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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
~プロローグ~
6/91

女三人寄れば姦しい

「…………」


 俺は今、修羅場というやつに遭遇していた。


「言いたいことは多々あるが……その前にだ」


 リビングのテーブルにて四人で囲むように座っていて、俺から見て右側にいるリースからギロリと睨まれる。


「私はな愚人。貴様が何処で何をしようと、そういうプライベートなことに口を挟むつもりはないのだ。大方の人間は束縛されることを拒むと言うからな。神経質な貴様もその部類に入っているはずだ」


「いや別にそういうわけじゃ――」


「口答えするな」


「す、すいません……」


 何故こんなにこいつは機嫌が悪いのか。今現在の段階で思い付くことは二つ。昼時の出来事でコヨミに味わされた屈辱感による八つ当たり。


 それともう一つ――今、目の前にある“これら”だ。


「旦那様……私は旦那様にお仕えする身。旦那様がどんな命令をしようと、私は私にできることならば何でもするつもりです――ですが」


 左側にいるミコさんが机を叩いてから身を乗り出してくると、俺の両肩を掴んで彼女は、


「夕飯食べてくるのなら先に連絡してくれても良いじゃないですかぁ!」


 と、昼に負けず劣らずの料理の数々に指を差して泣き出してしまった。


 リースが怒っているのもミコさんと少し似通っていて、コヨミと軽食を食べ回って来たことに不満を感じているらしい。


 折角の料理の意味がないだろう、と。


 まぁ、顔色を伺うところ、他にも私情が入っている気もするんだが。


 何にせよ、連絡入れなかったのは俺のミスだ。今回ばかりは俺に非がある。


「ご、ごめんミコさん。電話の一つくらい入れれば良かったよね。いやホントにごめんなさい」


「それもありますけど、料理以前に旦那様が突然姿を消すから心配してたんですよ!? 何も言わずに去られるなんて、『もう愛想を尽かされて出て行ったんじゃ……』と思って不安だったんですからね!? うわぁぁぁん……」


 どうやら料理よりも俺の身を案じてくれていたらしい。それと、もしかしたら捨てられてしまったんじゃないかと自己嫌悪にも陥っていたようだ。


 バカなことを……俺がミコさんを見捨てることは絶対にありえないというのに。


 子供のように泣き出してしまうので、あやすようにして抱き締めながらポンポンと頭を撫でてやる。自然とこんなことしてるが、俺の内心はドキドキで穏やかなもんじゃない。手汗とか普通に出てきてるくらいだ。


「クリーナー星人の言う通りだぞ愚人。あの金縛りを自力で解いてから、私がどれだけ貴様を捜して回ったと思っている? パンを食べ、タイヤキを食べ、アイスを食べ、それはもう必死にだな……」


「いや存分に満喫してんじゃねーか! 俺捜しじゃなくてグルメ旅の間違いだろそれ!」


「分かっておらんな愚人。この世で最も恐ろしいもの……それは食欲だ」


「うるせーよ! 何訳の分からないこと語り出してんだよ! それで話をうやむやにできると思うなよ!?」


 やはりミコさんとは比べ物にならない俺への気遣い。最初から過度な期待はしていなかったが、それでももっと心配してくれても良いと思う。将軍のくせに薄情な奴だ。


「ふむふむなるほど……大体の経路は分かったぞ。各々、違う目的を持ってにーちゃんの元に集まったようじゃの」


 さっきから何も喋らずに大人しくしてると思いきや、どうやら元神様はこの二人の心情を読み取っていたらしい。人の心ばかり読みやがって、卑しい奴だ。


 ……俺の下心とか覗かれてたらスゲェ嫌だな。


「そういえば貴様のことが後回しになっていたことを思い出したぞ。さっきはよくも私を弄んでくれたな?」


 今更になって面倒なことを思い出してしまったリース。いつの間にか一人で食事をしているコヨミに突っ掛かっていく。


 つーか、あれだけ食っといてまだ食えるのか。良い胃袋をお持ちのようで何よりだ。


「そう邪険になるでないリース将軍。何も悪気があってあのようなことをしたわけではない」


「嘘を付け。貴様がニヤついていたことは、まるで昨日のように覚えているぞ」


「いや、まだあれから一日経ってないんじゃが?」


「そんな細かいことは覚えてないな」


「お主、実は馬鹿じゃろう?」


「何だと貴様!?」


 おいおい、今にも激しい喧嘩が行われてしまいそうな空気だな。宇宙将軍と元神様がこんなところで争ってみろ。最低でもこの辺一帯は怪獣か何かが暴れたような地帯に早変わりするぞ。


