第29章
1時間、しっかりと話し合ったうえで、私と伊川は、また付き合うようになった。
前に付き合ってきたときに、私が嫌だと思った点も、彼が嫌だと思った点も、いろいろ言い合っているうちに、彼の気持ちも楽になったようだ。
二人一緒に船橋に戻ると、佐藤が私たちをすぐに見つけた。
「仲良しだな」
「ええ、おかげさまで」
伊川はそれだけしか言わなかったが、佐藤には十分だったようだ。
何事か佐藤が伊川に耳打ちすると、伊川は顔を真っ赤に染めた。
「それで、イワンフは見つかりましたか」
「いや、まだだ」
同じく船橋にいた沢田が私に伝える。
「残る階層は、最上層のみだ。だから、必ずやつはそこにいる。いなければ、われわれの預かり知れないところに隠れているに違いない」
「たとえば?」
私が力説をしている沢田に聞いた。
「例えば、そう、外の空間とか」
沢田は外を指さして言った。
「宇宙服でも着てないと死にますよ」
「そういう時でも、何らかの対策を練っているだろう」
そう沢田が言った途端に、船が揺れだした。
同時に、非常警報が点灯し、何かが起きたことを知らせた。
「あの船が…」
嶋山とサヴァンの代わりに機関室の報告に艦橋へ来ていたポッカの二人がほとんど同時に言った。
「外部モニター、急げ!」
私がメインモニターに振り向きながら言った。
仮面の右半分に映ったのは、私の船から離脱をしていく、ドーン・テーンの船だった。
沢田が、自軍の船に対しても叫んだ。
接舷しているときは、両方の船ともに同じ通信設備を共有するということになっているため、こちらの話はすべて向こうの艦橋にも聞こえていることになっている。
「すぐに派遣機を出せ!逃すな!」
沢田は、軍艦の乗組員に矢継ぎ早に指示を飛ばした。
外部カメラに写されているのは、3席の小型船が軍艦から放たれて、ドーンの船を追いかけているところだった。
「追いつけるでしょうか」
「追いついてみせるさ。何があってもな」
沢田は、このわずかな間に見せた中で最も力強い目をしていた。