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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
七話 ~クリーナー星のお姫様~
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救出作戦開始

「お綺麗ですよ姫様。いつの間にこんなにご立派になられて……」


「……すいません。少し一人にしてくれませんか」


「それは駄目です。そろそろお時間ですし、それまで姫様を見張っていろとアグニ様に言われてしまったので……」


「そうですか……」


 夜が明けて午前の十一時になった頃、私は使用人さん達に連れられて着付け部屋へとやって来ると、純白のウェディングドレスに着替えました。無論、アグニと結婚式を上げるために。


 旦那様はあのメッセージを聞いてくれたんでしょうか。もし聞いたとしても、あの人は助けに来てくれるんでしょうか。


 ……いえ、旦那様はきっと来る。今まで一緒にいた旦那様が本物だったのなら、きっとあの人は助けに来てくれる。今はそれだけを信じるしかありません。


「ほぅ……随分と綺麗な姿じゃねぇか。流石は王の血筋を持った姫様ってか」


 突如部屋のドアが足で開けられたと思いきや、正装姿のアグニが現れました。


「……何の用ですか」


「へっ、決まってるじゃねぇか。俺の花嫁のウェディングドレス姿を見に来たんだよ」


 アグニは私の周りを舐めるように見回してきました。背筋が凍り付く感触を覚えましたが、何とか堪えてみせました。


「へへっ、エロい身体してやがるぜ。ま、俺の嫁になったら夜のお遊びには散々使い切ってやるよ。気持ち良い未来が待ってて、テメェは幸せもんだなぁオイ? カカッ!」


「……汚い言葉ですね」


「あァ? 一丁前に反抗かテメェ!」


「っ……!」


 逆ギレを起こしたアグニが拳を振り抜き、頬に当たって壁際に吹き飛ばされました。


 それからアグニは近付いて来て、私の腕を強引に掴んで引っ張り出しました。


「おら行くぞ。テメェはただ黙って俺に付き従っておきゃぁいいんだよ。王たる俺に口答えするんじゃねぇ」


「ア、アグニ様。折角のウェディングドレス姿なのに、汚れてしまっては……」


「うるせぇ! たかが結婚式だろーが! 少し埃が付いた程度で騒ぐんじゃねぇ!」


 使用人さんに向かって恫喝を浴びせ、私を引っ張ったまま部屋を出ました。


 今はまだ我慢です。きっと旦那様が助けに来てくれるから……だから私は負けない。こんな人に私は絶対に付き従わない。ずっと前からそう決めています。


 私にはもう……心に決めた人がいるから……。




〜※〜




 大聖堂のような場内にこの街にいる全ての異星人達が集まり、ざわざわと会話が混じり合って騒がしくなっている。始まるならそろそろ……か。


 既に皆は各々の位置に付いただろう。絶対に失敗は許されない。必ずあの人を救い出してみせる。


「皆様! 長らくお待たせ致しました! それでは、新郎新婦のご入場です! 暖かい拍手でお迎えください!」


 すると、突如会場内に司会者の声が響き渡り、その後会場内は拍手の音で埋め尽くされる。


 会場へと繋がる中心の扉が豪快に開き、そこから正装姿アグニと……ウェディングドレス姿のミコさんが姿を現した。


 綺麗な姿だ。前の私服姿とまた違った神々しさを醸し出している。だけど、今のミコさんは虚ろな目で何処か遠くを見つめているようだった。


 あの人のあんな顔なんて初めて見た。全てはあいつのせいで、あの人は不幸に落とされたんだ。


 落ち着け……今はまだ手を出す時じゃない。俺の一時の感情のせいで作戦を台無しにしてたまるか。


 一歩ずつ前に出て、教壇の前で立ち止まる二人。


 そして、目の前に立つ神父が一冊の本を読み出し、二人の顔を見据える。


「アグニ。汝はミコト姫を妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに誓いますか?」


「あぁ」


「ミコト姫。汝はアグニを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに誓いますか?」


「…………」


「……ミコト姫?」


 ミコさんは何も言わずに黙ったままでいる。それを見て気に食わないと思ったのだろう。アグニはミコさんの髪を乱暴に掴んだ。


「おい、シカトこいてんじゃねーぞ」


「……ます」


「へっ、初めからそう言えってんだ」


 ミコさんが微かに何かを呟くと、アグニは髪を離して元の位置に戻った。


「それでは、指輪の交換を……」


「……くくくっ……ヒャッハッハッハッハッ!!」


 アグニは懐から指輪を取り出したと思いきや、結婚式中でありながら、だらしない笑い声を上げ出した。


「これで絶世の美女も手に入れた! だがまだ足りねぇ! 俺がこの世の王になるまで、俺はまだ欲しいものを全て手に入れる! こいつぁまだ序の口の獲物! これからが本当の支配の始まりだぁ!」


 そしてアグニはミコさんの手首を掴む。


 ――と、思われたその時だった。




 カチンッ




 不意に会場内にそのような音が響いた瞬間だった。


「ぐぉ!?」


「きゃっ!?」


 突如、会場内全体を覆う煙幕が発生した。


 さぁ、始めようじゃねぇか。姫君救出作戦開始だ!