「さっきから熱くなりすぎじゃぞリース将軍。少しクールダウンせんか。何事も冷静に対処できなければ、いつか必ず痛い目をみることになるぞ?」


「黙れ白髪! 私がこんなにもイライラしている原因の元は貴様だ! 大体、貴様は一体何者だ!? 何処の出身の者だ!? 答えろ!」


「ワシは天界出身の元神じゃが?」


「…………は?」


 俺と同様、リースも間の抜けた顔をしてみせた。


 ミコさんも今の発言は聞き流せなかったようで、目を点にしてポカーンとした表情で固まっていた。そーだよね、それが普通の反応だよね。


「ふっ、ふふっ……ふははっ! 何を言うかと思えば神だと? こんなところに重症患者がいるようだな。貴様もそう思うだろ愚人?」


「あー……いやー……えーと……」


 助けを求めるべく本人であるコヨミに視線を送るが、説明が面倒なのか、元神様は欠伸を漏らして横になり、ジト目でリースのことを興味無さげに見つめていた。


 この白髪……こんなのが元神様だったなんて世も末だな。神を崇める宗教の人が見たら何て言うだろうか? 恐らく、今までの自分の行いを悔いるに違いない。


 何はともあれ、コヨミの正体は決定付けておいた方が良いだろうな。納得はいかないものの、これからこの場所の住民になるんだし、同じ屋根の下に住む者のことくらい知っておいた方が良い。


「リース……俺もお前と同じで『何を馬鹿なことを』と思ってたんだが、こいつはマジで元神様だ」


「愚人、もしや何処かでこの白髪に毒されたな? 何をされた?」


「何もされてねぇよ。信じ難いが、俺の言っていることは嘘偽りのない事実だ。目の前の現実を受け入れろリース」


「…………」


 一応は俺のことを信用してくれているようで、リースはコヨミを見つめて少し動揺を見せると、一歩後ろに退いて警戒体制に入った。


 これは俺の仮説だが、リースは恐らく自分より強い者がこの世に存在しないと思っている奴だ。だからこそ、目の前に現れた次元の違う強さを持った神様を恐れているのかもしれない。


 ……なんて、実際そんなことは正直どうでも良いんだが。別に厄災を起こすような害ある奴じゃないんだし。


「わ、私、神様って初めて見ました! もっと神々しい人だと思ってたんですが、意外と普通な感じなんですね!」


 リースに対し、ミコさんは初めて見る神様に感激しているようだ。まぁ、ミコさんらしい反応だろう。最初は固まっていたけれど、俺の話を聞いてすぐにコヨミの見方が変わったらしい。


