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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
一話 ~異星人と現代人~
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大恩人の教え

「とりあえず、一人一人何を考えてんのか吐いてもらおうか」


 授業中のため、だだっ広い屋上には人の影はなく、いるのは異星人三人組と俺だけだ。


 今は強制的に三人全員をその場に正座させて、その目の前に俺が仁王立ちをしている状況。規律にうるさい先生にでもなった気分だ。


「家にいてもやることがなくてな。暇だから来てやっただけだ。むしろ、私は感謝されるべきだろう」


「女教師プレイというものに興味があってのぅ。丁度良い機会じゃから、生徒を洗脳して実践しようと出来心を抱いたんじゃよ。肝心なことができずに終わってしまったがのぅ」


「わ、私は旦那様が通う学校という場所がどんなところか気になりまして。コヨミさんの助手として付いてきちゃいました」


「なるほど分かった」


 一人は単なる暇潰し。一人はくだらない欲求の解消。一人はほんの興味本意。


 うん、どれも話にならん。


「今ならお咎め無しで許してやる。だからもうお家に帰りなさい」


「お主、二言目にはそればっかり言っておるぞ。もっとボキャブラリーを増やすべきじゃな」


「そうか、帰れ」


「取りつく島もないのぅ……。まぁ、良いではないかにーちゃん。ワシらは皆、地球の文化に好奇心を抱く者達ばかりなんじゃ。ちょっとくらい見学しても良いじゃろうに?」


「既にちょっとじゃ済んでないのに、どの口でそんなこと言えんのお前?」


「この口~」


 馬鹿っぽく口を大きく開いてニヤける全知全能ポンコツ。ありったけの力を込めて処してやりたいが、今は我慢だ。


「てゆーかさ。なんでミコさんまでコイツらに毒されちゃってんの? ミコさんは止める側の方でしょ?」


「あぅ……ごめんなさい……」


 ミコさんがへにゃんと頭を垂れる。その仕草一つで許してしまいたくなるが、ここは我慢だ。どれだけミコさんが可愛くとも、許していけない時はある。


「グチグチと細かい奴だな。小さいことをネチネチ気にしていると、女にモテないぞ愚人」


「それ前にも似たようなこと言ったよな? 何? 将軍様は二度刺すの?」


「いや、三度だ」


 余計タチが悪かった。なんつー嫌味ったらしい将軍だ。


「こちらの身にもなってみろ愚人。これから先、私達は貴様と共にある者達なのだぞ? ならば貴様のことを知るために何処へでも同行するというのは、必定ではないか」


「それにのぅにーちゃん。今は帰れ帰れと言うが、それは今日に限ったことではなかろぅ? いつまでも家に縛られるなど、少なくとも自由人のワシには堪えられぬのじゃよ」


「そうは言うけどよ……」


 コイツらは皆、何かしらの能力や特殊な外見を持った異星人だ。そんな世にも珍しい奴等が世間に知られたらどうなるか。報道陣やら、研究者達やらが放っておくわけがない。


 まだそこまで親しい関係になったとは思っていない。でも、成り行きとは言え、俺の家にホームステイするようになってしまった以上は、怪しいおじさん達から守ってやらなきゃならないのが男の責務だろう。


 コイツら異星人でもあり――一人の女の子なのだから。


 とは言え、確かにこのままだと不自由なのもまた事実。面倒臭いことこの上ないが、俺がどうにかしてやらなきゃいけないだろう。


「あ~、分かった分かった。なら次の休みの日に何処へなりとも付き添ってやるから。だから少しの間で良いから我慢してくれ」


「ほぅ……つまり、例えばミコがあざとい雰囲気を放つホテルにホームインしたいと言ったら、お主はちゃんと付き添ってやると言うことじゃな?」


「そんなに投獄入りしたいのお前? ねぇ? 無い罪無理矢理着せてやろうか?」


「もしもの話じゃよ。なぁミコよ?」


「え!? い、いやその……そういうのはまだ早いと言いますかその……あぅぅ……」


 湯気が出るほど顔を真っ赤にして俯いてしまうミコさん。どうやら、そっちのネタに関しては耐性がないようだ。それと、普通に純粋な人だということも判明して、俺はまた胸に希望を抱いた。


