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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
二話 ~疑心暗鬼とシスターさん~
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過保護な親と短気な将軍

「元気にしてましたか? ちゃんと毎日三食食べていましたか? 身体は大丈夫ですか? 不健康は生活に支障を来すから気を付けないと駄目ですよ? それと夜更かしもいけませんよ? もし悶々として寂しいなら私がいくらでも相手して差し上げますからね? あっ、もし仮に盗人のような野蛮人が家の中に侵入してきたような事態があっても連絡してくださいね? 優秀なヒットマンを護衛につけて常時安全な日々にしてあげますから。それから――」


 さて問題です。今この人は何回『?』を使ったでしょうか。答えは勝手に数えて自己満足に浸ってくれ。


 あれから一体何時間経過したんだろうか。気を失って気が付けば家の中の一室に隔離されていて、俺の看病でずっと待機していた沙羅さんがいた。そして俺が目を覚ました瞬間からこれだ。飽きもせずに永遠と一方的な会話を持ち掛けてきている。


 どうして女の人ってこうも話のネタを持っているんだろうか。弾丸の在庫の底が見えないような用意周到さに感心してしまう。


「そういえばあの女の子達は一体どちら様なんですか? も、もしかして皆さんヤーちゃんの女の子なんですか!? いけませんよヤーちゃん! 多数の女の子を侍らせるなんて所業はタラシさんの方々が行う愚行です! ヤーちゃんはミーちゃんと私がいれば事足りてるんです! 一夫多妻なんて言語道断です!」


「あ~……とりま落ち着いて沙羅さ――」


「沙羅さんじゃありません! ママと呼んでください! もしくはお母たま、ハニーでも可です!」


「頼むから勘弁してくれ……」


 只でさえ自分家じゃ異星人共に振り回されてるのに、実家でも振り回されてちゃマジで安らげる場所がなくなってしまう。お願いだから今だけ俺に休息を与えてくれ。


 俺の疲れを察してくれたのか、沙羅さんは一旦身を引いて大人しく椅子に座ってくれた。今から突拍子もない話をするんだし、落ち着いてもらっていないと困る。


「それで、あの女の子達は誰なんですか?」


「あ~、その前に聞いておくけどさ。今から俺は信じられないような話をするけど、沙羅さんは――」


「お母さんは息子娘の言うことを疑わない生き物です」


「なら結構だけど、せめて人の話を最後まで聞く努力してくれなーい?」


 話が早く進むことに文句はないんだが、こう何度も心を読まれるような発言をされると……ちょっと怖い。どっかの馬鹿じゃあるまいし、せめてこの人は人の道理から外れないように生きてほしい。


「えーとね……一から説明すると――」


「なるほど。つまり私達の手が届かない遥か宇宙の彼方から三人の女の子が降ってきて、優しく面倒見の良いヤーちゃんが居候させてあげているということですね?」


「ねぇ人の話聞いてる? 俺何も話してないよね? せめて回想くらいは入らせて?」


 それから俺は今までの出来事を――


「そして今日ここに来た要件は食費を貰いに来たためですか。確かに、私は一人分だけ送ってくれれば良いとヤーちゃんに言われてましたから、今のままだと家計は火の車状態になってしまうわけですね。分かります分かります」


「問答無用なの? もしかして貴女も神様設定持ってたりするの? じゃないと何もかも信じられなくなってしまいそうな僕がいるよ?」


「私は息子と娘の考えていることは、目を見れば全て知ることが出切るんです。理屈ではなく、愛ゆえに行える妙技です」


 駄目だもう手遅れだった! 既にこの人は人工神通力を使えるまでに至っていたなんて! でもその力を妙技と自覚している分、まだマシと言えるのか?