 ミコさんは瞳をキラキラと輝かせながらコヨミに近付いてその手を握る。


「私はクリーナー星からやって来たミコと言います! これから宜しくお願いします神様!」


「え? 普通に断るが? 何言ってるんじゃお主?」


「えぇ!?」


 思いがけない返しにミコさんは仰天してしまう。


 しかし、コヨミの表情を見て俺は瞬時に悟った。アレは完全に人をおちょくることを楽しむ顔だ。


 コヨミは真顔からニヤニヤした顔になると、ショボくれているミコさんの頭をポンポンと叩く。


「ハハハッ、すまんすまん冗談じゃよ。でも神様とダイレクトに呼ばれるのは少し抵抗があるから、普通にコヨミと呼んでくれれば良い。所詮は“元”なんじゃしのぅ」


「び、びっくりしました……。あっ、じゃあ私も宜しければミコとお呼びください」


 そして二人は親しみを込めて握手を交わす。とりあえず、この二人は相性が良さそうなので良かった良かった。


 そう、この二人は最初から心配していなかった。問題はこの、


「ぐっ……クリーナー星人まで手込めにされてしまった」


 驚異を全て敵と認識してしまう将軍様だ。


「おいリース。いつまでも片意地張ってないで、お前もミコさんみたく良心持って友好関係を築け」


「さっきから黙って聞いていれば、一体誰のことを思って私がこうも警戒していると思っている愚人!?」


「誰って……自分じゃねーの?」


「そ、そんなわけないではないか! 今の私は貴様のことを第一優先として考えているのだぞ!」


「嘘臭いなぁ。しかも余計なお世話だと思うんだけど?」


 少なくとも、コヨミはリースが思っているような危険人物ではない。誰か彼かをからかうような悪戯っ子ではあるが、そんなに悪い奴というわけでもないだろう。


 ……まぁ、心を読んでくるというのは、全てを見抜かれていることになるのだから、正直怖いところもあるのが本音なんだけどな。


「よく考えてもみろ愚人。神だぞ? 基本何でもできてしまうのだぞ? 例えば、この辺一帯を一瞬で塵にすることだって可能なのだぞ?」


「それはお前にもできることじゃねーの?」


「それはそうだが、他にも知られたくない心の内を読まれたり、身体の自由を弄ばれたり、不幸体質にされてこの先の人生全て不幸にされたり、考えれば考えるほどにこの白髪は驚異だ。そんな危険人物を手元に置いておくなど言語道断だ」


「やれやれ、随分と嫌われてしまっとるのぅ。ワシはそんなエグイスト素質持っておらんぞ」


 疑り深いその心の持ちように対し、呆れを込めた溜め息を吐くコヨミ。


 流石にそこまで酷い奴ではないだろう。まだ出会って日が浅いものの、コヨミはどちらかというと愉快な娯楽を求めるような奴だと思う。ていうか絶対そうだ。


 それに逆を言えば、コヨミは人を幸福に導くことも可能なんだから、よっぽどのことがない限り、コヨミに酷い仕打ちを受けることはないだろう。


「大丈夫ですよリースさん。コヨミさんはそんな酷いことをする人ではないですよ」


 気配りがこの中で人一倍できるミコさんがリースを宥めようとするが、それでもリースは心を開こうとしない。その顔は人を疑うことしか知らない顔のままだ。


「何故そう言い切れる? 何か確証があるのかクリーナー星人」


「え? だってコヨミさん、こんなに可愛いじゃないですか♪」


 将軍様を除いて、誰もが一目見るだけで癒される笑顔を浮かべ、コヨミの頬をぷにぷにと触るミコさん。コヨミもその笑顔に癒されたのか、猫のようにふにゃけてミコさんに身体を預け、大人しく頭を撫でられている。


 見ていて微笑ましい光景とは、まさにこの光景のことを差すのだろう。じっくりと見つめて心のフォトファイルに保存しておくことにしよう。


「ハァ……もういい分かった。なら貴様らはそうしていろ。私一人はその者を監視しておくことにさせてもらう」


「お前な……まぁいいや。それでこの話が完結するなら、もう誰も文句は無いだろ」


「そうですね。それにリースさんも時間を掛ければ、きっとコヨミさんの誤解を解くことができると思いますし」


「なるほど。時間を掛けて誤解を解き、更にワシのブラや紐パンも解いて口説くというパターンじゃな。いやん、将軍様ったらエッチじゃのぅ」


「殺す。いつか尻尾を見つけ出して必ず殺す」


 犬猿の仲とはこいつらのことを言うんだろうか? でも喧嘩するほど仲が良いと言うし、俺は暖かい目で見ておくとしよう。


「貴様は殺す。だがその前に早期決着をしなければならない問題がある。そうだろう愚人?」


「はぃ? 問題?」


 何のことか俺にはさっぱりなんですが、またいい加減なこと言い出しやがるこのトラブルメーカー。


「私達は各々目的を持ってやって来たが、その真意は皆同じだ。クリーナー星人は心優しき妻のため。私は心地好い生活のため。白髪は眠たくなるほどの癒しの時のため。そしてその先にあるのは貴様の『幸せ』だ」


