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狐塚喫茶店1

作者: 沖裏

ジメジメした梅雨が終わり、雲一つない快晴日和。

木漏れ日差す公園で和気あいあいとベンチで喋っているカップルや

自転車に二人乗りで颯爽と走っているカップルがいる。

そんな気持ちのいい日なのに……

「幸せムード垂れ流しで、 なんて羨ましいんだ!」

周りの雰囲気を見て、渡道 晴都(わたみち はると)は嘆いていた。

「待ち合わせまで時間があるからと思い、こっちから通ってきたけど、

 こんな雰囲気を味わうくらいなら寄るんじゃなかったな……」

ため息をつきながら足早に公園を去り、待ち合わせの場所に向かった。


――待ち合わせ場所周辺に来たが、緊張のあまりまだ待ち合わせに2時間も余裕がある。

もう少し公園を散歩しながら気持ちを落ちつけ、それから少し時間に余裕を持って来る予定でいたので、どうしたものかと渡道は待ち合わせ場所周辺をうろついた。

待ち合わせ場所近くの商店街に入った所で、一軒の喫茶店を見かけた。

狐塚喫茶店(こづかきっさてん)

外見はレンガ造りの外壁…ではなくレンガ柄の壁紙が貼ってあるようだ。

そして木製の茶色扉が入り口となっている。

店の外にもほんのりとコーヒーの香りが漂っている。

「他に時間を潰せそうなところも無いことだし、この店でコーヒーでも飲んでるか……」

そう思い扉を開けた。


――カランカラン

「いらっしゃいませっ!」

扉に付いていたベルが鳴り、それとほぼ同時くらいにウェイトレスが出迎えた。

ウェイトレスは明るい声と笑顔をこちらに向けている。ネームプレートがあり、

蜜原 幹(みつはら みき)”と書かれており、見た目は自分と同じ高校生くらいの茶髪でショートの元気そうな女の子で笑顔を向け続けている。

店内を見渡すと空いている時間なのか客が見当たらず、カウンターの中に20代半ばの女性店員が居た。

ウェイトレスにカウンター席を案内された後、メニューを渡され

「お決まりになりましたら、 お声がけ下さい」

テーブル席の拭き掃除と雑務に移っていった。

メニューを開いて目を通していると

「お客さん。 注文決まったかい?」

カウンターの中から女性が肘をつきながら声をかけてきた。

後ろからウェイトレスが代わりに注文を取りに来ようとしたが、

カウンターの女性はそれを目で制してこちらに顔を向け、こちらの回答を待っており、

「いえ、まだ決まってないです」

「そうかい。今日はエビカツサンドがお勧めだよ」

「はぁ……」

曖昧にうなずいていると、女性はカウンター端の方を指差しそちらに目を向けてみると

小さめの黒板がカウンター上に置いてあり、

“本日のオススメ ぷりっぷりのエビのエビカツサンド”

