男女混合パジャマパーティ 後編
「ヒャーヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
品の欠片もない笑い方をしながらリースを見下すミーナ。
そりゃ嬉しくもなるわな。散々生意気な口を叩いてきていた奴を奴隷のように使うことができるのだから。仮初めとはいえ、リースにとって屈辱的なのは間違いない。
それにリースはどう見ても考えても見栄っ張りな性格だ。相手にあまり弱味を見せない彼女だが、果たしてこの命令に素直に従うのだろうか?
いや、分かりきっている。答えはNOだ。
リースは偉ぶるミーナを見て鼻で笑って白けていた。
「話にならんな。そんなことをするくらいなら、私は迷わず死を選ぶ」
「そういうのいいからとっとと舐めなさいよ下僕」
「……貴様今何と言った」
下僕という言葉に反応し、リースの目付きが一気に鋭くなる。
普段俺を愚人呼ばわりしているくらいだし、自分がそういう見下された言い方をされるのは許せないんだろうか。冗談半分で怒っているように見えず、本気で逆鱗に触れられたような顔になってしまっている。
楽しむためのゲームなのに何故こんな空気になるんだ。でもまぁ、最悪止めに入ればこのゲームをうやむやに終了させることができるかもだし、今は黙って見ていよう。
「下僕って言ったのよ。私の足の指を舐めるんだから、そんな感じの身分に成り下がるってことでしょ? ほらほら、早くしなさいよげ・ぼ・く」
「上等だ。先程は油断したが、今度はそうはいかん。本気で貴様を殺すようにシゴいてやろう!」
実は生えていた犬歯が剥き出しになると、ピンク傘を手にミーナへと襲い掛かっていく。
「へぇ~? 良いのかしらアンタはそれで~?」
しかし、意味ありげなミーナの発言にリースはピタリと静止した。それでも敵対心が込められた睨みが止むことはない。
「……どういう意味だ」
「アタシは別に相手してやっても良いけど、もしまたそんなことになればどうなるか……。少なからず、この部屋にある物の大半は破損することになるわよね? そしたらアタシとアンタはどうなると思う?」
ミーナは一瞬だけ俺の方を見ると、リースに視線を戻して顔色を青白くした。
「……私達がアイツに殺されるわよ」
「……だろうな。悔しいが否定できん」
どうやらトラウマを植え付けているのはミーナだけでなく、リースも同じだったようだ。そこは似た者同士で、恐ろしい相手には極力逆らわないようにするスタンスらしい。
俺は別に百獣の王と言えるほど怖い存在ではないと思うんだけど……。他の奴等はどう思っているんだろうか?
「と、とにかくよ。ここを墓標にしたくなかったら王様ゲームのルールに従いなさい」
「くっ……それもできん! 何なのだこの娯楽は!? 一体何が楽しくて私はこんなジレンマに陥っているのだ!?」
根本から王様ゲームを否定し始めちゃったよこの人。でも確かに、誰がいつこんな遊びを思い付いたのか? まだその人物が生きているのならば、感謝と憎しみを込めた一撃を叩き込んでやりたい。
さて、このままじゃゲームも続かないだろうし、そろそろ助け船を出してやることにしよう。
「おいリース。だったらふやけるまで舐めなくて良いから、ペロリと一回だけ指先を舐めろ。それでこの三回戦は終了だ」
「は? ちょ、ちょっとやっさん! 何を勝手なことを――」
「それならまだ許せる範囲だな……大いに気に食わないが」
「いやだから……あぁもうそれで良いわよ。ならとっとと舐めなさい。ちゃんと爪の裏まで舌を入れなさいよ」
そうしてミーナが右足をリースに向けて突き出すと、リースは不愉快そうな表情のまま四つん這いになって顔をゆっくりと近付けていく。
な、なんだろう……何かいけないものを見ているような気がしてならない。
「ほほぅ……これは是非とも写真で撮っておきたい光景じゃのぅ」
「私もう駄目です……もう二度と王様ゲームなんてやりませんっ!」
ミコさんの意見には大いに同情する。今後一切、俺は王様ゲームをやらないと心の中で誓いを立てた。
コヨミは興奮の昂りで、ミコさんは羞恥心で顔を火照らせる中、とうとうリースが舌を伸ばして親指へと近付いていく。
「…………うっ」
そして舌と親指が目と鼻の先になった時だった。リースの鼻がピクピクと動き、顔色が見るからに真っ青となり、
「オボロシャァッ!!」
胃の中の食い物が全てその足にぶちまけられた。
