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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
八話 ~小休止と非モテ男の乱舞〜
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とある一夜の女子トーク

 外が暗闇に包まれ、カラスの鳴き声も聞こえなくなった静寂の夜。酔いどれのサラリーマンが肩を並べて歩き、和気藹々とした笑い声が夜空に響く。


 至ってこれといった変化もない一年の内の一日。今宵、男っ気が皆無となった夜神寮にて、異星人五人+人間一人のうら若き女子達が一つの部屋で円になって座り、誘惑を誘う甘いお菓子を囲って集まっていた。


 誰一人口を開くことなく、沈黙の中に緊張感が流れている。だがその沈黙を打ち消すかのように、唯一の人間であるミーナが口を開いた。


「皆も知っての通り、やっさんはとある事情によって今日はこの寮に帰らないことになっているわ。つまり、今この場所には私達女子しかいないということよ。だから私は一度したいと思っていたことをここに宣言するわ」


 ミーナはこほんと一度咳をして喉を整える。卓袱台の上に置いてあるお菓子の一つであるポッキィーを一本だけ指で摘み、天井に向けてそれを掲げた。


「第一回! 夜神寮女子トーク会をここに開催致します!」


「「「「「イェー!!」」」」」


 ミーナの開催宣言と共に殆どのメンバーから歓喜の声が上がった。今ここに、未だかつてない女子だらけの会の幕が開いた。


「粋なことを考えるのぅミーナよ。たまには女子(おなご)だけで言葉と言葉を交わす機会があってもいいと思っていたからのぅ」


「ふんっ。今日だけは貴様の顔を立ててやる馬の尻尾。だからここにある珍味の八割を全て私に献上するのだ」


「別にそれくらい好きにしていいわよ。今日は無礼講なんだから、アンタとの戦いは一旦休戦よ。そこのところ理解しときなさいよね」


「そんなこと貴様に言われなくても分かっている」


 常に不機嫌なイメージが皆から定着されているリースだが、今日限りは機嫌良さそうに鮭とばスライスを頬張っている。


 そう。これは女子による女子のための会。そこに日頃の関係性を持ち運ぶことは暗黙の了解で禁止されていて、いかにも女子らしい話を交わすだけの会なのである。


「でもなんだか弥白さんに申し訳ないですね。こういう賑やかな行事が好きな人なのに、一人だけ仲間外れにしているみたいで気が引けてしまいます」


「……その気持ちは分かる……でも今日は特別な日……たまには私達だけで集まる機会があっても良いと思う」


「そうさね姫さん。女相手限定でしか喋れないことってのはザラにあるからねぇ。今日は吐きたいことを全て吐き出していくといいさね」


「……その前に一つ確認しておきたいことがあるのだが、一つ聞いて良いだろうか馬の尻尾」


「うん? 何よ?」


「何故まだここにこいつがいるのだ。というか貴様、何故まだこの場所に滞在している? 貴様の役目は既に終わった。そうなった時は地球から出て行けと命令したはずだ」


 そう言ってリースはアマナに冷たく当たった。その目を見るだけでどれだけ帰れ帰れと強く願っているのか、ハッキリと皆に伝わっていた。


「ま、そうしたいのは山々……でも無くてねぇ。言ってしまうと、お前さん方のことが気に入ったのさ。それにあのお兄さんのこともねぇ。だからお兄さんと大家さんに頭下げて、部屋を一つ貸してもらってるってわけさね」


「なんだと? おい馬の尻尾! 一体どういうことだ!」


「どうもこうもないわよ。ここは寮なんだから、使いたい人がいれば貸すに決まってるじゃないのよ。あっ、でもやっさんの言伝で家賃は貰ってないんだけどね。その代わり当番制の制度にもしっかり入ってもらってるけど」


