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カグラの援護もあり、倉庫の奥の部屋へ続く扉にたどり着いたツキシマは、カギのかかったドアを銃で打ち破って中に侵入した。
ツキシマが放った銃声に、甲高い悲鳴が上がる。
扉の向こう側は、倉庫の裏口の車庫となっており、コンテナ付きの大型トラックがエンジンを唸らせながら停車している。そのトラックの傍に、薄汚れた布切れの様な衣服を着せられ拘束された数十人の女と子供が、恐怖に顔を歪めてツキシマを見ていた。当然のことながら、彼女らを取り囲むようにして数人のギャングが、アサルトライフルを携えて驚いたような顔をツキシマに向けている。
「な、なんだきさ…」
驚いて、銃をツキシマに向けようとしたギャングに向けて、全てを言わせる前に、ツキシマは躊躇い無くハンドガンを向けて引き金を引いた。連続する発砲音に、女たちが悲鳴を上げてしゃがみこむ。障害物が無くなって丁度良い。
撃ち抜いたギャングが、血を吹いて倒れると同時に、ツキシマが動く。
倉庫の、ギャングとクリーチャーの壁を越えて現れたツキシマに驚愕して、動きが遅れたギャングたちの隙を狙う。奇襲は、最大のチャンスである。
「ツキシマさん!」
しゃがみこんだ女どもの中から、聞き覚えのある声が上がった。ハッとしたツキシマが、声が上がった方向を見る。
ケイナである。昼間見たときとは、全く違う。喫茶店での小奇麗なウェイトレス姿では無く、他の女達と同じような、薄汚れた布切れを身にまとい、ギャングの暴行を受けたのであろう痣の付いた顔を、今にも泣き出しそうに歪めたケイナが、立ち上がってツキシマの名前を呼んだ。
まずい、とツキシマは思った。
不用意に立ち上がったケイナに、ギャングたちは怪訝そうに顔をしかめるも、彼らの野性的状況判断力は、ツキシマとケイナの間に何らかの関係があると判断した。
「動くなッ! それ以上動いたらこの女を殺すぞ!」
状況判断に一番すぐれていたギャングの一人が、乱暴にケイナを後ろから捕えると、彼女のこめかみに銃口を突き付けて叫んだ。ケイナが、突き付けられた凶悪な黒い筒に、涙目でヒッと小さな悲鳴を上げる。
「……」
ケイナが捕らわれたのを見ると、ツキシマは、両脇で銃を構えるギャングたちに、ハンドガンの銃口を向けた状態でピタリと動きを止めた。今にも、指先はトリガーを引きそうだったが、それは、ケイナに銃口を突き付けているギャングも同様である。
大人しくなったツキシマを見て、ギャングは冷や汗を流しながら、ニィ、と笑い、ケイナを引きずりながら前に出た。
「銃を落とせ! 両方だ! 変な真似したら女を殺すからなあ!」
「あぐっ…」
ケイナを捕えるギャングが、その無骨な腕でケイナの細い首を絞めつけた。彼女の首は下手に力を入れたら、折れてしまいそうなほどか弱い首である。
ツキシマは、それを見てすぐさま無言でハンドガンを地面に落した。がちゃん、と音がして、巨大なハンドガンが地面に転がる。ギャングが、満足そうに笑った。
「…全く、薄汚いドブネズミが、よくもまあ派手にやってくれたものだ」
エンジン音を唸らせるトラックの影から、ヘッドライトに照らされて、一人のスーツ姿の中年が姿を現した。ひょろりと縦に長い身体と顔、油で撫でつけたオールバックと、小さなサングラス、そしてロクな事を考えていなそうな嫌らしい笑みは、ツキシマが持っていた手配書に映っていた人物と全く同じである。
フィッシャー・カーン。彼こそが、サースメトロ最大にして最強のギャング団、メトロキングスのボスである。
「……」
ツキシマは、無言のままカーンに顔を向けた。にたり、と釣り上がる口角。悪人面とは、正しくこの事を言うのだろう。
僅かに動いたツキシマを警戒して、ケイナを捕えるギャングが、銃口をさらに強く彼女に突き付ける。
