの目隠しを取ってください」


「承知した」


 近くまでリースが近寄ってくる音が聞こえ、目の前に来たところで目隠しを解かれた。


「うっ……」


 当然目の前には、ビキニ姿のリースが目の前に立っていた。さっき一目見たから大丈夫だろうと思っていたが、全然大丈夫じゃなかった。


 顔が異常に熱い。気温の影響もあるだろうし、熱中症か脱水症状でも起こしてしまいそうだ。


「それではリースさん、アピールタイムをどうぞ!」


「よし……では、歯を食いしばれ愚人」


「……は?」


 何を思ってか、リースは右手に持つ傘を大きく後ろに振り被った。


 熱かった顔が一瞬で冷めた……が、今度は顔が真っ青になった。


「待て待て待て!! いきなりアピールの方向性間違ってるから!! 何普通に物理的ダメージ与えようとしてきてんのお前!?」


「馬鹿め。いつ誰がこのルールに縛りをつけた? やり方は人によってそれぞれだ。故に私は、日頃貴様に対するストレスを発散するため、今ここで貴様をぶっ飛ばす」


 おーい、誰かこのトチ狂い退場させてくれ。俺が思ってたようなコンテストと違うこれ。最早一方的なリンチじゃねーかよ。


「では、行くぞ。さん、にー、いち……」


「お前いい加減に――ぶがっ!?」


 容赦なき傘の一撃が顔面にクリティカルヒット。口内から体液が吐き出ると共に、物理的な衝撃の影響で鼻血が吹き出て宙を舞った。


「悪いな愚人、これは戦争なのだ」


 こいつ……いつか絶対殺す。


「えー、最初からぶっ飛んだアピールでしたねー。どうでしたか解説の翠華姐さん?」


「そうですね。見た感じ、少し加減していた節が見えたので、こういう時は思いっ切りやればいいのにと思いましたね」


 姐さん……貴女俺に何の恨みが?


 翠華姐さんによって再び目隠しをされた。


「はい、ではありがとうござましたー! 続いてエントリーナンバー二番! どうぞ!」


「よーし……私の番ね」


 次の女の子はミーナだった。


 パキポキと指の骨を鳴らす音が聞こえてくる。ヤバイ、何をするつもりか容易に未来予知できる。


「では自己紹介をどうぞ!」


「前までは夜神孤児院での炊事担当! そして現在は夜神寮の大家さん! 武闘派紅一点のアイドルとは私のことよ!」


「……ベニヤ板紅一点の間違いだろ」


 思わぬ呟きをしてしまった瞬間、顔面に激痛を走らせる跳び蹴りが炸裂した。


 目隠しが解けて顔の骨格が軽く歪み、鼻血という出血に留まらず、頭や口からも血が吹き出した。


「目にも止まらぬアピールタイムでしたねー。どうでしたか翠華姐さん?」


「私としてはアッパーを放って欲しかったですね。見てて気持ちいいんですよあれ」


 もう……やだ……何なのこのコンテスト? 水着コンテスト? 俺を虐めるゴングテストじゃね?


 にしても……一瞬だけ見えたミーナの水着姿だったが、全く成長してなかったな。もうあいつは今のキャラを押し通せば良いと思う。


「続けて参りたいところですが、やっさんが半分死に掛けた状態になっているので、先に輸血器具を付けてから再開したいと思います」


 再び目隠しをされた後で、隣に献血道具を装着された。こうして俺という審査員は、強制的リサイクルによって馬車馬のようにこき使われるらしい。


 忘れないこの恨み。近いうちに必ず呪ってやる。あわよくば呪い殺してやる。


「では、続きましてエントリーナンバー三番! どうぞ!」


「……(ザザッ)」


 三番の女の子が前に出たようだが、何の返事も返さなかった。代わりに軽快なステップ音が聞こえてきたが……多分次はヒナだろう。


「それでは自己紹介をどうぞ!」


「……元は森奥の温泉旅館の従業員……現在はにぃにの元で暗殺拳を極め中……駆け出しアサシンの……ヒナっちです」


 子供達(男の子)から大声援が上がった。歳が近いから魅力を強く感じているのか、はたまたその肩書きに惹かれたのか、その本意は分からない。


 ていうか、暗殺拳を極め中って何? 初めて聞いたんですけどその情報。


「それでは、アピールタイムをどうぞ!」


「……(こくり)」


 小さな足音が聞こえて目の前で立ち止まると、目にも止まらぬ早さで目隠しを没収された。


 そして視界に映ったのは……フード付きカエルスーツ姿のヒナだった。


 やべぇ……超可愛いんですけど!!


