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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
六話 ~新たな生活と思わぬデート~
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最悪の目覚めとドキドキの一時と終了のお知らせ

「くたばれ口だけ将軍がァァァ!!」


「失せろ咬ませ犬がァァァ!!」


 新居生活初日。目覚まし時計を必要とすることなく、二つの叫び声が代わりの目覚ましコールとなった。


 ボヤける視界の中、窓を開けてみる。すると外では、絶賛戦闘中の女が二人いた。言うまでもなく、犬猿の仲であるあの二人だ。


「目覚めの朝で一番に出くわすのが貴様とは、胸糞悪い目覚めだ! こんなに苛立つ朝は生まれて初めてかもしれぬな!」


「そりゃこっちの台詞よ! 朝練のために外に出たら、憎たらしいお粗末将軍に会うなんて、今年最悪の出来事よ!」


「ふんっ、朝練とは懸命な心掛けだな。だが、どれだけ鍛錬を積んだところで私には遠く及ばん。無意味な修練お疲れ様だな」


「は? 何言ってるのかしら? アンタより弱いと思ったことなんて一度足りともないんですけど〜? むしろ、私が鍛錬を積み重ねることによって、アンタとの実力の差は日に日に溝ができているわよ。只でさえ弱っちぃのに、呑気なものね〜将軍様は?」


「その減らず口、今すぐ喋れなくしてやる!」


「上等よ! 今日は予定変更して、野犬の躾でもしてやろうじゃないの!」


 一方は愛用の傘を振るい、一方は何の変哲も無い木刀を振るう。怒鳴り声やら叫び声やらが飛び交い、同時に傘と木刀がぶつかり合う鈍い音が何度も響く。


 まだ初日だというのに、しょっぱなからこの喧騒。前途多難どころの話じゃ済まなくなってきたような気がする。


 そういや、最近は色々あり過ぎて朝練ができていなかったな。でもだからといって、今外に出たらあいつらに絡まれる恐れ有りだし、(ほとぼ)りが冷めるまで待ち続けるとしよう。まぁ、そんな朝はもう二度と訪れないとは思うが。


「…………いない」


 少しでも喧騒の音を遮るために窓を開け閉め、俺が寝ていたすぐ隣を確認する。だが、そこには誰の姿も見当たらない。


 本来ならヒナがスヤスヤとかわゆい寝息を立てて眠っているのが最近だったが、ここに来てからそれは成されぬものとなった。その原因は、同じ屋根の下で住めなくなったからだ。


 いや、同じ屋根の下ではあるのだけれど、あくまでここはアパート。即ちここは、部屋が個別に分けられた各々の孤立空間。故に、俺はヒナと健全な一夜を共にすることができなくなっていた。


 本当はこの一室でヒナと二人生活をしたかった。しかし、それはミーナの大家権限によって却下された。本人曰く、「ヒナも年頃なんだから、アンタみたいな汚らわしい思春期童貞野郎と同居させたら危険よ。万が一のために、ここでの同居生活は禁止にするわ」とのこと。


 ようやくまた手にすることができた義妹とのラブラブ生活。それをもう一人の義妹に強奪されてしまうだなんで、なんという因果なのだろうか。悔しくて毎晩枕は涙でぐしょぐしょだ。


 だが、完全に離れ離れになったわけではないからまだ良い。それに、健全組の二人にはちゃんと手回しはしてあるし。


「旦那様〜。私ですが、入っても宜しいでしょうか〜?」


 突如インターホンの音が鳴り響いたと思いきや、玄関の声からよく聞き覚えのある声が一つ。自然と頬か緩んだ。


「あいよ〜、入っても構わんよ〜」


「……お邪魔します」


 ベッドから降りて玄関に向かうと、いつもの純白エプロン姿の天使と、寝巻き姿のかわゆい義妹がセットでやって来た。あぁ……さっきの喧騒が嘘のような光景だ。


「あっ、もしかして起きたばかりでしたか?」


「あぁうん……何処ぞの脳筋馬鹿共の騒がしさのせいで目が覚めた」


「あ、あははっ……あの二人はもうどうしようもないですね。何かのキッカケで仲良くなってくれれば良いんですけど」


「……あの二人は水と油……それはまずありえない」


 ヒナはそう言うが、ミーナが嫌いなのは裏リースの時だけなんだが。常に表リースで居てくれれば良いものの、なんであいつはわざわざ裏リースでいる割合の方が高いのやら……。


