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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
三話 ~幸運を呼ぶ不幸者~
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苦労とストレスと馬鹿と頑固者

「何処に行ったんだあいつら? あれだけ騒いでりゃすぐに見つかると思ったのに」


 旅館内を歩き続けて大体二十分経っただろうか? 部屋を出てったきり、誰一人の姿も見当たらない。もしかしてもう部屋に戻ってたりするんだろうか?


 にしても、こんな場所に来てまで騒動を起こすなんて……後で全員にキツいお灸を据える必要がありそうだな。


 いや、コヨミだけはそれだけじゃ甘いな。あいつは二度と悪巧みできないように“教育”する必要がある。俺だけじゃ心許ないので、リースにも手伝ってもらおうか。そうだ、そうしよう。


 ならさっさとあのバカ面を捜し出さねぇとな。お客様の立場と言えど、マナーを守れないお客様はただの営業妨害者だ。


「ゼェ……ゼェ……も、もう無理です……今日は走ってばかりで体力が……」


 あっ、ミコさん発見。余程疲れてるのか、汗だくになって今にも倒れてしまいそうな様子だ。


「何してんだよ全く……コラッ、ミコさん」


「あいたっ」


“ぽこん”と頭に拳骨をする。ミコさんは多少涙目になると、ようやく俺の存在に気付いてくれた。


「だ、旦那様でしたか」


「旦那様でしたか、じゃないっての。他のお客さんもいるんだから走り回っちゃ駄目でしょーが。もしぶつかって怪我させたりしたら事だろ?」


「うっ……ご、ごめんなさい……つい場の空気に当てられてしまって」


「いやまぁ、その気持ちは痛い程分かるけどさ。それでも他所で騒ぎ立てるのは駄目だ」


「は、はい。今後は我を忘れないように気を付けます」


 そう言って素直に頭を下げるミコさん。他の二人もこうだったらどんなに助かることか……。


「それよかミコさん、まだ温泉に入ってないだろ? コヨミとリースは俺が取り押さえておくから、後はもうゆっくりしてきて良いよ」


「本当ですか? 身体中が汚れてるので早く温泉に入りたかったんですよね実は」


「あぁうん……なんか……色々と申し訳ないッス……あの時にコヨミと一緒に置き去りにしたことも含めて……」


「アハハッ……私も意地になってしまってごめんなさい。それじゃ、これでまた仲直りですね!」


「そ、そうだね……ホントにそう……」


 あぁミコさん……俺は君のその純粋無垢な笑顔を見るだけで救われてるような気がするよ……。


 滅茶苦茶抱き締めたいけど、そんなことしたらセクハラカウンターのビンタを受ける未来は見え見え。邪な煩悩は抑えないとな。


「それじゃ後のことはお任せしますね旦那様。私は温泉でゆっくりしてきます」


「あいよ〜、また後でな〜」


 笑顔で手を振ってくるミコさんを見送り、癒しの天使様は温泉へと消えた。


 さてと……残りは馬鹿二人だな。とっとと始末しねぇと。


「もらったぁ!!」


「うぉっ!?」


 急に背後からそんな掛け声が聞こえてきたと思いきや、浴衣姿の裏リースが傘を手に襲い掛かってきた。反射神経でどうにか避けられたが。


「チッ、仕留め損なったか」


「……おい」


「ふんっ、無駄に運動能力が高い奴め。大人しく潰れれば良かったもののぉっ!?」


“ガツン”と頭に拳骨をする。急に現れたと思いきや奇襲を仕掛けてくるなんて、良い度胸してやがる。


「出会い頭に拳骨とは、一体どんな挨拶の仕方を学んでるのだ貴様!」


「出会い頭に脳天叩き潰しに来たお前が言えた台詞か! 何のつもりだお前!」


「ふんっ、特に意味はない。あの糞白髪に逃げられっぱなしで苛立ってるのも全く関係ない」


「八つ当たりだったのかよ! 最低かお前!」


 出会った時からコヨミを気に食わないと思っているからなこいつ。こんな機会は滅多いないと踏んで行動したものの、またもや弄ばれてストレスが溜まってんだろう。


 ま、俺にゃ関係ない話だからどうでもいい。


「お前って食事のマナーはちゃんとしてるのに、その他はからっきし常識知らずなのな。真面目なのかそうでないのかハッキリしろよ」


「そんなこと知ったことか。今はあのゴミクズを滅せられればそれで良い」


「見境なしですかそうですか。ならこれ以上周りに迷惑を掛ける前に俺がお前を滅せないといけなくなるが、それで良いんだな?」


「ぐっ……なら私はどうしたら良いのだ!? ずっと奴に弄ばれていれば良いと言うのか貴様は!? 鬼か!」


 半端泣きべそをかきながら傘を投げ渡してきた。ストレス溜まってんなぁ……。


「俺は他所であるここで暴れるなと言ってるだけだっつの。追いかけっこなら家でしろ家で」


「あ〜もう! どいつもこいつも何なのさ! 皆して私を馬鹿にしてぇぇぇ……」


「別に馬鹿にはされてないだろ。おちょくられてるだけで」


