異星人交友会の導 中編
一番可能性があったと予想したコヨミだったが、その結果はボケのチョイスミスによって失敗。裁判長はこの世で最も見下されたくないであろうゴミクズに拒否され、心にまた新しい傷を負う羽目となった。
寮の二階に上がる階段のところに座ってしょぼくれ、背景に真っ黒な影が見えるかのようだ。初戦でこの落ち込みようだと、後のことが心配でならない。
「ま、まぁそう落ち込むなよ。一応まだ他に紹介できる奴はいるんだからよ」
とは言ってみるが、俺も残酷なことを言うやつだなと心底思う。他にメンバーはいれど、やはりどいつとこいつもまともな女の子ではないのだから。
「自信があったんだ……今まで何度か見せてきたが……皆は腹を抱えて爆笑していた……なのに肝心なところでこれかよ! あんまりだ!」
「うん、だからもう二度とあのネタ披露するなよ。次したら確実に息の根を止めるからなお前」
よりにも寄って俺の恥ずかしいモノマネをするからこうなる。本来ならフォローすべきところだが、ディスられたこっちの身としては、少しこいつの見方が変わってしまう。とにかくコヨミと仲良くさせる仲介役になるのはNOだ。
さて、次の奴の元に行きたいところだが、一旦着替えるために家の方に戻りたい。正直、制服ってのはあんまり好ましいものじゃないし、いつもの私服に着替えてこよう。
「裁判長。ちょい荷物とか置きに行きたいから、ひとまず俺の家に行くぞ。そこで少し小休止でもとっとけ」
「あ、あぁ……そうさせてもらう」
階段を上がって二階に行き、とぼとぼと裁判長も力無く歩いて付いてくる。
玄関の前に立って鍵を取り出し、ドアノブに鍵を差し込んでドアを開いた。
「あっ、お帰りなさい弥白さん」
「お〜、ただいまミコ……えっ?」
家の中に入ると、中にはいつも通りにミコが待機していた。
恋人になってから基本一緒にいるため、学校から帰ってくる時間帯には必ず家にミコがいるようになっていた。無論、互いに家の鍵を渡しているため、こうして自由に出入りできるようにしている。
そう、だからミコがいることは全く不思議なことじゃない。ならば何故、俺は今驚いた反応を示したのか。
その答えは、この場所にいるはずがない……いや、この星にいるはずがない顔が見えたからだ。
「久し振り、兄さん!」
「おっとと!?」
ミコと瓜二つの顔立ちである、茶髪のショートボブの女の子。どういうわけか、ミコの実の妹であるリコさん――リコが俺の家にいた。
リコはミコに負けず劣らずの笑顔を浮かべ、小走りで駆け寄ってきて抱き付いてきた。
おかしくね? この娘ってこんな感じの女の子だったっけ? 初めて会った時はもっとこう、ミコさんに似通った雰囲気を醸し出してた感じだったはずだが。
無意識のうちにリコの頭を撫でながら、俺はミコの方に視線を向けた。
「びっくりしたぁ。なんでリコが地球にいるんだ?」
「実はですね。私達が住んでいた城にある宇宙船を使って、皆に内緒でこっそり遊びに来たみたいなんです」
「それはまた大胆なことを……そういやリコ、今クリーナー星ってどんな感じになってるんだ?」
「クリーナー星のこと? それなら安心して大丈夫よ。今はお父さん達がまた王座に戻って統治してるから、近いうちに他の町や村も落ち着くと思う」
「そっか。そりゃ良かったな」
「うん! それもこれも全部兄さんが解決してくれたお陰だよ! 本当にありがとう!」
俺の腰に手を回してぎゅーっと抱き締めてきた。なるほど、あの時は真面目になっていただけで、本来のリコは甘えん坊な性格だったってわけか。
にしても、兄さん……か。そ、それってつまり、俺がミコと恋人になったからそう呼ばれてるわけなんだよな。いや、というかそれって恋人と言うよりは……ふ、夫婦という関係だよな?