 煙幕で会場がざわ目つく中、早々とミコさんに近付く影が二人。その影は確かにミコさんを掴んだ。


 次第に煙が晴れていき、完全に煙が晴れた時、皆は出入り口の方に注目を浴びせた。


「ニャッハッハッ! まずは姫さん救出成功だねぇ!」


 そこには、ミコさんをお姫様抱っこしたアマナが。まずは第一段階成功か。


「あ、貴女は確か!?」


「話は後さね。さぁ、鬼さんが来る前に逃げるよ〜!」


「やろぉ……ここで仕掛けてくるたぁなぁ……なめた真似してんじゃねぇぞぉ!!」


 アグニは憤怒すると、右腕を横に広げて会場内にいるバーサク星人達を見据えた。


「テメェらぁ!! 今逃げた野郎を追えぇ!!」


「「「「「…………」」」」」


「どうしたぁ!? とっとと奴らを追えってんだぁ!!」


 数人はアグニの命令に反応したが、大方のバーサク星人は黙認したまま動かない。


 無駄だぜアグニ。そいつらはもう二度とお前の言うことを聞くことはねぇよ。何故なら、真夜中に手を打たせてもらったからな。


 ヒナとリコさんにお願いして、目立たない真夜中にバーサク星人の元に一人一人回って説得させてもらった。アグニの思想によく思っていない場合はリコさんに説得してもらい、そうじゃなかった場合はヒナによる謎の尋問拷問で無理矢理黙らせた。流石に全員は回れなかったらしいが、これだけ説得できたなら上出来だ。


