アルラウネ観察日記『五日目』
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◯月◇日
この五日間、凄く長く感じたのは間違いなくラウネの影響だった。コヨミ以上に手間がかかる人がいると、一日がこんなに長くなるだなんて知らなかった。
でもそれはもう今日で終わりのこと。コヨミの気まぐれで飼い始めたラウネは、夏に生き夏に死ぬ蝉の如く息絶えた。
……でも誰も涙を流さなかったのは言うまでもない話。
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〜※〜
ラウネを育て始めて五日後。ようやく俺達が待ち望んでいた時が訪れてくれた。
「ミコさんヤ……お水を一杯くれませんカ?」
「はいどうぞ。沢山飲んでくださいね」
ソファーに横たわるラウネに水を飲ませてあげるミコさん。自分で飲めよと言いたいところだが、生憎今のラウネは満足に歩くこともできない身体となっているので、それは無理な話だ。
当時はあんなにはしゃぎ回っていたというのに、今はもうすっかり衰弱し切っている。地味に逞しかった根っこが全て萎びてしまっていて、その顔は何処からどう見ても老婆そのものだ。
つまり、これはラウネが寿命を迎えようとしているということに他ならない。
「つい先日の出来事がまるで嘘かのようだな。あれだけ騒いでおきながら、終わりは呆気ないものだ」
食事用のテーブル椅子に座りながら湯呑みのお茶を啜っているリース。珍しく大人しい様子だが、最近の出来事があれだったから将軍様も流石に疲れているんだろう。
そして同じく、コヨミとヒナもテーブル越しに向かい合って座り、携帯ゲームで通信プレイをしながら話を交わしていた。
「そうじゃのぅ。散々人のことを振り回しておきながら寿命を迎えようとは……最後の最後まで面倒を掛ける奴じゃな」
「……面倒事の塊のくせに……よくそんなことが言える」
「それは違うぞヒナよ。ワシは面倒な奴ではなく、ただ単にウザいと思われている迷惑キャラじゃ」
「……自分で言ってて悲しくない?」
「いや、むしろ気持ち良い。その汚名がワシの生きる糧となる程に」
「……どういう教育の中で育ったのか……気になる」
少なくともまともな義務教育を受けてきてはいないことだけは間違いなく分かる。人のことを言えた義理じゃないけど。
……にしても、急に家内が静かになったからどうも落ち着かないな。いや、別に嫌というわけじゃないし、むしろこの何もなく平和に時が過ぎていく日常は俺が最も望んでいたものだ。
ただ、暇になったら暇になったらで何をすれば良いか分からなくなってしまう。つーか、俺って一人暮らしの頃は何してたんだっけか?
「ミコさんヤ、お昼のお飯はまだですカ?」
「ラウネさん、昼食はもう食べましたよ」
「はテ、そうでしたカ。ではミコさんヤ、光合成の時はまだですカ?」
「えーと……今日は雨なので光合成はできないんですよ。明日はお天気がまた良くなるらしいので、明日になったら日光浴しましょうね」
「そうでしたかそうでしたカ。そういえばミコさんヤ、昼食のお飯はまだですカ?」
「だからそれはさっき食べましたよ?」
認知症なのか、さっきから同じことを何度もミコさんに聞いているラウネ。苦笑いで済ませているが、ミコさんも皆と一緒で疲れていることだろう。人一倍ラウネと接していたから、一番疲労感が溜まってるのはミコさんに違いない。
昨日のおばさんよりも老婆と話をするのは気を使わなくて済むと思うものの、あの人にはマジで日頃の礼を返さなくちゃいけないな。何かプレゼントでも用意しておこう。勿論、他の異星人組も招集して。
「……愚人、さっきから右に左にと鬱陶しいぞ。何をそんなにソワソワしている」
「え、いや、別に何も……」
俺はと言うと、さっきから同じ場所を行き来して歩き続けていた。落ち着かないと分かってはいたが、リースに言われるまで俺がこうしていることに俺自身が気付いていなかった。
「まるで、もうすぐ子供が産まれることを知り、手術室の前で立ち往生する夫のようじゃのぅ。男の子か? 女の子か? それとも双子? みたいな?」