チョークでカラフルに描かれていた。おまけに端の方にエビカツサンドらしき絵も描かれている。

朝は緊張してきたせいで朝食を食べてなかったので、サンドイッチならちょうどいい量だろうと思い、

「えーっと、 じゃあそれを1つ……」

そう注文すると女性はニカッと笑い

「ご注文ありがとうございます」

カウンターで肘掛けていた女性は立ちあがりカウンター横にある厨房で料理に取りかかった。

料理をしながら、雑務に戻ったウェイトレスに

「幹ちゃんお客様エビカツサンド一つ。 伝票よろしく!」

「もう紗江さん…注文取ってくれるなら、 そのくらいもやってくださいよ」

呆れながら、レジ横にある伝票用紙に記入していた。

そんなやりとりを横目に注文を頼み待っている間、手持無沙汰となり、スマホを開き”Rope”を確認してみた。

――“Rope”とはスマホアプリの一種で、無料電話やメッセージのやりとりができるアプリであり、最近ではメールよりもこちらでのやりとりが頻繁になっている。――

Ropeである人物とのやりとりを確認し直し、ふとため息が出た。

そしてしばし思慮に耽っていると、

「エビカツサンドお待ちっ!」

皿を目の前にそっと置かれ

「熱いうちにどうぞ」

女性はまたニカッと笑いながら、ナイフとフォークを皿の両脇に置いた。

目の前に置かれた皿の上の物を見ると、衣で覆われたエビが上下衣で包まれており、

さらにその衣の上下にはふわっふわのパンで挟まれている。

置かれたナイフフォークを見ていると…

「お客さん。なんだかスマホをよく見ていたから、食事中も気になるようなら、

パンで挟んでいるといっても、汚れないようにと思ってナイフフォークを置いただけだから食べ方はご自由に」

気遣って出してくれたのならばと思い、ナイフとフォークでサンドイッチを切り分け、一切れを口に運んだ。

揚げたてを感じるサクサクしたエビカツのうまみがあり、さらにエビカツを引き立たせる為にソースがかかっており、と色々と感じるものがあるが、そんな言葉よりも


“おいしいっ!“


の一言に尽きる。

つい一気に食べてしまいそうになったが、皿の横に置いていたスマホを見ると、

まだ待ち合わせまで時間があるので、ゆっくり食べようと思い、

つまみながら、スマホを確認していた。


――ふと気が付くと、皿に乗っていたエビカツサンドを綺麗にたいらげてしまっていた。

「お皿お下げしますね」

ウェイトレスの女の子が笑顔で食器類を下げていきカウンター内の流し台に運んでいった。

まだ時間があるが、このまま何もないままここに居座るのも駄目かと思い、メニューに手を伸ばそうとしたところ

「食後にコーヒーはどうだい?」

カウンターの中から女性が声をかけてきた。

メニューを取ろうとした手をひっこめ

「じゃあコーヒーを1つ…」

「ご注文ありがとうございます。」

またニカッと笑い、厨房に向かっていった。

コーヒー豆を取り出し、置いてある手挽きミルで豆を挽き始めた。

そんな光景を横目にスマホを見つめながら思慮に耽っていると、

「お客さん。何か悩み事かい?」

スマホから声のした方に目を向けると

女性は挽きながら、こちらに声をかけてきた。

周りを見渡すが他に客がいる様子がなく、自分に話かけられたのだと気が付き、

「えっと…」

急な事に言葉が見つからず、言葉に詰まっていると

「いや、なんだかお客さん店に入ってから、手持無沙汰になったと思ったら

 携帯を見ては、なんだか不安そうにしたり、ため息ついたりとせわしない感じだったから、気になってね。」

「あははっ…、そんな態度に出ていましたか…」

苦笑いしながら、周りから分かるくらいに態度に出ていたことを指摘され、恥ずかしさが出てきた。

「目の前でそう悩まれてると気になってね。もし何か貯め込んでいるんだったら、話してみたらスッキリするかもね。これでもこの店のマスターをしていたりと色々経験豊富だからよかったらどうだい?」

と胸元のネームプレートに

狐塚 紗江(きぬはた さえ)”と書いており、どうやら名字そのまま店に付けているようだ。

スマホに目を落とすとまだ1時間ちょっとある。初対面の人に相談するというのもどうかと思ったが、向こうから尋ねられていることもあり、このまま1時間もやもやしながら過ごすのも落ち着かないので、

