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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
七話 ~クリーナー星のお姫様~
72/91

姿形は偽れど

 クリーナー星に来てから既に二日が経過した。


 二日前、俺達は五時間程かけてアグニの城がある街に到着し、身元がバレないようにフード付きのローブを身に纏って安全な宿をとった。


 本当ならばすぐにでもミコさんを助けに行きたかったところだが、結婚式を控えている姫様となれば、見張りも厳重になっているはず。だからこそ俺は、ミコさんの姿が(おおやけ)となる結婚式当日に救出作戦を実行することを決めた。


 それはつまり、結婚式までに少なからず時間があるということ。だから俺はその時間を使って、独房に入れられているらしい皆を助けに行こうと思っていた。


 だが、その手間は省けることになった。何故なら、皆は自分で勝手に脱獄したと耳にしたからだ。


 見知らぬ人達が独房に入れられたという噂を街中で聞いたのだが、その噂は脱獄したという噂に発展していた。恐らくだが、コヨミ辺りがどうにか機転を利かせて脱出したんだろう。


 だが、脱獄したらしい皆ではあるが、まだ合流はできていなかった。すれ違ってしまっているのか、はたまたこの国から出て行ってしまっているのか分からないが、早く合流しないとミコさんの救出作戦が台無しになってしまう。


 ちなみに今は、俺一人で街中を徘徊している最中だ。団体で行動すると怪しまれる可能性が高まるので、アマナとリコさんには宿で待機していて欲しいと頼んでおいたわけだ。


 で、さっきから辺りをキョロキョロ捜しているのだが、やはりあいつらの影は見つからない。このまま見付けられなかったら割とマジでヤバい。アクションは真夜中から起こす予定だから、この昼間に合流できなかったらかなり苦しい。


 でも今俺がしていることは、砂漠の中から限定した砂つぶを探り出すようなもの。あいつらが目立った行動を起こさない限り、見つけ出すことはベリーハードもいいところだ。


 ……にしても腹が減ったな。朝からずっと街中を歩き続けていたから、さっきから一向に腹の虫が収まらない。何か軽食的な物を食べられる屋台とかないものか。


「はーいはいはい! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 世にも珍しいオカズだよ〜!」


 街の広場に出た瞬間、広場の中央の方から活気付いた声が聞こえてきた。


 気になって近付いてみると、大勢のクリーナー星人の野次馬で溢れ返っていて、店を開いているらしい何者かが注目を集めていた。


「はいはい実際にご覧になってくださいね〜! 種類は沢山あるから慌てないように〜!」


 盛況も大盛況のようで、「これくれぇ!」だとか「これは僕のだぁ!」と言ったように、流れ作業の如く商品が売れていっているようだ。そんなに美味しい食べ物なんだろうか。ちょっと俺も見てみたいな。


「すいません、ちょっと通してくれますか?」


「はいはいどうぞ。混んでるから怪我しないようにね」


「ど、どうもッス……」


 流石は温厚な性格のクリーナー星人と言ったところか。ガヤガヤと凄い人混みではあるものの、通してと言ったらすんなり道を開けてくれた。先に進む度に道を開けてくれて、いつかにミコさんと行った野菜セールのおばさん達はキチガイなんだと思わされた。


