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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
六話 ~新たな生活と思わぬデート~
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早過ぎる反省会

 こんな日に限って窓から差し込む日差しが神々しく光輝き、目に健康的な雲一つないスカイブルーの空が何処までも広がっている。


 きっと今頃は、未来の希望の象徴である幼き子供達がピクニックでもしているに違いない。笑顔という花をいくつも咲かせ、どんな花よりも綺麗に咲き誇っていることだろう。


 ここに咲いているダーク一色のドス黒い花があることも知らずに子供達は……子供達は……。


 未来が見えない。希望なんてあるはずもない。奇跡なんて迷信だ。幸せなんて幻想だ。今までの思い出全部が幻覚だ。


 俺きっと、この世の全ての女の子に嫌われるために生まれてきたんだ。どれだけ善行に尽くそうとも、それは全て自己満足に収束する。誰も褒めず、讃えず、見直してくれることはない。


 努力なんて無駄なものなんだ。人に好かれるってのは、善行がどうこうでどうにかなる問題じゃない。“そういう星の元に生まれた人物”こそが、人に好かれて生きているんだ。


 何と羨ましいことか。俺は俺なりに頑張っているのに、何の努力もせずに女の子達とキャッキャウフフなことをしている野郎がいるだなんて。理不尽極まりない理だこと。


「……さっきからなんであいつはあんなに落ち込んでるのよ?」


「い、いえ……その……なんと言いますか……私の口からは何とも……ただああなってしまったのは、私が全部悪いんです……」


「またトラブルを起こしていたのか。全く、新居生活初日から迷惑な奴だな」


「いきなり喧嘩吹っかけて来たアンタが言えた台詞か!」


 隅っこで体育座りをして塞ぎ込んでいたところ、いつの間にか俺の家には皆の姿が勢揃いしていた。


 身体の至る所に傷を負ってボロボロになっているミーナとリース。償い切れない罪を犯してしまった対象人のミコさんと、眠りから目を覚ましているヒナ。


 そして、縄一本で吊るし上げられ、ミーナ達以上に悲惨な傷を負い、全身真っ赤になって頭に血が昇って瀕死になっているコヨミ。この有り様は恐らくヒナによるよるものだろう。


「あっ、ようやく気付いたみたいよ。ほらやっさん、アンタもこっちに来なさい」


「…………結構です」


「結構です、じゃないわよ。一体今度は何があったのよ? まぁ、コヨミの姿からしてそいつが主犯だというのは分かるけど……」


 放っておいて欲しいのに、一人とぼとぼと近づいて来る義妹。近付くんじゃない、お前が関わっているのはゲス染みた変態なんだぞ。


「ほら、ちょっと話があるからこっち来なさい」


「俺に触れるなァァァ!!」


「うわっ!?」


 右腕を掴んで来ようとしたミーナに対し、咄嗟に叫んで手を振り払った。


「今の俺に触れるんじゃない!! 俺は愛する義妹までこの手で汚したくない!!」


「何の話だ! いつからアンタは病みキャラになったってのよ! いいから少し落ち着きなさい!」


「止めろぉ! 離せ! 離してくれぇ!」


 脇から腕を回されて羽交い締めにされ、バタバタと暴れてみせるも拘束が振り解けることはない。そうして俺も団欒の間である卓袱台の近くに座らされた。


 だが、拘束が解かれてすぐに両手で顔を覆い、自分の世界の殻に閉じ籠った。


「この世の全てが禍々しい……」


「凄まじく面倒臭い状態になってるわね。マジで何があったのよミコ? 勿体ぶらないで白状しなさい」


「は、はい……実は――」


 気が乗らないもののミコさんは素直に白状し、先程起こった俺の黒歴史を説明した。


 そして全てを聞き終えると、ミーナは呆れの溜め息を吐いて頬杖を付いた。


「本当にそんなことが起こるものなのね。何処ぞのラブコメ漫画じゃあるまいし、狙ってやったことなんじゃないのこいつ?」


「ミーナさん! 傷口に塩を塗るようなコメントは控えてください!」


 一瞬息が止まりそうになった。違う、違うんだ、そんなつもりは決して無かったんだ。


「というか、この件の元凶はコヨミなんでしょ? それなら既にヒナが粛清済みなんだし、終わった話じゃない」


「そうなんですけど、旦那様はコヨミさん関係無しに罪悪感を感じてるようでして……」


「珍しく貴様が暴力に手を出したようだし、それがこの愚行馬鹿に効いたんだろう。事実手を出したのは本当なのだから、家事狐は気にすることないぞ。むしろ、貴様はこいつに罰を与えても何らおかしくはない」


