第30章
沢田は、そのまま私の船の船橋で指示を飛ばし続けた。
その時、捜索隊が船橋に入ってきて、密封された袋に入れられた黒い服と紐を見せた。
「おそらく、イワンフが脱ぎ去ったものでしょう。この服の横には、この紐で縛られた隊員の姿もありました」
「推定だが、追い詰められたイワンフは、隊員が一人でいるところを狙い、何らかの方法で捕縛した上で、服をはぎ取り我々の監視網を通りぬけ、船を発射させた」
捜索隊の報告を受けて、沢田が私に話した。
「他には考えられないでしょうね。追いかけていた班は?」
「今も追走中だ。相手も手負いとはいえ、高速船を乗り回しているんだから」
「結果待ちってところね」
いつから聞いていたのか、佐藤が私と沢田の会話の中に入ってきた。
「さて、沢田大佐。軽く現状の報告を願いたい」
「分かりました。今のところ、捜索は100%終了し、結果として、イワンフ・セカルドが着ていた上下の黒い服1着、脱出時にこちらの隊員を捕縛し服を奪い取る際に使用した紐が約5m分あります。イワンフ以外の宙賊は、すべてこちらのエル・サリーナ船長が捕らえ、今は戦艦"佐渡"の内部にあります牢の中にて勾留中です。イワンフは現在、我々が乗船している船に突っ込んだ宙賊の船を再奪還し、逃走中。現在は、我々が派遣した小型機により追跡中です」
「そうか、分かった」
佐藤はそういうと、どこかへ電話をかけるために、カルーと一緒に船橋の壁のところへ歩いて行った。
「あと何分ぐらいかかるでしょうね」
「追いかけっこか?」
沢田に私が聞くと、何と勘違いをしているのかそう言ってきた。
私は一回うなづくと、沢田はちょっと思い出すように唸ってから言った。
「軍の内規では、2時間経っても追いつけなかった時にはこの宙域に宙賊がいるという合図を出すことになっている。それをもってこちらの追跡はいったん幕引きだ。後は広域宇宙軍がどうにかしてくれる手はずになっている」
「広域宇宙軍って何ですか」
私が聞くと、横にいた伊川が教えてくれた。
「広域宇宙軍は、列強それぞれがもっている宇宙軍の部隊を出し合って、共同運用している軍のこと。一つの軍では、その船籍しかカバーできないが、複数の軍を混ぜることによって、99%は対応することができるということになる」
私は何のことかさっぱりだったが、分かったふりをした。
「そう。分かったわ」
しかし、私には乗客と貨物を目的地へ届ける義務がある。
「軍へ宙賊一味を引き渡したので、こちらは早々にこの宙域より出発し、火星へ向かいたいのですが」
沢田へ私がそのことを伝えると、すぐに返事をしてきた。
「構わん。だが、宙賊に一度襲われておる上に、船も過度に損壊している。安定飛行ですら危ういような感じがするのだが」
安定飛行は、私たちが飛んできていた速度の大体3分の1になる。
そうなると到着予定は3ヶ月後になり、大幅な遅延となってしまう。
「一番早く着くにはどうすればいいでしょうね。今の船は、危ないながらも動くことはできますが」
「貨物には、皇国博物館で展示されるものも含まれるっていう話だったな」
「ええ、今回は偶然にも被害はありませんでしたが」
私は、沢田が何を考えているのかがわかって、あらかじめ釘を刺しといた。
「言っておきますが、今から荷物をそちらへ移すよりも、このまま火星まで行ったほうがはるかに速いと思います」
「そうか、なら駄目だな」
再び考え込む沢田に私は言った。
「とりあえず、応急処置はできてますし、通常運行を試みます。それで分解しそうになればすぐに助けに来られるような位置にいておいてもらえますか」
「分かった。では、これで」
私に軽くお辞儀をし、それから沢田は佐藤のところへ行った。
私は嶋山のところへ歩いて行って言った。
「後15分で分離できるように準備してくれ」
「了解しました」
嶋山は軽く言った。