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魔法が使えないから人間やめました(改訂前)  作者: 星影
第一章 冒険の始まり
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第五話 酒とハウンド

 ギルドの裏側より広がる繁華街。酒場や宿がひしめき王都らしからぬアウトローな雰囲気あふれるその一角は、冒険者たちの不規則な生活を反映してか夜でも魔法灯の光が煌々と灯っていた。近づくだけで酔いそうな千鳥足の男、春を売る妖艶な女たち。さまざまな人々が雑多に行き来している。

 その往来からやや外れたところにある小さな店、幸来屋さちくるや。東方からやってきた店主が開いたというこの店は「焼き鳥」なる料理を出すことで最近話題らしい。フィーネのとりなしで無事報酬を受け取った私は、彼女たちのPTに誘われてこの店へ来ていた。もちろん、代金はフィーネ持ちだ。


「お前たちがそれなりに名前の通ったPTだったとはな。意外過ぎて笑いそうになった」


「あんたが化け物なだけで、私たちそれなりに強いのよ? 期待の若手チームなんだから! 私なんてダブル昇格の最速記録候補よ!」


 サケを呑み、少し顔が赤くなったフィーネが口をとがらせた。酔うと興奮するタイプなのか、先ほどから怒鳴るようにしゃべっている。いわゆるからみ酒という奴だろうか、私の方を見ては妙に敵意をむき出しにしていた。

 そんな彼女の横からケインが顔をずっと顔を出してきた。


「ま、今となっては最速記録を造るのは間違いなくファーストたんだろうね。フィーネじゃ無理無理」


「ケイン!? あんた一体だれの味方よ! というか、ファーストたんって何!?」


「ふふん、僕はいつだってナイスバディなお姉さんの味方さ。で、ファーストたんっていうのはもちろんファーストさんの愛……ブボア!!!!」


 また汚いやつを殴ってしまった。変な菌とか付くと困るのでおしぼりを取ると、手を丹念に拭く。隣にいたフィーネの赤ら顔が普通に戻ったが、気にしないでおこう。こういう奴は頑丈と相場が決まっている、床にめり込んだところでたんこぶが一つ出来るぐらいで済むはずだ。


「あんた容赦ないわね」


「普段なら殺してる。バカは殺しても治らないから殺さないだけだ。無駄なことはしない主義なのでな」


「あ、そう……」


 フィーネが黙っているうちにセイシュとやらを一口煽る。澄みきった水のようでありながら、辛みのある独特の酒精が心地よかった。キレとでもいうのだろうか、喉を通り過ぎる時の爽快感がエールとは段違いだ。旨い、また飲みに来よう。

 気分良くそう思っていると、すっかり酔いがさめたらしいフィーネがこちらにすり寄ってきた。顔が引き締まり酷くまじめな表情をしている。


「ねえ、ファーストはこれからどうするつもり? たぶん、今度のことでPTの勧誘とか凄いわよ」


「……私は誰とも組むつもりはない」


 フィーネの言わんとすることはすぐにわかった。自分たちのPTに私を誘おうとしているのだ。標準的なPTは四人編成で、彼女たちは私を入れるとちょうど四人。都合がいいのだろう。しかしあいにく、私は足手まといを連れて歩く趣味はない。


「そういうと思ったわ。だけど、クインティプルを目指すならPTを組んだ方が得よ?」


「魔獣が相手だろうが、単独で倒す自信はある」


「……そうじゃない」


 そう言ったのはフィーネではなく、奥で一人、チビチビと酒を飲んでいたマルだった。妙に重いその声が少し気にかかった私は、すぐに返事をする。


「なら、どういうことだ? 何故PTを組む必要がある?」


「クインティプルを選出する基準は実は三つある。一つは討伐実績、もう一つは魔力量。そして最後に、一般には公開されていないけれど、その人間が軍隊で行動するのに適しているかどうかが考慮される。PTを一切組んだことが無い人間は、規律を守る適正や協調性が無いとしてこの評価が大きく減点される」


「ほう、中々説得力のある説明だ。だが、なんでマルはそんなことを知っている? 一般には公開されていないのだろう?」


 私はいたずらっぽく笑って見せた。椅子の下でうずくまっていた猫が、それを見てしかめっ面をする。大方「うわ、意地の悪い顔だなおい」とか思ってるのだろう。


「私は元々、ハウンドに所属してた。だからそういうことは全て知っている」


 ハウンドと言えば、ギルドの裏を担当するといわれるギルド子飼いの連中だ。規律を破った冒険者の粛清から、敵対者の抹殺までありとあらゆる裏業務を担当している。その実力は折り紙つきで、全員がトリプル以上だとされているはずなのだが……。彼女の仲間のフィーネとケインは紛れもなく新人のシングル冒険者だ。そして、マル自身も幼い少女にしか見えない。


「ハウンド? にわかには信じられんが」


「話すと長くなる。そして、仲間にならない人には話せない」


「ずいぶんと挑戦的だな?」


「ええそうね」


「そ、そこまで!」


 慌ててフィーネが私とマルの間に割って入ってきた。顔から少し汗が垂れているところを見ると、私とマルが喧嘩でも始めると思ったのだろうか。無駄なことはしないと言ったはずなのだが……フィーネは耳が悪いらしい。


「別に無理に入ってくれなんて言わないわ。気が向いたらでいいの、気が向いたら」


「マルが言ったことが本当ならいつか世話になるかもしれん」


「もしそうなったら、その時はよろしく頼むわ」


 席を立った私に、フィーネは金貨を投げてよこした。救出料きっかり三枚、無事に手に入った。椅子の下で酒を舐めていた猫も無事に回収すると、私は暖簾を抜けて夜の街へと飛び出したのであった。


アクセス数とお気に入りが跳ね上がって驚きの作者です。

みなさんありがとうございます!

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