「大して変わんないよ! もういい! 部屋に戻って寝る!」


「そうしなさい。イライラする時は寝るに限るってな」


 そうしてリースは俺に傘を渡したまま部屋に戻っていった。戻った頃に熟睡してくれれば良いんだが。起きてたらグチグチ小言を言われるだろうからな。


 さて、残るは重い罰を受けてもらわなくちゃならない元白髪神。あいつだけは必ず捜し出して俺の手で始末してやる。


 とは言えアテがない。神出鬼没な奴だし、他所だにしない登場の仕方もあり得る。一応警戒だけはしておくか。


「……見つけた」


 ん? この声は……


「おぉ、やっぱりヒナか。女将さんとの話……は……」


「……とりあえず“これ”返す」


 突如現れたヒナ。血に塗れた浴衣を着て、謎の物体を俺の前に投げ捨てた。


「……何コレ」


「……ゴミクズ」


「待ってくれヒナ。いや分かるよ? 確かにコレはゴミクズだよ? でも同時に意志ある生き物でもあるんだよね?……一応」


 何があったのかは絶対に聞かないでおこう。その真相を聞いてしまったが最後、俺のヒナのイメージが跡形もなく崩壊してしまうだろうから。


 とりあえずコヨミ――だったものを揺さぶってみる。触れる際に血がべっとりと手に付いて鳥肌が立ったが、気にしてる場合じゃない。


「おい! 目を覚ませコヨミだったもの! 何があったのかは言わなくていいから、誰かに見られて誤解を生む前に再生しろ!」


 すると、コヨミだったものが生々しくグロい音を鳴らし始め、ありとあらゆる部分がバキボキと蘇生されていく。


 やがて、コヨミだったものは、どうにかコヨミ本人に戻った。ただ、身体の血と“トラウマ”は処理できてはいなかった。


「あ、悪魔じゃぁ……地球にも悪魔が存在したんじゃぁ……死にとぅない! ワシはまだ死にとぅなぃぃ!!」


 あのコヨミがこんなに取り乱しているだなんて、マジで何をされ――駄目だ駄目だ気にするな! 知っちゃ駄目なことなんだ!


「……これで暫くはマナーを守るようになると思う」


「ヒナさんや。その心遣いは有難いけど、限度って言葉を今度調べておいでなさいね?」


「……善処する……と……そんなことよりも用がある」


 用? ま、まさか俺もコヨミの二の舞になるというのか? 確かにヒナには出過ぎた真似をしたかもしれないし……。


 やべぇ、俺の寿命、今日までの命かも。


「は、早まるなヒナ! 確かに余計なことをした俺かもしれないが、その華奢な手を血に染めるのは頂けないですよ!?」


「……まずは落ち着いてほしい……恩人に対して仇を返すようなことはしない……」


「……と、相手を冷静にしてからの思わぬ奇襲を!? い、嫌だ! 俺はまだ死にたくない!」


「ていっ」


「あふっ……」


 ぽすんと頭の上にチョップされた。脳天をかち割るような一撃ではない、綿に触れたような心地良い感触を感じた。


「……YOUは冷静……OK?」


「お、オーケーオーケー……」


「……オーライ」


 グッと親指を立てるヒナ。何故に欧米風? なんかノリノリだなおい。


「……まずは結果報告……貴方のお蔭でねぇね――翠華姉さんと和解できた……ありがとう」


 そっか、無事に解決したんだな。良かったな翠華さん、ようやく話し合うことができて。


「別に俺は大したことはしてないよ。最後はヒナ自身で決めたことなんだし」


「……謙虚になるとことはない……貴方がいなかったら私はずっとあのままだった……お礼くらいは言わせてほしい」


「そっか。じゃ、どういたしまして」


 本当に律儀な娘――というか出来た娘だな。今更なことだけど、精神年齢だったら俺より上かもしれん。


「……それともう一つ……お願いしたいことが……ダメなら別に――」


「今更遠慮しなくていいっての。出来ることなら何でも頼まれるぞ俺は」


「……やっぱりお人好し……ありがとう」


 ぼそっと呟いたと思いきや、ヒナが薄っすらと笑った。


 ……え? 今笑ったのか? これまでずっと無表情だったから、急にそんなもの見せられてしまうと……


「キュンってなっちゃうじゃないか!」


「……?」


「ハッ!?」


 いかんいかん、思わず高ぶった感情が外に出てしまった。平常心平常心っと。


「で、どーした?」


「……翠華姉さんと話し合って決めた……私はここから出て行く……だから……ケジメを付けなくちゃいけない」


「あぁ……そういうこと」


 確かに、ここから出て行く以上、声を掛けていかなければならない人がいるだろう。ヒナを拾った張本人であるこの温泉旅館の当主、須藤に。


 ただ、須藤はヒナを儲けの道具として今までずっと利用していたようなクソ野郎だ。その儲け道具が出て行くなんて言えば、何らかの行動を起こす可能性は大きい。


 察しはついた。つまりはこういうことだ。


「あれだな? 一人じゃ不安だから付いて来てほしいってことだろ?」


「……勘が鋭い」


 一瞬パッチリと目を見開いて驚くヒナ。別に気付いて普通だと思うんだが……鋭いのか俺?


