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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
一話 ~異星人と現代人~
7/91

早朝と書いて試練と読む

 これは夢の中だ。頭も視界もモヤモヤしていて、意識が何だか妙に遠い。夢を見る時、たまにある現象だ。


 さて、今はどんな夢を見ているのかを言うと、ぶっちゃけよく分からない夢だ。


 視界は真っ暗で、自分は無の世界を一人漂っている。身体が宙に浮いていて、ふわりふわりと目的地もなく何処かへ向かっているようだ。


 そしてここが重大なポイント。目の前には何もないのに、顔に何だか柔い感触があるのだ。薄れている意識なのに、確かにその感触だけは強く感じられている。


 これは、もしかしたら期待しても良いのではないだろうか。漫画やラノベで頻繁にある展開の一つ。


 そう、朝起きたら女の子の胸に顔が埋まっているってやつだ。


 感触を肌で感じるだけで、その胸のサイズを察知することができる能力を持っているような変態ではないが、でもこれは多分胸の感触だと思う。だってこんなに気持ち良いんだもの。それに何か良い臭いもするし、これはもう確定して良いだろう。


 もしかしたら、ミコさんが朝起こしに来てくれて、でも俺の寝顔を見ていたら眠気に釣られて、それで俺と一緒のベッドの中に入ってそういう状況に、みたいなことになっているんじゃないだろうかこれは。


 今の俺ならこの夢から覚めることは簡単だ。夢と分かっている以上、夢が覚めるように頭の中で意識を強くすれば、いとも容易く目覚めることができる。


 さて、どうする俺よ。この感触をまだ夢の中で楽しむか? それとも、現実に戻ってリアルに胸の感触を味わうか?


 ……否、こんなの選ぶまでもない二択問題だ。現実に戻って味わった方が断然良いに決まってる。


 よし、とっとと目覚めることにしよう。そしてラッキースケベを堪能し、心地好い朝を迎えることにしようじゃないか、えぇ。


 そして、俺は己の欲望のままに意識を強めていき、強制的に夢を覚ましていった。




~※~




「んん……」


 夢の世界から現実に帰ってくると、まずはクラクラする頭を軽く叩いて意識をはっきりとさせていく。それから眉間を摘まみ、ボヤけている視界を解いた。


「…………」


 そして、ついに俺はそれを拝むことができた。


 顔一杯に置かれているこんにゃくの数々を。


「おぉ、起きたようじゃのぅ、にーちゃん。気分はどうじゃ? 目覚めはバッチリかのぅ?」


 更には、床に胡座をかいて釣竿を吊り下げている元神様、コヨミの姿があった。どうやら、その釣竿の針に沢山のこんにゃくをセットしているようだ。


 とにかくだ。今の俺が真っ先に感じ取った感情はただ一つ。


「コヨミ、頼むから一発マジで殴らせろ」


 このラッキースケベブレイカーに対する殺意だ。


「まぁ、落ち着けにーちゃん。別にワシは嫌がらせでこのような事をしていたわけではない。ちゃんとした理由はあるんじゃよ」


「……その理由とは?」


「ふむ。昨晩、皆が寝静まった頃に、実はお主の部屋に侵入して『ぴーしー』なる物を使わせてもらってのぅ。ほれ、電源がついたままじゃろぅ?」


 確かにコヨミが指を差す先には、机の上に置かれて電源がついたままのノートパソコンがある。


「それで『ねっと』というやつで、『眠たくなるほどの癒し』と検索してみたんじゃよ。そしたら最初にこんにゃくを使った方法が出てきてのぅ。何でも、寝ている者の顔に大量のこんにゃくを長い時間付けてやれば、気持ちの良い朝を迎えることができるとかなんとか? そのために早速実践に移してみたというわけじゃ。理解したか?」


「……少なくとも悪気がなかったことは伝わったけどさ」


 明らかに笑いネタの一種だろそれ。何で実行しようという気になるんだよこいつ。悪気が無くとも、どちらにせよ完全なる嫌がらせじゃねーか。


 何にせよ、一応は俺の願いのためにしてくれていたことだから、ここは怒らずに大きな器を持ってスルーしてやろう。


「……とまぁ、今のは殆ど嘘偽りだらけの建前で、本当は単純に面白そうだからしてみただけなんじゃがな。ハッハッハッ!」


 前言撤回。やっぱこいつは自分の娯楽しか頭にない糞野郎だ。


「んの野郎……煮っ転がして朝食の前菜にしてやろうか? あァ?」


「まぁまぁ、そう朝からイライラするでない。早朝からストレスを感じるのは良い行いとは言えんぞ?」


「誰のせいでキレかけてると思ってんだテメェ!!」


 しかも時間見たらまだ朝の四時だったのかよ! 嫌がらせ百パーセントだろーが! イチゴパンツのラッキースケベどころか、鉄棒使って告白した瞬間に腕捻って全て台無しエンドかっ!


