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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
八話 ~小休止と非モテ男の乱舞〜
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非モテ同盟裁判 前編

 突然だが、現在俺はアグニと殺り合った時と同じくらいの窮地に立たされていた。


 場所は放課後の学校の教室。中央にぽつんと置いてある椅子に座らされていて、後手に手首を縛られ、更に椅子に身体ごと縄で縛り付けられている。痕が付く程に強く縛られており、徐々にズキズキと痛みが生じてきた。


 周囲には俺を取り囲むように様々な武装をした野郎共が待機していて、黒板のある正面には長机が並べられており、裁判官を気取った三人の野郎共(イカれとんちきども)が凄い剣幕で座っている。


「ではこれより、夜神弥白の無罪有罪を判決する裁判を開始する」


「「「「「おぉぉぉぉ!!」」」」」


「……何なのよこれ」


 俺の付き添いとしてミーナとウニ助が傍にいてくれているのだが、俺の拘束を解いてくれる素振りは一切見せてくれない。下手に俺を解放しようとしたら、巻き添いをくらうと考えているんだろう。


「すいません、一つ質問していいッスかね」


「被告人は静粛に。次に我らの許可を得ずに勝手に失言した場合、爪の皮を一枚剥ぐのでそのつもりでいるように」


「やだ怖い何この人達」


 一体俺が何をしたというのだろうか。最近は星一つを救うくらいの行いをしたというのに、逆に恨まれるようなことをした覚えは何一つないぞ。


「長い付き合いだったねやっさん……まさか今日でお別れすることになるなんて……」


「縁起でもねぇことを言うんじゃねぇよ。悪い冗談は止めなさいお兄様」


「それが強ち冗談でもないんだよやっさん。この裁判は裏の世界でも有名でね……有罪を下された人は最後、一生独り身で誰とも会話を交わさずに孤独に生きる人生を歩む人や、世の中全ての女性から痛い目で見られるようになって狂人化した人までいるらしいよ」


「それ通報していいレベルよね? 国に訴えたら勝てるわよやっさん」


「こんなくだらんことで国の力を借りれるわけないだろ! つーか外せよこの縄を! なんかさっきから縄がより食い込んできてる気がして痛いんだよ!」


「静粛に。爪の皮を剥がされたいのか罪深き罪人よ」


「喧しいわ! 誰が罪人だ! 人間の形した化物と呼べ!」


「いいのやっさん? 君の異名はそれでいいの?」


 自分が化物染みていることなんて、前の死闘をきっかけに再確認しとるわ。俺のことなら基本分かってるくせに、腹立つウニ野郎だ。


「で、結局やっさんは何の罪で裁かれようとしてるのよ」


「うむ。それでは起訴状を読み上げる。おい」


 中央に座る進行役が俺から見て右側に座る裁判官を呼び付けると、やけに長い文書を取り出して豪快に広げた。


「夜神弥白。貴様は、我ら非リア充同盟の者達から許可を取らず、最近彼女を作ったという噂を聞いている。それを確認し、事実であった場合は今の現状を報告してもらう。無論、貴様の異論は法律により認められない」


 法律ってなんだよ。聞いたことねーよこんなことで適用される法律なんて。一体いつそんな法律を制定したんだこいつら。


「なるほどその話だったんだね。それは僕もちょっと興味があるなぁ」


「ならばウニ助弁護士。ここに専用の席があるので着席したまえ」


「じゃあお言葉に甘えて……ミーナも一緒にどう?」


「いや、遠慮するわ。一応私はやっさんが襲われた時のための護衛人って立場だから」


「そっか。相変わらず兄好き……いや、やっさん好きなんだね」


「痛ぇ!?」


 俺は何も悪くないのに後頭部を殴られた。これの何処が俺好きだってんだ?


「それで被告人。実際はどうなのか簡潔に応えよ」


「簡潔って……まぁ……彼女が出来たのは事実だけど――」


「死ねぇぇぇ!!」


 武装した野郎の一人が殺意を込めて槍の矛先を俺に向け、単身で特攻を仕掛けてきた。


「ばっ!? ミーナ助け――」


「ごはぁぁぁ……」


 ミーナに助けを求めようとした寸前、ミーナ自ら防衛に出て鋭い蹴りを放った。


 無謀にも飛び込んで来た馬鹿は吹き飛ばされ、その先に立っていた野郎共も巻き添いをくらって倒れ込んだ。


「皆の者、落ち着け。今はまだこの者に鉄槌を下す時ではない」


「裁判官さん。口から血が出てるけど大丈夫かい?」


「……問題ない」


 あまり広めたくない事情だったのに、一体何処から噂が広まったのやら。もしや付き合う前の時にミコとデートしたところを見られたのかもしれない。


「なるほど。つまり噂は真実だったと……一体何時からだね?」


「つい最近だな。ちゃんと俺から告白して付き合う形になったんだよ」


「嘘だな。ここぞという所で積極的になれないチキンの貴様に、そんなことができるわけない」


 人のこと言えた義理じゃないくせに、よくそんなことが言えるもんだ。フラれる覚悟を持って告白できないようじゃ、この先彼女なんて絶対できないと俺は思う。俺も実はそういう覚悟を持ってたわけだし。