「うぉおおお!! 写メを!! せめて一緒に写メを撮る許可を!!」


「……オーケーブラザー」


 ヒナは何処からかスマホを取り出すと、俺と隣り合わせになって自撮りした。結果、俺とヒナのツーショット写真という貴重な写メが出来上がった。


「……にぃに……一つ許可をとっておきたいことがある」


「許可? なんだ?」


「……さっきの二人を……()る許可を」


 澄まし顔の裏に、ドス黒いオーラを放つ死神が見えたような気がした。俺のために怒ってくれているのか……なんて兄想いの良い義妹なんだろうか。


 その嬉しさあまりに、滝のような涙が流れ出た。


「……失礼」


 ヒナはまた何処からかバケツを取り出すと、空かさず俺の涙を回収した。あっ、そっちが本当の目的だったのね……。


「斬新なアピールタイムでしたねー。鼻血ではないですが……如何しましょうか翠華姐さん?」


「ふむふむ……一応液体ということなので、今後は鼻血だけではなく、涙の量というのも得点基準に入れましょうか。その方が面白そうですし」


「分かりました。では、そのルールを追加ということで……続いて参りましょう!」


「ちょ、ちょちょちょ待った!!」


 流石の俺も限界だ。これ以上こんなことが続けば、本当に命を失う可能性がある。


 俺の予想だと、他に残っているコンテストガールの中には、後二人のアサシンが含まれているはず。その二人にアピールなんてされれば……確実に俺はジ・エンドだ。


「なんでしょうか? また言い訳ですか?」


「言い訳というか、マジでこの調子で進行するつもりか? ここまでの道筋を見返してみ? 話にならないくらいのグダグダっぷりだから」


「今更そんなことを言われても困ります。グダグダになろうが、スムーズに進行しようが、やっさんは水着姿の皆から好き放題される運命は変わりません。身の程を弁えてください。今回の貴方は十割弄られ役です」


「発言がメタメタしいわ!! 誰も望んでねーよこの話!! そもそも俺本人が望んでない!!」


「やっさん。ラノベ界の主人公というのは、基本的に周りからチヤホヤされてばかりというのが鉄則です。なので今回は、そんな調子乗りポジションのやっさんを懲らしめるという趣旨で進行しようという魂胆なんです。何度も言っていますが、そろそろ腹を括ってください」


「誰がラノベ界の主人公だ! いつ誰が調子に乗った!? 何もかもが理不尽な発言にしか聞こえねーよ!」


「理不尽? これの何処が理不尽なのでしょうか? では、やっさんに聞きますが、今回海に行こうと提案したのは誰ですか?」


 提案者……切っ掛けはミコが言ってみたいという発言からだったのだが、実際に計画を立てたのは俺だ。


「……俺です」


「では続いて聞きますが、この海に来たかった真の目的は、異星人の皆の水着姿を拝みたかったから。そうですね?」


「…………」


 そんな質問、答えられるわけないだろ。ここで頷いたら、ヒナやミコに引かれるのは必定。維持でも気付かれるわけにはいかない!


「無言……ということは、肯定ということですね? いやぁ、ムッツリですねぇ」


 野郎っ!! 勝手に都合良く解釈しやがった!!


「うわぁ……普通にキモいんですけど……」


「そういうことだったのか。真面目な話をしていた私が愚かだった……このゲスめ」


 終わった。ついに俺の威厳は今日ここでゼロとなった。


 あぁ……死にたくなってきた……いっそ一思いに誰か俺を()ってくれ……。


 ……ミーナ達がいるであろう方向から、グロテスクな音が聞こえてきた。何が起こってるのかまるで理解できないが、もしかしたらヒナが暴走しているのかもしれない。


「話を戻しますが、水着見たさにやっさんはここにやって来た。しかし今のやっさんは、その水着を拝むことを拒んでいる。おかしいですねぇ、これはおかしい。なので私達はその矛盾を晴らすため、こうして強硬手段を取っているんです。ご理解頂けましたでしょうか?」


「……もうどうでもいいです」


 反論する気も失せて、俺は血の気が引いていくのを感じながら、目隠しの下でじわりと涙を浮かべていた。

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