「本当に、余計な事をしてくれたものだ。せっかく、間抜けなシティコンプレックス共を売って、奴隷市場でひと儲けしようとしていたのに、貴様らが仲間と可愛いペットを殺してくれたおかげで、再び人員補充をする羽目になった」
カーンが、パチンと指を鳴らした。それに呼応して、ツキシマの両脇で銃を構えていたギャングたちが、武器を捨てたツキシマを地面で取り押さえる。
肩が地面に叩きつけられ、じわりと痛い。
「ツ、ツキシマさん!」
涙声でケイナが叫んだ。悲痛な彼女の声が、車庫に反響する。
「スナイパー! いるんだろう。相方を殺されたくなかったら出てこい!」
カーンは、車庫内に響き渡る様に声を張り上げた。カグラの存在も、すでに割れていたようだ。
カグラは、倉庫の二階の鉄筋の上を走って、倉庫から繋がる車庫に侵入し、ツキシマ達の頭上からライフルでカーンを狙っていたが、カーンの言葉に、彼女はスコープから目を離した。
何故ケイナがここに居るのか、なんとなく理解できる。メトロキングス達が最近頻繁に行っていた人身売買の被害者は、皆シティコンプレックスを持った人々だったのだ。
シティコンプレックスにかかりやすい人間のパターンとして有りがちなのが、シティと言う夢の国に憧れるばかり、甘言に惑わされやすい、と言う事が挙げられる。
大方、ギャング達の甘言『タダとは言わないが、それなりの金を積めばシティへの道を手配できる』と言ったところだろうか。ケイナはその言葉に騙されたのだろう。
そして、商品として売り出される前のケイナを人質に捕られ、ツキシマは武器を捨てた。カーンが、すぐにツキシマを殺そうとしなかったのが唯一の救いだ。
ここで、カグラが引き金を引き、ツキシマを捕えるギャングを撃ち抜くのは容易だが、その瞬間、ケイナに突き付けられたライフルが火を吹くだろう。逆もまた然り。
ツキシマが死んでは、カグラの計画は成り立たない。ケイナが死んでも、カーンを捕えることは可能だろうが、ツキシマとの信頼関係は地に落ちるだろう。それではコンビを組めない。
考えた末、カグラは、一つ大きな溜息をついてライフルの構えを解き、車庫の地面に降り立って明るみに姿を現した。
「フン…それでいい。武器も捨ててもらおうか」
ニタリ、と笑みを浮かべるカーンから目をそらさず、カグラは手に握っていたライフルを地面に落とし、冷や汗交じりに笑みを浮かべる。
「アンタが、フィッシャー・カーン。噂通り、いや、それ以上か。えげつないことするのね」
「えげつないこと? ああ、クク…シティコンプレックスの愚か者共の事か? ク…ハハハ…。勘違いしないでほしい。私は、彼らを救ってあげているのだよ」
自らの額をおさえ、愉快そうに笑い声を上げるカーンは、にんまりと凶悪で下劣な笑みを浮かべてカグラを見、拘束されて震える女達を指差した。
「奴らは! シティなんぞにあらぬ幻想を抱いて、恋焦がれる処女の様にその思いを募らせる。無駄だと思わないかね? 愚かだと思わないかね? 彼女らが恋するシティは、彼女らの事を『ゴミ』としか思っていないのに!」
カーンは、ゲラゲラと笑いながら女たちを指差して彼女らに歩み寄る。目の前に立ち止まったカーンに、びくり、と震えて怯えた目つきで見上げる少女に、カーンは満足そうな笑みを浮かべた。
「だから教えてやるのだ。貴様等はゴミだと! 愚かな夢や希望などは捨て、ゴミはゴミらしく廃棄場で生きて行けと! なんとまあ、優しいじゃないか。夢見がちな彼女らに、現実を教えてやるのだ。ハハハ…。売上金は、些細な講義料だよ」
カグラは、笑い声を上げながら声を上げるカーンを、きつく睨みつけた。
こいつは、賞金の有無に関係なく、心の底からの下衆野郎である。こめかみ一発とは言わず、ヘヴィマシンガンで肉片一つ残さず粉微塵にしてやりたい衝動に駆られる。
「っ…う…く…」
下衆な笑い声が響く中で、ギャングに銃口を突き付けられたケイナが、ぽろぽろと涙を零した。
彼女の大きな瞳から零れる大粒の涙は、彼女の白い頬を伝って地面を濡らす。