 立ち上がって梯子と縄を用意し、過去の思い出を振り返る俺。死を悟ったのか、色々な走馬灯が流れてくるようだ……。


「ちょちょちょ早まらないでください旦那様! もう止めてくださいよ二人共! これ以上旦那様を刺激する発言は金輪際無しです!」


「人が良いわねぇミコ。その馬鹿を庇ったところで何も得しないってのに」


「同感だな。しかも、貴様のその優しさに漬け込んで同じ愚行を犯してくる可能性すらあるというのに、少しは学んだらどうだ家事狐」


 ブチッ


 俺はこの二人に何か恨まれるようなことをしたんだろうか? それとも、さっきの朝練喧嘩で機嫌が悪くなってるんだろうか? ていうか今の音は何? よく聞く血管が切れる音だったようだけど……。


「……(ちょいちょい)」


「ん? 何用だヒナ?」


「……(ぽんぽん)」


「え? 私も?」


 何を思ってか、無表情のヒナがミーナとリースを連れて外へと出て行った。幻覚だったかもしれないが、ヒナの背後に鬼のような守護霊が見えたような……?


 そして数十秒後、特に物音も聞こえないまま三人一緒に帰って来た。


 だが、妙な変化があった。ミーナとリースが下に俯いて大人しくなっているようだが……それに顔色も悪くなっているし、間違いなく何かがあったのは間違いないだろう。


「……言え」


「あ、あの、さっきはマジホントすいませんでした。兄を相手に見栄はって調子こいてました」


「べ、別に恨みはなかったのだ。いつものジョークというか何というか……と、とにかくすまなかったな愚人。いやホントにだな……」


「……愚人?」


「あっ、いや、し、師匠……すいませんでした……」


 何があったか知らないが、ヒナが何かをしたことはハッキリと理解できた。どうやったらこの威張りペアを飼い慣らすことができるのか、未だに底が知れないヒナが末恐ろしい。


「……落ち込まないでにぃに……何事も重要なのはポジティブシンキング」


「う、うん、そうだね。もう大丈夫になったわ……」


 小さな身体で抱き締められ、頭をぽんぽんと叩かれる。色々と事件が起きすぎて、事を受け入れる感覚が麻痺してしまったのか、落ち込むという気持ちそのものが何処かに消えてしまった。


 頼りになる義妹がいて本当に助かる……が、その粛清対象の矛先がいつか俺にも向けられるんじゃないかと気が気じゃない。


「大丈夫ですか旦那様?」


「大丈夫大丈夫。それよりさっきはホントごめんなさい。個人的に水に流してくれるとありがたいです……」


「い、いえいえ、私も腑に落ちるところがありましたし、悪く思わないでください。私も忘れるように努力はするので」


 そう言うミコさんの顔は少し赤くなっていた。女の子にとって、胸を揉まれるということはそれだけ恥ずかしいことなのだろう。人によって大差はあるだろうが、ミコさんのような可憐で潔白な美少女なら納得の反応だ。


「……で、話がまとまったから次に移るけど、なんで皆俺の家に集まってんだよ。これから学校あるってのに、朝からパーティーなんてする気はねぇぞ俺は」


「あー、そのことなんだけどねやっさん。ちょっと私から言いたいことがあるから、皆ここに集まってもらうように招集を掛けたのよ」


「そーいうことね。ならそろそろこいつも降ろしてやるか……」


 メンバー全員が卓袱台の元に集まったところで、ただ一人酷い刑に処されていたコヨミを降ろす。


 少ししてから重症の怪我は不老不死により回復し、顔色を悪くしながらも卓袱台の近くに敷かれている座布団に座った。


「ワシはもうヒナの前では暴言を吐かん……Mにも限度はあるんじゃ……」


「良い心掛けだクソ白髪。その流れで神様らしく清らかに改心することだな。元々クズい奴が改心しても何かが変わるとは思わないが」


「そうじゃな。だから今度からはリース将軍で遊ぶとしようかのぅ。それなら良いじゃろぅヒナ?」


「……問題無い」


「おい、誰の許可を得て許しを出している?」


「ちょっと、また話が脱線してるわよ。コントは私の話を聞いた後でやってくれないかしら?」


 無駄話に花を咲かそうとする異星人組を見計らい、パンパンと手を叩いて自分に注目を集めるミーナ。そしてその態度が気に食わなかったのか、またもや犬猿の仲の相手であるリースが睨みを効かせた。


「誰が貴様の話を聞くと言った? 貴様の暇潰しに付き合うなど、時間を無駄にするに等しい」


「……ヒナ。悪いけどもう一度こいつに――」


「一旦黙れ皆。今は馬の尻尾の話に耳を傾けることだけを考えろ」


 俺がヒナの名前を出した瞬間、再びリースの態度が一変する。こりゃ良い、裏リースを止める手段ができるだなんて思わぬ収穫だな。


 リースが黙ったところでミーナはコホンと一度咳を立て、卓袱台に両手を置いて皆を一通り見渡す。


「よく聞きなさい皆の衆。今日から新居生活が始まったのは良いけど……新しい土地に浮かれてるのか、皆が皆、落ち着きがないように感じるわ」


「あはは……否定できることではないですね」


 苦い顔で笑うミコさん。


 確かに、今日は朝からいきなりてんやわんやで誰も彼もが落ち着きがないと思う。勿論、俺を含めた意味を込めて。


「アンタ達がどういう同居生活してきたのか分からないけど、きっと毎日がお祭り騒ぎのような非日常的な生活だったんでしょ? 悪いけど、私の目が黒いうちは自粛してもらうからね」


