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第2章

あっという間に、3週間の休暇が終わって、私の船の様子を見にドックへ戻ってきた。


「こんにちは」

「ああ、やってきましたね、サリーナ船長」

油まみれの作業衣を着て、軍手をしていた機関長兼副船長のサヴァン・カーラが私があいさつするとすぐにニカッと白い歯を見せて笑いながら近寄ってきた。

「機関長としての務めか」

「ええ、こいつのコンディションを肌で感じておかないと、いざという時にどこが悪いのかってすぐに分からないもんでね」

サヴァンは、勤続30年のベテラン機関長として、私の船に乗り込んでいた。

私が分からないことも、すぐに答えてくれるため、とても重宝している。

「それで、何か御用なんですか?」

サヴァンがつけていた軍手を近くにあった机の上に適当に放り出し、しわ一つない手に消毒用のアルコールをつけながら私に聞いた。

「いや、ただ休暇ももう終わりだから、様子を見に来たんだ」

「こいつに関してなら大丈夫ですよ。ちょっと右舷エンジンが不安定になりましたけどその問題も解消しました。AIのやつらの調子も万全です」

私の船に乗っているのは人だけでなく、システムの管理や保全をするためにAIを同乗させている。

男性であるMr.アースと女性のMrs.マースの二人だ。

アースは主に貨物を見てくれており、自動航行の時に船を動かしてくれている。

マースは乗客の応対をしてくれており、彼女の手に負えないようなことならば客室乗務員を自動的に呼ぶことになっている。

「大丈夫ならいいわ。明日には仕上がっているみたいですし」

私は休息室で紙コップに入ったアイスコーヒーのブラックをもったままボーとしているサヴァンの妹を見つけた。

「ポッカは何してるの」

私はサヴァンに聞いた。

「ああ、あの子は私と交代で指示を出してるんで。今は休憩中ですよ」

ポッカ・カーラはヴァンの2つ下で、サヴァンが機関士になると言った時から一緒に勉強をしてきたと聞いている。

何をするにも一緒がいいようだ。

「それで、受験勉強は進んでる?」

「ええ、おかげさまで」

彼女は機関長という役職のため、第2級ライセンスをもっており、私の船の副船長も務めてもらっている。

第2級ライセンスは、皇国政府が実施している国家資格の一つで、下に第3級、上に第1級とあった。

第3級は各部署副長をする際に、第2級は各部署長か副船長をするために、第1級は船長をするためにそれぞれ必要ということが法律に明記されている。

そのため彼女は将来には船長になることを目指しているため、第1級ライセンスを取ることが必須で、今は勉強をしている最中だった。

受験するのは、おそらく火星に行った時になると思うが、それまで4か月間はみっちり勉学にいそしむことになるのだろう。

「ポッカは」

「あの子はまだ第3級ライセンスしか持ってませんので、まずは第2級を取ることが先でしょうね。あの子もがんばっていますよ」

そう言って、休憩室で伸びをしているポッカを見る彼女の眼は、お姉さんそのものに見えた。


ちょうどよかったので、ついでに他の部署長たちの居場所をサヴァンに聞くと、すぐ下の階に皆集まっているという話だった。

サヴァンはまだ作業が残っているらしく、そのまま別れて、私だけ一階下の喫茶店に向かった。


喫茶店では、半ば解散したかのような格好で部署長たちが集まっていた。

すでに全員ではなかったが、それでも3人は残っていた。

「船長、来てたんですか」

第3級ライセンスで一等航宙士兼操舵手主任の嶋山太郎(しまやまたろう)が、扉から入ったばかりの私を見つけると、椅子をすすめてくれた。

「ついさっきまで上にいたがな」

嶋山の椅子に私が腰掛けると、ほかの二人も私に話しかけてくる。

「それで、船の調子はどうでしたか」

第2級ライセンスを持っている乗客長兼法務局船内担当副局長のスール・ホーズは、紅茶が入っている白い陶器のコップを片手に、私と話した。

「右舷エンジンが調子悪かったそうだが、その点は解消済み。他については異状なしだそうだ」

「宇宙のど真ん中で止まられたら、お客様に迷惑をかけてしまいますからね」

スールが飲みながら言った。

「スールさんは、乗客長ですからお客様を第一に考えられるのでしょうね。こちらから見れば、腐ってしまう貨物もありますから、そちらの心配をしてしまいますが」

貨物長兼航宙通信士のカルー・キールが、オレンジジュースを飲みながら話す。

「それで、出発予定はいつでしたっけ」

「明日には最終試行が終了するそうだから、明後日に出発よ。それまでに準備しておきたいものがあれば、しておいてね」

私はそういうと、コーヒーを注文した。

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