「それはそれとして旦那様。今から朝食を作りますが宜しいですか?」


「勿論勿論。というか、二人はいちいち俺に許可取って入って来なくても良いから。今後は好きに入って来といて」


「でもそれだと旦那様のプライベートが守られませんよね? それでも良いんですか?」


「元々最近はプライベートもクソもない生活してたし、今更そんなこと言われてもな……」


「あうっ……そ、それはその……」


 まともに受けて戸惑いを見せるミコさん。ちょいと悪戯が過ぎただろうか。


「ま、冗談はその辺にしといて、ホントに今後は自由出入りして良いから。それよりも……」


 ミコさんから視線を離し、その隣に立っているヒナを一直線に見つめる。


「カモン! ヒナ!」


「……(グッ)」


 立ち膝になって両腕を広げて合図を送ると、ヒナは親指を立てて無言の返事を返してくる。


 そして、靴を脱いだ後に駆け寄って来て、俺達は互いの身体を抱き締め合った。


「あ〜、癒されるわ〜……」


「……ご満足?」


「そりゃぁもう、これでどれだけストレス解消されることか……」


「……そう」


 これは、ヒナが我が家に来てから習慣にさせてもらったもの。義妹成分補給のために駄目元でお願いしてみたら、これが一つ返事でOKをくれたのだ。その後、俺は毎朝こうしてヒナを抱き締めさせてもらっている。


 幼少期時代にもミーナを対象に同じことをさせてもらっていたのだが、年頃が難しくなって来た辺りから終了のお知らせを下され、絶望の淵に落とされていたのは懐かしき思い出だ……。


 他者から見たらドン引きされる行為だが、義妹が好きなのだから仕方ない。だって可愛くてしゃーないんですもの。とは言え、絶対に手を出さないと誓いを立てているので、今もこうして俺は彼女ができたことが一度もないわけで……情けない話だ。


「……っと、そろそろ良いかな」


 流石にずっとこうしているわけにもいかないので、二三度ヒナの頭を撫でてから身体を離した。


「……今更言うのもなんだけど、嫌なら嫌と言っても良いからなヒナ?」


「……大丈夫……こっちはこっちで癒……Zzzzz」


 どうやらヒナは頭を撫でられるのが弱いのか、何度か撫でてしまうだけで強い眠気に襲われるらしい。こうして話の途中で3の目になり、鼻提灯を膨らませているのが良い証拠だ。


 朝食ができるまで眠らせておこうと思い、テレビと近くに置いてあるソファに運んで横にさせる。


 流石が沙羅さんなだけあって、ここに来た時から家具も必要なものは全て揃っていた。あの人の莫大な財産が怖くてしゃーない。


「…………」


「ん?」


 ヒナを横にしたところでミコさんの方を振り向くと、何か物欲しそうな目で俺を見つめていた。


「えっと……どしたのミコさん?」


「え? あっ、いや、その……あの……」


 拗ねたような照れたような反応を見せる。もしかして今の俺達のコミュニケーションに引いてしまったのだろうか? そりゃ無理もない話だ。


「そ、それじゃ私は朝食を作りますね……」


「あ、うん、お願いします……?」


 何処か落ち込んだ様子でキッチンの方に向かって行った。何なんだその反応は? 一体あの人は何を求めていたんだ?


 ……もしや、俺がヒナを抱き締めたことにジェラシーを感じてしまったとか? やれやれ仕方無いなぁ……。


「ミコさんミコさん」


「は、はい! 何でしょうか!?」


 期待でもしていたのか、即座に振り向いて目をキラキラと輝かせる。そうかそうか、やっぱりそうだったんだなミコさん。しょうがないからここは幸せを分けてあげようじゃないか。


「ミコさん、今ならヒナを抱き放題だから、好きなだけ癒しを補充してくるといいぞ。大丈夫、俺はヒナの癒しを独占しようなどという意地悪はしないから。幸せも癒しも平等に……だろう?」


「朝食作るので旦那様はテレビでも見ててください」


「……あり?」


 何故か機嫌を悪くし、顔は笑顔でもこめかみには小さな血管が浮かんでいる。何故だ!? ヒナでは癒しを感じ取るには不十分だと言いたいのか!?