 ようやく道を抜けて店が見える場所にまで辿り着いた。するとそこには、奇妙な形をしたサングラスを掛け、いかにも胡散臭そうな格好をした女の商人が立っていた。


「あっ、そこのお兄さんもどうですか! 気に入ったのがあれば交渉によってお安く致しますよ〜!」


「…………」


 確かにこの商人の言う通り、売っていた商品は全てオカズだった。


 ……夜の。


「真昼間になんつーもん売ってんだ!!」


「元気がいいですね〜お兄さん! そんな元気な人にはハイこれ! スポーティーな女の子達の淫らな誘惑シリーズのDVDを――」


 ジャージ姿のあざとい女の子が表紙のDVDを強奪し、パキンッとケースごと真っ二つにしてやった。


「あぁぁ! 折角の売り物になんてことを!」


「やかましい! こんな如何わしい物を売り込みやがって! こんな物を俺に売り付けるなら……売り付けるなら……」


「ま、まぁまぁ落ち着いてお兄さん。というか――」


「獣耳少女物を売れや!! できれば犬、猫、狐、兎物があれば尚良しだ!!」


「うわぁ……引くわぁ師匠……」


「黙れ! 男は皆エロい生き物なんだよ! 得られる機会があるのなら俺はそのチャンスを逃さな――ん?」


 あれ? 今こいつ師匠って言ったか? そう言えば今思うとこの商人、よく聞き馴染んだ声だったような……。


「……ちょっとお兄さん。商品を駄目にした件で話があるので、屋台裏の方に来てくれます?」


「は、はい……ていうかお前――」


 名前を呼ぶ寸前のところで口を押さえられ、慌てて屋台裏の方に連れていかれた。


「ちょっとリース、何戻って来てんのよ。今はアンタが売り子の番……あっ、やっさん!」


「ミーナ!? それにお前らまで!?」


 屋台裏にあるテントの中に連れて来られると、そこにはミーナを筆頭に、コヨミとヒナの姿もあった。ということはやはり、今俺と会話していたのは……。


「ふぅ……ようやく見つけたと思いきや、見たくないものを見せ付けられちゃったなぁ……」


 商人はサングラスを外して変装を解いた。その正体は言うまでもなく、俺をジト目で見つめてくるリースだった。


「ようやく見つけられたんじゃのぅ。ふっふっふっ……全てはワシの作戦通りじゃな」


「……にぃに……今まで何処で何してたの?」


「そりゃこっちの台詞だっつの! なんでこんな物を売り捌いてんだお前ら!」


 合流出来たのは本当に良かったと思うが、また違う不安要素が出てきてしまった。いつからこいつらはこういういやらしい商売に手を出すようになってしまったんだろうか。俺はまことに悲しい。


「そりゃ私だって大いに反対したわよ。でもコヨミが必ずやっさんを釣り出せる策だって、小一時間語り出そうとしたから止む無く……ね?」


「最初は私も取り扱うのが恥ずかしくて嫌だったけど、売ってるうちになれちゃってさ。で、これを売り続けていたら師匠が噂を聞いてやって来ると思ってね? その結果、見事に見付けられたけど……ないわぁ師匠。正直さっきのは気持ち悪いと思ったよ私」


 最悪だ。この前にフェチズムがバレたばかりだというのに、今度はそっち系でお好みの物が何なのかという性癖を知られてしまった。


「む? もしかしてさっきの大声ってにーちゃんだったのか?」


「そうそう。なんか急にキレたと思いきや、好みの系統を叫び出してさ。目がもうマジになってたから、私も演技忘れて引いちゃって……」


「ふーん。アンタって実は獣萌えだったのね。ちょいマジでキモいわ〜。今後はあんまり近付かない方がいいわよヒナ。こいつに何されるか分かったもんじゃない」


「……(ぽっ)」


 何も言い返せず、一言一言会話が続く度に俺という人間性の好感度が下がっていく。唯一救いなのが、ここにミコさんがいなかったことだろうな。


「とにかく、場所を変えた方が良さそうじゃな。ほら、凹んでないで行くぞぃ、ロリ萌えにーちゃん」


「誰がロリ萌えだ!!」


 大きな誤解が解けぬまま、俺はミーナに首根っこを掴まれて何処かに引っ張られていった。


 ちなみに、放置した店の商品は全て持って行かれていたという。如何に温厚な異星人とは言えど、そっち系に興味はあるらしい……。




〜※〜




 街中を移動する最中、俺の指示でアマナ達がいる宿の方に引き返してきた俺達。ようやくこれで救出メンバーが勢揃いしたというわけだ。取り敢えず作戦の第一段階には到達できてよかったと胸を撫で下ろした。