「知らんがな。それ以前に俺は誰とも契りを交わしてないし……夜伽の経験も皆無だよ……ハハッ……」
「勝手に自虐して勝手に落ち込むとは……情けないものだな童貞は」
「んだとコノヤロー、お前だってどうせ処女だろーが」
「……ど、何処にそんな証拠がある?」
「鏡見てみ、眉間によくシワを寄せる仏頂面の意地っ張り馬鹿が見えるから」
「……ダサ男が」
心を折りに掛かってくる剣が俺の心臓を突き刺した。ちゃんと解決したのに、あの温泉旅館での出来事に触れるのは止めてもらいたい。
「にしても暇だな……おい家事狐、そっちで世話をし続けていないで、こっちで何か面白い話をしろ」
「え? そう言われましても、ラウネさんを放って置くのは……」
「どうせもうすぐ尽きる命だ。放っておけば気付かないうちに枯れ切って消滅するだろう」
「……リース……性格悪い」
今のヒナの一言がリースの心に効いたのか、椅子から転げ落ちてどんよりとした空気を纏い出した。命を無下にするようなことを言うからそうなる。
「今日で最後なんですから、今日一日くらいはラウネさんのために時間を割いてあげましょうよ。じゃないと流石に可哀想ですよ」
「その通りじゃな。というわけで、ワシはちょっと野暮用があるので席を外させてもら――」
ゲーム機をテーブルに置いて立ち上がったところ、ヒナも同時に立ち上がってコヨミの手首を掴み、捻った。
「……で?」
「いだだだだ!! 分かった分かった! 今日はワシも看病するから、それで良いじゃろぅ!?」
「……なら良し」
今後はヒナにコヨミの面倒でも見てもらうようにお願いしてみようか。ヒナ自身としては不満が出る役目になりそうではあるが、何だかんだでこの二人はこの家で一緒にいることが多い気がするし、良い考えかもしれない。
ヒナの注意で懲りたコヨミは、ラウネの傍に座るミコさんの隣に座った。
「やれやれしょうがないのぅ……ラウネよ、ワシに何かして欲しいことはあるかのぅ?」
「…………」
「えーと……ラウネよ、今日はワシが何でも言う事を聞いてやるぞ? 何か要望があれば受け答えるぞぃ」
「ミコさんヤ、そこに埃が散っているのデ、掃除をして欲しいのですガ」
そう言ってラウネは、ぷるぷると震える根っこの腕でコヨミ一人を指差した。
「ついに植物にまで嫌われ体質が及んでしまったか。救い様のない奴だ」
ドMだと断言していたはずだが、今のコヨミは明らかにショックを受けているご様子。真の飼い主が職務放棄していた報いが今になってやって来たのだろう。因果応報とはまさにこのことだ。
「挽回を……ワシに名誉挽回の場を与えてください!」
「ミコさんヤ、早く埃の駆除ヲ」
「え、えーと……私はどうすれば良いんでしょうか旦那様?」
「あ〜……取り敢えず、掃除機でその埃を吸っとけば良いんじゃね?」
「だったら、ワシの“ここ”に掃除機のホースを当てる感じにしてくれんか? やったことないが、きっと掃除機の吸引力は良い刺激になると思うんじゃよ」
「そうか。丁度良いところに何故か掃除機のホース置いてあるし、思いっきりいくぞ」
「……え? 今のは怒号と共にツッコミを入れるところじゃ――」
掃除機の先端パーツを外してホース状にし、本人のお望み通り“その部分”に思い切りブッ刺した。
直後、声が出ない程の痛みが伴ったのか、阿鼻叫喚することもなく白目を剥いたまま動かなくなった。ついでに掃除機のスイッチも入れておいてやろう。
「なんというか……エグいな貴様」
「ドMにゃこれくらいやらねーと苦痛を味合わねぇんだよ。やるからには徹底的にやってやらないと可哀想だろ?」
俺は本人の望みを叶えてやっただけのこと。たとえ、ミコさんから怯えた目で見られようと、リースからドン引いている視線を向けられようと、その行為は正当化……されるわけないよね。
「ありがとうねぇ僕ちゃン」
死に際の植物にだけ良い行いとして判断され、お礼を言われてしまう。全然嬉しくない。
「……これで思い残すことはなイ」
「へ?」
