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暫くしてまた変化が起きた時、私は進藤さんという人間を少し理解する。
全く仕事ができないと評されて、これまた元気が無く顔色が悪かったBさんがメキメキと成長し、顔色も良くなったのだ。
そしてやはりBさんも進藤さんには元気に話しかけるようになった。
そこでBさんに聞いてみた。
「最近Bさん調子良いですね。」
するとBさんは
「進藤さんは凄く知識があって教えるの上手だから本当に助かるよ。」
と笑顔で答えた。
どうやら進藤さんは仕事が相当できて教え方が上手いようだ。
しかしそれにしても仲良くする事と残業を好まない彼のイメージからは意外な気がした。
ある日のテレビ会議。
会議内容は東京本社主体の新しいプロジェクトについてだったのだが、他県の支社長が案件について噛みついた。
出世欲の塊の彼はこのプロジェクトが成功すると東京本社のチーム評価が非常に上昇するため、自分の直属の管轄下以外の部下の評価が上がる事を面白く思っていないのだ。
噛みつき方も噛みつく内容も私は理不尽さを感じたのだが、支社長となるとこの会議参加者全員にとっては上司だった。
そしてオフの際には皆をお酒や食事に連れていってくれる面倒見が良い上司を邪険にもできない。
プロジェクト担当だったCさんは汗をかきながら対応をしていた。
何しろこの支社長によって潰されたプロジェクトは星の数程あるのだ。
次第に東京本社のスタッフが
「まあそうですよね。」
「ちょっと検討する必要がありそうですね。」
という具合に支社長の怒りと場の雰囲気を取り繕うべく、そのような会話をしはじめた。
この流れでは今回のプロジェクトも潰れる事になるのだろうかと私は少し残念に思った。
支社長は一度火がつくと感情的になり聞く耳を持たない人なのだ。
すると突然進藤さんがマイクを持ち、淡々とCさんに代わってこのプロジェクトの正当性と支社長の疑問に対する答弁を始めた。
彼のとった行動が気に入らない支社長はさらに感情的になったが、進藤さんは表情を崩さず時間をかけて理詰めで対応をし続け、最後には支社長の方が折れる結果になった。
そして最後に
「この説明にこれ程時間がかかるなんて思いませんでした。
これからはそれ相応の説明の仕方を検討しないといけませんね。」
と進藤さんが無表情で言った所で、先日転勤してきて急遽チーム入りした主任の大久保さんがマイクヘッドを掴んで
「進藤くん言い過ぎだよ。」
と小声で言って首をふった。
進藤さんは暫く無言だったが無表情のまま
「仲良くする必要は無いんですよ。」
と言った。
周りの人間は凍り付き、進藤さんを見ていた。
その後プロジェクトは成功して東京本社チームは社内表彰をされる事になった。
進藤さんは当然のように支社長に嫌われ、「わきあいあいチーム」からは
「自分の事しか考えず、目上の人間を敬えない冷酷で気が強い人」
という評価をされた。
だが「進藤組」にはCさんと大久保さんが加入したようだった。
Cさんと大久保さんは
「進藤さんとは仕事がやりやすい」
「進藤くんが一番だろうな。」
と言っていた。
朧気ながらに進藤さんが見えてきたように思ったのだが、彼の言う通りに仲良くする必要が無いかとなると、やはりそうでは無い気がする。
「進藤組」が増えていく事で「仲良くなる」という事象が発生しており、それを不必要と言うのならば今までの彼のアクションは違うのではないかと思うのだ。
職場の雰囲気も仲が良いかそうでないかではかなり違うとも思う。
皆が良い顔で仕事をする環境は大切ではないだろうか。
「わきあいあいチーム」は私と同じように思ったのだろう。
「普段から支社長とコミュニケーションを密にしていれば、支社長のプライドを損ねずに違う方向からアプローチができたはずだ。」
と言う。
だが私は完全に「わきあいあいチーム」の肩を持つ訳ではない。
何故なら、進藤さんを冷たいと彼等は言うが、「わきあいあいチーム」に属していなかった人達が、こうして少しずつ息を吹き返しているのが現状なのである。
私は引き続き進藤さんを監視する事にした。