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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
三話 ~幸運を呼ぶ不幸者~
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蘇りしトラウマ遊び

「ただいま戻りました〜! あっ、やっぱり先に辿り着いていたんですね旦那……様?」


「ヌフフフフ……またワシの勝ちじゃな。ほら脱げにーちゃんよぉ」


「納得できねぇ! 絶対心の中覗いてんだろお前!」


 この俺が5回連続敗退だなんて馬鹿げてる。前にミーナとやった時も全戦全敗だったが、アレは少し調子が悪かっただけの話。今日は至って正常だ。


 それなのに、あっち向いてホイでこんな失態を再び晒すことになるなんて……。認めなくちゃいけないのか? 俺にも駄目な成分が含まれているんだと知らなくちゃいけないのか?


 (ミーナ)相手ならまだしも、コヨミとの勝負で負けを認めろと? い、嫌だ! それだけは俺のプライドが許せねぇ!


「これでにーちゃんはトランクス一枚……さて、どーする? 最後のガーディアンを賭けて勝負に挑むか? うぅん?」


「無論だこの野郎! お前にだけは絶対負けたくねぇからな!」


「ねぇ師匠、悪いこと言わないから潔く身を引いた方が良いと思うんだけど。もう結果見えちゃってるからさ」


「あいや黙れぃ敗北者が! 俺はお前のような負け犬将軍と違うんだよ! ここぞというところで勝利を収めるのが男っつー生き物なんだよオラァ!」


 リースは最初に勝負を挑んで呆気なく敗退済み。目線の動きで振り向く方向が丸分かりだから、勝負にならない勝負のままコヨミに弄ばれていた。


 だが俺は違う。俺にそんなクセはないし、相手に思考を読ませないようにポーカーフェイスで挑んでいる。なのに全敗しているこの状況は、コヨミに何らかの弱点を突かれているとしか思えない。


 コヨミが心を読んでことないくらい分かってる。何故なら、この勝負を行う前に携帯ゲームのガチャ運で使い切らせたから。つまり、こいつは不正を行うことなく俺に全勝しているわけだ。


 無駄に頭がキレやがるのが凄ぇ腹立つ。もう負けねぇ、いやもうマジで勝ちに行くぞホントに。


「あの〜、リースさん? これは一体どういう状況なんですか?」


「あ〜、コヨミが考えたことなんだけどさ。あっち向いてホイで負けた方が一枚一枚脱いでいくっていうゲームやろうって言い出して、私はそのゲームの最初の犠牲者になったわけ」


「だから布団を被ってるんですね。ということは、旦那様もコヨミさんに……?」


「そーゆーこと。上手いこと煽られて師匠も意地になっちゃって。まぁ、相手がコヨミだから仕方無いことなのかもね」


「なんていうか……トラウマを掘り返されたような気分になってます私……」


「そーいや似たようなことが前にもあったよね。何ならミコも参加して脱いでくれば?」


「嫌ですよ! 私に露出狂の素質なんてありませんから! それ以前に旦那様の前でそんな醜態を晒せるわけないじゃないですか!」


 絶対勝――ミコさんが参加? そ、それは前のようなことをまた期待しても良いというこ――


「よよいのよい!」


「え!? あっ!? よいっ!!」



 俺 (グー)

 コヨミ(パー)



「ふっ……」


「し、しまった!?」


 邪念が! 俺の下心じゃねんが勝負を妨害しやがった!


「ま、待ったコヨミ! 今のは無し――」


「勝負に待ったは無し。にーちゃんが勝負の事前に言っていたことじゃろぅ? ワシはちゃんと覚えとるぞ」


「うぐっ!?」


 少し前の自分をタイムリープしてぶん殴ってやりたい。あんな簡単に挑発に乗った俺が悪いんだけどね!


「あーあ、だから言ったのに。自業自得だよ師匠」


「わーってるよ! 自分が悪いなんてことくらい理解してるよ! ていうかしてたよ! 既に後悔を抱えてたよ!」


「情けないなぁ。なんか今日の師匠は異様に格好悪い気がするよ。さっきの無知な宣言といい、もう少し考えて行動した方がいいと思うけど?」


「止めて! これ以上俺にムチを浴びせないで!」


 それも分かってんだよ! 今日の俺はここぞという時に決められないんだって、何でか知らんが自覚あるんだよ! 誰でも良いから俺を慰めて! お願い!


「ムフフ、にーちゃんの負けじゃのぅ。ではでは、負けの印に脱いでもらおうか?」


「ちょ、ちょっと待てコヨミ! 勝負は俺の負けでもう終わりだろ!」


「何を可笑しなことを言っとるんじゃ? 負けは負けなんじゃからルールに従って脱ぐのは当然の決まり。にーちゃんも分かってて勝負を挑んできてたんじゃろぅ? 責任はちゃんととって貰わないとのぅ」


「や、でもやっぱ全裸は色々と問題があるというか……」


「リース将軍はちゃんと全裸になっとるじゃろぅが。にーちゃんだけ特別扱い、なんて甘いことは駄目じゃろぅて」


「そうだよ師匠、ルールなんだから従わないと。そういうのは見苦しいぞ~?」


「お、落ち着けってお前ら。これはお前らのためにも言ってることなんだって。男の全裸なんて見ても気持ち悪いだけだろ。一体誰得だっつー話じゃね? ね? ね?」


「「そういうのいいから早く脱ごうか」」


 取りつく島もない! どうして俺の周りにはロクな奴しか集まらないんだ!