「ツキシマさ…カグラさん…ごめ、ごめんなさい…。う…私、二人に言われてたのに…。シティには行けないって…。どうしても、中に入る事はできないって…。知ってたのに…!」
嗚咽交じりに少女が泣く。はらはらと落ちる澄んだ涙でも、彼女の顔に作られた暴行の痕は癒えない。
「でも、私…どうしてもシティに行きたかったんです…。若いうちに、綺麗な服を着て、素敵なおうちに住んで、美味しい物をたくさん食べて…。そして、大好きな人と一緒に、シティの街を歩きたかった…! 小さな可能性でもいい。あるならば…! 試してみたかった…!」
そして彼女は、悪い大人のクチ車にまんまと乗せられてしまったのである。
だが、ケイナが悪いのではない。それは、その願望は、年頃の少女ならば、誰もが持つものである。一つ壁の向こうの、同世代の少女たちは、皆ケイナの望む物を持っている。あの、シティを取り囲み、メトロを遮断する壁が、ケイナから全てを奪っているのである。それを考えたら、『ゴミ捨て場』などと呼ばれ蔑まれるメトロで、なんの行動も起こさずじっと歳を取るのを待ちながら生きていく事など、誰にもできはしない。
涙を零しながら、悲痛に訴えるケイナの叫びを聞いていたカーンは、一際愉快そうに、しかし意地汚く顔を歪めた。
「ハ、ハハハハハ!! これは面白い! 実に面白い! シティコンプレックスとは悪魔の病だな! 忠告を受けてもなおシティに憧れを抱くとは! もはや、愚かで愛らしいとも思えん! 馬鹿だ貴様等は! フハ、フハ、フハハハハハ!」
「アンタ…」
車庫に響き渡るカーンの笑い声に、カグラは奥歯をギリ、と噛みしめて彼を睨みつけた。
カーンの蔑みを聞いて、捕らわれた少女ら、そしてケイナは、より大粒の涙を流した。
自分のせいで、ツキシマやカグラが危険に晒されてしまった。状況も弁えず、不用意に立ち上がってしまったせいで、自分が人質になってしまったせいで、ツキシマは投降したのだ。
カーンの言うとおり、自分はどうしようもない馬鹿なのだ。夢見がちで、世間を知らない、無知で馬鹿な小娘だった。
乾いた埃まみれの地面が、ツキシマの目の前で、ケイナの涙によって濡れる。濡れる。
薄い桃色の唇を噛みしめて、ケイナは喉が潰れそうな声で呟いた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…。ツキシマさん…。私のせいで…。こんな、馬鹿な、馬鹿な私なんて…もう…」
『死んでしまえばいいのに…!』
「……」
ケイナの呟きが、重い重石の様にツキシマに振りかかる。
どくり、と、有り得ない鼓動が起こり、防毒マスクのカラーガラス越しで、金色の瞳がギラリと光った。瞬間、ツキシマの身体が跳ねる様に動き出した。
「う、うわぁ! 動くな!」
ツキシマは、己を抑えつけるギャングたちを、勢い任せに振り払い、地面に片手を着いて起き上がる。
想像を絶するツキシマの爆発的な握力に、彼を取り押さえていたギャングたちは驚きのあまり地面に尻もちを着いた。
「な、テメェ!」
ケイナを取り押さえるギャングが、彼女に向けているライフルのトリガーに指をかける。が、その瞬間、ライフルを握る彼の腕は、銀色の弾丸によって撃ち抜かれていた。
「ぎゃああ!」
銃を落として、叫び声を上げるギャングは、思わず捕えていたケイナを解放する。
弾丸が軌道上には、小型の拳銃を握ったカグラの姿があった。
「…武器がライフルだけだと思った?」
クスリ、と蟲惑的な笑みを浮かべるカグラ。利き腕を撃ち抜けば、引き金を引く事は出来まい。
「ぐああ!」
カグラは、そのまま銃口をカーンに向け、肩と足に一発ずつ撃った。弾は見事命中し、叫び声を上げてカーンは地面に膝を着く。憎々しげに奥歯を噛みしめるカーンの顔が、実に清々しい。
「クソォォ!」
ツキシマを捕えていたギャングが、立ち上がりアサルトライフルをツキシマに向ける。