「ところがどっこい、こいつの言ってることは本当なのよ。今は同じ寮に住んでる状態なんだけど、最近はそこで和気藹々とイチャついてるわね」


「ふざけんな化物がぁ!!」


「脳筋チキンが図に乗るなよ!!」


「どうせ一ヶ月もしないうちに別れるのが見え見えだバーカ!!」


 俺も一歩間違えればこいつらみたいになっていたんだな……そう考えるとゾッとするぜ。客観的に見たら醜い豚共にしか見えないぞ。


「うわぁ……これだから男って嫌なのよ。本気で(ひが)みを言うとか引くわぁ私」


「ミーナそれ口に出さないであげて。ほら、今にも首吊り自殺しようとしてる人達がいるからさ」


 実はミーナは貧乳ステータスを馬鹿にされておきながら、実はその裏で密かに男子から人気があるらしい。そんな彼女にキツい言葉を浴びせられたのが堪えたのか、ある者はウニ助の言った通り首吊りのを図ろうとし、またある者は手に持った武具で心臓を貫こうとしている。


 自分を追い詰め過ぎだろこいつら。事を深刻に考えれば考えるほど状況も悪化するものだってのに。


「イチャイチャしている……か。やっぱりそれはあれなのか? その……楽しいのか?」


「そりゃ楽しいよ。つい最近喧嘩に近い事をしたけど、最終的にコントみたいなオチで収拾つけたりしてたしな」


「それは微笑ましいことだな。でもどうせブサイクなんだろう?」


 カチンときたがここは耐える。キレればそれを肯定することになるから。


 一旦落ち着いて冷静さを取り戻し、また面を合わせて対話を試みる。


「冗談抜きで女優レベルだ」


「……写メはあるのか」


「えぇ〜、見せなくちゃ駄目なのかよ? お前らに顔知られたくないんだけど」


「そんなこと言わずに頼む。というか頼みます」


「段々口調が弱々しくなってきてるぞお前……ならまずこの拘束解いてくれよ。じゃないとアイフォ〜ンが取り出せないんだよ」


「仕方無い。誰か被告人の縄を解いてやれ」


「ったく……はいはい私がするわよ」


 面倒臭そうにミーナが俺の後ろに来て、硬く縛ってある縄を解いてくれた。


 立ち上がってコキコキと手首を回す。くっきりと手首に痕が付いちゃってまぁ……こいつら後で捻り潰しとこ。


 制服のポケットからアイフォ〜ンを取り出して、フォトフォルダを開く。


 人間の姿になれるヒューマノイドとかいう薬を手に入れてから、ミコは外に出掛ける度に使用するようになった。今までなら狐耳と尻尾を生やしたミコを見せられるはずもなかったが、人間の姿になれるようになったため、見せようと思えば見せられる姿になったのは個人的に嬉しいと思っていたりする。


 確かフォルダ内に私服姿のミコを撮った写真があったはずだが……あっ、あったあった。良い笑顔で非常に美しき美女が写った彼女の写真が。


「ほら、あったぞ。見たい奴から勝手に見ろ」


「分かった。ではまず私から――」


「お待ちください裁判長。貴方はこの裁判を進行しなくてはならない使命を持ったお方。ここは先に私が毒味……もとい、毒見をして参ります」


「うむ。ならば貴様にその命を下そう」


 すると、俺から見て右側の裁判官が近付いてきて、俺はそいつにミコが写った写真をハッキリと見せた。


「ゴハァッ!?」


「うわっ!? マジで吐血したわよこいつ!?」


 直後、勢いよく口から血反吐を吐き出し、顔から床にうつ伏せで倒れ込んだ。


「どうした最上(もがみ)裁判官!? 一体何があった!?」


「ぐふっ……見てはいけません裁判長……被告人は懐に毒薬を持っていました……しかも即効性のある非常に危険な美女(どくやく)です……」


「ば、馬鹿な……女の見た目にとにかくうるさいと言われ、ついには求める理想が高すぎることから『孤高の非モテスレイヤー』という痛名を付けられた最上がノックダウンだと!?」


「くっ……最上裁判官にだけ辛い思いはさせない! 俺にも見させろやっさん!」


「俺も見させろ! 俺なら磨きに磨き上げた妄想力を駆使して耐えられるはずだ!」


「その程度じゃ無理だ! 俺なら絶対に大丈夫だ! 何故なら俺は彼女欲しさに絵の技術を磨き上げ、立ち絵の可愛い少女達を書いてネットを使い、自己満足のギャルゲーを作り上げた男だからな!」


