第28章
「こうして直接会うのは初めてですね、沢田大佐」
私は船橋へ現れた沢田大佐と、副官を見ながら言った。
握手するために手を差し出したが、沢田は反応をしなかった。
一応、副官と交わすことはできたが、沢田とはとうとうできなかった。
「沢田大佐、か」
私の後ろから、船長席付近に腕組みをして立っている佐藤が言った。
「佐藤少将ですね。地域軍司令官の」
「そうだ。元気そうでなにより」
なんとなくだが、会話にとげがあるような気がして、私は話題を変えようと思った。
「そういえば、捜索隊についてはどうなりましたか」
「ああ、すでに活動を始めているよ。下層階から複数班によってしらみつぶしに調べていくところさ。ネズミ一匹逃さないよ」
ローラー作戦を採っているらしい。
「無事に発見できることを祈念しております」
私はそう言って、船橋を出た。
実は、伊川が少し気になっていたからだ。
戦闘が終了したという報告以来、一切連絡がないのが、なんとなく嫌な気がしたからだ。
「伊川さん、船長のサリーナです。入りますよ」
何度かノックをして聞いたが、何も返事がないため、マスターキーで部屋の中へ入った。
前来た時とほとんど変わってなかったが、唯一変わった点は、彼がベッドで寝ていたことだ。
「寝てる…ん?」
私は、ベッドの横においてあるものに気付いた。
医務室に常備されている2錠入りの睡眠導入剤と赤ワイン。
それを見たとたんに、私は船内電話で救護班を呼んだ。
アルコールと睡眠剤の組み合わせは、時として死を招く。
睡眠剤の効果が倍増し、眠りながら死ぬことができるということで、簡単な自殺方法の一つとされた。
私が連絡して3分経たない間に救護班が来て、すぐに彼をたたき起す。
「こらっ起きろ!」
ふらふらしながらも、どうにか目を覚ました彼の上に乗り、私は往復ビンタをこの時とばかりにくらわす。
「いってーな」
いらいらしている寝起きの彼に、私は指をさしながら聞いた。
「なんで睡眠剤と赤ワインなんか同時に飲むんだ」
「こっちにもいろいろあるんだよ。分かったらさっさと寝さしてくれ」
「いろいろか」
誰もが部屋のドアのところを見た。
いつの間に来たのか、佐藤が立って私たちを見ていた。
「何かあれば、相談をしろといったではないか。忘れたとは言わせんぞ」
私が聞いているだけで鳥肌が立ってきた声色で、優しく言う。
「…すいません。でもプライベートなことなんで…」
「だったら、元カノにでも話すんだな。ちょうどそこにいるんだし」
佐藤は、そう言って部屋から出た。
私は胸倉を無意識につかんでいる伊川をじっと見下ろした。
「なんだよ」
伊川が私に話しかけてくる。
「救護班、ご苦労様。後は私がしておくわ」
「分かりました、船長」
全員を部屋の外へ出すと、私は彼から手を離し、ベッドの彼がいない所に座った。
「で、プライベートなことって?」
「…彼女のことなんだ」
「へえー、私以外にもできたんだ」
「宇宙軍の大佐クラスはエリートだとみなされることが多いからな。結構もてるんだよ」
伊川は半笑いの顔をしていた。
だが、急に暗くなった。
「だけど、この旅に出るといったら、なぜか急に振られてな。なかなかいい女だったから、ショックで…」
「で、不眠症になったと」
私がそのあとの言葉を継いだ。
伊川は、うなづいたが、それからうつむいて私を見なくなった。
「何を言ってるのよ。なんなら、フリーのかわいい子でも紹介して合コンでもしようか」
「いや、俺には決めた女性がいるから」
「誰?」
そう私が聞くと、彼は私をじっと見つめた。