アカン、嬉しさあまりに口がニヤける。
何にせよ、バーサク星人の件はもう何も問題ないってことが知れて良かった。リコの言う通り、クリーナー星は近いうちに元の平和を取り戻すことだろう。
「ほら兄さん。いつまでもここにいないで向こうに座ろうよ」
「お、おぉ。そうだな」
リコに手を引かれてリビングにやって来ると、俺は着せ替え人形の如くミコに制服を脱がされ、代わりの私服を手渡された。
それから着替え終わってソファーに座ると、右にミコ、左にリコが座ってきた。
……両手に花や。
「ところで兄さん、一つ聞いてもいいかな?」
「うん? なんだ?」
「姉さんが恋人になって……どう?」
「どうって……」
唐突にそう聞かれてミコの方を振り向く。
ミコと目が合うと、ミコは頬を薄っすら赤らめるも、照れ混じりの笑みを浮かべてくれた。
思わず恥ずかしくなって視線を逸らした。くそっ、何度見ても可愛過ぎるんだよこの人!
「なるほど、とても幸せそうに見えるね。でもね、兄さん。姉さんはこう見えて肉食系なところがあるから、油断してると食べられちゃうかもしれないわ。常日頃から気を付けておいてね」
「リ、リコ! そんな誤解を招くような事を言わないでください!」
「だって本当のことでしょ? 姉さんも自分で言ってたじゃない。兄さんと出会った時に、キスをしちゃったって。兄さんは人が良いから平気だったけど、普通なら痴女って思われてるところだよ?」
「うっ……」
何も言い返せずに顔を真っ赤にするミコ。
リコ、確かにお前の言い分にも納得できるところはある。でも一つ間違っている部分があるぞ。
俺は人が良いんじゃない。極端にむっつりなだけだ。可愛い女の子にキスをされりゃ、大抵男は喜ぶものなんだよ。
……なんて、こんな気色悪いことは口が裂けても言えないな。間違いなく引かれるだろうから。
「あ、あの、弥白さん。もしかして私は最初、弥白さんにそういう女の子だと思われていたんでしょうか?」
ミコが不安と羞恥が混ざったような顔で見つめてきた。
その顔を見た瞬間、俺の中にちょっとした悪戯心が生まれた。もし俺に尻尾があったとしたら、尻尾の先が尖ってそそり立っていたことだろう。
口元が緩まないように意識して、わざとらしく視線を真横に逸らした。
「さぁ……どーだろーね?」
「何ですかその反応!? どっちなんですか!?」
「それはほら……ね? ミコが自分をエッチだと思ってるならそういうわけで、そうでないならそうでないわけでさ。俺の意見云々じゃなくて、一番重要なのは自分の捉え方なのでは〜?」
「嫌味ったらしさがだだ漏れですよ!? 私はあくまで弥白さんの意見を聞きたいんです!」
ミコがぷんすかといきり立つ。どれ、もう少し粘ってみよう。
「……いいのかミコ? お前のことはエッチな子だと思ったし、今でもそう思ってる……なんて発言を俺がしたら、お前は耐え抜くことができるのか?」
「うっ……だ、大丈夫ですよ。エッチと思われていたとしても、私は弥白さんの恋人であるということは揺るぎませんから」
「そうか……でもそれは俺が別れ話を告げていないだけであって、もしそうなったら――嘘です嘘です! 全部冗談ですから! すいませんでした意地悪なこと言いました!」
前の蕎麦の件の仕返しをしようとしたら、マジ泣きされそうになったら折れてしまった。
流石に今回の件で重々理解した。俺はミコさんに絶対勝てないということを。
「もう……いつも優しくしてほしいって言ってるじゃないですか……」
「いやまぁ……うん……なんかすいません……」
「……もういいです。弥白さんなんて知りません」
頬を膨らませてそっぽ向いてしまった。完全に拗ねモードになっちゃったよ。
そして、そんな俺達のやり取りを見ていたリコは、拗ねているミコを見てぽつりと呟いた。
「……やり口があざといなぁ姉さん」
「うっ……」
その呟きに肩を跳ねさせるミコ。まぁ確かに、他の女の子から見たらあざとくも見えるんだろうな。俺はミコが可愛くてしゃーないから、可愛くしか見えない補正がかかるけど。
いつもならこの時点で慰めたり甘えさせたりするところだが、生憎今日は二人きりじゃない。故に俺はミコを宥めず、リコの方に視線を向けた。
「ミコってクリーナー星で暮らしてた時もこんな感じだったのか?」