 俺は頭をくしゃくしゃに掻きむしり、こんな朝っぱらから溜め息を吐いて、幸せを一つまた失った。


「ったく……一体何考えてんだお前は? こっちはお前らのせいで疲労してんだから、朝くらいゆっくりさせてくれマジで」


「ふむ……流石にちょっと調子に乗りすぎたのぅ。謝るぞにーちゃん、すまんかった」


 素直に自分の非を認めて頭を下げてくるコヨミ。すぐに謝れるところ、まだリースよりタチは悪くないようだ。


 まぁ、元神様なんだし、そういうところはキッチリしておいてもらわないと困る。じゃないと威厳も何もあったもんじゃない。


「あぁもういいから、分かったから。非を認めたんなら、さっさと自分の寝室に戻れ。俺はまだ眠いんだよ」


「いや、このまま大人しく引き下がれる程、ワシは往生際が良い奴ではない。お主に『眠たくなるほどの癒し』を届けにやって来たというのに、これじゃ示しも何もあったもんじゃないじゃろぅ」


 そう言うと、コヨミは俺の言葉に聞く耳持たないまま、ゴソゴソとベッドの中に潜り込んできた。


「ちょ、何してんだ! 余計なことしなくていいからもう帰れお前!」


「そう冷たいことを言うでない、にーちゃん。調度ワシも一肌を欲していたところじゃし、ここは同じ布団の下、共に二度寝に入り浸ろうではないか」


 そしてコヨミはすぐ俺の隣に横になると、顔をこちらに向けてスヤスヤと本当に眠り始めた。


 おいおいちょっと待ってくれよ、何この唐突なシチュエーション? 試してるのか? こいつは俺の良心を試してるのか?『この人間は清純と純潔を携えし男か?』、みたいな感じで俺に試練でも与えて来ているのか?


 ふんっ……俺を嘗めるなよ白髪神。俺はこの人生の中で女の子との脳内シチュエーションを幾度となく繰り返して来た男だぞ。こんなシチュエーションくらい、軽く五十回は冷静にクリアしてんだよ。この欲望ガーディアンの俺にそんな誘惑なんて――


「ん……」


 効果抜群に決まってんだろーがっ!!


 小さな寝返りで俺の左肩にぷにっと頬を付けて来る白髪神。これまた可愛い寝顔なので、否定することなんて絶対に出来やしない。


 悔しいが、コヨミは普通に高いクオリティを持ち合わせた可愛い女の子だ。例え彼女が元神様であろうとも、スタイル抜群の和風美少女という事実は揺らぐことがない。


 ていうか、こいつのせいで一気に目が覚めてしまった。これじゃ二度寝なんて出来るわけもない。眠りは二度寝の時が一番心地好い時間だというのに。


 しかも、こんな風にくっつかれてしまっては、下手に動くこともできない。これが俗に言う生殺しってやつか。なるほど、確かにこれは精神的に渾身の一撃をくらうレベルだ。


「うぅん……」


「ぶっ!?」


 さっきからモゾモゾと動いているせいで、コヨミが来ている振り袖の着物がはだけてきた。具体的に言うと、胸の谷間が大胆に広がってしまった。


(落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け……)


 間欠泉かんけつせんのように沸いて出てきた動揺を必死に抑え、決して視界に入れないように強く目を瞑る。


 駄目だぞ俺、絶対に目を開眼するな。一瞬でも視界を解き放ってみろ。一気に理性が大気圏越えてぶっ飛んで行くぞ。そのまま火星辺りに衝突して、発情と言う名の惑星爆発が起こるぞ。そんな天変地異なんて誰も求めてなんかいない。


(何を無理してんだよ。それがお前の本心か? いいや違うね、その想いは完全なる偽善だ)


 お、俺の中から悪魔が! 感情の奥底に潜みし悪魔が無理矢理這い出て来やがった!


(俺はお前だ。だからこそ、その偽りの心で隠している本心が分かってんだよ。アレだろお前? 本当は見たいというレベルを越えて揉みし抱きたいんだろ?)


 だ、黙れ! 確かに邪な気持ちはあるのかもしれないが、人としての尊厳くらい守る男なんだよ俺は!


