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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
~プロローグ~
5/91

三人目は不老不死の……

 ベキッ ゴキッ パキッ ポキッ


「お゛ぉっ!?」


 ただの肉片と化していた部分の数々が不意にそのような音を鳴らし出した。


 散らばった肉片がぐにゃりぐにゃりと動き出し、少しずつだが確かに原型が止められていっている。


「お、おいリース! アレって何か分かるか!? やっぱり異星人なのか!?」


「ふむ……今はまだ何とも言えぬな。害が及ぶかもしれんし、愚人は私の後ろに隠れていろ」


 どうやらリースにも分からない者らしく、俺は吐き気を訴えながら大人しくリースの背に隠れた。一方的に女に守られるのはどうかと思うが、今回は特例なので致し方無い。


 やがて未知の生命体はグロテスクな状態から完全回復を遂げ、そこには肉片の塊ではなく、一人の少女が手を閉じ開きしながら居座っていた。


「いや~参った参った。さっきのはマジで死ぬかと思ったぞワシ。あれ程の激痛を味わったのは何年ぶりじゃろうかのぅ」


 そう言いながら彼女は呑気に笑う。いやいや、さっきのあれは笑い話で済む話じゃないんだけど普通。


 少し水色が混じったやけに長い白髪の毛。とろんとした目付きに、何処か色気を感じさせる面立ち。水色の振り袖に、ミニスカートのような短めの袴の和風スタイル。彼女の特徴を述べるとしたらこんなところだろうか。


 俺の偏見だが、異星人と言うよりは仙人と言った方がしっくりくる人に見える。それはそれでまた未知との遭遇に変わりないんだけど。


「おい貴様、一体ここに何用だ? 何の目的を持ってこの地へと赴いた? またさっきのような重症を負いたくなければ答えろ」


 敵意剥き出しのリースが傘の先を彼女に向けると、白髪仙人は腰を叩きながらゆっくりと立ち上がり、ヘラついた顔で手を上げながら答えた。


「よう、ヤングなにーちゃん。お主に『眠たくなる程の癒し』を届けにやって来たぞ。ハッハッハッ」


 やっぱりか。やっぱり三つ目の願いに反応してやってきたクチか。今だから言えるが、あの時にあんなに願いなんて言わなければよかった。いやマジでさ。


「何やら先客も来ているようじゃが、まぁ良いじゃろう。共同生活は人数が多い方がより愉快じゃろうからのぅ。静かな家より、賑やかな家の方が愛着を持てるというものじゃ」


「ふんっ、随分と調子の良い者のようだな。馴れ馴れしいにも程がある」


 調子の良さに関しては人のこと言えないだろ、という俺の本音は口に出さないでおく。ここは俺の死に場所じゃないんで。


「まずは名を名乗れ貴様。それと何処の星の出身か、何故この地へと赴いたか、本当の目的は何か、話せることは全て話してもら――」


「にしても良い家じゃのう。綺麗で良い色をしているし、何よりとても大切にされているように見える。宿主が良い証拠かのぅ?」


「うぉっ!?」


 リースの後ろに隠れて話を聞いていたと思いきや、瞬間移動でもしたのか、少し気を抜いた間に白髪仙人は俺の背後に立って笑っていた。


 リースは額に汗を滲ませて少し動揺している。将軍様もこの人の速さが見切れなかったらしい。


「き、貴様ぁ! 人の話を聞いているのか!? 勝手に世間話を始めるのではない!」


「さっきからギャーギャーとうるさい奴じゃのぅ。そんなことよりにーちゃん、悪いが何か食える物を恵んでくれるかのぅ? さっきの修復でかなり疲労して腹が空いてしまってるんじゃ」


