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みんな仲良く  作者: 夕顔
5/8

 趣味は大切だ。


 大久保さんと昼食を食べている時に趣味についての会話になった。

 私の趣味は美味しい物を見つけて食べる事で、先日見つけた飲食店について手元の蕎麦を食べるのも忘れ、張り切って説明をした。


 ふとあまりに夢中になり過ぎたと気付き、笑顔で黙って聞いていた大久保さんに申し訳なく思い口にチャックをした。

 彼と趣味が似通っているのならまだしも、興味の無い話を一方的に聞かせるなど失礼な事をしてしまった。

 まして私は彼にとっては部下である。


 すると大久保さんは

 「良いんだよ。

  仕事が趣味になっている人よりずっと安心だ。」

と言った。


 私は驚いた。


 「大久保さんみたいに主任になると、仕事が趣味の人こそ部下として安心するものだと思っていました。」


 彼は笑って否定をしてから

 「そういう傾向の会社もあるかもしれないけど、個人的に時間対効果を考えた時、そうではないんじゃないかと思うんだよね。」


続けて驚いた事に


 「俺はこの部署では進藤くん以上に会社のために頑張っている人は居ないんじゃないかと思うよ。」




 私は非常に不思議だった。

 私などのような部下とたまに食事をして談笑をする大久保さんが、あの進藤さんをそのように評価しているなど意外だったのだ。


 確かに我が社の傾向的に残業をしないのは会社に貢献していると言える。

 更にAさんを始め、顔色が悪かったり伸び悩みをしている社員を引っ張り上げたのは進藤さんのようだ。

 しかし相変わらず表情が乏しく「仲良くする必要は無い」と言う彼が、そこまで会社を思っているとは考えにくい。


 それにまるで対称的な「わきあいあいチーム」も、彼達なりに会社や仲間を思い頑張っているのではないだろうか。

 まして端から見ると進藤さんより「わきあいあいチーム」の方がイメージが良い。




 「俺が前にいた支社では、時間対効果になるにあたって即成果を見せた社員は、プライベートが忙しそうな子だったよ。

  ただそういう子はなかなか隙が無くてねえ。」


 大久保さんは懐かしそうに微笑みながら途中までそう言うと、しまったという顔をして

 「蕎麦驕るからこれは秘密にして。」

と手を合わせた。




 大久保さんは社内に気になる女性がいたのだろうか。

 とりあえず昼食代が一食分浮いたのは有難いので、私は秘密を約束して蕎麦を平らげた。




 思えば隙が無いのは進藤さんも同じように思う。

 彼のプライベートは忙しいのだろうか。

 だから残業を嫌がり、毎日定時で帰るのだろうか。






 そのような事を考えていると、もしかすると「わきあいあいチーム」が残業や飲み会が多いのは、趣味もプライベートも会社以外に無いのではないかと思えてきた。


 私は同郷の友人と食事をしたり自分の趣味を楽しむ時間があるが、彼達にはそれが無いように見える。

 そして彼達と比べると自分のスタンスは会社に対して薄情な気がして、どこか彼達の方が偉いと思ってきた。




 ここにきてようやく先日考えたというのに根本的な部分を忘れていた事に気付いた。


 首都圏出身者が多い「進藤組」は学生時代からの友人も家族も趣味も、何も変わらずここにある。


 地方出身者が多い「わきあいあいチーム」のそれは、一部の趣味を除いてこの東京には無いのだ。




 彼達が毎日飲み会を開く裏にこれがどれ程絡むかは分からないが、「東京は冷たい」と言われる事には関係があるのではないだろうか。


 彼達が幼い頃や学生時代に培ってきたプライベートと、社会人になってから上京した私達のプライベートが全く同じとは思えない。




 上京組がそこに入りこむ事を求めるにあたって、首都圏出身者は何を思うだろうか。


 「土足で入り込んでくる」


 そう思うのではないだろうか。




 恐らくお互いにベストなのは、少しずつ信頼し合い歩み寄り、プライベートが重なる事であり、それまでの間は自分なりの趣味や生活や同郷者との関わりを楽しむ事。


 会社を冠して強制をかけるようでは、仲良くする本質的に本末転倒となる可能性が非常に高い。






 進藤さんが言う

 「仲良くする必要はない。」

というものの一つが見えた気がする。

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