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魔法が使えないから人間やめました(改訂前)  作者: 星影
第二章 呪われた島の鋼
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第八話 旅は道連れ

 潮風が軽く髪を通り抜けていく。中天に昇った陽は燦々と地を照らし、白い壁が輝いていた。その遥か向こうには蒼き海が果てしなく広がり、水平線が空と繋がっている。

 サウスコーネ王国随一の港町、ナナミー。私はモルテガ島へと渡る船を求めて、この北のはずれの街までやってきていた。ここからさらに快速魔導船に乗り、丸一日かけたところにモルテガ島は位置する。事前に買った資料によると、モルテガ島は割合人口の多い島のようで、三日に一本定期便が出ているそうだ。


「割りと賑わってるじゃないか」


 あの後仕立てた特注の黒いコートを揺らしながら、私は街の喧騒の中を進んでいく。観光地も兼ねているこの街は、王都とはまた違った独特の雰囲気があった。質実剛健とした建築が好まれる王都とは違い白壁に彩られた建物は華やかで、その間を歩く人々の服装も南国風の軽装だ。特に女性の服装は体形を強調するような露出度の高いもので、肩に乗せている猫の視線が危ない。

 そうしてしばらく進むと、港の入口に差し掛かった。停泊する白い船体が見えてくる。視界を占拠したその船は途方もなく大きかった。乗車口と思われる位置に人が列を為して並んでいるが、それがゴマ粒ほどの大きさに見える。魔導機関の物と思われる煙突が四つ高々と聳えるその姿は、さながら山脈だ。

 私は列の最後尾に並んだ。すると、何やら先頭から言い争うような声が聞こえてくる。一人は船員と思しき年かさの男、もう一人はどこか聞き覚えのある若い女の声だ。


「ちょっと、どうして船が出ないのよ?」


「現在、モルテガ島周辺の海が荒れているんです。ですからそれが収まるまで、船の出港を延期させていただいております」


「そんなこと言われたって、私たちギルドの依頼を受けてんのよ。船が出てくれなきゃ困るわ!」


「そう言われましても出せない物は出せませんよ!」


 声はそこで途切れた。代わって、先頭から大きな足音が聞こえてくる。そうしてこちらへと歩いてきた一団の顔に、私は少し驚いた。


「こんなところで会うなんて、まさにこれは運グボァ!!」


「フィーネじゃないか」


 前から現れた冒険者の集団は、なんとフィーネたち風の輪舞ウィンド・ワルツだった。王都からかなり離れた場所だというのに、まったく珍しいこともあるものである。向こうもかなり驚いたようで、疲れた顔をしていたフィーネは一転、顔をほころばせた。


「ファースト! 珍しいわね、何しに来たの?」


「武器を造ろうとしたらメルカ鋼とかいう材料が必要になってな。それでモルテガ島に行くんだ。フィーネたちこそ、どうしてだ?」


「モルテガ島の鉱業ギルドから魔物駆除の依頼を受けてね。だけど駄目、船が出ないらしいわ」


「船が出ない?」


「そうよ、何度頼んでも駄目。モルテガに行く船はこれ一本しかなからお手上げよ」


 フィーネは両手を上げると、顔を横に振った。その顔には諦めが見て取れる。その隣に立つマルや倒れているケインも同様に、顔に諦めを浮かべていた。

 視線を彼らからそらし、水平線の先へと投げる。私の人間を外れた視力で見ても、モルテガ島の影は微塵も見えない。快速魔導船で丸一日との触れ込みから考えると、ざっとここから二百リーグは離れているだろうか。


「うむ……漁民にでも船を借りるしかなさそうだな。泳いでいくには少しばかり遠い」


「泳ぐってあんたね……。船を借りるのには賛成、手伝うわ」


「借り賃の当てはあるか? たぶん高くつくぞ」


「心配しないで、お金なら依頼料を前金でたっぷりもらってるから」


 フィーネはポンと胸元を叩いた。金を持っているというのは嘘ではないようで、ジャリッとぎっしり詰まった硬貨のこすれる音が聞こえる。……山が揺れたのを血眼で見ている連中が居たが、私には関係ないので放置しておこう。