(いいや違うね。お前はそうやって都合の良い言葉で正直な心を覆っているにすぎねぇ。よく考えても見ろよ。目の前にこんな無防備な美少女が転がってんだぜ? これはもう、襲ってくださいとアピールしてきてるようなもんじゃねぇか? なぁおい?)


 確証もないくせにデタラメ言ってんじゃねぇ! お前は知らねぇのか! 過ちを起こしてしまった後、一体どんな厄災が降り注ぐことになるのかということを! 少なくとも、リースの手によって半殺しにされることは確定してんだよ!


(いいか俺、よく聞いておけ。男にはな……時にはやらなけりゃいけない時が幾度となくやって来るんだよ。そして、その時に思いきってやらなかった時、それは後に大きな後悔へと変わるんだ。つまり、後々後悔するよりも、今しか掴めないチャンスをモノにすることこそが最も重要な事項なんだよ)


 ぐっ……し、しかし俺にも良心というものがだな――


(んな詭弁きべんなんざどうだって良いんだよ。さぁ答えろよ俺。俺は一体、目の前の美少女を前に何をしたいんだ?)


 お、俺は……。


(ほらほら、触っちゃいなよyou~? 今しかないぜ? チャンスを掴め? 行けるとこまでsay say hoo~♪)


 俺はようやく意を決することができた。そうだよ、何を迷う必要があったんだ。俺は元々こういう奴じゃねーか。さっきからベラベラベラベラと自分を正当化しようとしやがって、馬鹿馬鹿しいったらありゃしねぇ。


 そして、俺は思いきってその目を開眼し、瞳孔が開いているであろう瞳でコヨミの顔を見つめ、


「……コヨミ」


 その頭を右手で鷲掴みにした。


 ミシミシミシミシッ……


「ぐぉっ、ぐぉぉぉぉ……」


 狸寝入りをこいていた白髪神の頭蓋骨が軋む音を鳴らし、小さな悲鳴を立てて再び目を覚ます。


 そうして、俺の姿をした悪魔は煙と共に消滅した。無論、俺悪魔を召喚していた元凶を粛清しているからだ。


「おいコラ白髪ぁ、テメェ俺を嘗めんじゃねーぞ? テメェが俺を陥れるために誘惑しに来たことが真の目的だということくらいお見通しなんだよ。浅い脳味噌で浅知恵働かせてんじゃねーよ、あァ?」


「す、すすすすまんかった、もうしないから、もう大人しく引き下がるから、このアイアンクローを解いてくれぇぇぇ……」


 流石に懲りたのか、泣きべそをかきながら謝罪の言葉を持ち出した。俺は少ししてからアイアンクローを解いてやり、コヨミは両手で頭を抑えて縮こまった。


「グスン……ほんの冗談じゃったのに……」


「何が冗談だバッキャロー。お前、相手が俺だったから良かったものの、そこら辺の思春期男子だったら躊躇なく襲って来てたぞ?」


 いざとなったら神の力とやらで捩じ伏せられるんだろうから、万が一のことが起こっても大丈夫なんだろうけど、でもやはり心配してしまう。どうもコイツは楽しむことを第一に考えすぎて、周りが見えていないところがあるようだ。


 見ていて危なっかしい奴を放っておけないこの状況。自惚れてるわけじゃないが、これってお人好しの考え方なんだろうか?


「案ずるでない、にーちゃん。お主は間違いなくお人好しじゃよ。『相当な』という言葉が頭文字にくるくらいにのぅ」


「……誉め言葉として受け取っても良いんだよな」


「当然じゃ。それにお主にはどうも、もう一つの素質があるようじゃな」


「あァ? 素質? またいい加減なこと言ってんじゃねぇよ」


「ハッハッハッ、そう思うならそれでも良い。でももし気になるというならば、教えてやらんでもないぞ?」


 そう言ってニッコリと笑うコヨミ。


 なんだよコイツ、こんな笑顔もできるのかよ。くそっ、不覚にも少し見惚れちまった!


「ふふっ、本当に可愛い奴じゃのぅ、にーちゃんは」


「なっ……あ、アホ抜かせこの野郎!」


「おぉふ……ツンデレ的可愛さ……萌えるのぅ……むふふっ」


「~~~っ!!」


 完全にしてやられた。まさかの三重構えなんて、運動会の弁当箱じゃあるまいし、そこまで中身のおかずを予測することなんてできるわけがない。


 俺はこの場にいることが居たたまれなくなり、異常に火照っている顔を手で仰ぎながらコヨミを取り残してベッドから這い出ると、そそくさと部屋を出て行った。


「ん~、朝から愉快爽快ゆかいそうかいじゃのぅ~♪」

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