 底の見えない子供愛がとてつもなく怖いが、話をする手間が省けたから一先ず良しとしよう。いやホントは何も良くないんだけど。


「なら全部理解してくれたから言うけど、烏滸がましいと思うけど食費を――」


「駄目です」


「あらやだまさかの門前払い?」


 意外な返事に俺は素直な言葉を述べた。でも俺にとってしか都合の良い話ではないから無理もないかもしれない。


「や、やっぱりそうだよね~……沙羅さんとはいえ、いくらなんでもこんな話は道理に合ってな――」


「無条件でヤーちゃんと同じ屋根の下だなんて万死に値します。羨ましくて殺意が芽生えてきますよ」


「いやそういう意味かよ!」


 それって単なる嫉妬ってことじゃん! 私怨が原因で、しかも内容がくだらないわ! 器が大きいんだか小さいんだか分かりゃしねぇなこの人!


「誤解を解くために言っておくけど、同じ屋根の下だからって別に疚しいことは何もないからね?」


「それは当然じゃないですか。ヤーちゃんは奥手ですからね。夜這いをする度胸がないへっぴり腰だということはママが一番分かってます」


 今、さりげに喧嘩売られたような気がしたけどスルーしておこう。親に虐待駄目絶対。


「ですがそういう問題ではないんです。何せ、初対面のヤーちゃんに幸せや癒しを送るだとか言ってるんですよね? そんなの、見ず知らずの子供を拾って育て上げるのと同じようなことですよ? 信じられないでしょう?」


「ちょいちょい? 自分のことは棚に上げてる発言してるの分かってます? 信じられないようなことは貴女もしてるんですけど?」


「私は良いんです。今はこうして結果オーライな日常を送れているんですから何も問題はありません。そんなことよりもですよヤーちゃん!」


 二、三度ベッドを叩いて若干の苛立ちを見せ始める沙羅さん。一体その子供愛は何処から止めどなく沸き起こっているものなのか。脳か? 胃袋か? それとも心か?


「まだ信用できる保証もないのに、どうして貴方はそうも優しい対応をしてあげようとしてるんですか! そんなお人好しに育ってくれてお母たんは嬉しいようやら悲しいようやら……」


 複雑な心境が絡みに絡み合い過ぎてるせいで、自分が一体何に怒っているのか混乱しているご様子。無駄なことに悩み過ぎだろこの人……。


「あ~、要はこう言いたいわけね。『信用できない女の子達をヤーちゃんと同居させるわけにはいかない』と」


「そういうことです! 少なくとも、ヤーちゃんに迷惑を掛けるような人は許しませんよ! 我が子を不幸に陥れようとする輩は皆滅んでしまえば良いんです……」


「物騒なこと言っちゃ駄目だって。沙羅さんって老若男女問わずに周りに慕われてるんだから。人間関係は大事だからね?」


「うぅ……正論を言う我が息子が愛おしい……ペロペロして良いですか?」


鼈甲飴べっこうあめでも舐めてなさい似非シスター」


 無理矢理口の中に棒状の飴を突っ込んで大人しくさせる。これ以上好きに暴走させる程、俺は優しい子に育ってはいない。


 さて、ここで難題が生まれてしまったぞ。あいつらが全員沙羅さんの信用を得ない限り、俺の食事が毎日カップラーメンになってしまうわけだ。


 俺に迷惑を掛けるような人は論外となると……キツいな。最近だとそのカテゴリーに入るのは二人だけだったというのに、今じゃ全員が俺のストレスの元凶になってしまっている。


 ここは個人的な私怨を明かさず、沙羅さんの条件を伝えて本人達に対応してもらうしかないな。でなけりゃ自分達が食えなくなるだけ。全てはあいつら次第だ。


 となれば迷う必要はない。善は急げと言うし、早速行動開始だ。


 俺はベッドから起き上がると、家内の何処かにいるであろう異星人共を探すために部屋から出ていこうとする。


「むむ? 何処に行くんですかヤーちゃん? 駆け落ちは許しませんよ私は!」


「いやしないから。ちょっと気分転換してくるだけだから。今日一日は泊まってくつもりだから安心してくれ」


「……それは誘ってると受け取っても?」


「夢を見過ぎるな三十代」


「むぅ……昔のヤーちゃんはそうではありませんでしたのに……」


「過去は過去。大切なのは今でしょーが。とっとと良い男でも見付けてください」


「私は我が子がいれば充分満たされるんです! ですからヤーちゃ――」


 堂々巡りは御免なので、俺は背を向けたまま静かに部屋のドアを閉めた。少しは頭を冷してくださいマイマザー。


「さてと、あいつらは何処に居るんだか……」


 この家は多くの孤児達を住まわせているため、外から見るよりもかなり広い。東京ドームのようなスケールではないものの、かくれんぼでもしたら骨が折れてしまうくらいには苦労するだろう。


