第6章
船橋に戻ると、すでに必要な人員は船橋に集まっており、後は、管制官からの離陸許可が下りるのを待つだけとなっていた。
私が船長席に座ると、すぐ左斜め前に座っている操舵主任の嶋山に聞く。
「嶋山、管制塔から通信は?」
「いまのところ、離陸許可を待てとの信号のみです」
「了解した。なにかあれば、また報告をしてくれ」
「了解しました」
彼が言うと、間髪入れずにスールが船内電話を使って報告をしてきた。
「スールです。乗客は全員が着席しました。いつでも離陸可能です」
「こちら船長、了解した。いつ離陸するのかと聞かれたら、船内放送を使って離陸時には知らせると、お客様に伝えてくれ」
「分かりました」
スールからの報告が終わると、管制官から連絡が入る。
「こちら東京管制管区。エル・サリーナ船長、応答せよ」
「こちらサリーナです」
「船長、離陸を許可する。航路65-22-70を通ること。滑走路は第4を使うこと。以上」
「了解、第4滑走路を使用し、航路65-22-70を通り離陸します。以上です」
管制官から伝えられたことを、すぐに嶋山へ連絡する。
「嶋山、さっきの聞いてたよね」
「ええ、もちろんです」
そう言って、嶋山が第4滑走路へ機体を動かしている間に、私が船内放送をかける。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました。東京発、新東京行き、まもなく離陸いたします。シートベルトをしっかりと締め、離陸時の光景をお楽しみください」
そう言うと、私の座席のすぐ左横にある沢山のボタンのうちの一つを押した。
これで、乗客の離着陸時用の座席の部屋が、透明となり、360度の光景を楽しむことができるはずだ。
今回の乗客の中には、パニック障害を持っている人はおらず、高所恐怖症の人もいなかったと記憶している。
もしも何かあれば、すぐさま連絡が入るし、客室乗務員側で元の状況に戻すことも可能だ。
「船長、離陸します」
「了解した」
嶋山が一言告げてから、私もシートベルトを締める。
嶋山がそのことを確認すると、操縦桿を握り、一気に前に倒した。
飛行機のように圧力を感じた。
滑走路から離れる瞬間、ガコンと重力を感じた。
「大気圏突破まで15分」
嶋山が計器を確認しながら私に言った。
「了解、いつもどおり報告を頼んだ」
「分かりました」
嶋山が返事をするのを聞くと、私はしっかりと背もたれにもたれた。