双子のパラドックス ~影宮奏夢~の場合
「私立小田原工科高等学校。超能力者が意図的に集められた学園。日本の第二次高度経済成長時に一次産業と二次産業が大きく発展したのは、この学校の影響とも言われる。宇宙産業の多くを日本が占めていることもこの学校が大きく影響している。運動にも力を入れていて、国内で名前を知らない人はいない。日本中から優秀な人材が集められ、周辺に学園都市を構成している。だそうだ、オーバーロード」
「ーその名前はあなたの方がふさわしいと思いますが。私はただのAIですからー」
「この学校の存在は計画の大きな障害だな」
「ーそうです。多くのアトランティスの生き残りが在席しています。同時に人類の組織がバックにある可能性があるため下手に動けませんー」
「一度は地球を支配した身、次は宇宙全体を支配してやる」
「ーマスターなら簡単でしょうー」
「そういえば、最近エネルギー解放があったそうだが?」
「ーはい。場所はあのオリハルコンの結晶の中ですー」
「厄介者だな。神楽坂碧、今後こそはお前の好きにはさせない」
「ー私も尽力を尽くしますー」
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皮肉なものだ。
ふとそう思った。俺は星陰学園に入学した。いまは小田工に学力遠征で来ている。別に、日本一の進学校に行けなかった訳じゃない。簡単に行けただろう。ただ、俺の計画の大きな障害であるこの学校のこうも簡単に入れるとは、思ってもなかった。いま一年生主席五人で来ているが、この五人は実のところ、計画の同志である。
向こうも同じく、因縁のライバルの神楽坂が出迎えてくれると思っていたが、そうではなかった。
遠征と言ってもただ一緒に授業を受けるだけで、特に勝敗もなければ学力が上がる訳ではない。現に星陰で主席五人より学力のある教師は誰一人としていない。先生が手に終えないからここに飛ばして、やる気をなくそうとでも思っているのだろう。しかし実際、やる気がなくなったのは小田工の先生だった。
「一辺の長さが5である正四面体ABCDの体積はいくつだ」
「12分の125√2ですけど。それがどうしたんですか?先生」
「............」
どうやら先生は固まってしまったようだ。普通、高校入学してから少しの間で正四面体の体積の公式を覚えるやつなんていないからなぁ。そんなことを考えていると、先生はどこかにいってしまった。そして出てきたのは、神楽坂と瑠璃川氏の娘さん?だった。
「久しぶりだな、神楽坂。ここでも当然主席なんだろ」
「影宮......そんなこと話している場合じゃない。」
「お嬢さんもこんな化け物みたいな学力に脱帽しただろう」
「誰、このチャラいやつ」
「おいおい、チャラいとはひどいな」
「新人教師に本気を出すのもいい加減やめたらどうだ?」
「あれで教師とは笑わせる。この学校にはもっとましな教師はいないのか?」
「どうせ、この学校の名誉教授でも物足りないって言うんだろ。中学の時みたいに」
「名誉教授って、私の父じゃない。講義を受けたことあるの?」
「確か君もいたんじゃないか?娘さんよ」
「いい加減からかうのはやめろ!いまは私が先生だ」
「はいはい、そうですか。だったら楽しませて貰おうか」
「授業を始める」
そう言って楽しい時間が始まった。でも話についていけたのは、俺と神楽坂と瑠璃川だけだった。
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二泊三日の遠征は一日目が終了した。いくら私立でも広すぎだろ、この学校。そう思ったのもこの学校には、スタジアムとドームが併設されオリンピック級の体育館が2つ。実験施設や工業用ロボットがある技術棟に大きな宿泊施設もあり、外部からの選手や生徒が来やすいように駅も作られている。からだ。
この学校は確か国が作ったあとUNITYが買って運動施設を作ったんだよな。UNITYの総資産は十兆円とも言われる。それだけあればこんなの簡単にできるわけだ。この学校が邪魔だと知っているのは、おそらくあの人と神楽坂だけだろう。
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この学校には学園祭が近づいていた。
ー小田工祭ー
1週間かけて運動部は招待試合をしたり、クラスで何か売ったりする。普通の学校とあまり変わらないことをする。唯一他と違うのは、教師が全員旅行に出掛けていること。期間中はすべて生徒会が切り盛りしている。つまり、その期間がもっとも弱く、緊急事態に対処できないということだ。
今回の遠征で下調べができたのは、幸運だった。いろんな生徒が案内を配っていたからだ。具体的な計画を立ててこの学校を落とそうと心に決めた。
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遠征から戻って来てから計画を立てている時、月見里黄泉が話しかけてきた。
「本当に落とせると思っているの?」
「当たり前だろ。先生があれなら生徒はもっとだ」
「もっとも、神楽坂がどんな対策をしてるか、それがわからない以上勝ち目はないわ」
「本当に邪魔者だなぁ」
「そんなに急がなくても、時間はあるでしょ?」
「大いなる力が解放されたのは知ってるか?」
「ええ、もちろん」
「その力は意図的に消すことができる。アトランティスの奴らは新しい量子コンピューターのシステムを作ったら、いまあるやつは破壊するだろう。そうしたら、もちろん力はなくなる」
「永遠に、ってことね」
「あぁ、だから力のあるうちに終わらせないと」
「私たちの負け」
「その通りだ」
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彼らには同じ目標があった。一万2000年前、アトランティスによって滅ぼされたムー帝国。ムーの指導者は世界の文明を裏から支配し、アトランティスを減らしていった。あと少しでアトランティスは絶滅し、ムー帝国の再興と宇宙全体の実権を握るという大きな目標だ。
アトランティスの生き残りは人類だけを生かし、残りの第二、第三の生命体は絶滅する計画だ。
人類の未来は他の生命体によって決まることとなった。