すると、急にラウネの容態が変化した。ついにこの時がやってきたようで、薄っすらと開かれていた目が閉じられ、元々血色が悪かった顔色が真っ青……ではなく、土色に染まった。きっと自然に帰ろうとしているのかもしれない。
「ミコさん、これは芝生か何処かに移動した方がよい気がするんだけど」
「そうみたいですね。旦那様、お願いしても良いですか?」
「りょーかい」
庭に移動するためにラウネの身体を持ち上げる。すると、幼少期ラウネの頃より明らかに軽くなっているのが分かった。死の淵に陥ると重みもなくなってしまうらしい。無論、人間植物限定だろうけど。
リースとヒナも後に続き、靴を履いて玄関から庭に出た。芝生の上にラウネの身体をそっと置き、少し離れた場所から様子を伺う。
「これで奴との生活もようやく終わりか。ドタバタと騒がしかったが、静かになったら静かになったで少し寂しくなるのだろうな」
「リースさんにしては珍しいことを言いましたね。もしかしてリースさんは寂しがり屋なんですか?」
「ば、馬鹿を言うな、私は気高き大将軍だぞ。寂しいなどという感情が私にあってたまるか」
少々悪戯顔のミコさん相手にたじろぐリース。裏表があるんだか無いんだか分からねぇ奴だな。
「どーだったよヒナ、ペットか植物がよく分からない生き物を育ててみて」
「……それよりも……皆で何かをしたことの方が……思い出に残った」
そういや、ヒナが来てから皆で何かに取り組むってのは初めてだったか。自然に我がファミリーに溶け込んでるものだから、ヒナがいても全く違和感を感じなかったな。
「ま、こんなのは序の口だ。これから嫌でも騒ぎに巻き込まれるようなことに巡り会うから、覚悟しとけよ」
「……それは先日の化物のような?」
「あー、いや、それは……」
流石にバーサク族……いや、それ以前に他の異星人と関わり合いになりたくない。まずトラブルに巻き込まれるのがお約束になってるところがあるし、俺はもっと平穏な暮らしをしたい願望でいっぱいだ。
「……あの、旦那様」
「うん? どしたミコさん?」
「なんか……ラウネさんの状態が……」
少し顔を青くさせているミコさん。何かと思いラウネの方を見てみると、確かにラウネの姿に妙な変化が起こっていた。
くたびれた根っこがそのまま腐って土に帰ると思っていた。だがそうはならず、みるみる内にラウネの身体が庭の草を取り込んでいき、完全に人の姿を失った巨大な肉食植物と化した。
ラフレシアのような花の中心部に何本もの牙が生えた口があり、その口の中には紫色のドロドロした液体が見える。ぽたりとその液体の一雫が地に落ちると、じゅわぁと音を立てて小さな煙を発生させた。どう見ても溶解液にしか見えない。
「お、お主ら! 家の中にいないと思えば、何ということをしてしまったんじゃ!」
皆で呆然として硬直していると、尻の穴にホースを突き刺したままのコヨミがやって来た。
「どういうことだ、説明しろクソ白髪」
「良いかよく聞けお主らよ。アルラウネとは存在意識が高い生き物でのぅ。死が近付き、まさに死ぬ瞬間になった時、側に植物があればそれを取り込んでしまうという特徴があるんじゃよ。ただし、それは一度死んで生き返ることに等しいことなのか、そうして蘇ったアルラウネは完全なる人食植物のゾンビになってしまうんじゃ」
「あのさ、どうしてそういう注意事項を最初に言わないのかな?」
「簡単な話じゃ。ワシが説明してし忘れてただけじゃよ。ワシったらうっかりさん、テヘッ☆」
「……失せろ」
可愛さアピールでペロッと舌を出した瞬間、ヒナがホースの部分に思い切り横蹴りをかました。ホースは更にコヨミの尻の穴の奥へと入り、コヨミは断末魔の叫びを上げ、再び気を失った。
「どどどどーするんですか!? どんどん大きくなっていきますよ!?」
既にラウネの背丈は我が家の二階にまで届きつつある。このままだと隣の家にまで被害が及ぶ可能性がある。いや、隣どころか近所全域にまでラウネの手が回る可能性すらある。そうなったが最後、俺を含めた異星人組が徹底的に取り調べられ、異星人の存在が露見し、ジ・エンドだ。そして俺も同じく、ブタ箱に入れられてジ・エンドになるであろう。
冗談じゃない、こんなところで人生終わらせてたまるかよ!
