非モテ同盟裁判 後編
「なっ!? 何故お前らがこの場所を知っている!?」
「いやここ私達の教室だし。それより話は聞かせてもらったわよ男子達。ここからは私達女子も話に……いや、裁判に参加させてもらおうじゃない」
まさかのクラスメイト女子達が皆揃って裁判に押し掛けてきた。相変わらずノリノリらしいこのクラス。別に嫌いじゃないんだけど……対象者が主に俺になってるから気が引ける。
「で、さっきの発言はどういう意味だ? やっさんが非モテ同盟にいることを否定しているように聞こえたが?」
「まぁ落ち着きなさいよ裁判長。それよりまずは二人目の主役に顔を出してもらおうじゃない」
「……何? ま、まさか貴様ら!?」
「そのまさかよ! ほら、入っていいですよやっさんの彼女さん」
「お、お邪魔します……」
「はぃっ!?」
まさかと思いきや、女子達の群れの中からミコが姿を現した。ちゃんとヒューマノイドを飲んで来たようで、前のデートと同じ服装で俺の傍に近付いてきた。
「な、なんで学校に来てんだミコ? 何か用でもあったのか?」
「あっ、はい。雨が降り出しそうな天気になってきていたので、弥白さんに傘を届けようと持って来たんです。もしかしてご迷惑だったでしょうか……?」
「いやそんなことないよ。わざわざありがとなミコ」
「いえいえ。私は弥白さんの……か、彼女ですから。弥白さんに尽くすのは当然のことです」
「「「「「……嘘だろ?」」」」」
野郎共が声を揃えてそう呟いた。まるで本物の神様を見ているかのような目でミコを見つめて。
「こ、これは……最早彼女や恋人と一言で表せるような人物じゃない……」
「聞いた?『弥白さんに尽くすのは当然のことです』ですって!」
「あんな女の人、今時この世に実在してたのね……。にしても可愛い人よね。一体何処でとっ捕まえて来たのかしらやっさん」
野郎共は阿鼻叫喚して懲りずに血反吐を吐き出し、女子達はミコを見てひそひそと何かを言い合っている。カオス過ぎんだろこの現状。
「あ、あの……ぼ、ぼぼ、僕は夜神君の友達の最上と言います! あ、貴女は……いや、貴女様は一体なんでやっさんの恋人になられたんですか?」
「え? それは……その……私がどうしようもなくなっていた時、弥白さんは自分の危険を顧みずに私を助けてくれたんです。それから弥白さんに対する気持ちが大きくなって……弥白さんと一緒に私からも告白しました」
「危険って……何をしたんだやっさん……」
「詳しくは言えませんが、私の一生が掛かっていたところを助けてくれたんです。だから弥白さんは私の恩人でもあり……その……この世で最も大好きな……っ〜〜〜」
「きゃー! 可愛いー! この世で最も大好きな人だってー!」
「純粋よね! 今時の女なんて腹黒い奴ばっかなのに、あの人は乙女の鏡のような人よ!」
猿山の猿の如く喧しき盛り上がりを見せる女子達。皆から注目を浴びるミコは顔を真っ赤にさせて照れてしまい、頭を抱えて縮こまってしまう。
「純粋だなんて止めてください! 私は皆さんが思ってるような人じゃないですよ! よく弥白さんに嫉妬するし、我が儘を言って困らせたりするし、乙女の鏡だなんて言われる資格は全くないです……」
「可愛い上に謙虚だと? どれだけレベルを上げれば気が済むんだあの天女は……」
「女子力十万……女子力二十万……駄目だ! まだまだ上がって……うわっ!? 相手の女子力を計測することができるスキャウターが!?」
「やっぱりあの人は完璧よ! 彼女としても女性としても、全てにおいて頂点に君臨する清き女の子よ!」
「尊敬します! どうか私にも女子力を上げられる学びを施してください!」
「えぇ!? あの……その……あぅぅ……」
ミコはあっという間に俺のクラスの人気者となり、男女問わずに囲まれてしまった。まるで一般人に押し寄せられている芸能人みたいだ。
にしても、俺はそんな凄い人の恋人なんだよな。なんかこれじゃ、ミコと俺の人徳の差的なもので釣り合わないような気がしてきた。
「で、そろそろ話を戻すけど……やっさん。君は自分の評価を一体どう思ってるのかしら?」
ミコ一人が奉られていると思いきや、飛び火するように俺にも女の火の粉が降りかかって来た。
「評価か……少なくともここでの俺は、非モテの一員の一人だろーな。散々馬鹿にされてるし、化物扱いもされてるしな」
「ふっふっふっ……やっぱりそう思っていたのね。でもそれはちょっと違うんだな〜これが」
「は? どういうことだよ?」
「実はねやっさん。私って新聞部に所属してるんだけど、その新聞部で最近とある調査をしたのよ。校内全員の女子から聞いた、人気男子生徒ランキングという学校非公認の調査をね」
「マジかよそれ……」
えげつないことしてんな〜新聞部。それって裏を返せば、誰からも目に止められてない男子が全員丸分かりになるってことだろ? 男ってのは女と違って精神的に弱い生き物なのに、なんでそういうランキングを作っちゃうかなぁ……。
「で、これがそのランキングなんだけど……見てちょうだいこれを!」