「た、助けてミコさん! ミコさんからも何か弁解してくれ!」


「…………(ぷいっ)」


 何も言ってくれないのが一番辛いことを知っているというのか!? あれか!? 暴走コヨミの元に置き去りにしたことが災いしたのか!? だったら納得するを得ないじゃないか!


「ほら早よ脱がんかにーちゃん。何ならワシが脱がしてやるぞ? てゆーか脱がさせてください」


「こらこらコヨミ様。そこは審判を勤めていた私に権利があるのですよ? 言うなれば、今の師匠の身体は私が手中に持っていると言っても良い」


「ふっ、何を世迷い言を。にーちゃんの身体は最初からワシのものに決まっとるじゃろぅ」


「根拠のない言葉ですね~。私は師匠の初めて(家を壊した意味で)を奪ってるんですよ~? つまり、師匠に出逢った時から師匠の身体は既に私の所有物ということなのですよ~」


 何なのこいつら? なんでこんなくだらない意地の張り合いで盛り上がれるの? つーか俺の身体は俺のものだっつの。最初に家壊したのはミコさんだし。


「てゆーか早よ脱げやにーちゃん。こうなりゃ実力行使じゃぞ」


「なら早い者勝ちということで、私は全力で師匠のチ――じゃなくて、トランクスを剥ぎに行くよ」


 異様な目付きでじりじりと近付いてくる変態が二人。やべぇ、今この場に俺の味方は誰一人としていやしない!


「にーちゃんの裸体ハァハァ……にーちゃんの○○○ハァハァ……」


「逃げられないよ師匠~? さぁ、ありのままの自分をここで曝け出そうか? 本当の自分になっちゃおうか?」


「よ、寄るなぁ変態共! 身の程を弁えろクズ共!」


 誰か! 誰か助けて! この際、沙羅さんでも良いから! 真の変態が助っ人でも良いから誰か助けてっ!




~※~




「ハッ!?」


「ん? どったのお母さん?」


「今ヤーちゃんが私に助けを求めたような気が……」


「とうとう幻聴すら聞き取るようになってしまったか……。今度は皆で何処かに行く計画立てるから、元気だしなってお母さん」


「うぅ……こうなったのも全てあの娘達が悪いんです! 前は色々あって許してしまいましたが、今はまた許していませんからね! 息子(ヤーちゃん)は永遠に私のモノなんです!」


「ハハハッ……愛が狂気染み出してるなぁ……」




~※~




「…………」


 終わった。何もかもが今ここで終わりを告げた。もうお嫁にもお婿にもいける自信がなくなった。


「あー満足した……何本か骨がイッて骨格がどエライことになってしまってるがのぅ」


「どーしたらそんな目に合うんだか。血液の損傷一リットルの私の方が全然マシだね」


「どっちもどっちだと思うんですけど……それ以前に最低ですよお二人共……」


「とか何とか言っちゃって、ミコもバッチリ見てたじゃん。一人だけ偽善者になろうだなんて、見かけに寄らず腹黒い女狐だよねミコって」


「い、いや、私は、その……見えちゃったと言いますか、見て見ぬフリが出来なかったと言いますか……」


「結局どいつもこいつも同じだろーがぁ!!」


「ひゃぁぁ!? すいませんすいません旦那様!」


『すいません』『ごめんなさい』『申し訳ありません』と御託を並べられてもこの気持ちは収まらない。どいつもこいつも今日の記憶が失われるくらい袋叩きにしてやりたい。


さかるなさかるな、罰ゲームなんじゃから仕方なかろぅて。身を賭けて負けたにーちゃんが悪い」


「そーだそーだ、責任転嫁とか格好悪いぞ〜」


「てめーら……俺も人の子なんだから我慢の限度があんだからな?」


 ピシャッ


「また暴力ですか。気に食わないことがあれば何でもかんでも鉄拳制裁ですか。DV夫の鏡のような人だね〜、ヒューヒュー♪」


 あぁもう嫌だ……いつになったら俺は安らぎを手にすることができるのか? もしかして永遠に手に入らない気すらしてきた。


 俺がお前らに何をした? 何か恨まれるようなことを一度でもしたか?