「だ、旦那様。物事には段階というものがありまして、そういうところに行く前にもっとその……お互いを理解し合えるようにデートしたりしたいです……」


「ほぅほぅ……つまり、相手の性癖を知るためにエロいDVDが売っている場所に赴くと言うことじゃな?」


「リース、頼むからコイツの口を消し飛ばしてくれ」


「ふふふっ……腕がなる願いだ。覚悟しろ白髪」


 ピンク傘を抜いたリースが血気盛んに突っ込んでいき、コヨミは舌を出して挑発しながら逃げ回る。このままコミカル劇場をやり続けて何処か遠い星に消えてしまえば良いのに。


「とにかくだミコさん。今日のところは俺も早退するからさ。今度から外出したい時は、まず俺に許可を取りなさい。行く場所と帰ってくる目安の時間を俺に教えること。それなら別に自由行動して良いから」


「分かりました。でも一つ良いですか旦那様?」


「ん? 何よ?」


「正直、私達は旦那様に迷惑を掛けていると思います。色々と勝手な申し出をして、旦那様の家に住み着き始めた時からずっとです。でも旦那様は文句を言いながらも、私達を受け入れてくれました」


「は、はぁ……」


 受け入れたと言うか、無理矢理受け入れろと強制されたの間違いなような気がするけど、今は何も言わないでおこう。何より、ミコさんに傷を付けるような言葉や行為は御法度だ。


「出会ったばかりでまだお互いのことは良く知らないし、もしかしたら悪巧みを考えて旦那様に取り入った可能性だってあります。それなのに、どうして旦那様は私達のことをここまで大事にしてくれるんですか?」


「んな大層なことは全く考えてないんだけど……」


 でも敢えて言うのであれば……その答えは至って単純だ。


「……少しずつで良いから、身近にいる人達に愛情を与えられる人になってください」


「え……?」


「俺の大恩人がずっと覚えていて欲しいと、今でもたまに口にする言葉だ」


「大恩人……どういうことですか?」


「そういやミコさん達には教えてなかったっけか」


 どのくらいの期間か知らないが、これから共に暮らすわけだし、俺の身の上の話の一つや二つはしても良いだろう。


 リースとコヨミは未だに鬼ごっこを続けているが、ミコさんだけでも聞いてくれれば十分だ。別に絶対聞いてほしい話でもない。


「俺さ、実は孤児院育ちなんだよね」


「え? そ、それってつまり……」


「そっ、俺は捨て子だってことだ」


 と言っても、特に俺はこのことに関して気にしてるわけじゃない。ただ無責任な親に捨てられただけ。それだけで済む話だ。そこに嫌悪や憎悪といった感情は何一つない。


 何故なら、そのお陰もあって俺はアイツら――ミーナとウニ助に出会えたのだから。


「かなりのお人好しが俺を拾って育ててくれてな。そんな中、さっきの言葉を言われたんだよ」


 俺の育て親は、見ず知らずの人に無償で手を差し伸べることができる人だった。そんな人だからこそ、未来を担う子供達にも同じような人間に育って欲しいと思っているんだろう。


 俺はその期待に答えてやりたい。俺を救ってくれた人のために、あの人が望んでいるような人間になりたい。そして今の俺がある。


「確かに、ミコさん達とはまだ出会ったばかりで、一人一人のことはまだ殆ど知れてない。でも一緒に暮らすっていうことは、俺にとってそいつらは皆、大事な家族なんだよ」


「家族……私達がですか?」


「そーゆーこと。だから俺は無下な扱いをするつもりはない。ミコさん達が俺のことをどう認識してるか分からないけど、これだけは覚えておいてくれ。俺は皆を平等な家族だと思ってるってね」


「…………」


 ミコさんがポカーンとした表情で固まってしまう。更に、鬼ごっこの結末が訪れかけている状態のリースとコヨミもまた、俺を丸い目で見つめて固まっていた。


 硬直状態になるほど、この考え方はおかしいのだろうか? 人によっては馴れ馴れしい考え方だと思うだろうし、気味が悪いとでも思われてしまったか?