「少しでも期待した私が浅はかでした……いいですよもう……どうせ私は言い付けを守って利用されるだけの家事狐ですよ……」


「な、なんでそんな悲しいことを言うんだよ! ヒナだけじゃなく、ミコさんも俺にとっては癒しの存在なのに!」


「……だったら同じ扱いしてくれても良いじゃないですか」


「……うん?」


 頬を赤らめながら拗ねた様子で横目を使い、こっちを見つめてくるミコさん。


 同じ扱い……え? つまりはそういうこと? 俺としたことが誤解していたようだけど、それが解けたことによって更なる問題……あっ、いや、問題ではないんだけど、何と言えば良いのか……。


「い……いやいやいや! さ、流石にそれは……ね!? ミコさんにそうするというのはその……セクハラみたいになるじゃん!? ミコさんも嫌がるだろうし、俺は――」


「別に私は嫌だとは一言も言った覚えはないです……」


「そ、そう言われるとそうだけど……」


 それから暫しの沈黙が流れる。何この空気? 超気まずいはずなのに、それが嫌と思っていない俺がいて、心臓の鼓動音がやたら大きく聞こえてくる。


 ミコさんは更に顔を真っ赤にさせるも、じっと俺の顔を覗いてくる。真正面から見つめられることの恥ずかしさに耐えられず、俺は目を合わせられないでいる。


 抱けってか? 抱き締めて欲しいってか? いやいやそれはおかしいだろ。それじゃまるでミコさんが俺のことを――馬鹿か俺! 夢の見過ぎだ! ミコさんにしたあの愚行を忘れたとは言わせねぇぞ!


(ったく、いつまでも過去に縛られやがって女々しいんだよお前は。ここでいかなきゃ男じゃねーだろ? なぁおい?)


 お、お前は!? 俺の中に潜む悪魔が久々に顔を出してきやがった! 引っ込め! お前にゃもう用は無いんだ!


(現実逃避はここまでだぜ? お前も素直になっちまえよなぁ、前の件は当の本人から許しを得てんだから、もう気に止めるこたぁねーんだよ。それに見てみろよこいつの目を。誰から見てもお前の抱擁を待ち望んでんだろ?)


 う、嘘だ! きっとミコさんは細菌のトラブル続きで疲れてるんだ! そう、この人は単純に誰かに甘えたい衝動に駆られてるだけなんだ! つまり、その相手は別に俺じゃなくても良いということに他ならない!


(ほぅ? ならお前は見知らぬ男にこいつを盗られても良いってんだな?)


 え? いや……それは……。


(ほら見ろ、それがお前の本音なんだよ。どれだけ言い訳を並べたところで、意志ある人は己の本音を隠し通すことなんざできねぇんだよ)


 まずい、今回の悪魔は言ってることが理に適っていやがる。納得できることだから何も言い返せない。


(おら、分かったならあのナイスボディを抱き締めてこいよ。そしたら何かが変わるキッカケになるかもしれねーぞ? 例えば、こいつに対する己の本当の想いとか、な……)


 想い……俺がミコさんに対する想いが……いやでもやっぱり――


(あーもうじれったいのぅ! いいからとっとと行かんかにーちゃん!)


「……えっ?」


 悪魔の声が聞き覚えのある声質に変わり、それと同時に、俺の背中が何かによって押された。


「だ、旦那様!」


「ちょっ! 待っ――」


 前のめりにバランスを崩した途端、俺の身体を支えるためにミコさんが一歩前に踏み込んで来た。


 そして、そのミコさんの行動を先読みできなかった俺は、咄嗟に伸ばした二本の両手を引っ込めることもできずにそのまま倒れ、


「「…………」」


 ぴったりと連結するように、俺の両手はミコさんの柔い宝物を鷲掴みにしていた。


 この世に生まれて感じ取ったことのない感触。ぷにぷにとしたそれは、幼少期時代の頃に一時期流行っていたスライムを触っているよりも感触良く、人肌の体温があり、何より心地良さが感じられた。


「〜〜〜っ!!」


 本能的に手を動かしてしまった瞬間、沸騰するやかんの如く頭から湯気を発生させ、成熟したトマトのように顔色を高揚させるミコさん。


「いやぁああああ!!」


 甲高い悲鳴がアパート全体に鳴り響き、正当防衛の強烈なビンタが頬にジャストで炸裂。何処にそんな力があったのかと言わせるくらいに、そのビンタの痛覚は異常なまでに痛かった。


 いや、恐らくその痛みは物理的ではない。ミコさんに再び愚行を犯し、ついに抵抗の暴力を振るわれたことに対するショックの大きさが、俺の痛覚を拡大させたのだろう。


「え〜っと……すまんにーちゃん……調子に乗り過ぎた」


 悪魔の正体であるコヨミが絡繰仕掛けの床下から顔を出す。その異端な光景を最後に、俺はショックのあまりに気を失った。

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