「……粗茶です」


「あっ、ありがとうございます」


 ここまでくると苛め扱いされてるように思えてくる。気に食わないことかあればリースに当たられるし、退屈を凌ぐ理由でコヨミにあれやこれやされるし、そんなに俺って弄りやすいの? 今までそんなことは一度も……無いことも無いな。


「へっ……もういいよ。お前らの気が済むまで好き勝手すりゃいいさ。抵抗したところで無駄だってことがよく分かったよ。いいよもう……いいよ……」


「怒ったと思いきや、今度はやさぐれてしまったのぅ。全裸を見られたことくらい気にすることでもあるまいに」


「いや普通は気にしますからね? 時と場合によっては一生消えないトラウマを刻まれることに繋がりますからね?――あっ、このお茶美味しいですね」


「その言い分だと、ミコは人前で全裸になることがトラウマだってこと? それじゃ温泉に来てる意味ないじゃん。繊細な乙女だねぇ、ラッキースケベ担当者なのに」


「誰がラッキースケベ担当者ですか! そういうわけじゃなくてですね!? お二人に身包みぐるみを剥がされることがトラウマになってるんですよお陰様で!」


 俺が精神的K.Oしたから、今度はミコさんにターゲットが移ってしまったか。すまんミコさん、もう俺じゃこいつらは止められない……。


「まぁまぁ、そういう出来事が後の良き思い出になるんじゃよ。あの時に垣間見たミコのおっぱいをワシは一生忘れないぞ」


「……どれくらいの大きさだったか具体的に」


「そうじゃのぅ……少なくともD――いや、Eはあったかのぅ。実に揉み心地が良さそうなおっぱいじゃった」


「そう言ってるけど、コヨミも結構大きい方だよね。背は圧倒的にチビなのに」


「そういえばそうですね……それってつまり、直に確認してサイズを計った方が良いということですね?」


「……あれ? もしかして話題選びにしくじったワシ?」


 空気の流れが明らかに変わった。何処と無くミコさんの声のトーンが低くなったような気がする。


「今まで散々皆さんのことを弄んできたんですから、たまにはコヨミさんが受けに回った方が良いと思うんですよねぇ……」


「そういやさっきの温泉での件、追い剥ぎじゃんけんでうやむやにされてたの今思い出した。ミコの言う通り、たまにはコヨミが酷い目に合わないとねぇ……」


「ま、まぁ待てお主ら。ワシはドMじゃから、酷い仕打ちなんてむしろご褒美じゃぞ? そんな意味のないことをしても時間を無駄にするわけで――」


「何となく分かるんだよね私。コヨミがMになるのは“痛み”に対してだけだってことが」


「な、何が言いたいんじゃリース将軍?」


「コヨミって……実はセクハラ“される”のは駄目なタイプでしょ?」


「っっ……」


 図星を突かれたようで、肩を跳ねさせて動揺し出した。中途半端なドMだなおい。


「今の反応の仕方が確信を得ることができましたね。それでは覚悟してくださいコヨミさん」


「え、いや、ちょ……」


「日頃の恨みを利子つけて返すチャンスが今やってくるなんてね――皮まで引ん剥いて百均に売ってるような安物の鞄にしてやろう糞白髪」


「待っ――あっ! あんなところにマックロクロスケが!」


「「え?」」


 なんて古典的な騙し方だ……そしてそれに引っ掛かる二人も含めて皆アホか。


「馬鹿者共め! さらば皆の衆! フハハハハッ!」


「し、しまった! 安い罠に引っ掛かってしまうなんて!」


「追うぞ家事狐! 今日が奴の正念場だ!」


「……いってらっしゃい」


 お騒がわせなトラブルメーカーが尻尾巻いて逃げて行くと、目を三角にさせた二人も慌てて部屋から出ていった。どこまで元気なんだあいつらは……。


 何はともあれ、これでようやく一人になることができた。さてと、そろそろヒナの救出策を考えないとな。ギャクパートはここら辺でもう良いだろ。


「……とは言え、良い考えが何も思い付かねぇんだよなぁ。とりあえず本人と何かしら話でもしてみるか? そしたら巧妙の策が奇跡的に思い浮かぶかもしれないし」


「…………」


「でも女将さんが言うには頑固な子らしいからなぁ……。どうやって説得したもんか? いや、納得させずに強行策に出るのもありだと考えてはいたけど……やっぱ嫌われるのは人として辛いしなぁ」


「………………」


「ま、まぁ、そういう仕打ちを受ける覚悟があるから言い出したことだったな……。堂々と自分で宣言したんだし、これ以上リースに馬鹿にされないためにも、ヒナは俺がどうにかしないとな!」


「……どうって……何?」


「そりゃ勿論、あの人でなしの魔の手から救い出す……ため……に……」


「……そういうこと」


 え? あれ? おかしいな? 俺しかいなかったはずなのに、目の前にヒナの姿が見えるような? てゆーか居る? 居るよねコレ?


「……い、いつからいたんだヒナ?」


「……貴方がDV夫呼ばわりされてた辺りから」


「……マジ?」


「……マジ」


 となると、結構前からヒナはこの部屋に来ていたということになる。それはつまり、今までの俺の独り言を聞かれていたというわけで――


「……先に言っておく……貴方には感謝してるけど……余計な心遣いはしなくていい」


 そう言いながら俺に向けてくる視線は、明らかに敵意を表していた。

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