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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
四話 ~新たな家族とお隣さん~
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振り回され同士

 災難がありながらも、ようやくロッカさんの自宅へとやって来た俺達。外見は普通の一軒家だと先にも言ったが、どうやら中も地球人と大差無く平凡だった。


 ただ、それはとある部屋に招かれるまでの話だ。


「こっちですよ〜、どうぞお入りください〜」


 既に夕食はロッカさん直々に作ってくれていたようで、準備も全部済んでいるらしい。そして、その夕食を食べる食卓の間へと続く襖を潜り抜けると――


「「「「「いらっしゃいやせ!!」」」」」


 何の組会か、かなり長い長テーブルに人相の悪い悪人面の男達が並んで座っていた。無論、形相はあの阿修羅には及ばないものの、十分に悍ましい風貌をしている黒服一色の者ばかりだ。一人残らず何かしら傷のが見えるし、物騒なもんだ。


 マジでこういう人達って存在したんだな。任侠映画とかでしか見たことなかったから半信半疑だったが……うん、とても帰りたい気持ちになるね!


(……まるで怪しい取引をする場のよう)


(はははっ、冗談でもそういうことを言っちゃいけないよヒナ。皆さんが地獄耳だったらどうするんだい?)


(……これは失敬)


 ここからはマジで不用意な発言は御法度。ちょっとした暴言を吐いた瞬間、俺は袋叩きにあってジ・エンドだ。気を引き締めていかなければ。


 よりにもよって俺達の席は真ん中にあるようで、ミコさん、俺、ヒナの順で座布団の上に正座した。


 俺達が座ったところで正面の方に「よいしょっと〜」とロッカさんが座る。


「それじゃ食べましょうか〜、それでは皆さん――」


「「「「「いただきやす!!」」」」」


 息の合った動きで手の平を合わせ、気まずくて息が詰まりそうだった空気が晴れた。がやがやと騒がしくなり、皆が箸を手にしていくつもある鍋をつついていく。


(……食べて良いの?)


(え? あー、うん、ヒナは食べてて良いぞ)


(……にぃには?)


(えーと……俺はまだ良いかな。色々とお腹一杯で……)


(……分かった……いただきます)


 全く緊張していないのか、ヒナが小さな身を乗り出して食事にありつけ出した。肝が据わった奴だ。正直見習いたい。


(ミコさんも食べたらどう? お腹減ってるでしょ?)


「…………なんですか」


(あ、いえ……何でもないです……)


 ミコさんの機嫌は未だ良くなることがない。こうなったのも全部俺のせいだから何も言えないんだが。


 話し掛けたら冷たい反応で返される。しかし話し掛けずに放置していると、冷たい視線でじーっと見つめられる。俺は一体どーすれば良いのでしょうか?


「兄さん、食べねぇんですかぃ?」


「えっ!? あ、えーと……」


「あぁ、俺はヤスって言う者でさぁ」


 何をせずに大人しくしていると、すぐ隣のヤクザ――異星人に話し掛けられてしまった。あっ、でもこの人はまだ見た目が怖くない。周りがやべぇ奴らばっかで普通の異星人が見えていなかったようだ。


「その……なんか俺がここにいることが場違いに思えまして。それに緊張で飯が喉を通らないと言いますか……」


「はははっ、まぁ無理もないでさぁねぇ。俺達はどこからどう見ても危ない集団の集まりですからねぇ。緊張するのが当たり前ってもんでさぁ」


「いや別にそんなことは……」


 あるんですけどね。でもそんな本音を暴露するわけにもいかんでしょうよ。


「気遣いは無用ですぜ兄さん。別にこっちはとって食おうなんてつもりは更々ありやせんし、それに兄さん達は俺達にとって恩人ですからねぇ」


「恩人? 一体何の話ですかね? 俺は特に何もしてないと思うんですけど……?」


「いやいや何を言ってんですか兄さん。店で困っていたらしいお嬢に助け舟を出してくれたんでしょう? それに無事ここまでお嬢をエスコートしてくれたとも聞きやした。兄さんは気付かない内に俺達の命の恩人になってるんでさぁ」


「ごめんヤスさん、話が全く見えないんですけど」


 その程度の事で命の恩人て、大袈裟過ぎだろ。んなことで命の恩人なんて言われてたら、一体俺は今まで何人もの命を救って来たんだっつー話だよ。


「実はですね、俺達のオジキ……お嬢の実の親なんですが、ああ見えてかなりの親バカでしてねぇ」


 ああ見えてって、俺の目にはどう見ても親バカにしか見えなかったんですけどね。発言的にも、行動的にも。


「そのせいで、俺達は常にお嬢の護衛を任されてる身でしてねぇ。ですが、俺達が目を離してる隙にお嬢が一人買い出しに出てしまい、その罰として一人残らずオジキに半殺しにされたんでさぁ」


「え? それじゃその傷だらけな顔とか身体とかっていうのは……」


「あぁこれですかぃ? 全部オジキに付けられた傷でさぁ。加減という言葉を知らない人ですからねぇ」


 通りで傷が目新しいなぁと思ったよ! だとしたらやべぇよあの阿修羅! 普通に腕一本お無くなりになってる人とかいるんだけど!?