新聞部の女がでかい張り紙を黒板に貼り、皆がそのランキング表に目を奪われた。
「ちょ、ちょっとやっさん! 見てみなさいよあれ!」
「なんだよ……いいよ俺はそういうの。世の中ってのはな。知らない方が幸せなことがそこら中に散らばってるわけで――」
「そうじゃなくて! ほら! ランキング表の上位にアンタの名前があるのよ!」
「はははっ、まっさか〜。そんなことあるわけ……ある……わけ……」
クラスの連中の群れの中を掻き分け、俺はそのランキング表をハッキリと目にした。
上位五名が大きな文字で書かれていて、六位から十位までが小さな文字で書かれてある。
そんな中で俺の順位はというと――まさかの上位組である四位だった。
ついでに言うと、ウニ助は堂々の一位だった。流石は夜神家筆頭の優男。女生徒からの人気は絶大らしい。家族として嬉しい話だ。
……まぁ、まさかの俺までランクインしてたんだけどな。
「驚きの余りに絶句してるようねやっさん。非モテ非モテと思っていた貴方は、実は女子達から人気を誇る男子生徒の一人だったのよ!」
「そんな……馬鹿な……いやいや信じられるわけねーだろ! 確かに交友関係広くて色んな奴と関わりはあると自覚してるけど、そういう素振りを見たことは今まで一度もなかったぞ!?」
「そうだそうだ! こんな信憑性の薄いランキング表なんて信じられるか! やっさんを俺達非モテ同盟から引き抜こうとするんじゃねぇよ女子!」
「ふむ……だったら実際に私が回収したアンケートを読み上げてあげるわ。これなら流石に信じるでしょう?」
新聞部はニヤニヤとした笑みを浮かべると、肩に掛けていた鞄から沢山のアンケート用紙を取り出した。
「新聞部が作った偽装のアンケート……ってわけじゃないのよね?」
「安心してミーナちゃん。新聞部って言っても、これは私が独自で搔き集めた物なの。筆跡を使い分けるような技術なんて私は持ち合わせてないし、これらは紛れもない本物のアンケート用紙よ。それじゃ読み上げるわね。よかったら皆も読んでみてあげて」
新聞部から何人かの女達がアンケート用紙を受けとり、それぞれ書いてある内容を順番に読み上げていった。
「これは同級生の他クラスの娘ね。『教室掃除の時に他の皆がサボってしまい、私一人で掃除をしている最中、まるで最初からそこにいたかのように掃除を手伝ってくれました。見返りを求めない優しい人だと思って投票しました』とのことよ」
「こっちは一年生よ。『朝早くに登校した時、学校の付近で一人ゴミ拾いをしている夜神先輩の姿を見かけました。他にも学校側が飼育している小動物達の世話を独自でしていたり、本が散らばっていた図書室の整理をしている姿も見かけました。自分から積極的にボランティアのようなことに取り組む姿勢を見て、素直に尊敬しています』だって」
「この娘は二年生ね。『私は一度だけガラの悪い人達に絡まれたことがあるんですが、その時にやっさん先輩がそそくさと現れて、汚れは失せろと言いながらその人達を一蹴して、私を助けてくれたことがありました。そのクールな背中に一目惚れして、今も密かに恋い焦がれながら時折遠くから見つめたりしています』、か。ん〜、普通に格好良いんじゃない?」
「いやちょっと待て女子共! それ全部やっさんが掃除にまつわる事をしてただけじゃねーか!」
まったくだ。特に狙ってやってたことじゃないのに、そんなことで俺は評価されてたってのか。なんか釈然としない。
「つーかやっさん! お前どんだけ掃除好きなんだよ! 挙げ句の果てには人間まで掃除しちゃってるし!」
「いやぁ、たまにそういう気分になる時があるんだよな。頻繁にやってるわけじゃねーんだぞ? ただ周囲に異常にゴミが落ちてたら、居ても立っても居られなくなる……みたいな?」
「良いことじゃないかやっさん。きっかけはどうであれ、結果的に環境に優しいことをしてるんだから。評価されるのも頷けると思うよ?」
「そうかぁ? 俺はこれくらいのことで女子から好感持たれても納得し難いんだが……」
「掃除系男子……か。斬新で良いじゃない。何なら私の記事で今度やっさんをピックアップしてあげましょうか?」
「いえ結構です。周りからそういう目で見られるの嫌いなんで俺。それに……な」
何故かおどおどしてる様子のミコの頭の上に手を置き、皆を見渡すように目を動かしながら俺は言った。
「昔と違って、俺はもう女の子との出会いを求めてないんだよ。今の俺には健気で優しい彼女がいるからな。それだけで俺はもう十分満たされてんだ」
「キャーキャー! また大胆な台詞が飛び出たわよー!」
「輝いてるわ! 今のやっさんは目が痛くなるくらい太陽の如く輝いてるわ!」
女子達から黄色い声援が上がる。俺は思ったことを言っただけなのに、なんでそこまで盛り上がれるのか理解に苦しむ。
「格好付けてんじゃねーよ童貞野郎! 彼女ができても今のお前は俺達と同じ未経験の落ちこぼれだろーが
!」
「…………そうだな」
「……え?」
しまった、今のは間を開きすぎた。くそっ、俺としたことが油断しちまった!