ツキシマは、ギャングが引き金を引く前にその銃筒を掴み、照準を無理矢理外した。トリガーにかかったままのギャングの指は、ツキシマに銃筒を引っ張られて意図せずに弾を乱射する。発砲音が鳴り響いて、宙に黄土色の弾丸が舞った。
ツキシマの背後で、ガチャン、と銃を構える音がする。ツキシマは、目の前でアサルトライフルの弾切れになるまで、間抜け面でトリガーに指をかけているギャングの胸倉を掴み、力任せにその男を振り回して身体を反転させた。それと同時に銃声が鳴り響き、胸倉を掴んでいる男が面白いように痙攣して血を吐いた。即興の人間盾の出来上がりだ。
「う、うわああああ!」
ツキシマの背後にいたギャングは、愚かにも自分が撃っているのが味方である事に気付かず、錯乱したあまりマガジンが空になるまで弾丸を撃ち尽くした。
弾丸の嵐がやむと、ツキシマは胸倉を掴んで盾にしていたギャングの死体を投げ捨て、代わりに静止したアサルトライフルをはぎ取り、弾切れに焦るギャングに銃口を向けて、無慈悲に引き金を引く。
パララ、と乾いた音がして、ギャングは無残にも弾丸に撃ち抜かれた。
ツキシマは、血まみれになったライフルを投げ捨てると、ギャングに解放されてもなお、しゃくりあげて泣きながら、地面にへたり込んでいるケイナの傍へ歩み寄った。
「ひっ…ヒィィィ!」
彼女の後ろで、腕から血を流したギャングが、無言で近づいてくる血まみれのツキシマを見て、恐怖に悲鳴を上げながら、背中を向けて逃げ出した。
ツキシマは、両目を擦りながら涙を流し続ける少女を無言で見下ろした。彼女は、彼に気付いているのかいないのか、一向として顔を上げない。
「……」
ツキシマは、ケイナの目の前にしゃがんだ。昼間見たような、花の様な笑顔はもうどこにも無く、真っ赤に泣きはらした目が痛々しい。
『死んでしまえばいい』そんな言葉が、彼女をこうも苦しませる。涙の水たまりを作る。
それが、彼はとてもとても悲しかった。
ツキシマは、泣いているケイナの手を取って、その白い手のひらを彼女の胸に押し当てた。
泣きはらした目で、怪訝そうな顔をして彼女は顔を上げる。血まみれになった防毒マスクが、まっすぐにケイナを見つめていた。
「…ツキシマ…さん?」
ツキシマと、胸に当てられた自分の手を交互に見て、ケイナは不思議そうに顔をしかめる。
言葉を発しない彼が、何を言わんとしているのか。何を伝えようとしているのか。わからない。
しかし、彼女の手は、彼女自身の心音を確かに感じさせる。自分が、生きている事を確実に証明する。
あの様な銃撃戦の後でも、ここに生き残れていると言う実感が、彼女の中にぼんやりと産まれ少し安堵した。
ケイナは思う。ああ、自分は生きている。この荒んだメトロという無法地帯で、今日もこの鼓動と共に生きているのだ。
するとツキシマは、彼女の手をとって今度は自分の胸に手を当てさせた。
「えっ…? 何を…」
先程まで、ケイナの心音を感じていた手のひらは、ツキシマの冷たい胸に当てられてびくりと震える。
ゾッとするほど、冷たい胸だった。人体の、心臓が存在する地点である左胸は、それなりの体温があり、ドクドクと心音を響かせていなくてはならない。なのに、ツキシマにはそれが無かった。
ケイナの手は、戸惑って、ツキシマの心音を探る様に触れる。どこにもない。体温も、脈も感じられない。冷たく、硬い石の様だ。
「どうして…そんな…なんで…」
ケイナは、動揺に揺れる瞳でツキシマを見上げる。
ツキシマの手が、ケイナの手首を離れ、彼女を見下ろすツキシマが僅かに首を傾げた。
無骨な防毒マスクの下で、彼がどんな表情をしているのかはわからない。しかし、ケイナは、ツキシマが何を言おうとしているのか、わかった気がした。
彼には、心臓が無い。
温かな体温も無い。
だから、彼は、羨ましいのだ。命ある者が羨ましい。特に、人らしく笑い、生を謳歌する人々が心の底から羨ましいと思っている。