 親バカって何処の星も恐ろしい要素を持ち合わせているんだな。物理的に容赦なく半殺しにする阿修羅がいれば、性的に息子を容赦なく犯そうとする自称・ニ十代がいるってことか。認めたくない過酷な現実だぜ。


「だからこそ、お嬢を無事にエスコートしてくれた兄さん方には感謝してもし切れねぇんでさぁ。もしお嬢に何かがあったその時は……俺達は一人残らず亡き者になっていたことでしょうねぇ」


 なんつーハードな日常だ。ちょっとしたことで死の淵に立たされる生活って……かなり苦労してんだろうなぁ。いやもう苦労って言葉で片付けて良いのかとさえ思える。


 今の俺も苦労人ではある。お狐さんの天然振りに翻弄され、暴力将軍に八つ当たりの罵倒を浴びせ続けられ、ゴミクズにからかわれ続けるほぼ毎日。いつか過労でぶっ倒れてしまうんじゃないかと思えるくらい、日々体力が削られていく。


 だが、この人は俺の比じゃない。常日頃から死と隣り合わせの日常を今日という日まで送ってきたんだ。俺の目には勇者か何かのように見える。


「……なんていうか、ヤスさんも色々と苦労してるんですね。分かりますよその気持ちが痛い程に」


「兄さん……その目を見れば分かりやす。兄さんも同じ境遇の人だったんですねぇ」


「ヤスさん程じゃないですけど、愚痴とか溜まってるのなら聞きますよ俺?」


「そうしたいのは山々なんですがね兄さん。この家には超地獄耳を持っている厄介な鬼がいまして、下手な発言は不用意に漏らさないんでさぁ」


「それってあの阿修羅――おじさんのことですよね? それならついさっきお姉さんが一発入れて再起不能にしてましたけど」


「あぁまたですかぃ……でも再起不能にはなっていないと思いまさぁ。あの人は爆炎の中に突っ込んで行っても無傷で生還するタフさを持ってますからねぇ。ホント、どーやったらあんな化物になれるんですかねぇ……」


「生まれつきじゃないんですかね? あれは身体を鍛えるどうこうで片付く身体付きじゃないですよ」


「ふむ……もしかしたら俺達の知らない内に未確認生物でも捕食して、それで気付いたらあんなことになっていたのかもしれませんねぇ」


「あー、あり得そうですね。そんな化物によく子供ができたって話ですよね」


「全くでさぁ。一体あれの何処に魅力があるのか俺には分かりやせん」


「ですよねぇ、ですよねぇ」


「「はははははっ!!」」


 ……あれ? 不用意な発言は駄目なんじゃなかったっけ? いや乗っかった俺も俺だけど、ヤスさんの言うことが全部本当のことなんだとしたら――


「……随分親しげに話しとるやないけぇ、お前さんら」


「オ、オジキ!? いつの間に後ろに……」


「おぉぅ……なんつータイミングの悪い時に……」


 危機察知能力に関しては最も自信があるが、その俺であっても阿修羅がいつ俺達の背後に忍び寄ったのか、全く分からなかった。


 こんなバカデケェ図体なくせに、まるで忍びのような身のこなし。見た目通りの化物だこりゃぁ。


「……で、他に言いたいことはあるんかぃ?」


「い、いやいや誤解でさぁオジキ! これは兄さんと友好を深めるための軽いジョークでして! ねぇ兄さん!?」


 そこ俺に振っちゃうの? まぁ、どうせ避けられない運命なんだろうけど。


「勘弁してくださいよ〜おじさん。ほら、若かりし頃に経験した苦い思い出も、大人になれば全て笑い話になるもんでしょう? ねぇヤスさん?」


「そういうことでさぁ! お分りいただけましたかオジキ? お分かりいただけましたよねオジキ?」


「すまんのぅ、ワシぁどうも昔から冗談が通じんようで、陰口叩いていた輩は一匹残らず息の根を止めてきてんねん」


「ヒナ、ミコさん、急に具合悪くなって来たから俺帰るわ。あまりご迷惑掛けない程度の頃合いに帰って来なさいね」


 殺気だだ漏れの阿修羅を前に、自主的にレッドカードを掲げて退場を図る。


 だが、ミコさんの後ろを通り過ぎようとしたところ、ミコさんに手首を掴まれて逃走を遮られた。


「ミ、ミコさん? 俺具合が――」


「駄目じゃないですか旦那様。折角招待してくれたんですから、仮病を使うなんて失礼ですよ」


「いやだから――」


「だから……何ですか?」


「……いえ、やっぱり何でもないです」


 氷の微笑みの威力がこれ程とは思わなんだ。逆らおうにも逆らう気力が削がれてしまう。この状況に助け舟を出すどころか、泥舟を差し出してくるなんて、この人は本当にミコさんなのか?