「うん。私と喧嘩した時は決まって拗ねて、よく私から謝らせようとしてたよ。今思い返すと、姉さんって見た目はお姉さん! って感じなのに、実際は姑息というか子供っぽいというか、そんな感じだったんだよね。今もそうだけど、兄さんにも思い当たる節はあるでしょ?」
「そうだな。時折イラッとくることも中にはあったわ」
ミコの頭上に『ガーン』という文字が浮き出ていた。何度も言ってるはずなのに、冗談が通じない人だなホント。嘘に決まってるでしょーが。
「ふむふむ……例えばどんな?」
「例えば? そうだなぁ……」
ピクピクと耳を動かして聞き耳を立てているミコ。俺達にバレないようにしているつもりらしいが、隠し事の素質皆無のミコには意味のないカモフラージュだ。
リコにアイコンタクトを送ると、俺達は同時に悪人顔になってひそひそ話に切り替えた。
敢えてミコに聞こえないように話すことで、今の俺の言動を余計に気にさせるという戦法。実際はただごにょごにょ言っているだけで、そこに内容なんてものは全くない。
ただそういう素振りを見せつければ、ミコは何かしらの反応をしてくれる。だからこそ、リコは俺の考えを察知し、この悪戯に乗っかってくれたようだ。
いいぞリコ。お前がそういう奴だとは思ってなかったが、その性格と性分は大歓迎だ。
……にしても、なんだろ。何か忘れてるような気がする。ま、別に大したことじゃないだろうし、後で思い出せばいいや。今はこの悪戯を存分に楽しもう。
「上手く合わせてくれよ」と目でサインを送り、リコは「任せて!」とウインクしてきた。
そして、俺達はひそひそ話を止めた。
「あー、なるほどねー。分かる気がする私。そういうところあるよね姉さんって」
「そーなんだよなー。直して欲しいと思ってるんだけど、直接俺から言うのもなんか違うだろ? ちゃんと自分で気付いて、自重して欲しいっていうか?」
「うんうん、分かる、分かるよ兄さん。それは口に出しちゃいけないことだと私も思う。姉さん気付けるといいんだけどな〜?」
すると否や、ミコが突然動き出した。
何処からかメモ帳とボールペンを取り出し、テーブルにそれらを置いて何かを書き始めた。
あーでもない、こーでもないというような素振りを見せ、可愛げのある唸り声を密かに上げながら、頭を抱えて右へ左へと首を振る。
「……リコ」
「……うん」
冗談のはずだったが、今この瞬間に俺は見付けてしまった。一刻も早く直して欲しい、ミコのとある特徴を。
しかし直して欲しくないという気持ちも大いにあることである。リコもそれに気付いたようで、俺と目を合わせてニヤける口を抑えていた。
取り敢えず、この悪戯にオチが見えた。後はその場所に向かって前進あるのみ。そのためにも、今はこの人を暖かい目で見守ろう。
……実際はいやらしい目だけど。
「うぅ……うぅぅ〜……」
とんとんとん、とリズムを刻んでボールペンの先でテーブルを叩く。
一通り何かを書き終えたようで、俺達はこっそりその内容を背後から覗いて確認した。
そこには、このように書いてあった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
私の悪い部分まとめ表
・最近皆さんに惚気話しかしていないこと
・実は毎晩、寝静まった頃合いに弥白さんの寝顔を見に行っていることと、たまに添い寝して一夜を過ごしていること。
・事あるごとに弥白とキスをしたいと思うこと
・一時コヨミさんを本気で殴りたいと思ったこと
・無駄に胸が大きくてミーナさんを苛立たせてしまっていること
・あわよくば印鑑を盗もうとしていたこと
・こういうことを書いて自暴自棄に陥ってること
うぅ〜! 嫌です嫌です嫌われたくないです!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
とにかくもう、選り取り見取りだった。
「可愛いなぁもう!」と思うものもあれば、「おぉ……マジでか……」と思う内容があり、結果的に見てしまって良かったのだろうか、という結論に至った。
「姉さん……印鑑はちょっと……」
「いやぁぁぁ!? み、見ないでくださいー!!」
我慢できなかったのか、思わずリコはそう口に出してしまった。ミコは泣き叫んでメモ帳を抱えたまま転がっていき、顔から壁に衝突して痙攣を起こした。
「終わりました……もう駄目です……もう金輪際弥白さんに口を聞いて貰えません……死にたい……」