「あの愚人……帰ってきたら容赦せん……」


「ニャッハッハッ。返り討ちに合うのが目に見えてるけどねぇ」


 からからと笑うアマナに取って掛かっていくリース。だがその直前でヒナがリースの背後に回り、その体を抑えた。


「離すのだヒナ! こいつはここで私が仕留める!」


「……駄目……今日は関係性を無視した女子会……乱暴は私が認めない」


「知ったことか! 何なら貴様から――はい、大人しくします」


 ひょいっとヒナに傘を取られ、表リースとなった彼女はそそくさと席に座った。


「まったく……まだ本格的に始まってもいないのに暴走してんじゃないわよ。なんで事前に傘を置いて来なかったのよ」


「そ、それは……そんなことより始めようよ皆! 今日は女の子らしい会話をするよー! ハーハッハッハッ!」


「急にテンション上がったわね。ま、いいわ。それじゃ早速話を始めたいんだけど……」


 和かに笑みを浮かべるミーナ――だったが、すぐにその笑みは消えてしまい、苦笑いへと降格した。


「その……女子会って何を話すのかしら?」


「自分で開いておいてそれって……もしかしてミーナって女子力皆無?」


「失礼ね! 以前は孤児院の方で掃除に洗濯に料理に子供の世話まできっちりこなしてたわよ! 今は翠華さんがいるからこっちに住んでるけど」


「ほほぅ? 意外としっかり者なんだねぇ大家さん」


「そ、そうかしら? へっへっへっへっ……」


「……笑い方がにぃにそっくり」


「うるさいわね! 兄妹なんだからしょうがないのよ!」


 仕切り直してミーナはこほんと一度咳をして、適当にお菓子を摘みながら話を再開する。


「女子力っていうなら、逆にアンタ達はどうなのよ? 女子力が頭一つ飛び抜けたミコはさておきとして」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよミーナさん。私は家事ができるというだけで、女子力が高いというわけでは……」


「喧しいぞぃ彼氏持ち〜。ワシらのにーちゃんを独り占めしおって〜」


「それは今の話と関係ないじゃないですか!」


「関係あるよ! ズルいよね〜ミコ? 一番大人しそうに見えて、その裏で師匠を私達から強奪していったんだもん! 黒いよね〜? ミコみたいな人に限って黒い部分が濃いんだもんね〜?」


「ぷっ……醜い嫉妬だねぇ」


「はぁ!? 嫉妬って何!? ちょっとその言い方はおかしいんじゃないかなぁアマナ!?」


 裏の次は表のリースがアマナと距離を詰めて険しい顔になる。アマナの目と鼻の先まで顔を近付かせ、血眼になってガンを飛ばした。


「誤魔化しても無駄さねモナカ。ストレートに言わないでおいてやるけど、お前さんが抱いてる内情は見え見えさね」


「はーいこの話おしまーい! 次行くよ次ー!」


「……都合が悪くなったらそれ……見苦しい貧弱将軍」


「ヒナちゃん!?」


 ヒナの毒を合間に再び仕切り直され、また違う話へと移行する。


「次は私がお題をだすね! ズバリ! 今欲しい物は何か!? これなら女子会らしい話が出来そうだよね! それじゃ、私から見て左の順に言ってみて!」


 リースを最後に、アマナ、ミコ、ヒナ、コヨミ、ミーナの順にそれぞれが答える。


「そうだねぇ。強いて言うなら手強い組み手相手が欲しいねぇ。お兄さんは私と同等だと思っていたけど、それは私のとんだ勘違いだったからねぇ」


「えーと……弥白さんの印か――い、いえ! やっぱり何でもないです! 次どうぞ!」


「……拷問尋問四十八手……という厚みがある本……とある本屋で4980円で売ってた……映像付きのブルーレイも付いてて目に止まった」


「欲しいもの……欲しいというかあれじゃのぅ。一度にーちゃんが誰かにベッタリ甘えるという珍しい姿を見てみたいのぅ。それにミコがガラの悪い不良になったり、ヒナが良く口の回る弁舌家になったところも見てみたいのぅ」


「身体を鍛えるための道具一式かしらね。常日頃から使える鉄アレイとか、欲を言えばランニングマシーンとかあれば良い汗流せそうなのよね。その後に風呂入って甘酒とか飲むと最っ高なのよ〜」