 宿に戻ってから俺は、ここに来てからの今までの経路を皆に伝え、ミコさんの実の妹であるリコさんの自己紹介を済ませた。それから皆の方の経路を説明してもらい、聞き終えた俺は呆れて溜息を吐きながら頬杖を付いていた。


「馬鹿な奴らだなぁおい。だから俺の言うことを聞けって言ったのに」


「そしたら連れて行かないつもりだったじゃないのよ。それに結果オーライなんだから、別にいいでしょ」


「へぃへぃ、ここまで来たらもう文句は言わねぇよ」


「そうさねお兄さん。こういう場面は仲間全員で一致団結してこそ、良い結果を得られるってもんさ」


「貴様が言えた義理かクズめ」


 リースの傘をずっと預かっていたヒナだったのだが、宿に戻ってからリースは傘を身に付けて裏リースになっていた。アマナがいるから表のままでいて欲しかったんだが、そうもいかないようだ。


「貴様と組むのは今回限りだ。何度も言うが、ここでの件が終わり次第、貴様は私の目に止まらぬところにまで消え失せろ」


「ニャッハッハッ。気が向いたらそうするさね」


「貴様……何なら今ここでぶしっ!?」


「止めなさい不良娘。今は身内で争ってる場合じゃないわよ」


「ぐっ……覚えていろよ馬の尻尾……」


 ミーナのお陰で比較的大人しくなったリース。さて、そろそろ本題に入ることにしよう。


「で、だ。全員集まった俺達だが、実はここに来るまでに俺が大まかな作戦を立てておいた。そのために必要な情報があるんだが……お前ら何か知ってることはないか?」


「ふっふっふっ……よくぞ聞いてくれたにーちゃんよ! 今こそワシとヒナが大いに活躍する時よ!」


 すると、自信満々なご様子のコヨミとヒナが立ち上がって躍り出た。


「実はのぅにーちゃん。ワシらだけは最初から商売をしていたわけではなく、色々とこの街国の内情を調べておいたんじゃよ。というわけでヒナ、詳しいところを頼むぞぃ」


「……まずはこれを見て」


 と言うと、ヒナは何処からか二つの大きな地図を取り出し、俺達が取り囲んでいるテーブルの上に置いた。


「……一枚目のこれは……街全体をマッピングしたもの……これを見ればこの街にいるバーサク星人の居所が全員分かる」


「マ、マジかよ。一体どうやってそんな情報を?」


「……ちなみにこの街にいるバーサク星人は……ざっと七十人程……他は各地に散らばってるらしい」


「あの、ヒナちゃんや? どうやって調べたのか教えてほしいんだけど……」


「……(にやっ)」


 何だよその笑み!? 一体何をして情報集めたんだよ!? いやでも知るのが怖くなってきたから、これ以上の追求はよそう……。


「……二枚目のこれは……アグニの城をマッピングしたもの……内部には勿論バーサク星人が配置されていて……屋上近くに狐姉の部屋があった」


「城まで調べたのか!? 大丈夫だったのかよお前ら!?」


「……心配ない……コヨミの神通力で上手く変装……もとい変身して使用人に紛れ込んだから……お陰で狐姉にも実際会うことができた」


「なっ!? ミコさんに会ったのか!?」


「……(こくり)」


 危険を犯して城の内部に侵入し、更にはミコさん本人と会っただなんて……こいつらスパイとして食っていけるんじゃないか?


