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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
一話 ~異星人と現代人~
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お粗末な意地か、未来を歩むための命か

「あーあー、どっかの狂乱女のせいで散々な目に合っちゃったわねー。私何も悪くないのにマジ最悪なんですけどー」


「ふっ……些細な過去をいちいち穿ほじくり返して小言を言ってくる辺り、何処ぞの脳筋は清廉せいれんという言葉の意味を理解できていないようだな。考えるだけの脳が欠けているから仕方のないことだが」


「あァ? またその顔に風穴開けて欲しいっての?」


「別に貴様のこととは言っていないんだが、それで反応するということは自覚があるということだな。ふっ、この世で最も愚かしい雌犬であるな」


「あァ!?」


「うん?」


「もう良いから止めろってお前ら! 大概にしろ!」


 放課後になって俺の家に帰って来て、ミーナとウニ助も連れて今は皆でリビングにいるのだが、ミーナとリースは未だに口喧嘩を続けていた。


 どうにもお互いが気に食わないようで、一行に仲睦まじくなる傾向が見えない。多分、これずっとこうなんだろうね。


「アンタからも何か言ってやってよやっさん。アンタはアタシの味方なんだから、援護射撃しなさい」


「愚人、この雌犬はしつけがなっていないぞ。改善の余地無しと見て、早々に処分した方が良いと進めておく」


「あァ? 処分されるべきなのはアンタでしょ? 妙な言い掛かりでこの家に押し掛けてきて、一体何が目的なのよ? 言っておくけど、やっさんは金目の物は何一つ持ってない貧乏神よ」


 失礼な奴だ。確かに金目の物は何一つ無いが、魂が込められた一品の一つや二つはある。それに、家事に使うための必需品だって立派な物だろうに。


「そんなことは承知済みだ。このような愚人如きが金の亡者のわけがないだろう。私の目的は、金に飢えたシングルマザーが結婚を望むような、そんな痴態をさらしに来たわけではない」


「だったら何だってのよ? 対した目的が無いならここから消えてくれるかしら? 迷惑なんだけど?」


「安心しろ、多少迷惑が掛かるのは愚人一人だけだ」


 いや何も安心できないんですけど? 俺の願いを叶えに来たはずなんじゃないの? やっぱりアレは中身のない建前だったの?


「それが迷惑っつってんのよ。一応コイツは私の“家族”なんだし、身内が嫌な目に合ってんのを見過ごせるわけないじゃない。コイツは私にき使われるために存在してるのよ」


 いや違うから。俺は俺のために存在してるから。何故に俺がこんな断崖絶壁のために生きにゃならんのだ。寝言は寝ていえと言いたい。


「ぐぇっ!?」


 野生の勘か、ミーナから恒例の一発を顔面に貰った。コヨミのように心を読み取れるわけでもあるまいし、まさかコイツも異星人だったのか? 怪力無双のゴリラの種族的な?


「何をしている貴様。八つ当たりとは器の小さな奴だ」


「長年の勘が働いただけよ。アンタにゃ関係無いわ」


 もうやだ、コイツらと関わるとロクな目に合わない。場所を変えて他の連中の場所に移動しよう。


 食事用のテーブルエリアから離れて、テレビ側のテーブルエリアに場所を移す。そこには、ミコさんとコヨミが一緒になって何かを見ている光景があった。向かい側にウニ助も座っていて、こちらは実に平和な雰囲気だ。


「ふむ……やはりこの時はまだ小さいんじゃの。生まれたてじゃから当たり前なんじゃろうが」


「はわわ……か、可愛過ぎです……これコピーできませんかウニ助さん?」


「確か、やっさんの部屋にコピー機があったからできると思うよ」


 何だか妙に楽しそうだ。一体何を見物しているんだろうか?


 俺はこっそりとミコさん達の背後から覗いて見る。


 ――俺の成長記録アルバムだった。


「いやちょっと何勝手に見てんの!?」


「あっ、丁度良かったです旦那様。この写真を一枚コピーしてもらえないでしょうか?」


 ニコニコ笑うミコさんが手にしていたのは、俺がまだ赤子の頃の写真だった。小さなベッドの上で親指をくわえながらスヤスヤと可愛い寝顔で眠っている。


 アカンこれめっちゃ恥ずかしいっ!