 とりあえず、俺一人じゃ心許ないのでウニ助を援軍に引き入れよう。いざとなったら仲裁役になってくれるだろうし、頼りになることこの上無い。


 俺はウニ助がいるであろう自室へと向かうため、のんびりと歩を進め出した。


 そして歩くこと数十歩。俺はその光景を目の当たりにした。


「よく聞け小童こわっぱ共! この地球に私がいる限り、どんな支配者にも好き勝手させるつもりはない! 唯一の独裁者である私を崇め、尊敬せよ!」


「しょ~ぐんスゲ~!」


「しょ~ぐんカッケー!」


「リースしょ~ぐ~ん!」


 主に小さな幼児達の遊び場になっているホールを通り掛かってみれば、そこには子供相手に演説をしているリースの姿があった。


 ここにいる子供達は皆が純粋無垢なので、あんな馬鹿の発言でも真に受けてしまっている。こうして近頃の子供達は間違った知識を身に付けていってしまうんだろう。


「ひれ伏せ者共! 私を前に頭が高いぞ!」


「「「ははっ~!!」」」


 既に調教済みなようで、数多くの子供達が殿に遣える臣下のように跪いて頭を垂れた。


 何してくれてんのこの将軍まけいぬ。こんなところを沙羅さんに見られでもしたら、発狂して何をしでかすか分かったもんじゃねーぞ。


「おいリース……」


「あっ、ヤーにーちゃんだ!」


 リースに声掛ける前に子供達に気付かれて寄ってくる。あぁ、なんて可愛い弟と妹達――なんて家族愛に浸ってる場合でもない。


「む? おぉ、目が覚めたのだな愚人。ついでに貴様もぉっぷ!?」


 リースが生意気な口を聞きながら近付いてきたところに、軽く頭をかち割る程度の力で脳天をハリセンではたいた。何なら金属の類いを叩き込んでも良かったが、今はこれしか持ち合わせがないから仕方ない。


 ぷっくりと美味しそうなタンコブが膨れ上がると、リースは目くじらを立てて俺の胸ぐらを掴んで引っ張ってきた。


「出会って早々ツッコミ用ハリセンとは良い度胸だな? 小童達の見せしめに消し飛ばして欲しいことを望むか?」


「心地好い生活を与えにやって来たことを偽りと申すならお好きにどーぞ将軍様」


「ぐっ……弱味を突いてくるとは卑劣な悪徳商人め……」


「人をやられ役の悪代官扱いしてんじゃねーよ。それと俺の弟妹きょうだいに帝王学を学ばせてんじゃねぇ馬鹿」


 痛くしない程度にまたハリセンで頭をひっぱたく。なるほどなるほど、本来の目的を突けば大人しくなってくれるわけね。これは良い情報を得たな。


「何を言うか愚人。世の中何処でも格差社会にまみれているのだぞ。ならば人の上に立つだけの器を身に付けさせることは重要ではないか」


「立たせてねーじゃん。皆もれなく跪いてんじゃん。これは言葉の矛盾だぜお前さん?」


「私は特別だから良いのだ。少なからず貴様よりは位が高い位置に属しているのだからな。そうだろう小童達?」


 そう言って自信ありげなドヤ顔で子供達を見下ろすが、子供達の反応は頭の上に『?』を浮かべるものだった。


「え~? しょ~ぐんよりヤーにーのほうがえらいよ~」


「わたしたちのリーダーはヤー兄だも~ん」


「しょ~ぐんは二番目で、にぃが一番でしょ~」


「…………んんっ?」


 哀れ将軍様よ。俺がどんだけコイツらのことを可愛がってると思ってんだ。沙羅さん譲りの子供愛で接してたんだから、数時間限りで打ち解けたお前とじゃ人望の厚みが違うんだよ。


