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魔法が使えないから人間やめました(改訂前)  作者: 星影
第一章 冒険の始まり
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第三話 初依頼

「いいのか、あんなに目立っちまってよ。らしくねーぜ」


「いいんだよ。魔力のない人間がこの魔法主義の国の中枢に入り込もうというんだ。あれくらいできねば話にならない」


 王都近郊に広がるノールズの森の入口。周囲に人気がなくなり、黙っている必要がなくなった我が腐れ縁は急に饒舌になった。しゃべる猫なんぞ魔獣以外の何物でもないから、街中ではこいつは必然的に黙っていなければならない。それが元来おしゃべりのこの猫には相当こたえるようで、こうして人気がなくなると必要以上におしゃべりになるのが常だった。

 私が受けた依頼は大量繁殖したゴブリンの討伐という非常に単純でつまらないものだった。ゴブリンというのは有害亜人の中でも最下級の存在で、数だけが取り柄のような連中だ。二十匹以上の討伐を持って成功とすると依頼書には書かれているが、おそらくあっという間に方がつくだろう。


「さっさと済ませるか……」


 瞳に力を込めて、意識を集中する。急速に感覚が研ぎ澄まされて、普段は見えないものが見えてくる。一つ、二つ、三つ……周辺にいる生命体の反応が光の球となって見える。私の顔ほどの大きさの淡い光が、モノトーンの景色に浮いていた。大きさからするとゴブリンだろうか。さすがに大量繁殖しているというだけあって、私の周囲五百メルトの範囲に十体以上はいる。


「掴ってろ」


「お、おい……」


 足が腐葉土の大地に埋まる。瞬間、景色が加速し肩から悲鳴が聞こえた。流動的な世界の中、私は木々の間をすり抜け、緑の醜悪な異形を捉える。そして鎧袖一触、その太い首を手刀でへし折って討伐証明部位の耳をもぎ取った。その間、一秒にも満たない。ゴブリンは鼻歌でも歌うようなのんきな顔をしたまま命を断たれ、大地に横たわった。


「脆い連中だ」


「お前、俺が肩につかまってるの忘れてねーか?」


「静かにしていろ。舌を噛んでもしらんぞ」


 再び私は風に乗った。肩から再び悲鳴がしたが気にはしない。そうして一匹、二匹……次々とゴブリンを狩っていく。あっけない、予想以上の弱さだ。私はまたたく間に二十匹のゴブリンを殲滅すると、依頼に行く直前にもらったギルドカードを眺めた。私のギルドカードは青銅色、シングルの色だ。あとどれほどこういう依頼をこなしていけばランクが上がり、このカードがクインティプルの黄金色になるのか……考えると少しうんざりしてしまう。

 ゴブリンの耳をさっさと袋にしまうと、私は街へと帰るべく踵を返した。すると、森の奥から何か大きな足音のような音が聞こえた。空気がジリジリと震えている。そちらの方を見て瞳に力を込めると、かなり大きな光の球が浮いていた。森に茂る太さだけで人間の五倍ほどはあろう大木と比べても、そう遜色ない大きさだ。エルガの森に住んでいた魔獣の物と比べてしまうと、かなり貧相だが。


「大物がいるな」


「ああ、このくっせー臭いからすると緑鬼オーガだな」


「どうだ、たまにはお前が戦ってみるか?」


「自分が嫌だからって人におしつけてんじゃねーよ。自分で始末しやがれってんだ」


 チッ、当てが外れたか。私の頭に緑鬼オーガのハエすら避ける汚れた腰巻姿が浮かんでは消える。基本的に素手で戦う私にとって奴は鬼門だ。手が汚れる。まだ竜族を絞め殺す方がましだ。

 私が露骨に嫌な顔をすると、猫は不敵に笑った。相変わらず性格の悪いやつだ。こうなったらせいぜい、驚かせてやろう――私は猫が肩にしっかりと乗っていないことを確認すると、一気に急加速した。黒猫が死にそうな顔をするがまあ大丈夫、こいつも頑丈だから死にはしないだろう。

 樹木の間をすり抜け、森の奥へと達する。すると急に視界が開けた。どうやら、木をなぎ倒して作られた緑鬼オーガの巣のようだ。喰い散らかされた骨や、緑鬼オーガに挑んだ冒険者のものと思しき武器や防具が散乱している。

 そこで先ほどは存在に気付かなかったが、冒険者らしき人影が巨大な人型――緑鬼オーガと戦闘を繰り広げている。だがまだ幼さの残る若者の冒険者たちは、実力不足からかかなり押されていた。革の鎧が紅に濡れている。


「おい、大丈夫か?」


「状況を見ればわかるでしょ……!」


「金貨三枚、それで手を打とうじゃないか」


「あんた金取るの!?」


 何を当たり前のことを聞き返しているのだか。これだからバカは困る。助け合いだのなんだのは建前にしかすぎないのに。


「地獄の沙汰も金次第というじゃないか。タダ働きはしたくないしねえ」


 PTの代表らしき少女は舌打ちすると、それきり私には反応しなくなった。彼女は他に二人いる仲間に的確に指示を出しながら、緑鬼オーガへと攻撃を加えていく。どうやら魔法剣の使い手のようで、青銅の剣に炎を帯びさせては果敢に緑鬼オーガへと斬りつけていった。

 しかし、弱い。どうにも決定力に欠けている。緑鬼オーガの皮膚は弾力性に富み、強靭なことで有名だ。それを彼女たちの攻撃は全く貫けていない。緑鬼オーガはダメージを受けるどころか怒るばかりでますます攻撃の勢いが増していく。大人ほどの大きさと太さのあるこん棒が、暴風のごとく冒険者たちに襲いかかっていた。


「……わかったわよ! 払うから助けて……!」


「よろしい」


 私は冒険者と緑鬼オーガの間に割って入った。贅肉まみれの腹をだぶつかせながら、緑鬼オーガは私を睨みつけ咆哮を上げた――!

ギルドのランクの名称を変更しました

シングル・ダブル・トリプル・クアドラプル・クインティプルです

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