 俺は瞬時にミコさんから写真を回収した。


「あっ! 返してください財布のお守り!」


「駄目です! いくらミコさんでも、こればかりは譲れません! つーかウニ助、お前も余計な物持って来てんじゃねぇ!」


 明らかに主犯はウニ野郎だ。何故かコイツは俺の家の物の保管場所を覚えているから、隅に置けない恐ろしさがある。ある意味ミーナよりタチが悪いかもしれない。


「そう固いこと言わないでよやっさん。コヨミさんが見たいって言うからさ」


 前言撤回、主犯はこのクソ白髪だった。


「元神様だからって何でも許されると思うなよ?」


「そんなピリピリするでないにーちゃんよ。良いじゃろう別に、こういう思い出は歳を取ってから見るものなんじゃからのぅ」


「そうですよ旦那様。何も恥ずかしいことなんてないです。赤ちゃん時代の旦那様、とっても可愛いです」


「そう言う風に言われるから嫌なんだよ! 止めて! 俺の幼少期には触れないで! 寝ている赤子はそっとしておいて!」


 他人のアルバムだから好き勝手言えるんだろうが、これが自分のこととなったら、コイツらも同じような態度を取ることは明白。クソッ、いつの日か仕返ししてやる!


「それでにーちゃんよ。そろそろ何か食したいんじゃが、もう鍋を始めても良いのではなかろうか?」


「道端の雑草でも食ってろカス」


「むぅ~、そんな冷たいことばかり言わずに~」


 くっついて来ようと両手を伸ばしてコミュニケーションを取ってくるコヨミ。鬱陶しいことこの上ない。


「止めろ寄るな汚れる暑苦しい」


「とか言いつつ、背中におっぱい当たるラッキースケベに期待したり?」


「頼むから一回だけ殴らせてくれない? 一瞬で終わるから」


 どうしてコイツはこうも人に甘えようとするのか。愛情に飢えているなら他を当たってほしい。例えば、今目の前にいる気の良いイケメンとか。


「仲良いんだね二人共。兄妹みたいに見えるよ」


 イケメンは俺達のやり取りを見てニコニコと微笑んでいた。傍観者とは良いご身分ですこと。


「悪い冗談はよせ。俺の理想の妹は、素直で甘えたがりで可愛い女の子だ」


「やっさん、それコヨミさんだと全部該当してると思わない?」


 そう言われて俺は無意識にコヨミのことを見ながら考えてみる。


 素直。確かにコヨミは裏表のない奴だと思う。冗談は言うけど、不快な思いになる嘘は言わない奴だ。


 甘えたがり。必要以上に俺に触れてこようとするところ、当てはまるのかもしれない。早朝にそうしてきたくらいだし。


 可愛い。認めたくない決定的な事実だが、不覚にもコヨミは可愛いとか思う。あくまで外見だけの話なのだが、それでも悔しいが可愛いと思っている俺がいる。


 ……あれ? マジで全部当てはまっちゃってる感じ? あっ、やべっ、鳥肌立ってきた! 怖い怖い怖い!


「まぁ、実際ワシは年下じゃからのぅ。そう思われるのは悪くないし、むしろ本当に兄妹の契りを交わしても良いみたいな?」


「やだ止めて絶対嫌だ勘弁して」


「おぉう……これはガチで引かれてるのぅ……しかしそこに漬け込むのがワシの性よ!」


「止めて来ないで無理無理無理!」


 こんなのが妹なんて嫌だ! こんな妹が毎日一緒にいることになったりしたら、俺の気苦労が連鎖し続けてとんでもないことになるわ!


 ……いや、妹どうこう以前に、コイツはこれから同居する奴なんだった! 思い返してみるとやっぱり最悪じゃねーか!


「せ、積極的ですねコヨミさん……羨ましいです」


「……へぇ」


「な、何ですかウニ助さん?」


「ううん、何でもない。ただ、やっぱりやっさんは周りに好かれる体質なんだな~って思っただけ」


「別に嬉しくない誉め言葉ありがとう!」


 そんなことはどうでもいいから、今は金魚のフン並に引っ付いてくるコイツをどうにかして欲しい。恐らく俺は今、この世で最もウザい人物をコイツだと思っているに違いない。


「ねぇお兄ちゃん、コヨミご飯食べたいな~?」


「や、止めろぉ! 声質変えてそんな台詞を言ってくるんじゃねぇ!」


 一度は言われてみたい台詞の一つだったのに! よりにもよってこんなクソッタレに言われてしまうなんて! 返せ! 俺の純情を返せ!


「コ、コヨミさん。そろそろ離れてあげないと旦那様が困ってしまいますよ?」


 最初から困っていたんだけど、まぁ良い。ようやくミコさんが救いの手を差し伸べて来てくれたことに、俺は感謝感激です。


 しかし、コヨミはニヤニヤ笑いながらミコさんを見つつ、俺から離れることはなかった。


「ほほほっ、羨ましいかミコよ? お主も素直になった方が気が楽になれるのではないか? ううん? うう~ん?」


「それはその……うぅぅ~……」


 ……その反応の真意は何だろうか。もしかして本当に羨ましいとか思っちゃったりしてくれてるんだろうか? もしそうなら、俺は喜びに満ち溢れて蕩けるチーズになってしまいそうだ。