「くそっ! なんで言うことを聞きやがらねぇ!? もういい、残ってる奴らだけで奴らを追えぇ!!」


 数人のバーサク星人が慌てて立ち上がり、ミコさんを連れて行ったアマナを追って行った。


「野郎がぁ!! 何処に隠れてやがる!! とっとと出てきやがれぇ!!」


 見るからにブチ切れているアグニは、この騒動の元凶である俺を捜している様子。


 もう他のバーサク星人達の気配はない。だったらそのご希望通り、出てきてやろうじゃねぇか。


「不意打ちでなぁ!!」


「っが!?」


 バレないうちに俺は“天井”に減り込ませた右手の指を全て引き抜き、落下の重みを利用してアグニの頭に木刀の一撃を叩き込んだ。


 木刀はアグニの骨を軋ませ、地鳴りと共に奴を地に減り込ませた。これくらいでくたばる化物じゃないだろうが、全力で振り下ろしたんだ。少しは効いたか馬鹿野郎。


 会場に残っているクリーナー星人達は、何が起きているのか理解できていないご様子。


 俺はそんな奴らを見据え、大きく息を吸って叫んだ。


「全員聞け!! 今からここは俺とこいつの戦場になる!! 巻き込まれたくなかったらとっととここから失せろ!!」


「ぐっ……テメ――」


「らぁっ!!」


 もう起き上がろうとしたアグニの顔面に木刀を叩き込み、スイングし切って壁の奥まで吹き飛ばした。


 そしてようやく皆が事態に気付いたようで、パニックになりながらも会場から急いで出て行った。


「ぐっ……なんだってんだ一体……」


 アグニは頭痛を覚えながら立ち上がり、ふらついた足で辿々しく歩いてくる。


 タフな奴だ。何回起き上がれば気が済むんだよ。結構効いてる様子だけど、倒すにゃまだまだ痛みが足りないらしい。


「全員逃した後に存分に殺り合おうってか。偽善者振りやがって気にいらねぇ野郎だ」


「……いいや、まだ逃げてない人はいるぞ」


「あァ? 何処にいるってんだ?」


「そこだよ、そこ」


 そう言って教壇の方に指を差す。すると俺の声に反応して、ヒナと“ミコさん”が姿を現した。


「なっ!? ど、どういうことだ!? なんでそいつがまだ――」


「ここにいるってか? それはだな――」




〜※〜




「そろそろいいだろうねぇ。さて、祭りの始まりだ!」


 やっさんが決めた指定位置までアマナがやって来ると、足でブレーキを掛けて踏み止まった。どうやら作戦はちゃんと成功したようね。


「諦めたか! さぁ大人しくその姫を渡すんだ!」


「馬鹿な奴らだ。姫など一体何処にいるというのだ?」


「何!? 誰だ貴様らは!」


 物陰に潜んでいた私とリースが姿を現し、私は屈託無い笑みを浮かべた。


「ホント抜けた奴らよね〜。ざっと人数は五人……ま、事足りるわね」


「質問に答えろ! 貴様らは何者だ!」


「何者? そんなの決まっておるじゃろぅ」


「なっ!? ひ、姫様!?」


 アマナに抱えられていたミコの姿が変化していき、やがてその姿はニヤニヤ顔のコヨミに戻った。ホントに凄いわねあいつの変身能力。いずれ悪戯とかで悪用しそうで恐ろしいわ。


「さて、覚悟してもらおうか。お前さん方の相手は私達だ」


「馬の尻尾。丁度いいからここで勝負をしろ。より多くの敵を倒した方が、一度だけ何でも相手の言うことを聞くという条件でな」


「良いわねそれ。乗ったわ」


「それじゃ、ワシは失礼するぞぃ。確認しなければならん者達がいるからのぅ」


「ぐっ……こ、この者達を仕留めろぉぉぉ!!」


 雑魚は私達が引き受ける。だから頼んだわよお兄ちゃん! あいつを……女を泣かせた最低野郎をブッ飛ばして!!




〜※〜




「変身……だと?」


「そういうこった。まんまと騙されてくれちゃってまぁ、バーサク星人が脳筋ばっかで助かったぜ」


 チラリとヒナ達の方に視線を向ける。ミコさんは俺の方を見ていて、何か言いたげに口を微かに動かしていた。


 俺は薄っすらと微笑み、彼女の無事を確認できたところでヒナ達に背を向けた。


「ヒナ! ミコさんを連れて逃げろ! こいつは俺が仕留める!」


「……にぃに」


「分かってるって。必ず俺も戻る。だからその人のこと、頼んだぞ!」


「……ガッテン」


 親指サインをすると、ヒナも同じサインを示してくれたような気がした。


「……行こう狐姉」


「で、でも旦那様が!」


「……大丈夫……にぃにが勝つのは絶対だから」


 そうして、ヒナはミコさんを連れて大聖堂から出て行った。


「……追わないんだな」


「へっ、今追い掛けても意味ねーだろ。それより優先すべき殺す相手が目の前にいるんだからよぉ」


 アグニは邪悪な笑みを浮かべ、対する俺はヘラヘラしたコヨミと同じような笑みを浮かべた。


「殺り合う前に一つ聞くがよ。なんで血の繋がりも無ぇ赤の他人の女に手ぇ貸すんだテメェは?」


「それをお前に話したところで何になるってんだよ。心変わりするような奴でもないくせに、無駄口叩いている暇があるならとっとと掛かって来いっての」


「本当に癪に触る野郎だ……言われなくても殺ってやらぁ!!」


 地を蹴って一気に距離を詰めて来て、あの時見せた驚異の突きを放ってきた。


 ……ただ、驚異と思っていたのは、初めて会った時だけの話だ。


「……は?」


 放たれた拳を左手一つで受け止める。それを不思議そうに見るアグニは、わざとかと思わせるくらいに隙だらけだった。


「信じられないか? 思ってもいないことが目の前で起こってることが」


「何故だ……たかが人間風情がなんで止めれる!?」


「そりゃ簡単だ。俺もお前と同じで化物ってだけだ。と言っても、俺の場合は努力の積み重ねで得た実力だけどな。王様気取りの坊ちゃんが泥だらけの努力家に勝てると思うな」


 ゆっくりと右腕を構えて力を注ぎ――アグニの顔面に向けて木刀を打ち込んだ。


 地を擦って吹き飛んで行き、頭から壁に思い切り突き刺さった。あいつが出会い頭でリースにやった時のように、今のあいつはリースと瓜二つの状態だ。これでリースの借りを返すことができただろう。


「立てよ。バーサク星人の王様なんだろう? 今までその力で何でもかんでも強奪してきたガキ大将が、情けねぇ姿を晒すなよ」


「このっ……調子に乗りやがって……」


 実際に触れずに左手の指の骨を全て鳴らし、地に這い蹲るアグニに木刀の切っ先を向けた。


「覚悟しろよ、仮初めの王。今の俺はあの時の数十倍強ぇぞ」

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