「うぎゃぁぁぁ!? なんてことするのよアンタぁ!?」
リースは口を押さえてプルプルと身体を震わせている。一体何があったのかを問いただす前に、リースがポロッと呟いた。
「くっさ……おぇぇ……」
なるほど、足の臭いにやられたらしい。
「失礼ね!? ちゃんと風呂には入ったわよ! 臭いわけないでしょ!」
「いや臭かった……異常なほどに臭かった……恐らく私が今まで嗅いできた異臭の中で最も臭かった……うっ、また吐きそうだ……」
「ウニ助! ビニール袋あるか!?」
「任せて。ほらリースさん、吐くならここに吐いてね」
可哀想に余程臭かったのか、リースはウニ助からビニール袋を受け取ると、またもやゲロゲロと結構な量を吐き出してしまう。
「酷い奴じゃのミーナよ。いくらなんでもこれはやり過ぎではないか? こんな核兵器があるなど聞いておらんぞ」
「ち、違う! ちゃんと風呂に入ったもん! 足の指の間もちゃんと満遍なく洗ったもん!」
「……ぐぉっ!? くっさっ!? お主これはありえんぞ!? うっ、ワシも貰いゲロしそうじゃ……」
「ゲロ掛かってんだから当たり前でしょーが!! ぶっ飛ばすわよアンタぁ!!」
ウニ助が雑巾でゲロ処理を始める中、次なる犠牲者を生み出してしまう異臭王。恐るべし、その次元越えの足の臭い。
「……うぶっ……ごめんなさい旦那様……私も何だか気持ち悪く……」
「ぬぉぉ!? 待て待てミコさん! 今エチケット袋用意するから――」
「オボロシャァッ!!」
「ぎゃぁぁぁ!?」
何でこっち向いた!? 何でこっち向いて吐いた!? それは新手の嫌がらせか!?
こうして俺の部屋はゲロ一色になってしまい、王様ゲームは思惑通りうやむやにはなった。しかし、各々が多くのものを失うという結末で幕を閉じた。
~※~
「う~ん……ワシぁもう飲めんぞ……うぷっ……」
今の寝言はコヨミだろうか。夢の中で吐くのは構わないが、現実にはしないでほしいことを願う。
あれから数時間にかけて様々な遊びに手を尽くし、深夜の三時頃になったところで皆は寝落ちしてしまった。誰も彼もが散り散りとなり、毛布も掛けずに眠ってしまっている。
「これで良し……と」
このままじゃ風邪を引きかねないので、俺はこっそりと立ち上がって一人一人に毛布を掛けて周り、最後に横になって眠っているリースに毛布を被せたところで事を終えた。
「……お人好しだな貴様は」
「ん? なんだ、起きてたのかお前」
「当然だ。誰かが動き回っている気配がしたからな。何かをされると警戒して、手を出された時は迎撃するつもりだった」
その背中から若干の殺気を感じ取った。変に身体に触れないようにして良かった……。
「……騒々しい奴等だな。この者ら全員は」
一息ついてから俺も近くで横になり、目を瞑って寝ようとしたところにまたリースから話し掛けられた。
「でも何だかんだでお前も楽しんでたんじゃねーの?」
「……どうだろうな」
「全く、素直じゃねー奴だなお前は」
「……ふんっ」
俺の目には全員が楽しんでいるように見えていた。無論、リースも同じだ。そりゃぁミーナとは何度も喧嘩していたが、それも含めて楽しんでいたと思う。
俺もあれやこれやと言いながら楽しめたし、明日の朝はとんでもコンディションになっているだろうが、まぁ今は良しとしよう。
「……ただ」
「ん? 何だよ?」
「その……なんだ……こういう騒がしいお祭り騒ぎに入り浸ったのは久し振りだった。だからその……なんというか……」
歯止め悪く言うものの、何となくリースが言いたいことは分かった。俺の憶測は間違いじゃなかったってことだろう。
「悪くなかった……だろ?」
「……寝る」
結局何も言わずに寝てしまうリース。でも後ろから見るに耳が少し赤くなっていたので、素直にリースも楽しんでいたということだろう。それなら俺も満足だ。
「さてと、そろそろ俺も寝るとするか……」
皆寝てしまったことだし、俺もさっさと寝てしまおう。異星人組はミーナ達と打ち解けてくれたし、これで俺も少しは気が楽になったってもんだ。
「……よし」
俺は一人起き上がると、リビングで一人ゆったりと眠るために部屋から出て行った。
「…………」
リースの他に起きていたもう一人の存在に気付かずに。
~※~
「よし寝よう。今すぐ寝よう。もう即行で寝よう」
ようやく落ち着ける場になったところで、テレビ側のテーブルを避けて広くなった場所に布団を敷いた。そそくさと横になり、良い夢が寝られるように目を瞑る。