 やべっ、だとしたら結構心にグサッと来るものがあるんですけど……。


「…………す」


「……?」


 ミコさんが前髪で目線が隠れてしまう角度まで俯いたと思いきや、突然瞳をキラキラと輝かせて俺の手を握ってきた。


「素晴らしいと思います! 私、今一度旦那様のことを見直してしまいました!」


「あっ、そ、そうなの?」


「はい! 赤の他人を純粋に受け入れてくれるその優しいお心は、尊敬されてもおかしくないと思います!」


「そ、そこまで言われるとちょっと照れるというかなんというか……」


 今思えば、この事を身内以外に言ったのは初めてだった。どんな反応をされるかとひやひやしたが、悪印象どころか好印象に受け止められたようだ。


 ミコさんが尊敬の眼差しを向けてくる中、ズイッと他二名もしゃしゃり出て来ると、満足そうな笑みを浮かべながら俺の両隣に位置付いて、何度も首を縦に振っていた。


「正直、ただのイカれ狂っている愚人かと思っていたが、どうやらそれは間違いだったようだな。訂正させてもらうぞ愚人。貴様は心の懐が若干広めの愚人だったようだ」


「結局は愚人のままなのかよ。愚かしい人間のままなのかよ」


「まさか、可愛い純粋ピュアヤングだけでなく、クオリティの高い良心を兼ね備えた人だったとはのぅ。ほほほっ、ますます気に入ったぞにーちゃん。何かやたらとムラムラしてきた」


「最後が余計過ぎるんだけど。取って付けたような感じが見え見えなんですけど」


 ……これは余計なことを言ってしまったのかもしれない。見直してくれるのはミコさんだけで良かったのに、何でかこの二人にも良い方向性に見直されてしまった。更に気に入られてしまっては、更なる面倒事に巻き込まれかねないというのに。


 何度も肩をポンポン叩いてくる問題児二人組。はっきり言って蹴散らしたい。


「これでワシらも安心してにーちゃんと一つ屋根の下にいられるというものじゃな。にーちゃんの夜這いを警戒して、夜は裸で待ち構えておこうかと思っていたんじゃが、その必要は無くなったようじゃな」


「おかしくね? 警戒してるのに何時でも来いやと待ち構えてるよねそれ? 言葉の意味が噛み合ってないよねそれ?」


「そ、そうですね! これからは夜を警戒しなくても大丈夫ですね!」


「あれ? ミコさん? ミコさんも密かに俺をそう言う目で見てた感じ? 実は俺って信用皆無だったの?」


「あっ、い、いや違うんです旦那様! 私は旦那様を信じていましたが、万が一ということ考えていただけでして!」


「そういえば、家事狐は私と一緒に寝てくださいと強く言ってきていたな。あれは愚人を警戒しての行動だっただな。なるほど、抜けているように見えて色々考えているのだな貴様」


「あぁぁ! 余計なことは言わなくて良いですからリースさん!」


 いや、でも良く考えれば当然の対応だよな。嫁だ彼女だと言い狂ってる奴のところに来たんだから、そういうことを警戒しない方がおかしい。


 うん、俺は信用されないで正解の人間だったんだ! ハハッ、とっても胸が痛いや! 張り裂けそうでどうにかなってしまいそうだよ!


「だ、旦那様!? しっかりしてください旦那様!」


「あー、駄目じゃなこれは。信用を得ていなかったショックで酷く落ち込んでしまっとる。ほれ、瞳が闇に染められたように真っ黒じゃろう?」


「心が折れかけているようだな。全責任を負担しろ家事狐。発端は貴様だ」


「そ、そんなぁ! ごめんなさい旦那様! 私は信じていたんですよ! 七割くらい信用してたんですよ!」


「お主、やっぱり天然じゃろ? フォローの才能皆無か」


 その残り三割が俺の心を抉ってくる。たかが三割だというのに、この威力とは恐ろしい。これなら物理的な打撃で訴えてくれた方がマシだった。


 知らない方が幸せでいられることは沢山あると聞いていたが、まさにそれはこのことを差すのだろう。今後、ミコさんに対する態度は慎まないといけない。


「……騒々しいわね。随分と打ち解けてるみたいじゃない」


「……来たのかお前ら」


 自分の行いを見つめ直していると、屋上のドアからミーナとウニ助が乱入してきた。


「急に出ていったと思ったら、何をお祭り騒ぎ決め込んでんのよ。それとアンタ、瞳孔開いてるわよ」


「おい愚人、さっきも思っていたが、この馬の尻尾とミジンコは何者だ? 鬱陶しい程に馴れ馴れしいぞ」


「二人同時に話し掛けるんじゃありません。幼稚園児でも分かる『順番』という言葉を知らないんですか貴女方は?」


 しかし二人は俺の話を聞くことなく、今度は互いに向かい合っての睨み合いが始まった。


「誰が馬の尻尾よコスプレ野郎。何処ぞの帝国将軍でも気取ってんのかしら? 痛いわね、痛すぎるわね」


「ふんっ、いかにも小者臭がする駄犬のようだな。雌犬は黙って雄犬に後尾でもされ続けているがいい」


「初対面の人に敵対心向けてくるとか、どんだけ器小さいって話よね。あぁそっか、将軍様気取ってるだけで、肝心な中身は空っぽってわけね~? 中途半端なコスプレとかダッサ」


