第15章
私の船内放送を聞いて、すぐに殆どの人達が動き出した。
動かなかったのは、幹部乗務員と船橋にいた人たちだけだ。
「船長、本気ですか」
心配そうに聞いてきたのは、ちょうど船橋へきていたカルーだった。
「いいの、そんな些細なこと。それよりもカルーにちょうど頼みたいことがあったんだ」
「何でしょう」
「緊急通信で本社と軍部に連絡を取りたいの。最重要なので、カルーの航宙通信使の権限が必要なのよ」
「分かりました」
カルーに伝えると、近くにあるコントロールパネルを押して、パスワードを入力していた。
「準備できました。相手からの応答の後に通信ができます」
カルーが言うや否や、お父さんの声が聞こえた。
「どうしたんだ」
続いて、軍部の代表者である軍務大臣のあの声も。
「何があったんだ。宙賊に襲われているという話は聞いたが…」
「大臣、呼ばれたのですか」
お父さんが、向こう側で大臣に話しかけているのがしっかりと聞こえてくる。
「実は、宙賊が100万の賞金首だということがわかりまして、その報告です」
「名前は?」
「ドーン・テーンと言ってました」
大臣は、手元にあるらしい書類をめくっているらしい。
「100万といえば、相当なものだぞ」
お父さんがかなり焦っている様子で聞いてくる。
「それで、その部下たちも80万の賞金がかかっているそうなんですが、ちょっと相談事がありまして」
「なんだ、言ってみろ」
大臣が私に指示する。
「その金額、そのまま捕まえた人に支給ってできますか」
「複数で捕まえたら、当然山分けにはなるが。そもそも、賞金を懸けているっていうのは、捕まえた人に全額払うっていうのが大前提になっている。そちらの会社がいいのであれば、軍務大臣として何も言うことはない」
「社長は?」
私は、わざと社長とお父さんを呼んだ。
「こっちも、サリーナがいいというんだったら、何も言わないよ」
「分かりました。では、捕まえたらまた報告します」
私は、二人にそう伝えると、電話を切った。
会話に疲れて、ため息ひとつついたとき、再び船内電話が鳴った。
「はい、船長です」
「船長か、おもしろいな、さっきの放送」
「やはり聞いておられましたか、ドーン・テーンさん」
「そりゃ、全船放送かけたらしっかりと聞こえてくる。それで、次の要求を伝える。脱出用の船を用意しろ。人質と合わせて乗れるようなものをな。準備ができたら、また全船連絡で俺に知らせろ」
そう言って、一方的に切った。
私は切れるとすぐに嶋山に聞いた。
「逆探知は」
「成功です。すぐにでも追跡させます」
「ああ、軍務の奴らに連絡を頼む」
私が言うと、船の中に再び非常サイレンが鳴り響いた。