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みんな仲良く  作者: 夕顔
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 私の職場は地方に本社がある世間的にはマイナーだが創業からの歴史は長く、一応上場企業だ。


 そのためかここは東京都内なのだが地方出身者が多く、割と仲良くわきあいあいとしている。

 そういう私も地方出身者で異動によって上京した口で、東京在住の同郷の仲間とたまに愚痴をこぼし合いながらもお陰様で楽しく過ごしている。


 だから

 「東京は冷たい」

などという噂を痛感する事もなく、満員電車と人が多すぎて疲れていると時々酔ってしまう以外には健やかに生きている。


 そして何より私は美味しい食べ物を探すという趣味があり、飲食店や地元では見た事の無いコンビニやファストフード店が溢れる都内を探索できるのは、さながらゴールドラッシュに辿り着いたジョン万次郎にでもなった気分である。




 しかし、最近わきあいあいとした職場に不穏な空気が流れているように感じている。


 私の推理が正しければ、吹き出し口は先日他部署から異動してきた進藤さんだと思われる。

 進藤さんは中途採用で東京生まれの東京育ちで年齢は30歳あたり。

 全く生活観を感じさせない上に表情が乏しく、本人の背景や腹の中が全く見えない喰えない男性だ。


 彼は基本的に飲み会は強制のものでなければ参加をせず、他の社員が遅くまで残業をしている中でも毎日定時帰りをする。


 かと言って不思議な事に孤立している訳ではなく、気付いたら彼に親しく話しかける人が増えている。


 しかしやはりというかあまり彼を良く思ってはいない人間も多くいて、イメージとしては「進藤組」が出来上がっているような雰囲気だ。


 私はその部署の雑務担当の事務員なのであまり関わりを持たないのだが、この様子に少し違和感を感じていた。


 同じ事務員で少し年輩の先輩女性社員は

 「そんなものよ。仕方ないって。」

と笑って言うが、私は部署の平和の行く末と彼の言動の謎に興味を抱き、暫く監視をしてみる事にした。






 きっかけは「進藤組」が誕生した一月程前だった。


 彼は異動してきてから基本的に職場ではあまり無駄口を開かず、他の社員と違い常に黙々と作業をしていて、飲み会に誘われても断り続けてきた。


 わきあいあいでお酒が大好きな人達が多い職場では当然

 「あいつ付き合い悪いやつだな。」

という印象を持った人がたくさんいた。




 ところが間もなくして、まるでうつ病になりそうな程ずっと顔色が悪かった一人の社員Aさんが、顔色がケロリと良くなり進藤さんにだけは元気に話しかけるようになったのだ。


 私はAさんの顔色の悪さをとても気にかけていたので大変嬉しく思い、就業時間後にエレベーターへ向かう進藤さんに

 「Aさんに何か言葉をかけたんですか?

  彼顔色良いですね。」

と話しかけた。


 すると彼は

 「仲良くする必要はないんだよ。」

とだけ答え「お先します。」と言うとエレベーターに乗り、去って行った。




 私は全く意味が分からず首を傾げて立ち尽くした。


 顔色が悪かった彼が元気になった背景を知りたかったのだがこの答えは一体どういう事なのか。

 私に近付くなという意味なのだろうか。

 仲良くなる必要が無いと言いながらAさんとは親しくなったではないのか。




 全く分からないと思い、今度はAさんに聞いてみる事にした。

 「最近進藤さんと仲が良いですね。」

すると私の言葉に対しAさんは

 「進藤さんは凄く良い人で理解がある。」

と笑顔で答えた。




 こうして進藤組が出来上がり、全く意味が分からない私は進藤さんという人に興味を持ち、彼の動向を監視する事にしたのだ。

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