「人聞きの悪いことを言うのぅ。馬鹿騒ぎしてたのはリース将軍とにーちゃんだけじゃというのに」


「その騒ぎの元凶となったのは九割方貴様だろうが!」


「はいはい荒立てない荒立てない。一緒に生活してる時点でそういうのは全部連帯責任よ」


「ぐっ……理不尽なことを……」


「だからこそ、そういう理不尽な目に合わないようにするためにも、今日から落ち着いた生活を送るように心掛けないと駄目なのよ」


 いつになく真面目なことを言うなぁこいつ。会う度に荒事の嵐に自ら突っ込んでいくようなことをしてるからアレだけど、そういえば普段のミーナはしっかり者として日々を過ごしてるんだった。


 俺が見ないうちに成長していく義妹。その調子でどんどん魅力溢れる大人の女性になってほしいものだ。


「で、一つ私が考えさせてもらったことがあってね。今後の事を考えて、私からいくつか規則を設けさせてもらうわ」


「規則……ですか?」


「えぇ」と頷くミーナ。無難と言えば無難な案だな。とは言え、それを問題児達が守れる保証はないんだが。


「そのいくつかの規則を設けて、それを何度も破るようなことをする奴がいたら、このアパート……夜神寮から出て行ってもらう。それが規則の第一ルールよ」


「短い付き合いでした皆さん、さようなら」


「待たんかアホ兄」


 風呂敷に荷物を詰めて出て行こうとしたところ、ミーナに背中を掴まれてしまう。ジタバタと暴れてみるが、解放してくれる様子はない。どうせ結果は見えてるのに。


「察しろ妹、今の俺がそんなの守れるわけないだろ。主にどっかの馬鹿共のとばっちりが原因でな」


「安心しなさい、この規則の対象は異星人組だけだから」


「な、なんだと!? それはどういうことだ貴様!?」


 まさかの決定事項に思わず立ち上がるリース。そりゃ驚きもするわ。


「どうもこうもないわよ。当時、やっさんは一人暮らしをしてたけど、その頃は一度足りとも問題を起こしたことはなかったわ。つまり私が何を言いたいか分かる?」


「……私達が来てから……にぃにが悪化した」


「まぁそういうことね。と言っても、一番悪影響を与えてるのはアンタら二人なんだろうけど」


 そう言いながらリースとコヨミを指差すミーナ。


 我が義妹の言う通り、ミコさん一人だけホームステイしていたのならば、俺は今までのように平穏な日常を送れていたことだろう。


「酷い言い様じゃのぅ。否定できないから言い返せないんじゃが」


「納得するなクソ白髪! 好き勝手言っているが、一体私がいつ何処で愚……師匠に悪影響を与えた!?」


「じゃあズバリ言うけどさ。やっさん個人に迷惑かける以前に、ちゃんとアルバイトに行ってんのアンタ?」


「…………」


 痛いところを突かれて押し黙る将軍。


 ちなみに、リースはまだ一度しかバーサク族のパン屋に顔を出していなかったりする。人が良いロッカさんのお陰あってか、好きな時に来て良いと言われたらしいのだが、その挙句の果てがこれだ。


 表リースにせよ、裏リースにせよ、働くということ自体に気力が湧かないらしい。言ってしまえば、リースにはニートの素質があるということなんだろう。俺もまだ将来どうなるか分からないから強く責めれないものの、アルバイトの一つくらいできないようでは、この先を生きていけないと言ってやりたい。


「私が何も知らないと思った? 言っておくけど、アンタ達のことは学校でちょくちょくやっさんから聞いてるのよ」


「うぐっ……愚人め、余計なことを言う」


「現状理解できてんのアンタ? 唯一アンタだけが何もできてないのよリース? 少しは自分の行いを反省して、皆を見返すようなことの一つや二つしてみなさいよ」


「だ、黙れ黙れ! 貴様に言われなくても分かっているわ!」


 まるで幼子のような物言いで反発し出した。今回は完全にミーナの言ってることが正しいな。


「とにかく、今日からはやっさんに代わって私がアンタ達を仕切らせてもらうわよ。で、やっさんは私の援護役に回ること。良いわね?」


「あっ、はい……」


 こうして、俺達の生活に頼り甲斐のあるリーダーが誕生したのだった。

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