「取り敢えず、奴がどれだけ危険なのか実験してみるか。ここに都合良く実験体もいることだしな」
そう言ってコヨミの首根っこを掴むリース。不老不死って羨ましそうで全然羨ましくない体質だと今なら思う。
リースの右腕に力が入り、小柄な元神様が投擲用の槍のように投げられる。ふわりと宙を舞うコヨミの身体は、吸い込まれるようにラウネの口へと飛んでいく。
ラウネは剥き出しにされた牙が生える口を更に大きく開き、パクリと一口でコヨミを捕食した。
それから煎餅を食べる時のような大きい音が鳴る。皮膚を貫通し、骨を噛み砕かれているのだろう。普段聞くような音なのに、今だけはかなりエグい音に聞こえる。
数秒後、唾と共にコヨミの亡骸が吐き出される。肉片は何一つ残っておらず、粉々に砕かれた骨の残骸と、綺麗に残った髑髏だけがそこにはあった。
そして止めとばかりに、ラウネが根っこを鞭のように扱い、綺麗な髑髏をも粉々に砕き割った。
「……流石に嫌われ過ぎだと思う」
「それが奴の末路だったということだ。というか、あんなことになって本当に奴は復活できるのか?」
確かに、今回のコヨミは骨以外跡形も無く消失している。これで復活できるのだとしたら、コヨミはマジ物の不老不死なんだろう。まぁ、あいつなら十中八九蘇ってくるだろう。
「そ、それよりもマズくないですか!? 食べられたが最後、不老不死じゃない私達は即死ですよ!?」
「……こうなったら……もう燃やすしかない」
と、ヒナが言う前に俺の行動の方が早かった。外にある物置に向かって即座に走り、ガラス瓶一杯のガソリンを持って来た。一リットルもあれば事足りるだろう、多分。
「おい愚人、貴様何をするつもりだ。まさか普通に投げるつもりじゃないだろうな? そんなことしても根っこで弾かれて終わりだぞ」
「常人の投擲力ならな。俺なら大丈夫大丈夫」
「何の根拠があってそんな――」
利き脚を後ろに引き、右腕を大きく振り被る。伸び切ったゴムのように、一瞬でも気を抜けば飛んでいく程に力を込める。
「はっ………しゃァァァ!!」
気合の怒号と共にガラス瓶を投げる。その速度は弾丸と同等だと言っても過言ではないだろう。
狙いはラウネの口の中。先程のコヨミの如く、吸い込まれるようにガラス瓶は飛んでいき――口内を貫通していった。
「ジーザス! 流石に力み過ぎた!」
「底が知れないな貴様は!? 何だ今のスローイングは!? プロ野球選手も置いてけぼりの肩ではないか!」
「……感心してる場合じゃない」
口内を貫通したことにより、激痛が発生したのか大きな奇声を上げるラウネ。右に左に身体が揺れ、もがき苦しんでいる様子だ。
「効いてるみたいですよ! やっと活躍できましたね旦那様!」
「そうだね! でもその言い方、棘があるように聞こえるのは気のせいかな!?」
「……それよりも今が好機……攻め立てるなら今」
「よし! ならば止めは私に任せておけ! はぁぁぁ!」
急にリースが叫び声を上げ出し、ついにこいつもおかしくなったかと思った瞬間、両手持ちにしている愛用の傘に炎が灯り、煉獄の剣と化した。
「ふっ、どうだ愚人。これが異星人としての私の能力である発火――」
「自慢はいいからとっとと行けよ。時間は限られてんだよ」
「ぐっ……わ、分かっているわ! 後で覚えておけよ貴様!」
火耐性がちゃんと備えられてあるのか、燃え滾っている傘が燃え尽きることはない。よく考えると、リースが異星人としての目立った能力を使ったのはこれが初めてかもしれない。
……ありがちな能力だ。もっと凄いのを密かに期待してたのになぁ。
「恨むなよラウネ。所詮この世は弱肉強食だ。弱い者は強い者に淘汰される、ただそれだけの話だ!」
威勢良く飛び出していくリース。ラウネの頭の高さまで跳躍し、上段の構えで傘の柄を握った。
