第5章
船の入り口にいるスールに、軍人ご一行を任せると、私は再び乗降口の外側にある受付に向かった。
後一組来る予定になっているからだ。
受付嬢に一応、そのことの確認を取っておく。
「ねえ、聞いておきたいんだけど。乗客はあと2人よね」
「ええ、予約簿では、火星へ旅行へ行かれるご夫婦と載っております」
受付嬢は、パソコンに打ち込まれている予約簿の原簿を確認していた。
「名前はなんだったかしら」
「河内美内さまと河内テールさまです」
「分かったわ、ありがとう」
私がそれだけを聞くと、お客様を待ち続けた。
発進時刻の30分前になり、ようやく彼らが走って到着した。
「まだ大丈夫ですか」
ハアハアと荒い息をして男の人が受付へ走りこんできた。
「河内美内さま、河内テールさまでしょうか」
私は、軽装で駆けてきた夫婦らしき二人組に聞いた。
「はい、そう、です」
一言ずつに息を吸ったりはいたりを繰り返していた。
「では、本人確認をしますので、予約を頂いた時に登録しました指紋の確認をしたいと思います」
「どうですか」
二人とも、私の目の前で、左手の親指を朱肉につけてから、提出用の紙へ押した。
「照合しますので、しばらくお待ちください」
受付嬢が紙をスキャナーにかざして、パソコンに読み込ます。
「照合終わりました。河内さま、お待ちしておりました。では、切符をご提示ください」
「これだったかな」
ようやく、息も落ち着いてきたらしく、ゆっくりとテールのカバンの中から、どこかの旅行社の袋を取り出し、その中から取り出した上質厚紙に印刷されている切符を受付嬢に渡した。
「しばらくお待ちください」
受付嬢は、切符をパソコンに登録されている情報と一致しているかどうかを確認しているようだ。
「…ありがとうございます。旅行をお楽しみください」
受付嬢は一礼してから私へ目配せをした。
「では、こちらへどうぞ。ご案内いたします」
私がニッコリと笑い、河内夫婦を船の中に入ってすぐに、私たちの目の前を偶然通り過ぎた乗客担当副長に河内夫婦を任せて、私自身は再び艦橋へ向かう。
いよいよ、出航の時が来たのだ。