「姉さんは無事だったんですか!? 病気に掛かっていたり、怪我をしていたりしませんでしたか!?」


「大分 (やつ)れてはいたが、特に身体に別状はなかったのぅ。それにあやつは自分のことより、ワシらの身を心配しとったからのぅ。何処までもお人好しな(むすめ)じゃ相変わらず」


「そ、そうでしたか。それは良かった……なんて言えませんよね」


 ほっとしようとしたリコさんだったが、すぐに目を伏せてミコさんを心配する顔付きになった。それでも、危害を加えられていないということだけは知れて良かった。


「それで、他には何か言っていなかったんですか?」


「あぁ、それなんじゃが……にーちゃんよ」


「なんだ?」


「……これ」


 何だと思いきや、ヒナが突然俺に何かを手渡して来た。


「録音機かこれ? これが一体何なんだよ」


「……狐姉から……メッセージをもらったの……にぃに一人に聞いてほしいって言ってた」


「えっ……ミコさんが……?」


 俺一人にメッセージ……か。後で一人の時に聞かせてもらおう。まずは先に作戦を伝えておかないと。


 以上がコヨミ達が集めた情報の全てらしい。作戦を実行するのに欲しい情報があったのだが、幸いそれはコヨミ達が全て集めてくれていた。今回ばかりは素直に感謝しておこう。


「で、今度はアンタの番よ。既に作戦は考えてあるとか言ってたけど、それはもう決行できる段階なのかしら?」


「ん、二人のお陰でどうにかなりそうだ。後は深夜帯になれば実行できるってところだ」


「ならば教えてもらおうか。貴様の考えた作戦とやらをな。先に言っておくが、普段のような意味不明の策であった場合は貴様を抹殺させてもらうぞ」


「安心しろ。ちゃんとまともだし、一人一人が重要性のある作戦だ。つまり、一人欠けるだけでも失敗に大きく繋がるってことだ」


 緊張感が流れ、誰かが固唾を飲み込む音が聞こえた。


「だからって絶対に失敗はできねぇ。それでもお前らはこの策に賭けるか?」


「いいからとっとと話しなさいよ。他にアテなんてないんだから」


「へぃへぃ分かったよ。それじゃ段階的に説明するぞ。まず最初だが――」




〜※〜




「……さてと」


 時間帯が真夜中になり、今頃皆は作戦決行のために各々行動開始している頃だろう。


 俺の役目があるのは結婚式が始まる辺りから。その時間帯になるまでは大人しく待機していなければならない。


 だが、ただ待っているのもあれだったので、丁度良いから少し身体を慣らしておこうと思い、街から外れた場所の草原に一人やって来ていた。


「……よし、大分勘を取り戻したな」


 自然破壊はご法度なことだと心を痛めつつ、何本も生えてある木を練習台にした。その結果、粗方周囲の木を折ってしまったが、訛りに鈍っていた現役時代の勘を取り戻すことができた。


 元々家族を守る為に身に付けた技術と力量だったが、本当にまたこんな日が来るなんて思ってもいなかった。もう来ないと思っていたからこそ、俺は部活動を止めたのだから。


 まぁ、他にもまだ理由はあるのだが……今それを振り返ったところでどうにもならない話だ。今は作戦のことだけを頭の中に入れておこう。


 アップが終わったところで、俺はポケットに入れていた録音機を取り出した。


 ヒナ曰く、これにはミコさんが俺に伝えたいメッセージが入っていると言っていたが……彼女は一体、何をこれに吹き込んだのか。


 誰もいないこの場所ならいいだろう。俺はミコさんの顔を思い浮かべながら、録音機のスイッチを押した。


 最初に雑音が入り混じり、その後すぐにミコさんの声が聞こえ出した。


〈〈旦那様。コヨミさんから聞きましたが、アグニに襲われても無事だったことを知れて、私は本当に安心しました。今頃旦那様はどうしているのか、無事生きてくれているのか、本当に心配で……でも本当に無事で良かったです〉〉


 初っ端から人の心配してやがる。一番心配するべきなのは自分の身だというのに、本当にお人好しな人だ。


〈〈ですが、私を助ける為に旦那様がこの星にやって来たことを知りました。なんでそんなことを……と聞くのは、旦那様にとって愚問ですよね。貴方は家族を誰よりも大切にしている人ですから。短い間でしたが、一緒に暮らしていてそれだけはハッキリと伝わっていました〉〉