「そういや女将さんはどーしたんだ? 姿が見えないけど」


「……翠華姉さんは置いてきた……これから迷惑を沢山掛けることになるから……これだけは手を煩わせたくない……差し出がましいとは思うけど……他に頼れるのは貴方しかいないから」


「だから遠慮はしなくていいって言ったろ? ま、分かったよ。及ばずながら、付添人を務めさせてもらうわ」


「……お願いします」


 ヒナはぺこりと頭を下げると、早歩きでそそくさと廊下の奥へと進んでいく。


「……え? もしかして今から行くつもり?」


「……(こくり)」


「あ、そうなの……でも明日にした方がいいんじゃないか? 出て行くにしたって外は真っ暗なんだし、無理に急かさなくてもいいだろ」


「……貴方は『膳は急げ』より『急がば回れ』の人?」


「はぃ? ま、まぁそれは状況によるけど、今は後者の方を取るかな?」


「……分かった……なら今日は別のことをすることにする」


「別のこと?」


 そう言うと否や、くるりと身を翻して俺の手を握り、部屋がある方へと引き返そうとする。無論、未だに怯えているコヨミを取り残して。


「え? 何々? 俺にまだ何か用があるのか?」


「……ご奉仕」


「はぃ?」


「……貴方にはお世話になった……だからご奉仕させてほしい」


「ご、ご奉仕って……」


 つ、つまりあれか? 接待という名目で頼んだことを何でもしてくれる的なやつ? おいおい、聞こえだけだと危ない意味に捉えられんじゃねーか。


 ……いや何言ってんの俺? これじゃ俺が変態みたいだろーが。いや事実変態なのかもしれないけど、幼女にまで手を出したら変態以前に人として終わってる。


 そもそも、俺は恩返しされるようなことをしたつもりはないし、見返りを求めてヒナの背中を押したわけじゃない。これは俺が好きでやったことなのだから。


「い、いや良いよ。それよりもコヨミを正常に戻さなきゃならねーしさ」


「安心せいにーちゃん。自己満足の一人演技だったらもう完結したぞ」


「うぉっ!? 急に会話に入ってくんじゃねぇよ! つーか演技だったんかいっ!」


“バキッ”と頭に拳骨する。やべっ、力の加減具合間違えて頭蓋やっちまった。


「……なんかワシの扱いが次第に酷くなってきてるのは気のせいかのぅ?」


「……自業自得……ゴミクズだし」


「なぁヒナさん、なんかコヨミに恨みでもあるんですかね?」


 今更なことだが、ヒナは明らさまにコヨミに対してだけ態度がキツい。さっきの半殺しの件からして、余程嫌っているに違いない。何でかは知らんが。


「……それよりも……早く部屋に行く……ご奉仕は待ってはくれない」


「いや待つから。それ以前にご奉仕はいいから。その気持ちだけで俺は十分満たされてるって」


「なら全部放出してしまえば良いのではないか? 満たされたものを放出するほど、気持ち良いと聞くからのぅ……ぐふふっ」


 何の話なのかは聞かないでおこう。こういう笑い方をするこいつは、しょうもないことしか考えていないから。


「なんならワシが日頃の感謝を込めてご奉仕してやろうかにーちゃん? 頼まれれば“なんでも”やるぞワシは」


「いや結構です。何されるか分かったものじゃないんで」


「おいおいにーちゃん、そこは『ほぅ……なんでも、だな?』と反応するところじゃろぅて」


「お前が何でもしてくれること自体が需要ねーだろ。だったら迷わず俺はヒナを選ぶわ」


「……許可は得た……行く」


「え? いや違う違う! 今のは例えばの話であって、頼んだ覚えも許可を出した記憶もないから!」


 なるほど、確かにこれは頑固者だ。我が儘というわけではない、ただ自分の気持ちに真っ直ぐ過ぎるだけと見た。


 まぁ、別にこっちは意地張ってまで断るようなことじゃないし、ここはご好意に甘えるべきなんだろうか? でもご奉仕を意味深に考えてしまった罪悪感があってなぁ……。






「――こんなところにいたんだねヒナ。随分探したよ」


「……っ!?」


 それは思い掛け無い人物との遭遇。それもグダグダで空気がフワフワになっているこの空気を打ち消すかのように、その男は分かりやすい作り笑いを浮かべていた。

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