「おいやっさん……お前もしかして……」
「な、何だよ。別に俺はこれといって特別なことは比較的何も……」
「比較的何も、だと!? それはつまり、少しは“何か”をしたってことだよなぁ!?」
「いやあのなお前ら……少なくともお前らが今思ってるようなことはしてな――」
「そんな……やっさんは俺達と同じ穴の狢だと思っていたのに……俺達を置き去りにして大人の階段を上っていたなんて……」
「裏切り者め!! 気持ち良かったかこの野郎!? これだから今時の若者は狼だ野蛮人だと言われんだ!!」
まずいよ尾ひれが付き始めてるよ。彼氏彼女のABCのCなんて俺にはまだ早過ぎるというのに。俺をチキンと呼ぶのなら、俺にそんな度胸はないことを理解してるんじゃなかったのか?
阿鼻叫喚する野郎共がいる中、今度は女子達がハァハァ言いながらミコに詰め寄っていた。
「ねぇねぇミコさん。実際のところどうだったの?」
「え? な、何がですか?」
「何って決まってるじゃないですか〜。やっさんと……したんですよね?」
「したって……何をですか?」
「いやだから〜、夜の営み的なものをね〜?」
「夜の営み……あっ、夕食とお風呂のことですか」
「……あれ? この人もしかして天然?」
久し振りに発動したかミコの天然。できればそのまま真理に気付かずにやり過ごしてほしいところだが……。
「それもあるんだけどね? ほら、アレですよアレ。寝る直前の時にするアレですよ」
「寝る直前……歯磨き?」
「わざと言ってるの!? もしかしてわざと誤魔化してるの!?」
「え? え?」
女子達は焦ったさに頭を抱えて悶絶する。だが、これじゃ埒が明かないと新聞部が判断したようで、ミコの耳に手を当てた。
「ですからアレですよ。言ってしまうと……◯◯◯◯です」
「っ〜〜〜!?」
ストレートにキーワードを暴露されてしまったようで、ミコの顔は一瞬で真っ赤に染まって爆発した。頭の上から煙が立ち昇り、グルグルと目を回し出した。
「な、ななな何を言ってるんですかぁ!? 私がそんな……弥白さんと……あばばばばっ……」
イカれた絡繰の如く狂い出し、笑ったり泣いたり怒ったりと喜怒哀楽の感覚が壊れてしまったようだ。この人のこういう反応はいつ見ても飽きないなぁ。
「駄目ですよ弥白さん! そういうのはもっと親密な関係になってから……いやでも私達は既に親密な関係であって……ならちょっとくらいは……いえいえ何を考えてるんですか私は!? これじゃ弥白さんにエッチな女の子だと思われてしまうじゃないですか! 思われるやないかーい!」
「うん、一旦落ち着けミコ。キャラが崩壊し始めてるから」
「面白い人ね〜。今度新聞部で取材しても良いかしら?」
「駄目に決まってんだろ! これ以上この人の純情を弄ぶんじゃありません!」
「そうでぃーす! 弄んじゃ駄目やないかーい! アハハハハハッ!」
「帰ってきなさいミコ! そのままだとコヨミルートを辿ることになるわよ!」
「いやぁ賑やかだね。やっぱりこのクラス好きだなぁ僕」
「呑気なこと言ってないで手伝いなさい馬鹿兄貴!」
その後、狂いに狂いまくったミコの正気を取り戻すまで尽力し、元に戻ったのは外が真っ暗になった頃であった。
ちなみに裁判の方は女子達の援助を受け、「微笑ましいカップルに幸あれ!」とのことで、無事無罪の判決を下された。
何だかんだで俺は周りから恵まれている。そんなことを感じながらミコに肩を貸し、兄妹と共に帰宅していった。