――バタンッ
「……?」
ドアは閉まっていたはずなのに、不意にドアが開いた音が聞こえた。
誰かは分からないが人の気配がする。つまりは誰かが降りてきたんだろう。いや、もしくは泥棒という可能性も――いやいや考えすぎだろ馬鹿か。
一応警戒しておこうと意識を集中させ、微かに聞こえてくる足音を頼りに相手の行動を模索する。
ギシッ――ギシッ――
相手は明らかに俺がいる方向へと近付いて来ている。何となくだが、相手が誰なのか検討が付いた気がする。
いつでも起き上がれる体勢を取ると、ゆっくりと近付いてきている人影を視界に捉えた。暗くてよく見えないが、十中八九アイツだろう。
そして、その人影が俺の布団の近くに来て立ち止まった。俺が完全に眠っていると思っているのか、完全に油断しているようだ。
「……らぁっ!」
「えっ!?」
勢いよく立ち上がると、相手の手首を掴んで布団に向かって背負い投げをした。その軽い身体は呆気なく投げ飛ばされてくれると、背中から布団に叩き付けたところにそいつの首元を掴んで拘束した。
「夜這いとは良い度胸してんじゃねーかこの野郎。前の朝は油断したが、そう何度も俺を出し抜けると思うなよコラ」
「ごごごごめんなさいごめんなさい! 許してください旦那様!」
「そうそう、そうやってすぐに降参すれば……んんっ!?」
見間違えたと思って目を何度か擦ってみたが、その人物は予想の範疇を素通りした人物だった。
てっきりコヨミの野郎かと思っていたのに、何故にミコさんがここに!?
……って、俺もしかしてミコさんに乱暴働いちゃったってこと?
し、死ねる!! 最悪だ!!
すぐさまミコさんから身を離し、死に物狂いで何度も床に頭を打ち付ける。嫌な音が鳴って流血するが、その勢いを止めることはない。これは償いの代償だ。
「だ、旦那様!? 落ち着いてください旦那様! お気を確かに保ってください!」
「違うんだミコさん! 人違いだったんだ! ミコさんに暴力振るつもりなんてなかったんだ! うわぁぁぁ……」
「静かにしないと駄目ですよ旦那様! 皆さんが起きてしまいます!」
ミコさんが自暴自棄で暴走する俺を羽交い攻めにする。それから何度も深呼吸をすることで、俺は何とか冷静さを取り戻した。
「ごめんミコさん、取り乱した……」
「い、いえ、気にしてませんよ。元々は私が悪いんですから」
そ、そうだった。それだよ俺の疑問は。
「で、一体俺に何の用で来たんだ? トイレなら玄関の方だけど?」
「トイレではないんですけど……えっと……その……あの……」
ゴニョゴニヨ呟きながら人差し指と人差し指を合わせてモジモジした素振りを見せるミコさん。頬がほんのり赤らめていて、何だか妙な空気になってきてる気がする。
ま、まさか告白的な!? そんな唐突なことがこの世に起こり得るというのか!?
俺は意を決して敢えて黙りとして返事を待つ。
やがて、ミコさんも意を決したように目を見開いて、小さな口を開いた。
「そ、その……一緒の布団で寝ても良いですか?」
「…………は?」
今のは幻聴だろうか? なんかミコさんが同じ布団で寝ようとか、絶対にありえない言葉を言ったような気がする。
疲れてんのかな俺。ここまで来ると、これはもう病のレベルまで来てしまっているのかもしれない。
……でももし、今のが幻聴じゃなかった場合は?
真実を確認するために今一度問おう。
「ごめんミコさん、なんて言ったか聞き損ねたからもう一回言ってもらっても良いかな?」
「だ、だからその……一緒に寝ても良いですか?」
「…………」
言った。一緒に寝たいと確かに言った。幻聴なんかじゃない、この現実で彼女は間違いなくそう言った。
自然と大量の汗が額から流れ出し、身体も若干震え出す。恐らく今の俺は、今まで生きてきた中で最も気分を高揚させているに違いない。
「そ、それってその……どういう意味で捉えれば?」
「え……あっ、そ、そのっ! 添い寝です! そういう意味ではなくて添い寝するだけですから!」
俺の質問の意味を察したミコさんが、更に顔を真っ赤にさせてバタバタと手を動かす。見ているだけで俺の心は安らいでいく一方だ。
しかも添い寝までしてくれるだと? もしかして俺はそろそろマジで死んでしまうんじゃないか? こんな幸せを手に入れる瞬間が訪れるなんて都合が良すぎる。
でもだ! 身体も最悪の未来が待っていたとしても、俺は手に入れられるだけの幸せは手に入れたい! それで死んだらそれはそれだ!