「結局何が言いたいんだよお前は?」


 リースは他の二人を横目で見流すと、ニヤリと不敵に笑った。嫌な予感の兆しだ。


「分からないか愚人? 私ならその全てを叶えてやれると言っているんだ」


「えぇっ!?」


 真っ先に驚いたのはミコさんだった。その後に何を思ってか、コヨミは「ほぅ……」とこれまた不敵に笑いながら顎を擦っていた。


 つまり、リースはこう言いたいのだろう。私が全部願いを叶えられるから他の二人は不要だと。正しく、暴君が吐くような台詞だ。


 でも流石のミコさんも黙って聞き流せなかったようで、少しムッとした表情でリースを見つめた。


「だ、駄目ですよリースさん! 旦那様のお嫁――じゃない、恋人になるのは私です!」


「ふっ、そこで照れ隠しで本意を隠すなど話にならん。悪いが、愚人の伴侶になるのも私だ」


「そ、そんなの認めません! 絶対に駄目です!」


「むほほっ、一人の男を取り合って争う若妻が二人。そこに第三者がお主を掠め取って行ったらどうなるんじゃろうか? のぅ、にーちゃん――いや、ア・ナ・タ?」


 そう言いながらコヨミは俺に擦り寄って来ると、俺の左腕に抱き付いて豊満な胸を押し付けてきた。


 胸の感触は実に素晴らしく、正直ずっと味わっていたい――が、その欲望よりも俺の中では別の感情が次第に膨らんでいく。


「ば、馬鹿! 早く離れろ! 火に油注いでどうすんだ!」


「そんなこと言って心は正直者じゃのぅ。何なら前から抱き締めて、ごく自然なパフパフをしてやっても良いんじゃぞ?」


「いやだからお前――」


 その感情はただ一つ。


 女に対する恐怖心。


「……旦那様?」


 あの太陽のような暖かみを持つお狐様が、俺に対して笑顔の怒りを送ってくる。


「よし、今から白髪を殺す。そして愚人、貴様を徹底的に調教して、二度と私以外の異性に性欲を感じないようシゴいてやる」


 誰でも分かりやすい怒りと共に、将軍様は可愛らしい桃色の傘の先を俺に向けてくる。


「これこれ物騒じゃぞお主ら。ダーリンは女子おなごに優しさを求めている男子おのこなんじゃからのぅ。そうじゃろダーリン♪」


 火に油を注ぎ続けて女心に業火を灯し、白髪神はその様子を見てニヤニヤと人の気も知らずに笑って楽しむ。


「…………」


 俺はこの時、自分の身を滅ぼしかねない最も危険なものを理解した。


『一時のテンションに身を任せる事態』ではない。


『叶うはずのない願いを星空に向かって叫ぶこと』でもない。


 その答えは、『一度に多くの欲望を持ってしまう心』である。


「……祈祷なんてやっぱりするもんじゃなかった」


「むっ? おーい二人共、今こやつが根本から皆のことを否定し始めたぞ~。なんでも、嫁は神一人で十分とのことじゃ」


「んなこと誰も“言ってねぇ”!!」


「じゃあ“思ったんですね”旦那様!? 酷いです! 私はこんなに一途に旦那様のことを思っているのに!」


「ち、違う誤解だミコさん! 俺が本当に好きなのは――」


「皆まで言うな愚人。本命は私だということくらい認めたくないだけで、この者らは全部理解している」


「お前は黙って傘の手入れでもしてろ!!」


「ならワシは夫の夫を手入れをしようとするかのぅ。ほれ、まずはこんにちはをちまちょうね~?」


「テメェは一番黙ってろ下ネタ神!!」


 波乱の幕開けとなる前夜。その夜は、俺が今までの人生で最も声を張り上げた時だったという。


 こうして、俺と三人の異星人による共同生活の幕が開いたのだった――




「え? 股が開いた? お主やっぱり赤裸々じゃのぅ」


「マジでくたばれってくれ不老不死!!」

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