「誰一人として女の子らしい人がいない!!」


 頭を抱えてその場に蹲るリース。


「皆に期待した私が馬鹿だったよ! そうだよね! ここには曲者揃いの女の子の形をした謎の生き物しかいないんだもんね!」


「言うほど皆酷い話だったかのぅ? ミコの印鑑などどうじゃ? 女子のトークで盛り上げられんかのぅ?」


「それが一番生々しい発言だったよ明らかに! 怖いよミコ! その気持ちは分からなくもないかもしれないけど、下手したら重い女って言われるよ!?」


「ちちち違うんです! そういうわけではなくて、私はただ弥白さんと一緒にいられれば欲しい物は特に無いと言いたくて……」


「……惚気話……狐姉可愛い」


「可愛く無いよ!? 単純にウザいよ!?」


「ウザっ!? す、すみませんでした……私もう黙ってますね……」


「……おい」


 ヒナは目付きを鋭くした黒い顔で、リースの袖先を摘んだ。ギリギリと力が込められていて、無表情だから余計に怖さが引き立てられているようだ。


「いやだって! ヒナはムカつかないの!? 最近のミコの話ときたら師匠とのことばっかなんだよ!? しつこいとかもうお腹いっぱいとか思わない!?」


「……狐姉は前からにぃにが好きだった……その夢が叶って浮れるのは無理もない……私は二人を温かい目で見守るって決めてる」


「……偽善者?」


 ドゴォッ!!


「ごふっ!?」


 ヒナから一撃をもらって倒れ込むリース。口元から微量の体液が流れ出ているところ、かなり痛かったようだ。


「今のはアンタが悪いわよリース。反省しなさい」


「うぐぐっ……だってヒナも師匠のことが好きなくせに、こういうこと言うんだもん……」


「……それは事実だけど……それはあくまで妹としての話……私はにぃにの妹として傍にいられれば満足……にぃににベタ惚れのミーナと同じ」


「いやちょっと待った! 聞き逃せないわよ今の発言!」


 卓袱台を叩いて凄い剣幕でミーナは立ち上がった。


「誰があんな腑抜けにベタ惚れよ! 背筋が凍り付くような冗談は止めなさい!」


「いやいや何を言っとるんじゃミーナよ。何処からどう見てもお主はブラコンじゃろぅて」


「なるほどねぇ。素直になり切れない兄好きとは、可愛いところあるじゃないかぃ大家さん」


「誤解よぉ!! 私はそういうアブノーマルな考え方は持ち合わせてないわよぉ!!」


 ミコに続いて今度はミーナが崩れ倒れ、頭を抱えたまま動かなくなってしまった。


「な、なんか女子会の趣旨が変わってきてない? 着実に一人ずつ精神的に仕留められていってるような……」


「気のせいじゃろぅ。じゃあ次はワシがお題を出させてもらうぞぃ」


 卓袱台に両肘を付いて手と手を組み合わせ、コヨミはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。その表情を見た皆は、それだけでコヨミが何を話そうとしているのかを理解した。


「お題はのぅ……性行為について何を感じているかを述べてもらいたい」


「ほほぅ……それは面白そうな話題だねぇ」


「何処が!? 最早女の子として最低のお題でしょーが!」


 ノリノリのアマナに対し、リースは顔を赤くさせて抗議する。その反応が話の標的にされることになるとは知らずに。


「甘いのぅリースよ。ワシはチュイッターで今時のヤング達の事情を見て知っとるんじゃよ。女子会で話すことというのは、他人の悪口かエロトークだけじゃとのぅ」


「嘘だよそんなの! 普通に世間話とか好きな人の話とかしてるはずだよ!」


「それも強ち間違っちゃいないが、六割七割方はそういう話しかしないみたいじゃぞ。やれ昨晩は◯◯◯プレイをして気持ち良かったと言い、やれ今朝方は◯◯◯に◯◯◯◯して◯◯◯◯◯だったと言う。性に植えた女子というのは裏で結構凄いことしとるんじゃぞ」


「ほぅほぅ……ちなみに一番人気のあるプレイというのは何なんだぃ?」


「ふっふっふっ……そんなの決まっとるじゃろぅてアマナよ。この世には様々な◯◯◯◯の仕方があるが、やはり重要なのは原点なんじゃ。つまり一番の人気は迎え合って男が上になる正じょ――」


 ゴシャッ!