「じゃあすみませんが、お聞き願います。」

そう言い、悩み事を聞いてもらうことにした。


――僕は高校1年で、親の転勤という理由で地元から離れた高校に通っていた。

その為、高校では知り合いが周りにおらず、なかなか友人ができなかったが、

1か月ほどすれば、4人程話す友人ができた。

夏にその友人にカラオケに行こうと誘われて行ってみると、友人4人だけでなく

クラスの女子4人もいた。

「男だけだとむさくるしいだろ?だから癒しをと思ってクラスの女子も誘った!!」

サムアップしながら、友人は言ったが、あまり話したことが無い人物と喋るのが苦手な為、

気後れしながらもカラオケに行った。

室内では盛り上がっていた……自分を除いて。

入るとどうやら友人達は同じ中学出身で中学の頃の話で盛り上がっている。

そんな空気の中居続けるのも大変なので、飲み放題のドリンクを注ぎに行った。

「…困った。まさかこんなノリになるとは。中学の話しとかされても分からないって」

とぼやきながら、皆の分のドリンクを注ぎ、

「仕方ないか…。」

今日は耐え忍ぶかと思い、注いだドリンクを運ぼうと思ったが、

全員分の為量があるので、トレーが近くにないか探していると、

「渡道君大丈夫?」

後ろから声をかけられ振り向くと、そこに一緒に来ていた女の子の

木山 春奈(きやま はるな)がいた。

「木山さんありがとう。ただこの人数分なら持っていけるから…」

丁度トレーを見かけそれを掲げながら言うと、

「そっちじゃなくて、渡道君楽しんでる?」

そう言われ、ドキッとした。気まずくしてはいけないと思い、

「楽しんでいるよ。せっかくの大人数だしね。」

笑ってみせたが、

「嘘。ちゃんと笑顔できてないよ。」

少し睨まれながら言われ、言葉に詰まっていると

「皆中学の頃の話とかしだしちゃったしね。渡道君も地元じゃないのにね。」

「”も”ってことは木山さんも?」

「…私もこの地元じゃなくて、少し離れたとこから通ってるんだ。」

木山さんは苦笑いしながら言い、

「だから皆が中学の話し始めたからなかなか入れずいたけど、渡道君がドリンクを注ぎに行くのを見て、丁度いいタイミングと思って抜けて来たんだ。」

「そうだったんだ。木山さんもだったなら良かったよ。自分一人入れずにいるかと思って落ち込んでたところだから。」

「そうだよね。さっきも”…仕方ないか。”ってぼやいてたもんね。」

「聞いてたの?っていうかいつから?」

「いつだろね?そんなことよりそれ持っていくの手伝うよ。」

いつから聞かれていたんだと思いながらも、手に持ったトレーを思い出し、

「大丈夫だよ。これで持っていけるから。」

トレーを再度アピールしながら言うと、木山さんはくすくすと笑いながら

「それ使い終わったコップを置く為の物だよ。それを持っていっちゃだめじゃないかな?」

「えっ…」

持ってきた所をみると、確かにドリンクバーの横に置いてあり、飲み終わったコップはこちらにと看板が掲げてあった。

「ははっ…、つい。」

慌てていたとは言え、そんな所のを引っ張り出してアピールしてしまってたとは、恥ずかしく思っていると、

「それにさっきも言ったように、部屋の中の会話に入っていけないから渡道君と一緒なら問題ないでしょ?」

朗らかに笑いながら、尋ねてきた。

「僕もそうだから、じゃあお願いしようかな。」

コップを6ケ持って残り2つ持ってもらうようにお願いした。

そしてそのあと部屋に戻っても木山さんと話しながら、楽しく過ごせた。


それから文化祭の時期が近づき、

クラス内で文化祭実行員を決めることとなり、男子は僕と女子は話したことが無い人だった。

それでもなんとかやっていて、僕たちはパンフレットの冊子作成を担当となっていたが、

「ごっめーん。今日用事あるから、あと渡道やっといてくれる?」

強引に押し付けられ、断る前に帰っていってしまった。

「全く押し付けて帰られるとは…。仕方ないか…。」

ため息をつきながら、冊子をホチキスで止めていると、

「渡道君大丈夫?」

後ろから声がして、振り返るとそこに

「木山さん…どうしてここに?」

「忘れ物を取りに来たら、渡道君の姿が見えて。それより質問に質問を返さないでよ。」