 そうして私とフィーネは船を借りるべく港のあちこちを回った。しかし、中々船は借りられない。というよりも、モルテガまでの遠洋航海が出来る船を持っている人間が少ない。漁の帰りだという人間に話を聞くと、この地域では近くに豊かな漁場があるため遠洋漁業などしないとのこと。おかげで小型船があれば十分事足りるらしい。

 貨物を載せる大型船などもあるにはあったが、そういった船はもうすでにずいぶん先まで予定が決まっていた。わざわざその予定を変更してモルテガ島まで行ってくれるという酔狂な船主は現れない。加えて、モルテガ島周辺は大荒れだそうでいけないことはないがかなりの危険が伴うとのこと。

 船に乗れないうちに、いつしか高かった日は水平線に沈みかけていた。街は黄昏に染まり、荒涼とした風が抜けていく。


「ぜんっぜん見つからないわね。こりゃ諦めた方がいいかもしれないわ」


「潔く待つか」


「……できないものは、できない」


「ふ、僕はファーストさんの意見に全面的に従うよ」


 一人変だったが、およそ全員の意見が一致した。私たちは今日の宿を取るべく、街の方へと戻っていく。するとその時、一人の少女がこちらへと駆けてきた。どこかの制服のようなパリッとした服を着た彼女は、私たちがそれぞれ武器を――私は素手だが――を手にしていることを確認すると、声をかけてくる。


「あのー! もしかして、みなさんはモルテガ鉱業ギルドの依頼を受けてる冒険者さんですか」


「ええ、そうよ。こっちの黒いコートを着たファーストは違うけど」


「よかった! 私、モルテガ鉱業ギルドナナミー支部のエリーゼと申します。定期便が欠航していると連絡が入ったので、冒険者さんたちが困ってないかと捜してたんですよ」


 エリーゼはほっとしたような顔で言った。この広い港町、捜すにはそれなりに苦労したのだろう。走りまわっていたのか、少し息も上がっていた。


「捜してくれるなんてずいぶん気が効くじゃない」


「当然ですよ。例の冒険者襲撃事件が発生して以来、うちの依頼みたいな王都から離れた場所の依頼はてんで引き受けてもらえないらしいですからね」


「そういうことか。だけど悪いけど、このままだと依頼をこなせないかもしれないわ。ずっと拘束されっぱなしってのも困るし……」


 フィーネは少しばつが悪そうに言った。すると、エリーゼは任せろと言わんばかりに胸を張る。……張っても私の半分もないが。


「大丈夫です、ギルドの船がありますのでそれで皆さんをお送りしますよ」


「それは助かるわ! でも、嵐は大丈夫なの?」


「通信球で確認してみましたが、船が出せないほどではないとのことです。多少の危険は伴いますが、こちらとしては一刻も早く魔物を討伐していただきたいので……」


 エリーゼは少し言い淀んだ。多少ではあるが危険があることに負い目を感じているようだ。それを察したフィーネは二カっと笑って見せる


「危険がこわくて冒険者なんてやってられますか! みんな、乗るわよね?」


「もちろん!」


 二人の声が重なった。私もこれに便乗するべく、声を出してみる。


「ついでに私も乗せてもらっていいか? 魔物退治ぐらいならいくらでもこなすが」


「えっと、お連れの冒険者の方ですか? 構いませんよ、ぜひ乗っていってください」


 こうしてとりあえず、私はモルテガ島への足を確保した。話ができ過ぎているような気がするが、まあ問題ない。いざというときは『潰せば』済む話だ――。

感想で指摘を受けた点と誤字を修正しました。

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