「え? あ、そう……でも冷蔵庫空っぽだから買ってこないと何もないぞ」


「ならば共にショッピングに行こうではないか。ワシの身の内はその途中で話すとしよう」


 話が終わると、白髪仙人は俺の手を引いてこの場を去っていこうとする。


 ――が、完全放置されているリース大将軍が黙って見ているわけがなかった。


「ふっ、ふふふっ……ここまでコケにされるとは……上等だコラ」


 怒りで明らかにキャラが変わってしまい、殺気駄々漏れのリースが傘を構えて突きの姿勢を取る。


「気安く私の奴隷に触れるな白髪ぁ!!」


 怒りの咆哮と共に白髪仙人に向かって傘突きが繰り出される。


 だが、その一撃が当たる直前のところで、


「ちょい」


「ぐっ!?」


 と、白髪仙人が人差し指を軽く振った瞬間、リースの身体がピタリと静止した。まるでリースだけ時が止まったかのように。


「~~~っ!?」


「それでは行こうかにーちゃんよ。安物のミンチ肉で良いから、ワシはハンバーグが食べたいぞ」


「え、あ、ちょ、ちょっと待てって!」


 口すら開けなくなっているリースを見て呆然としている中、俺は再び白髪仙人に引き摺られていき、半ば強制的に家から連れ去られて行った。




~※~




「ん~、買い物をした後の休憩時間とは、ヤングな香りがして何か良い感じじゃのぅ。そうは思わんかにーちゃん?」


「あぁ……うん……そッスね」


 まだ何の正体も分かっていない白髪仙人と共に家を出て数時間後。近くのスーパーで買い物が終わると思っていた俺だが、そう簡単に事は済んでくれなかった。


 地球の建物が目新しくて珍しかったのか、白髪仙人はあちこちにある店の数々を見ては目を輝かせて、あちらこちらにスタコラサッサと世話しなく動き回り、その付き添いをしている内に空は既に真っ黒になっていた。


 そして今はようやく大人しくなり、公園のベンチに座って休憩している最中である。流石に動き回り過ぎて疲れたんだろう。


「いや~、にしても地球の食物は何もかもが絶品じゃったな。特にタコヤキとかいうアレ。アレは特に素晴らしかったのぅ♪」


 余程たこ焼きが気に入ったのか、その時に使った爪楊枝を口に咥えていて、プラプラと唇で上下に弄んでいる。ここに酒と珍味を合わせたら絵面が完全におっさんだな。


「……つーか、そろそろ聞いてもいいッスかね? 結局何者なんだよお前?」


「ん?……おぉ、そういえばまだ話してなかったっけか? あやや、こいつはうっかりさん」


 コツンと額に拳を当てて舌をペロリと出す白髪仙人。


 それから今一度、俺と向かい合って自分の胸に手を当てながら話を始めた。


「ワシの名はコヨミ。元神様じゃ」


「……なんて?」


「いやだから、名をコヨミと言ってな? 元々は神様をしとった」


「…………」


 ちょっと何言ってるのか分からないですこの人。異星人かと思えば、とうとう異星人の枠すら越えてきちゃったとでも?


「紙? 元紙様? 何処かで自然に優しいリサイクルでもされて、再利用によって出現したエコエコしい謎の生き物?」


「いや違う違う。その例えはワシ好みの面白感じゃが、『紙』ではなく『神』じゃ。ゴッドじゃゴッド。あくまで“元”じゃけどな」


「……ていう、自分を神と思い込んでしまった痛い人とかいうオチ? 悪いこと言わないから、ちょっと俺と精神科に世話になりに行こうか」


「じゃからマジで神じゃと言ってるじゃろ。その証拠にほれ、こういうことも自由自在じゃ」


 と言いながら、自称元神様は手を握って開いて見せると、その手には何枚かの諭吉さんが置いてあった。マジックではない、マジで無から出現した金だ。


「それと、ギャーギャー言っていたあの小娘を大人しくさせたじゃろう? あれも神通力というやつじゃ。更に言うと、あの時一回死んだワシの肉体が再生したのは、ワシが不老不死じゃからじゃ」


 確かにあの異変の数々は並大抵のものではなかった。死んだ身体が甦るわ、無双のリースを指一本で止めてしまうわ、やること全てが人智を越えてしまっていた。


 信じ難い話だが、ここまでの異質現象を見せ付けられては、元神様だと言われても納得できてしまう。


 現実味から離れたことだから全てが嘘だと思いたいが、この一日二日でそんな理屈は粉々に砕け散った。この目で見たことは何もかもが本当なんだ。良いことも、嫌なことも、摩訶不思議なこと全てが。