……なんて、夢に浸るのはここまでにしておこう。これ以上は虚しくなるだけだ。
「……何となく予想は付いたよ。アレでしょ? ミーナ辺りの奴が騒音罪丸出しの鼾を掻き出したせいで眠れなくなって、それで静かな下に来たってことでしょ?」
ミコさんが自分から求めて俺のところに添い寝しに来るなんてありえない。そこに何かしらの理由があることは明白だ。
でも良いんだ。希望に満ち溢れた夢を少ない時間で見れただけでも俺は満足だ。
俺はミコさんの答えを待つが――その答えは俺の勝手な憶測だった。
「実はそれもあるんですけど違います。た、ただ私はその……旦那様と一緒に寝たいと思ったんです……」
「ごめんミコさん、夢みたいで信じられないんだわ俺」
「夢じゃないです! 現実です!」
ほんの少しだけ怒る様子を見せたミコさんが俺の頬を抓った。
少しだけだが痛みがある。ということは、やっぱりミコさんの言っていたことは紛れもない事実だということ。
マジか……マジなのか……おぉ神よ……心からの感謝を貴方に……。
「で、でもどうして急にそんな?」
「……駄目ですか?」
不安そうな表情になりながら上目遣いで見つめられてしまう。俺は誤解されたくない想いですぐに首を横に振った。
「いやいやそんなことはない。万の一にもありえない」
「そ、そうですか……良かったぁ……断られると思ってドキドキしました私」
何を馬鹿なことを言うんだミコさん。むしろ断る理由が何処にも見当たらんわ!
あぁ良かった! この世に生まれてきて良かった! この出会いに感謝し、今日はもうグッスリと寝ようじゃーないか!
「それじゃ寝よっか。流石に眠気の限界が近いわ」
「私も目がしょぼしょぼして来ました。それじゃ失礼しますね」
俺が今一度横になって布団の中に入り、その後に左側からミコさんがいそいそと同じ布団の中へと入ってくる。そして肩と肩がピッタリくっついた状態に落ち着いた。
心臓の鼓動がドラムの如く高鳴っているが、まさか聞こえてやしないだろうか? だとしたらスゲェ恥ずかしい。でもこっそり見たところミコさんも緊張しているようだし、お互い様か。
「……」
「…………」
「………………」
「……………………」
ね、寝れねぇ! ミコさんと一緒に寝られる=安眠できる、と思い込んでいたのは間違いだったか!? 静かだから小さな吐息まで聞こえてくるし、おまけに身体は密着してるし、どうにかなってしまいそうだ!
「……起きてますか旦那様?」
「あ、うん……複雑な事情が絡み合って眠れないんだよね……」
「ア、アハハッ……実は私もです。ドキドキし過ぎて眠れないというか……」
「そ、そっか……」
そしてまた気まずい沈黙が訪れる。
駄目だ、このままじゃ絶対眠れない。何か気を紛らわす話題はないだろうか?