「これで終わりだ! 豪炎斬!!」
必殺技名のようなものを叫び、炎を纏いし傘が勢い良く振り下ろされる。
……だがその前に、リースの背後から忍び寄っていた根っこがリースの腹を掴み、豪炎の傘がラウネに届くことはなかった。
「…………」
リースは事態が飲み込めていないのか、上段構えのポーズのまま目を丸くして固まっている。あれだけ威勢良くしててこの結果って……。
「……えーと」
俺と同じく、掛ける言葉が見つからないミコさん。そんな中、ヒナがポツリとこう呟いた。
「……豪炎斬(笑)」
「うわぁあああああ!!!」
失笑するヒナを横目に、リースは涙目になって顔を真っ赤にしながらじたばたと暴れ出した。傘の炎も消えてしまい、リースは完全なる咬ませ犬になってしまった。
「あぁもう! 何してんだあいつは……」
呆れつつも流石に見捨てられないので、リースに救いの手を差し伸べるべく走り出す。走り際に、丁度良く置いてあった物干し竿を手に取り、手遊びで使い勝手を確認しつつラウネの懐に飛んでいく。
「ぬぉおおお!?」
リースから狙いを俺に定めたようで、前方のあらゆる方向から根っこを伸ばしてきた。
戸惑いはするも、足は決して止めず、腰を低く落とす。そして物干し竿を扱い、俊速の太刀の如く振い舞い、根っこを全て叩き伏せた。
「は、早く助けろ愚人!」
「わりっ、頭借りんぞ豪炎斬(笑)」
「き、貴様ぁぁぁ――へぶっ!?」
リースを第一に助けようと思ったが、やっぱり止めた。ここはラウネを仕留めた方が手っ取り早い。俺としたことが見た目に臆してしまったが、この分ならこれ一本で事足りる。
駆け抜ける最中に跳躍し、根っこに拘束されるリースの頭を踏み台にして更に跳躍。それで何とかラウネの頭上を越える高さまで飛び上がることができた。
「くらえ! 火無しの豪炎斬!!(笑)」
「嫌がらせか貴様らぁぁぁ!!」
物干し竿による気合と茶化しの一発をラウネの頭部に一撃。結果、ラウネの頭の上に星屑とヒヨコが飛び交った。
「回収! そして撤収!」
根っこの拘束から解かれて落下するリースを回収し、素早くミコさん達の元に撤退。そしてラウネは先程よりも右に左にと身体を揺らし、ついに崩れ倒れてグッタリとしたまま動かなくなった。
「や、やった! 凄いです旦那様! 正直最後は何らかのミスをすると思ってたんですけど、最後まで綺麗に事を成しましたね!」
「う、うん……そうだね……」
悪意はないんだろうけど、やっぱ棘があるその言い方のせいで素直に喜べない。確かに最近は全然活躍できてなかったけどさぁ……。
「おい離せ貴様! いつまで私の身体に触れているつもりだ!」
「あーはいはい、すぐ下ろしますよ」
プンスカと怒るリースを下ろしてやると、獣を見るかのような目で見つめて来た。
「感謝してやる愚人。よくぞ私を助けた」
「すいません、感謝の気持ちより恨み嫉みが伝わってくるんですけど」
「黙れ脳筋。馬鹿力にしか能のない男が反論するな」
「やかましいわ! 考え無しに突っ込んで捕まってる奴に脳筋呼ばわりされる覚えはねーよ!」
「なんだと貴様!? 何なら今ここで決着を付けてやっても良いのだぞ!」
「決着も何も、俺とお前じゃ話にならねーっつの。ミーナと互角な時点でまだまだ成長段階だよお前は」
「ムカつく奴だ! 貴様は実にムカつく奴だ!」
「ちょっとお二人共、ようやく問題が解決したのに喧嘩しないでください!」
ミコさんが仲裁に入ってきて、稲妻混じりの睨み合いを中断される。ったく、素直に感謝してくれても良いじゃんかよ。
……まぁ、茶化した部分があったから強く言えないが。
ともあれ、こうして俺達は無事にラウネのゾンビ暴走を止めることができ、一同ほっとして胸を撫で下ろしていた。
……だが、この後に史上最悪の事態が訪れるのは間も無い話であった。