「ミコちゃん、やっさんは心が広いから大丈夫だよ。それとついでの情報を言うと、やっさんは正直者が女性の好みの一つらしいよ」


「……正直者ですか」


「……?」


 何だろうか、今一瞬だけミコさんの顔が暗くなったような? いや、特に何とも無さそうだし、俺の気のせいか。


「……ミコさぐえぁっ!?」


 ミコさんに話し掛けようとした瞬間、背中に重圧感がある衝撃を受け、顔から床に落下した。


 滅茶苦茶痛い痛みに堪えながら身体を起こして確認すると、すぐ隣にリースがうつ伏せになって倒れていた。


「大したこと無いわね。偉ぶってるだけで、その実力は非力な子犬だったようね」


「くっ! 油断しただけだ! 覚悟しろ貴様、次は貴様が地に這いくつばる番だ!」


「旦那様、これが……」


 脳筋達から視線を外し、ミコさんが指を差す方向を確認する。そこには、ポッキリと一本の足が折れてしまっている団らん用の机があった。


 ゴキッ


「ヤバい、スイッチ入った。コヨミさん、今すぐやっさんから離れて」


「うん? 一体どうし……そ、そうじゃな、そうしておこう」


 俺と共に巻き込まれてタンコブを作っていたコヨミがようやく離れた。しかし、その代わりに新たなる火種が俺の脳内に芽生えた。


「二人共、やっさんと一緒に暮らす以上、これだけは知っておいた方が良いから、今から起こることをよく見ておいてね」


「あっ、いや、大丈夫じゃ。にーちゃんの逆鱗はもう読み取った」


「わ、わわ私も何となく察しましたっ!」


 他の場所で思う存分暴れることはまだ良い。個人の自由だし、喧嘩なんて好き勝手やれば良い。


 ただ、今回はこの二人が暴れる場所が悪かった。部屋を汚されたり、散らかるのはもう諦めてるから百歩譲って許せる範囲だ。


「己の日々の行いを見つめ直し、自分の愚かさを自覚して這い蹲れ馬の尻尾!」


「今の自分を写真に収めて、数十年後に自分の姿を見て一生癒えない傷を負えコスプレ野郎ォ!」


 でも俺にだってどんな理由があろうと許せない時がある。


「む? なんだ愚人。余計な横槍を……」


「邪魔よやっさん! 女の戦いに水を……」


 ちなみに今は、『あの人から貰った備品を壊されること』ということだ。


 久し振りに本気でブチキレたこの感覚。最後にこうなったのはいつの日だっただろうか。


「……ミーナ、さっきので机の足が折れちゃったんだが、アレって素人でも直せんのかなぁ?」


「あ……いや……その……せ、接着剤とか使えばイケるんじゃないかな~? ア、アハハッ……」


「悪い、何も笑えねぇんだわ」


「で、ですよね~」


 だらだらと大量の汗を流し出すミーナ。ようやく自分の犯した過ちに気付いたらしい。


 もう遅い――とはまだ言わない。今までの行い全てに対して謝ってくれればそれで良い。


 ただ、普通に謝るだけじゃこの怒りは万が一にも収まらないが。


「コ、コスプレ! ちょっとアレ直すの手伝いなさい!」


「こ、壊したのは貴様だろう。私は何も悪く――」


「自分のお粗末な意地と未来を歩むための命!! どっちが大事なことくらい、アンタにも分かるでしょ!! 命が惜しいのなら言うこと聞け!!」


 ミーナはリースと共に騒々しくリビングから出ていき、接着剤が保管されている俺の部屋へと向かい、数秒も経過することなく戻ってくると、すぐにテーブルの足の修復作業に取り掛かった。


 その光景を見ているうちに俺も落ち着いてきたようで、ぐつぐつと沸き起こって溢れそうになっていた“その感情”が冷めていき、落ち着いた。


「私が持つからアンタは引っ付けなさい!」


「ふざけるな、私が持つから貴様が引っ付けろ」


「私は肌が弱いのよ! もしも皮に接着剤がついたら事なのよ!」


「それは私も同じことだ。グダグダ言わずに引っ付けろ」


「何度も同じこと言わすんじゃないわよ! そっちがやれ!」


「いいから早よやれや」


「はいすいませんっ!!」


 俺が本気切れするのがそこまでトラウマになっているのか、ミーナは嘘みたいに素直に言うことを聞く。普段からずっとこうだったらどんなに楽なことか。


「これで分かったよね? 下手にやっさんに刺激を入れるようなことをしたら、時折洒落にならない殺意を醸し出すから気を付けてね」


「ふむ……肝に命じておこう。ワシ死なないから平気じゃがのぅ」


「私も気を付けます……二度と離れないよう脳裏に焼き付けておきます……」


「…………」


 見せちゃいけない部分だったと、ミコさんの青ざめた顔を見て後悔する俺だった。

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