「……な、なんか普通にタメ口とか使ってすいませんでした。えーと……コヨミ様? それとも普通に神様と呼べば良いですかね?」


「ハッハッハッ、止めてくれにーちゃん。ワシは既に神の立場から離れた身。さっきまでのように全然馴れ馴れしい感じで構わん。変に敬語使われて気まずい空気が流れても困るからのぅ」


「あ、そう……友好的なのね貴女」


 にしても、元神様だということは、もう何年も生きているということなんだろう。つまり、こんな若くて可愛らしい外見はまやかしで、実年齢はとんでもないことになっているんだろう。


 なんだろう、なんかスゲェガッカリする。化粧によって作られた偽りの美人とかめっちゃ萎えるわ~。


「むっ、失礼な奴じゃな。ワシは見た目通りのヤングじゃよ。生まれて間もないピチピチ十七歳じゃ」


「……勝手に人の心読まないでくれませんかねぇ?」


 読心術まで使えるなんて、もう本当に全知全能じゃねーか。できないことがないのが神様というけど、それが目の前にいると思うと何だか少し怖くなってきた。


 大丈夫だよね俺? 日頃の悪い部分とか全部見られてて、どう転ぼうと地獄落ち決定みたいな? そんな感じで死後の世界を断定されてたりしないよね? いやいや考えすぎだろ、落ち着けってばよ俺。


「やっぱり面白い奴じゃのにーちゃん。ワシの目に狂いはなかったようで安心したぞ~?」


「そういやコヨミさ――コヨミはどういう経路で俺のところに来たんだ?」


 細かい都合にイチイチ突っ掛かるな、みたいなことをリースに言われそうだが、やはりこればかりは気になってしまう。


「そうじゃな――なーんて深刻そうな顔をしてみるが、ワシの理由はてんで大したことはない。強いていうならば……」


 ニヤリと憎たらしい笑みを浮かべ、顎を撫でながら彼女は言った。


「あんなトチ狂った儀式をしてまで女を欲するお主がワシの笑いのツボにハマった。それでその余興に付き合おうと思い、やって来た次第じゃ」


「トチ……狂った……あぁぁぁ……」


 ベンチに向かって何度も頭を打ち付ける。あの時の行いの記憶がぶっ飛んでしまうくらい、何度も何度も頭を打ち付ける。


 これでもうあの祈祷は俺の黒歴史確定だ。これで俺は一生癒えない傷を負ってしまったわけだ。


 マジであの時の俺はどうかしていた! 勢いに身を任せても待つのは滅びだと知っていたのに、どうして俺って奴ぁよぉ!?


「まぁまぁ落ち着けにーちゃん。お主は一生の傷を負ってしまったのかもしれないが、その前に得られたものがあるじゃろうが」


「ぐっ……た、確かにそうだけども! でもそれとこれとは話が別なんだよ!」


 今になって祈祷時の記憶が聡明に甦ってきて、悶え苦しみ続けてしまう。コヨミはそんな俺を見て宥めようとしてくるが、その顔は明らかに笑いを堪えている。


「確かにお主は人として恥ずかしいことをした。しかし、それはこれから得たもので挽回すれば良いだけの話じゃ。ほれ、家に優しい彼女が待ってるんじゃろう?」


「……ハッ!?」


 そういえば、ミコさんに何も言わずに出て行ってしまっていたことをすっかり忘れてた! 気付けばもう外は夜だし、急いで帰らないと心配してるかも――いや、あの人のことだから絶対してるはず!


「か、帰るぞコヨミ! もしこれでパニくられてたら後々大変だ!」


「それはそれで面白くなりそうじゃがな」


「お前楽しむことしか考えてねーだろ!?」


「無論じゃ!」


「開き直りやがってこの野郎っ!」


 また個性が濃い奴がやって来やがってと思いながら、ミコさんのことだけを考えつつ、急ぎ足で自宅へと戻っていった。

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