 面と向かって言われなくても恥ずかしいな……。


〈〈ですけど……本当は来て欲しくなかった。来ないで欲しかった。ここに来れば旦那様はまた、アグニの手によって大怪我をすることになると思ったからです。折角無事だった命を、私なんかのために危険に晒して欲しくなかったんです〉〉


 更にミコさんは続ける。


〈〈私は旦那様に嘘を吐きました。嘘を吐き続けていました。お嫁さんが欲しいと叫んでいた旦那様を、宇宙船のモニターで偶然発見したんです。そこに付け込んで旦那様を欺き、自分の身を守る為にしばらくここに避難していようと企んだんです。それで燃料が限界だった宇宙船を捨てて、貴方の元にやって来たんです〉〉


 そうだったのか。地球は限りなく広いというのに、その中から偶然俺の痛い姿を見つけたのか。でもそんな高いところから落下してくるなんて破天荒だとは思うけど、それだけ必死だったんだろう。


〈〈最初は内心不安でした。でも実際に旦那様や皆さんと暮らし始めて、旦那様は本当に優しくしてくれました。それが凄く嬉しくて……同時に罪悪感を感じていました。こんなに良くしてくれているのに、私はいつまでも自分を偽ったままで良いのかって。だから私はあの日に決心したんです。旦那様と二人きりになって、本当の私を明かそうって……〉〉


 なるほど……あのデートにはそういう意味が込められていたのか。告白は告白でも、そっちの意味でも告白をしようとしてくれていたのか。


 ……期待していた俺が馬鹿だった。そうですよね普通。俺のようなムッツリクソ野郎を異性的に好きになるわけないですよね。


〈〈でもそんな時にアグニが現れて、真実を伝える機会を失ってしまいました。でもコヨミさんとヒナちゃんのお陰でこの機会を作ることができました。もしかしたからこれが旦那様に伝える最後の言葉になると思います。だから……今から私は何も包み隠すことなく、貴方に本音を伝えます〉〉


 録音機先で一度息を飲み、緊張した様子でミコさんは再び口を開いた。


〈〈……来て欲しくなかったって先程言いましたけど……本当は嬉しかったんです。旦那様を心配する裏で、私はきっと助けに来て欲しいって思っていたんです。でも大切な家族だからこそ、旦那様の身に何かがあってはいけないと、そう思わないように自分に言い聞かせていたんです〉〉


 …………。


〈〈でもコヨミさんに言われて思ったんです。家族になら、たった一つの我が儘くらい言ってもいいんじゃないかって〉〉


 そこでミコさんの声が強張り、ぽろぽろと涙を流す顔が容易に想像することができた。


〈〈自分勝手なことだとは分かってます……きっと旦那様に嫌な女だと思われると思います……だけど……それでも私は……もしそれを言うことが許されるのなら……旦那様……〉〉


 それが最後の一言。彼女が本当に伝えたい、たった一言の簡単な言葉だった。


〈〈お願い……助けて――〉〉


 そこで再生が終了し、録音機の電源が落ちた。恐らく偶然のタイミングで電池が切れたんだろう。


 ミコさんは自分の身を偽っていた。確かにそれは真実だ。


 だけど、ミコさんの心は本物だった。俺達に対する気持ちは嘘偽りなく、家族という繋がりでちゃんと繋がっていたんだ。


「……言われるまでもねぇよ、ミコさん」


 最後に残っていた一本の木の前に移動する。録音機をポケットの中に再びしまい、右腕に有りっ丈の力を注ぎ込む。すぅっと息を少しだけ吸い込み、大きく右腕を後ろに引いて――


「っ……るぁぁあ゛あ゛あ゛っ!!」


 思いの丈を全てぶち撒けるように、光の一閃の如く拳を突き放った。


 木は街中にまで響き渡る衝撃音を響かせ、根元から大きく離れた場所に大きな地鳴りと共に倒れた。


「……行くか」


 準備は万全。俺は作戦決行のため、城の方へと歩き出した。


 その時、誰かに背中を押されたような気がしたが……きっと気のせいだろう。

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