「え? マジで? それちょっと俺にも専用の作ってくれない? できればロリっ子巨乳ヒロインが多めのやつ」


 様々な威勢と共にミコの写真を見てくる馬鹿共。だがその威勢とは裏腹に、写真を一目見た者は全員余すことなく血反吐を吐き出し、最上裁判官の二の舞、三の舞となって息絶えていった。


「……シュール過ぎるわよこの光景」


「これは凄い。三割方は気絶しちゃったようだね。自慢できる彼女を持って幸せだねやっさん」


「うんまぁ……そうなんだけど、ここまでオーバーリアクションをする程なのか?」


「それだけミコが魅力的に見えたってことなんじゃない? ま、異星人の中で一番女の子らしいからねあの娘」


 裁判長は青ざめた表情でポーカーフェイスを保ちつつ、ガクガクと手足を震わせていた。


「まさかここまでとは……一体何故そんな美女とやっさんがお付き合いすることに?」


「それはまぁ……色々あったんだよ。詳しくはミコ本人の事情も絡んでくるから言えないけどな」


 すると、気絶したはずの野郎共の数人が意識を取り戻し、弱々しい目付きで俺を羨ましそうに見つめてきた。


「同い年と思いきや年上お姉さん系だなんて……」


「ずりぃよぉ……きっと膝枕とかしてもらってるんだろうぜ……」


「更にそれから耳掻きとか……時折ふぅ〜って耳に息を吹き掛けてもらったりして……」


「止めろぉぉぉ! 俺達の傷を抉るようなシチュエーションを公言するんじゃない!」


「だって羨ましいんだよ! 俺だって年上お姉さんに甘えたいんだよ! その胸に顔から飛び込んで『んもぅ、甘えん坊さんね〜』とか言われたいんだよ!」


「……やっさん、私気分悪くなってきたんだけど」


 見るに堪えられなくなったようで、ミーナが吐き気を訴えて窓の外に顔を逃した。確かにこの光景は女子にはちとキツいかもな。


「で、やっさん。さっき喧嘩みたいなコントをしてたとか言ってたけど、具体的に何をしてたんだ?」


「最早キャラ作りは無視か……えーとな。昼時の話なんだが、ミコが蕎麦を作ってくれてな。いざ食べようとしたらあいつが俺に食べさせたいと駄々を捏ねてきて、それを俺が否定して自分の箸を取りに行こうとしたら立ちはだかってきてな。その後にバカップルの定義的な話をして、最終的に冗談で別れ話を持ちかけられそうになったから俺が折れて、蕎麦を食べさせてもらったっつー話だ。ちなみに蕎麦は凄い美味かった」


「すまん……先に逝く……後は頼んだぜお前ら……」


「逝くなぁ! まだ俺達にも1ミクロンの希望が残されてるんだ! 自分の可能性を信じるんだ!」


「無理だ……彼氏に自分が作った物を食べさせたいと駄々を捏ねるんだぜ? きっと甘えるような目でそう言ってたんだろうよ……それを考えるだけで俺は……ごふっ……」


「誰か救急車を! 救急車を呼んでくれ!」


「おいマズイぞこいつ! 完全に心臓が止まってやがる!」


「落ち着け馬鹿共。右胸に耳当てたら、そりゃ心臓の音も聞こえるわけねーよ」


 甘えるような目……か。確かにあの時のミコは凄い甘えてきてたなぁ。あの後ベッタリとくっついて来たまま離れなかったし、思い出すだけで心の中が安らいでいくわ〜。


 ……いや、後半は俺が甘えてたんだっけ? ま、どっちでもいいか。


「で、他には何かしたのか? というかその彼女と何処までいってるんだ?」


「グイグイくるなお前。なんで他人の恋愛にそんな興味沸かせてんだよ」


「いやだって……参考になることがあるかもしれないし? 俺だって可愛い女の子と付き合ってみたいんだよ。お前もこの気持ちは痛い程分かっているだろう、やっさん?」


「いやまぁ……そうだな。一応俺も、元々はお前らの仲間だったんだし……」


「そうだぜ同士よ。だからちょっとくらい話を聞かせてくれてもいいじゃねーか。俺達非モテ同盟の仲なんだからよ」


「それはちょっと違うわよアンタ達!」


「「「「「っ!?」」」」」


 突如教室のドアが勢いよく開かれ、教室内にいた皆はその物音の先に目を奪われた。


 するとそこには、クラスメイトである女子の連中が揃ってやって来た。


 なんか話の展開がどんどんややこしい方向性に進んでる気がするが……面白くなってきたから黙っていよう

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