自分には無いモノに憧れる。ケイナが、シティの中で華やかに生きる少女たちに憧れる様に。まるで、シティに憧れるシティコンプレックスを持つ人々の様に、彼は、生きる人間を羨望していた。
だからこそ、彼は、その生を奪う存在が許せない。
馬鹿な人間と笑い、その希望に満ちた人生を踏みにじろうとする存在が許せないのだ。
硬いマスクは無言で語る。声も、鼓動も、体温も、それは、人が生きている証である。
死んでしまえばいいなどと、間違っても、彼女の様な『生きている』人間が言う言葉では無い。そんな言葉を聞くのは、とても悲しいのである。
ケイナは、顔をくしゃくしゃに歪めて涙を零した。言葉では表されない、ツキシマの気持ちが伝わってくる気がした。
再び温かい涙を零すケイナの頬を、ツキシマの冷たい手が拭う。ハンドガンのグリップを握っていたグローブが、煤でケイナの頬を汚してしまい、慌ててそれを拭おうとするが、逆に煤を広げてしまった。
慌てるツキシマを見て、ケイナはホッと心が安らいだ。ギャングたちを殺すツキシマは、とても怖かったが、今自分の目の前にいる彼は、いつものツキシマだ。
喋れないけれど、表情豊かで、慌て者で、人が良い。見た目こそ怖いが、根はいい人なのだ。ケイナは知っている。
声を上げて泣くケイナの傍にしゃがむツキシマを見て、カグラは安心した。
ケイナは無事らしい。上手い事、事が運んでくれてよかった。後は、女たちを解放して、カグラが撃ち抜いた肩と足から血を垂れ流してこちらを睨みつけているカーンを捕えるのみである。
安心した油断か、それとも運の巡り合わせか。カグラは、視界の端で僅かに動く影を見た。
ハッとしてそちらに視線を投げる。ツキシマに撃たれ、血みどろになって倒れていたギャングが、最後の力を振り絞って、投げ捨てられたアサルトライフルに手をかけた。
「…ツキシマ!」
カグラが声を上げる。と同時に、ギャングが手にしたライフルは、小刻みな発砲音を響かせて弾丸を放った。
フルオート自動小銃は、トリガーが深く引かれ、弾薬が尽きるまで弾薬をはじき出す。
ライフルの銃口は、無防備に晒されたツキシマの背中に向けられていた。
「あ…あああ…」
ケイナの視界が、真っ赤に染まる。
ツキシマの身体に、いくつもの弾丸が突き刺さり、一発がツキシマの右頭部を破壊した。バン、と音がして、頭蓋骨が黄土色の弾丸に破壊される。血と、灰色の脳味噌が飛び散り、フードが破けた。
「……っ!」
ごぽっ、と、防毒マスクのフィルターから、真っ赤な鮮血が飛び散る。
赤黒い何かが、ケイナの顔にかかった。頭を破壊され、力を失ったツキシマが、ゆっくりとケイナに向かって倒れる。
ケイナは、ツキシマの背中に震える手を回し、血に濡れたカーキのコートを握りしめて恐怖に瞳を揺らす。身体はやはり冷たく、彼の身体から流れ出す血液もまた、冷たかった。
「あ、あああああ…あああああああああ!!」
ケイナは大きな目を見開きながら、力無く両腕をぶら下げるツキシマを力の限り抱きしめる。ツキシマを撃ったギャングは、既にこと切れていた。
「は、ハハハハ!! よくやった! よくやったぞ! それでこそ我が部下!」
カーンの笑い声が響く。ハッとして、カグラはツキシマから視線をカーンに向けた。カグラの隙をついて立ち上がったカーンは、片足を引きずって、エンジンが付きっぱなしのトラックの影に身を隠す。
「ま、待て!」
カグラの銃口が、カーンを追う。しかし、カグラが発砲した時には、既に彼の姿は大型のトラックに隠れてしまい、銃弾は虚しくトラックのコンテナに当たる。
「逃がして堪るか八〇〇万!」
この期に及んでも、カグラの意識は金にある。一瞬、ツキシマを抱えるケイナに視線を向ける。心配ではあるが、ここでカーンを取り逃がしていい訳ではない。あの手の人間は、必ずまた同じことを繰り返すのだ。
カグラは、小型拳銃を握って走る。カーンは、足を引きずりながらトラックに乗り込んだ。