 アウトゾーンに入る寸前のところでヒナがコヨミの頭を掴み、思い切り床に叩き付けた。


 コヨミの頭は肉界となり、子供には見せられないポルノ物件として周辺を真っ赤な血溜まりに染め上げた。


「ナイス。今のはよくやったよヒナ」


「……ゴミクズは分かってない……こういう話をする時はもっと徐々にいかないと」


「……え?」


 すると、ナイスプレーをしたとリースがヒナを褒めようとした時、ヒナは滅多に見せない黒い笑みを浮かべた。これには流石のアマナも「おぉ……」と呟き、額から一雫の汗を流していた。


「……ちなみにリース……貴女はそういうことをしたいと思う?」


「え? な、なんで? 別に私はそういうのは……」


「……じゃあこの前……夜中に一人で見ていたあのテレビ……いや……エッチな動画は何?」


「えっ!? な、何のこと? 証拠も無いのにそういうことを言うのは止めてよヒナ!」


 そう言われると否や、ヒナはミニスカートのポケットから私物を取り出した。


「録音機……ま、まさか!?」


「……ポチッとな」


 録音機の再生ボタンが押され、直後録音機から聞き覚えのある声が漏れ出した。他の誰でもない、リース張本人の声だ。


 そして同時にそれっぽい動画を見ているようで、リースが固唾を呑む音と共に、女性のそれっぽい声が何度も聞こえていた。それとパンパンッと何かが破裂するような音も。


「……リースは耐性がないように見えて……その実エロい」


「ウギャァァァァ!?」


 寮全体に奇声のような断末魔が響き渡り、リースは白目を剥いて失神した。余程知られたく無い事情だったのだろうということを物語った最後だった。


「ニャッハッハッ。これはまさかのダークホースだねぇ。お前さんがそんな腹黒い部分を持ち合わせた奴だとは思わなかったよ」


「……人は外見だけで判断してはいけない……女は誰しも必ず裏がある」


「そりゃ怖いねぇ。さて、生き残ったのは私達二人だけになっちゃったけど、このまま続けて何かを話すかぃ?」


「……別にいいけど……特に私はお題を考えてない」


「ニャッハッハッ。なら私から一つネタばらしをさせてもらおうかねぇ」


「……ネタばらし?」


「そうさね。まずはこれを見なさいな」


 そう言ってアマナは懐から携帯電話のような物を取り出した。それには画面も付いており、その画面には『通信中』と書いてあった。


「……これは何?」


「実はねぇ……あの孤児院で働いている保母さんから一つ頼み事をされてたのさ。今日の女子会の様子を聞いてみたいから、これを持って電源を付けておいてほしいってねぇ」


 保母さん、というキーワードを聞き、ヒナは顔色を青くさせて大量の汗を流し出した。


「保母さんがねぇ、妹が周りに迷惑掛けずにちゃんと生活を送っているかって心配してたのさね。この中の誰が妹なのかは知らなかったが……その反応で何となく理解したよ。ほら、今も繋がってるから耳を傾けてみなさいな」


 ヒナは恐る恐るその通信機を受け取り、ぷるぷると手を震わせながらそれを耳に傾けた。


「……もしもし」


〈〈もしもしヒナちゃん? 実はお姉ちゃん、今までの会話をずっと聞いてたんだけど……ちょっと明日貴女の部屋にお邪魔させてもらうわね? そして話したいことが沢山あるから……ね? 絶対に……逃げちゃ駄目よ? それじゃおやすみなさい〉〉


 そこで通信機がぷつりと途切れ、部屋内に沈黙が訪れる。


「…………(こてんっ)」


 ヒナは置物の人形のように真横に倒れ、意気消沈してピクリとも動かなくなった。


「賑やかな人達だねぇ。これなら退屈せずに済みそうだ。これから宜しく頼むよ、ファミリーの皆さん方。ニャッハッハッハッハッ!」


 こうして、アマナの一人勝ちの笑い声が何処までも響いていき、第一回の女子会は散々な形で幕を閉じるのだった。

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