「き、貴様らの忠誠心はそんなものなのか! この愚人より下扱いとは何たる屈辱!」


「所詮お前はそこまでの女だったってことだな。それよりもリース、ちょっと話が――」


「貴様……今、何と言った?」


「はぃ?」


 将軍様には一体いくつの逆鱗が存在するんだろうか。俺もミーナに続いて触れてはいけないワードに触れてしまったらしい。


 リースの瞳の色が血色に染まり、犬歯を剥き出しにした狂犬が目で殺してくるかのように鋭く睨んできた。


 その変わりように子供達はざわつき始め、中には泣き出す奴まで出てきてしまった。


「私を“そこまでの女”扱いとは……いつの間に貴様は女を見定められるくらいに偉くなったのだ? 答えろ」


「あ~、癪に障ったのはそこかい……」


 そこまで深い意味はなかったんだけどな~……どうもコイツは変なところに生真面目というか、プライドが高いところがあるな。軽く流して笑いに変えるくらいの器量はないものか。


 傘の先を額に付けられ、『いつでも殺せるぞ』とばかりに威圧を掛けられる。こうなったらウニ助っ人君がいたところで止めることはできないだろう。


 ふむ……何れこの時が来るとは思っていたが、丁度良い機会なのかもしれない。沙羅さんの説得を成功させなくてはならない以上、リースに言うことを聞かせる権限を持たなくてはならない。


 しかしコイツは素直に人の言うことに従うような奴じゃない。最初に出会った時や、今までの態度がそれを表している。


 女相手に大人気ないとは思うが致し方無い。リースには悪いが、考えを改めてもらうことにしよう。


 それに、実は気にしていた愚人呼ばわりを訂正させたいとも思っていたしな。


「まぁまぁ、そう怒るなよリース。もっとカルシウムを摂取したらどうだ?」


「話を逸らそうとするな。いつも思っていたが、私は貴様のそういうところが気に食わなくてな。いつか目的云々関係無しに潰してやろうと思っていたくらいだ」


「ふーん……ならいっそのこと勝負するか?」


「……何?」


 ミーナと初めて会わせた時から思っていたが、リースは相手の力量で人を見比べるところがある。ならば、その“実力の差”を見せ付ければ俺の見方を変えるんじゃないだろうか。


 あのミーナと互角にやり合っていたんだから、リースの実力に嘘はない。だが、そのせいで一つ気掛かりなことがある。


 大将軍と呼ばれているのに、たかが一人の人間と互角なのはおかしい、ということだ。


 数多の星国を落としてきた化け物なら、ミーナくらい傘の一振りでブッ飛ばしているところだ。なのにリースはそれをしなかった。だが俺の憶測だとそれは“しなかった”のではなく、“できなかった”としたら?


 もし本当にそうだった場合、この勝負は長引くことなく終わりを告げてくれるだろう。


 俺はリースに全力を出させるために、挑発するような憎たらしい笑みを浮かべた。


「俺のことをブッ飛ばしたいんだろ? ならその機会を今から作ってやるって言ってんだよ」


「唐突だな……何のつもりだ?」


「別に意味なんてねーよ。どうする? とある条件付きの勝負だが、受けるか? 受けないか?」


 彼女にとって愚問と言える誘い。リースの答えは言うまでもなく『YES』だった。


 俺に傘の先を突き付けながら真剣な表情を崩さず、リースは宣言した。


「良いだろう……良い機会だからその身に私の恐怖を刻んでやろう。二度と私の言うことに逆らえなくなる程にな」


「ふーん……まぁ、忙しそうだけど頑張って」


「他人事か貴様ぁ!!」


 妙なことになってしまったが、まぁ良い。


 さてと、久し振りに自分の力量を確かめることにしようか。

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