「ふふふっ、余程その顔をクレーターのようにして欲しいようだな。今なら無料で整形手術を施してやるが? まぁ、その生クリームしか詰まっていないであろう脳味噌は改善不可能だがな」


「あ? やるってのコスプレモドキ?」


「粉々に打ち砕いてやろうか駄犬?」


 バチバチと視線の火花が――いや、バリバリと強力な雷が生じる。触れれば感電死してしまうであろうくらいの黄色く迸る稲妻だ。


 似た者同士だから仲良くなれるんじゃないかと密かに思っていたが、どうやらそれは真逆だったらしい。似ているからこそ、気に食わない何かを無意識に感じ取っているのかもしれない。同族嫌悪ってやつだな。


 何にせよ、どちらも血気盛んでやかましいこったな。もっとこう、細やかな安らぎを求めても良いと思う。


「はいはいそこまでだよ二人共。出会い頭に喧嘩なんて良くないよ?」


 そろそろ仲裁に入ろうと思った瞬間、ウニ助が一回り早くその役を担ってくれた。


 だが、檻から解き放たれた獣達はその殺気を押し止めることはない。


「黙れウニ野郎。優男は都合の良い女に騙されて金を巻き上げられてろボケが」


「いかにも貧弱なミジンコの分際でこの私に指図するな愚図が」


「ア、アハハッ……これは僕にはどうしようもないか」


 優男のウニ助でも、あの二人を止めることはできない。本当のことを言うと、放置してほったらかしにしたいのだが、この二人が暴れたら間違いなく器物損害という被害が及んでしまうことだろう


 しょうがない。ここは地味なオチとか気にしてないで、奥の手を使うしかない。


「……コヨミ」


「ん? なんじゃ?」


 ニヤッと憎たらしい顔で笑う白髪。コイツ、間違いなく俺の思考を読んでやがる。


 だとしても、他に方法が思い付かないからやむを得ない。不本意だが、人知を越えてもおかしくない力を持つ奴等を止めるには、人知を越えている神様に頼むしかない。


「あの二人を止めてくれ。お前なら簡単だろ?」


「ほ~? さっきリース将軍にワシをシバけと頼んだにも関わらず、今度はその仇に頼るとな? 良いのかのぅ~? お主はそれで良いのかのぅ~?」


「うぐっ……」


 この野郎、自分が有利な状況だからって調子に乗りやがって……。渾身の一撃を叩き込んでやりたいが、今はその矛を抜いて暴れては駄目だ。


「それに人に頼み事をする時は、それなりに誠意を見せてもらわないと説得力に欠けてしまうと思わぬか? んん? お主にはそれが見えぬのじゃが、これはどーなんじゃろうのぅ~?」


 耐えるしかないのか!? ここは頭を下げるしかないのか!? こんなクソッタレ神様にしか頼る術が無いなんて、どんだけ情けない男なんだ俺は!


「だ、旦那様! 早くどうにかしないと、あの二人が今にも本格的な戦争を始めてしまいそうです!」


「ぬぐぐぐぐっ……」


 ええい、こうなりゃヤケだ! 男の威厳もプライドもクソもあるかっつーの!


 覚悟を決めた俺は、コヨミに向かって頭を垂れた。


「お、お願いします……あの二人を止めてくれ……いや、ください……」


 誠心誠意を込めてそう言うと、コヨミは満足そうに満面の笑みを浮かべ、


「い・や・じゃ☆」


 と言った。


 その笑顔は、俺のリミッターを破壊するには十分すぎる火種だった。


「アハハハハッ!! 確実にぶっ殺すっ!!」


「むほほっ、明らかに人が変わっとるのぅ。怖い怖い」


「その白い肌を真っ赤に染めてあげるわよゴラァ!!」


「ふんっ!! その絶壁にワックスを塗って快適な雪山にしてやろう!!」




~※~




 数十分後、俺を含めた四人による暴走のせいで、屋上のあらゆる物が崩壊した。


 その出来事は必然的に教師の耳に入ってしまい、俺とミーナは一週間の停学を下された。

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