「いやっ、誰もいないと思ってたから、驚いて…。冊子の作成と言ってもまとめるだけだから大丈…」

言いかけたところで、木山さんに両手で頬を挟まれ、

「大丈夫じゃないでしょ?そんなにも量があるのに…」

僕の後ろの方を見ながら言う。確かに量があり、一人ではこなしにくい分量である。

「それにさっき”仕方ないか…”ってぼやいてたでしょ!」

頬を挟んでいた両手を振りほどき、

「ってまたいつから居たの?」

「いつだろね?今日は暇だから手伝ってあげるよ。」

そう言い、後ろにあった冊子の束を掴み手近な机に置いた。

「じゃあお願いしようかな。」

それから二人でやり、その後ももう一人の実行員が度々いなくなることがあり、

その度現れては手伝ってくれた。


文化祭が無事終わった。

その頃には僕の中には木山さんに好意を抱いていることが分かり、

木山さんを文化祭手伝ってもらったお礼にということで、今日誘うことにした。

それであと少ししたら一緒に遊びにいくことになっているのだが…


――「今日木山さんに告白をしようと思うのですが」

と相談の核を告げると、

「そうなんですね!」

横からウェイトレスの女性が興味しんしんとした表情で言ってきた。

「うまくいくといいですね!!」

「ほんとうまくいけばいいんですが…。ただ木山さんとは何度か話しただけで、それに僕は特にクラブとかで活躍してるとかでもないから…」

「それでも一緒に作業した仲じゃないですかっ!」

「そうは言っても、他にも今日の占いでは恋愛運が良くなかったし、振られるんじゃ…」

ため息をつきながら言うと、ウェイトレスはそんなことないですよと励ましてくれた。


「お客さん。振られるね。」


カウンターの中にいるマスターはドリップにお湯を注ぎながら、言ってきた。

「えっ。」

マスターの開口一番の言葉に驚いていると、横からウェイトレスが、

「紗江さん!何を言ってるんですか。そんな振られるなんて…」

ウェイトレスが代わりに反応して、マスターはお湯を注ぎ終わり、こちらを振り返り、

「お客さん。一つ聞きたいけど、その木山って子のどこに惚れたんだい?」

「それは…気が合うとこや困っている時に手伝ってくれる優しさとかに」

「そうだろう?そういう彼女の良いとこがあって惚れてるんだねぇ。」

腕を組みながらマスターはうなずき、そう改めて言われて照れていると、

「それなのにお客さんのいい所はどこだい?」

ハッとして、マスターの顔を見ると、

「お客さんの話だと、いい所がないじゃないか。お客さんは彼女のいい所に惹かれたのに、お客さんがいい所が無いってんじゃ向こうは惚れる訳がないじゃないか。」

そう言われて、確かに何も思い浮かばず、言葉に詰まっていると、

「と、まぁ厳しく言ってみたけど、カラオケや文化祭で声をかけてくれたんだろう?嫌な奴にわざわざ声をかけたりしないよ。」

そしてニカッと笑い

「それに占いが悪いって言ってても、文化祭の時に一緒に手伝ってもらったことや、今回の誘いにも来てくれているんだろう? それが占い程度で積み重ねてきたものがダメになるわけ無いじゃないか。」

マスターの笑顔とその言葉にポカンッ

確かに僕は色々ネガティブに考えてしまっていたけど、そういう風に考えてもいいんだ。

「まぁ不安になるのも仕方ないけど…」

言いながら厨房に向かいちょうどドリップの終わったコーヒーを持ってきて、

「このコーヒーを飲んで、少し落ち着いてポジティブに考えてみたら?」

コーヒを差し出され、砂糖、ミルクを溶かし飲むと

温かさと、苦みの中の砂糖の甘さを感じ、少し不安に思っていた気持ちが晴れた気がした。


――そのまま飲み終えると待ち合わせまであと15分となっており、会計を済まし、

「今日は相談に乗っていただきありがとうございました。」

マスターに向かって感謝を告げると、

「いえいえ。お客さんもこれから頑張って。」

朗らかに笑いながら言い、

「有難う御座いました。」

マスターとウェイトレスは告げ、僕は出て行った。


「よし、頑張るかっ!」



――以上で終了


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