「ギャァァァ!?」


 席に戻ろうとくるりと身を翻すと、既にヤスさんの姿は無く、部屋一帯に並んでいる襖の一つが開いていて、そこから断末魔の叫びと共に真っ赤な液体が飛び散っていた。


 だが、この場にいる連中は誰一人として気に止める者はいない。ヒナもすっかり鍋に夢中になっているし、ミコさんは――チラチラと俺を警戒しながらヒナ同様に箸で鍋をつついている。くそっ、順応してないのは俺だけか!


「ふぅ〜、少し動いたら小腹が空いてしもうたわ」


 粛清が終わったのか、開いた襖から阿修羅がのっそりと再び姿を現した。全身に返り血を浴びていて、見方を変えたら完全にホラーだ。


 すると、阿修羅の目線がこちらの方に一点集中。どうやら今度は俺がターゲットにされてしまったらしい。


 怖ぇ……怖ぇよあの目。狂人化した沙羅さん並みに怖ぇよ。圧迫面接間の社長くらいのプレッシャーも感じるし。


「さて……ワシも箸で鍋をつつきたいところだが、それはもう少しだけ先延ばしになりそうやなぁ?」


 見て見ぬ振りだ。俺は何も関係ない。俺は何もしていない。最後の最後まで知らないフリを通すんだ俺。目とか絶対合わせちゃ駄目だ。


「……ちょっとお花を摘みに行ってきます」


「何処行くんじゃおんどりゃぁぁぁ!!」


「ギャァァァ!? 助けてお姉さぁぁぁん!!」


 忍者顔負けの抜き足に敵うはずも無く、すぐに背後に回り込まれてもう駄目だと思いきや、咄嗟の叫び声にロッカさんが反応した。


 視力では追い付けない数秒単位での出来事。『お姉さん』というキーワードを言った瞬間にお姉さんの姿が視界に映った――と思いきや、すぐ背後から聞き覚えのある爆音が鳴り響き、阿修羅の気配が一瞬で消え去った。


 自分の家じゃないから良いが、またもや家の一部が大きく破損状態に。こんなのが日常茶飯事だなんて、俺にはとても耐えられないだろうなぁ。


「ハァ〜……ごめんなさいお兄さん〜。こんなにお騒がせてしまいまして〜」


「それはともかく、意外と容赦ないですよねお姉さん。一応父親なんですよねあれ?」


「私お父さん嫌いなんです〜。所構わず暴力を振るような人は私の父親とは認めたくないんです〜」


 そりゃ無理もない、俺だってそんな父親は父親と認めたくない。そう考えると、問題アリだが優しさが第一の母親がいる俺は幸せ者なのかもしれない。


「お兄さんはゆっくりしていてください〜。私は今一度この地球に来た目的をあの人に話して来ますので〜」


「は、はぁ……」


 地球に来た目的……そりゃまた気になるな。それが物騒な目的なんだとしたら、俺はこの一家と一戦交えるために色々と“勘”を取り戻さないといけなくなるし。


 元々気を引き締めてやって来たつもりだったけど、また違う意味で警戒しなくちゃいけなくなったかもしれない。


「ヒナ、そろそろ食べ終わったか?」


 お姉さんが襖の奥に姿を消すのを見送ったところで、身体の向きをヒナ達に向ける。


「Zzzzz……」


「えぇぇ……」


 満足するまで食べ尽くしたのか、ヒナは小山のように腹を膨らませて3の目になって熟睡していた。鼻提灯まで膨らませていて、全体的に昭和の香りを漂わせている。


 そんな義妹をミコさんがひょいっと持ち上げると、俺に向けて冷たさのないニッコリとした笑みを浮かべてきた。


「ヒナちゃんが眠ってしまったので、私達はそろそろ帰りますね。旦那様はゆっっっくりして来てください」


「え? ちょ、ちょっとミコさん!? だったら俺も――」


「待ってくださいお兄さん〜。用事がないならもう少しゆっくりしていってください〜」


「早っ!? 喋り方はゆっくりなのに行動は早いな貴女!?」


 俺一人だけお姉さんに掴まれて引き止められてしまい、ミコさんはぺこりとお辞儀をしてから去っていく。無論、その際に冷めた視線を送られたのは言うまでもない。


 こうして、俺は戦場に一人置き去りにされてしまった。何故なんだミコさん? そんなに俺が下心を出したことが許せないのか? 手厳しい人だぜ……何度も言うが、悪いの俺なんだけどね。

貯めに貯めた話数のストックが徐々にゼロへと近付いて来ているこの頃……三日に一度更新でも追い付けない時が近付いて来ているのですが、どうかお許しくださることを願い申し上げます……。

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