深刻に事を考え過ぎだぁ……これ以上はマジで洒落にならなそうだし、悪戯はここまでにしておこう。じゃないと本当に死にかねないあの人。
「えーと……それじゃ兄さん。私はそろそろ帰るから、後のこと宜しくね」
「え?もう帰るのか? ミコの家の方に泊まっていっても良いんだぞ?」
「今日は顔見せするためだけに来たようなものだから。来ようと思えばいつでも来れるし、また今度遊びに来てもいい?」
「おう、いつでも遊びに来い。ミコも喜ぶだろうしな」
「ふふっ……そうだね。それじゃまたね兄さん! それと姉さんも!」
そう言って最後に満面スマイルを残していき、リコは玄関の方から出て行った。
俺とミコさんだけが取り残され、沈黙の中にミコの自暴自棄の呟きだけが耳に入る。
俺は苦笑しながら立ち上がると、壁に顔を向けて寝転がっているミコの傍にしゃがみ込んだ。
「おーいミコ。いつまでそうしてんだ〜?」
「…………」
ピタリと呟きが止まり、同時に痙攣も収まった。そしてチラリと涙目の視線を向けてくると、また背を向けて縮こまってしまう。
構って欲しさにツンツンと背中を突っついてみる。特に何の反応も示してくれない。
レベルを上げて、今度は脇の方にそっと手を置いてみる。ピクッと少しだけ反応した。
狐耳にさわさわと触れてみた。尻尾がふにゃりとして、気持ち良さそうな反応をした。
……尻尾に触れ、思い切り握り締めた。
「ひゃうっ!?」
ちょっとアレな声を上げて飛び上がった。普通に触る分には問題ないものの、強く握り締めたら敏感に感じてしまうらしい。
「何なんですかさっきから! 私が嫌いなら嫌って言ってください! しつこいですよ弥白さん!」
「ミコ」
「なんですか!? 大体弥白さんはいつもいつも――」
「さっきの全部ドッキリだから」
「……………………」
説教タイムに差し掛けたところ、俺の一言でまたピタリと静止した。
状況を判断できずに硬直していると、やがて自分のしてきたこと、されてきたことを理解したようで、自分のメモ帳を見ながらカァッと顔を真っ赤にさせた。
「もぉぉぉ!! 何なんですかもぉぉぉ!! 嫌いです! 弥白さんなんて大っ嫌いです! 顔を見たくありません!」
「あらら、嫌われちゃったよ……顔見たくないのかぁ……」
「うっ……嘘です! 嘘ですよ! 好きですよ! いつも夢に出てきて欲しいくらいに大好きですよーだ!」
「そうかそうか。よーしよしよし、おいでおいで〜」
朗らかな笑みを浮かべて両手を差し出すと、思い切り飛び付いてきて、腰に手を回してきた。
うん、やっぱこの人はこの方がいいや。こういうような可愛い素振りを自重して欲しいと、さっきリコと以心伝心していたのだが、その必要はないようだ。
「お詫びに今度デートしてくださいよ! 主導権は全て私ですからね! いいですね!?」
「へぃへぃ、分かりました分かりましたよ」
よしよしと頭を撫でてやると、今まで溜め込んでいたストレスを晴らすように、バタバタと尻尾を振り出した。これじゃ恋人と言うよりは、まるでペットだな……。
……その時、何処からか何かが噴き出る音が聞こえた。直後、どさりと何かが倒れる音も。
「あ、あれですからね弥白さん! 私がその……キ、キスがしたいと言ったら、ちゃんと弥白さんからしてくださいよ!」
「え? そ、それはちょっとハードル高くない?」
「高くないです! そ、それとも、今からその……予行演習ということで……」
「いやいやいや! 演習ってなんだよ!? そういうことを演習としてやるっていうのは、ちょっと違う気がするなぁ俺!」
「……嫌なんですか?」
更に何かが噴き出る音が聞こえた。まるで近くに噴水でもあるかのような音だ。
「い、いやと言うか何と言うか……ね?」
「ハァ……弥白さんはもしかしてあれなんですか? す、好きな人相手に堂々とキ、キスもできないようなビビリさんなんですか?」
「な、なんだと!? 誰がビビリだ! やろうと思えば余裕でできるってんだ!」
「……じゃあしてみてください」
「……わ、分かった」
またもや何かが噴き出る音が聞こえた。噴水を通り越して、まるで花火か何かが打ち上がっているかのような音だ。
そしてこのやり取りの後、その音の正体を見つけた俺は、急ぎコヨミを呼び出して治療させた。
……悪かった裁判長。お前のこと完全に忘れてた。