「そういえば旦那様……一つ伺いたいことがあるんですけど宜しいですか?」
「うん? 別に構わないけど……」
俺が話題を振る前にミコさんの方から話題を振られた。気のせいか、今のミコさんは何だか積極的なような気がする。
「その……ミーナさん……とウニ助さんですけど、旦那様とはどういったご関係なんでしょうか?」
「あぁ、アイツらか? 言ってしまえば、アイツらも俺と同じ境遇の奴等だよ」
「それってもしかして孤児院の……」
「そゆこと。アイツらとは物心付いた時から一緒に連んでる友達……と言うよりは兄弟かな」
と言っても、ミーナもウニ助も俺のように捨て子だったわけではない。
「ミーナは親から虐待を受けていた子供で、親が警察に捕まって以来、幼稚園の頃に孤児院に入ってきたんだ。ウニ助は、元々病弱だった母親がウニ助を産んだ時に死んじゃって、それと同時に父親も病に倒れて天涯孤独の身になったところを保護されたんだ。これはまだウニ助が赤子だった頃の話らしいよ」
「そうだったんですか……お二人にそんな過去が……」
「うん。事情が事情だけに当時はアイツらも苦労してたよ」
特にミーナの容態が酷かった。親から暴力を受け続けたせいで人間不振に陥ってしまい、今のミーナが信じられないくらい臆病な性格になっていた。それでも“あの人”はミーナを見捨てることなく愛し続け、ミーナも時が経つに連れて心を開いていった。
そんな複雑な事情が絡みに絡み合って今の俺達がいる。皆が皆、ここまで立派に成長することができたのだ。
「昔は苦労してたけど、あの頃はもう古い思い出だよ。今となって考えると、あんな弱虫だったミーナが何であんな感じに育ってしまったんだか……。ウニ助はともかくとして、あの脳筋は意外だったわ」
「そんなに臆病だったんですかミーナさん?」
「そりゃぁ酷かったよ。おはようと声を掛けるだけで尻尾巻いて逃げるし、食事する時は決まって端の方に隠れてたからね。遊ぶときなんかは論外で、決まって一人でいようとしてたよアイツは」
「そ、それでよく仲良しさんになれましたね」
「まぁね。俺とウニ助が金魚の糞並に付いて回ったから、アイツもそれに慣れていったんだよ。そして気付いたら決まって三人で連むようになってたわけ」
「それが今の関係……ということなんですね。何だか羨ましいです」
そう言いながらミコさんは微笑ましく笑う。
思い返すとアイツらと出会ってから十年は経っているんだな。時間というのはあっという間に過ぎていくものだと実感できる。
「……旦那様は」
「ん?」
「その……ミーナさんのことが好きだったりするんですか?」
「……はっ!?」
唐突な発言に思わず吹いてしまった。急に何を言い出すんだこの人は!
「ないないありえないって! アイツはそういう感じじゃないし、そもそも兄妹みたいな関係なんだからそういう感情を抱くこと自体ちゃんちゃらおかしいって!」
そう、あくまでミーナは家族だ。それはウニ助も同じこと。友達以上、恋人未満の関係と言えば良いんだろうか。一般的な関係よりは深いと言って良いが、そこまでいってしまうと話は大いに逸れてくる。
「そうなんですか? とても仲が良いからてっきり私はそういうものだと思って……」
「勘弁してくれミコさん! 俺はもっと清楚でほんわかした雰囲気の人が好きだから! アイツは断固無い!」
……ていうか、今の発言は捉え方によっては告白みたくなっちゃってたかもしれない。い、いやでもミコさんは天然入ってるし、勘が鋭いとは思えないから大丈夫か。
「そうですか……そうだったんですね……エヘヘッ……」
そこで何故か嬉しそうに笑うミコさん。え? どういうこと? そんな反応されたら勘違いしちゃいそうなんですけど!
なんか今のテンションなら普段聞かないようなことも聞けるだけの余裕があるな。よし、ここはぶっちゃけたことを聞いてみよう。
「そ、そういうミコさんこそどうなの? 好きな人とかいたりするのかな?」
「わ、私ですか? それを聞くのは何というか……旦那様、私が旦那様の元にやって来た理由を覚えていますか?」
「…………あっ」
心優しい嫁――もとい、彼女が欲しいと願ったため、ミコさんは俺の元にやって来た。つまりはそういうことなんだろう。俺は何を今更なことを聞いてしまったんだろう。
信じ難いことなんてことは重々理解している。本当は法螺を吹かれてるんじゃと疑ってしまうのが普通だ。
でも、それでも俺はミコさんを信じたい。少なくとも今の彼女は、俺に嘘を付いてはいないから。
そうじゃなければ自分から一緒に寝たいだなんて大胆なことを言うはずもないし、こんな嬉しそうな笑顔を浮かべるはずもないから。
俺は――彼女のことが“多分”好きだ。
「……ミコさん」
俺は意を決して想いを伝える覚悟を決め、彼女の名前を呼び掛ける。
――――が、
「Zzzzz……」
「……えぇ!?」
どんなタイミングか、一人問答を繰り返している内にミコさんはお先に夢の中へとダイブしてしまっていた。
「うぅん……ふぁ……」
可愛い寝息なんか立てちゃってまぁ、こっちは褌を絞め直して覚悟決めてたってのに。
でもまぁ、良いか。時間は長いんだし、想いを伝える機会はいつかまたやって来るだろう。急かすことなんかない。俺のペースでゆっくりとミコさんのことをもっと知っていき、更なる惚れ要素を見付けよう。
「おやすみミコさん……」
俺は眠りについているミコさんに声を掛けてから瞼を閉じて眠りにつく。
「…………あ」
――そして俺は聞いてしまう
「愛しています……」
――ミコさんが愛している
「ルーカス様ぁ……」
「…………え゛っ?」
――その名前を




