第21章
「船長」
「砲兵長、敵の様子は?」
柱の陰に隠れる形で、敵と私たちは対峙していた。
「今のところ、反応なしです。どうしますか」
「彼らが狙っているのが、今回運んでいる荷物だとすれば、それを持って逃げようとするだろう。皇国博物館所蔵品は、第3貨物室ではなく、すぐとなりの第2貨物室に入っている。壁を発破でもしない限り、敵はここの通路を通らざるを得ない」
「なるほど、では、ここで見張っていればいいっていうことですね」
砲兵長は、持っているライフルを第3貨物室の方向へ向けて構えた。
数分間、向こう側とにらみ合いが続いた。
しかし、唐突に向こう側が発砲を開始、こちらも応戦を始めた。
「船長、応戦します」
言う前にすでに後方部隊が撃ち始めていた。
「私も撃ち始めているからな」
常に怒鳴らないと聞こえないような銃声が、私の周囲で鳴り響いていた。
受け取った武器は、機関銃のようなもので、弾は壁に触れるとつぶれるようなものだった。
外壁にいくことはないため、空気が漏れる事はないそうだ。
この船に搭載されている武器や、持ち込まれている弾はすべてその構造をしている。
ただし、敵の弾がどうなっているのかは、私にはわからなかった。
今のところは、外壁まで到達してはいないようだ。
「制圧前進だ。援護してくれ」
「分かりました」
すぐ横にいた砲兵科の乗務員に言った。
そして、後ろで発砲を続けながら、私は、一気に敵のところへ向かって走り出した。
残り柱一つというところで、陰に隠れて敵の様子をうかがった。
手鏡で、相手にばれないようにしながら見てみると、銃を持った男が2人と、後ろ手に縛られた女性が1人見えた。
人質に取られている女性は一人だけ。
私は、柱の陰から彼らに向かって叫んだ。
「お前たちは包囲されている!人質を解放し、武器を置いて投降せよ!」
一度言ってみたかったセリフだったりする。
すぐに向こうからも返事があった。
「何言ってるんだ!」
彼らはどこで私が叫んでいるのか分かっていないようで、適当な方向に顔を向けて叫んでいた。
不意に、互いの銃撃が止み、通路は静かになった。
「私は、この船の船長だ。お前達をこの船で裁判に掛けることも出来る権限を持っている。今の内だったら、比較的軽い罪で許してやる」
「アホ抜かせ。俺らの頭が悪いって思ってるようなんだが、そりゃ大きな間違いだぞ。今のこのこ出て行っても、殺されるのがオチだ」
「殺すことはない。この船の本籍地である皇国の法律に従って裁くだけだ」
「だとしても、確か最低でも終身刑だろう」
法律面にも多少詳しい奴がいるらしい。
私は、柱の影に隠れながら、向こう側へ聞いてみた。
「お前、名前は」
「山田機伝だ」
初めて聞く名前だった。