第11章
「非常警報、それに続いてエルの船内放送。それを聞いて居ても立ってもいられなくなってな」
「今のところは、私たちだけで十分よ。傭兵行為に及ぶような状態になれば、何もしなくても、あなたたちの出番になるでしょう」
艦橋に乗り込んできた伊川たちをみて、私はいろいろ言い合った。
「宇宙憲法ともいわれる宇宙基本法にも書いてあるでしょ。『船長は航宙船が宇宙航行時の全権を掌握する』って」
「そのことは、俺も知ってる」
当然そう言うだろうと思っていた。
「じゃあ、その他のことも、分かってるわよね。『船長は、船内に軍属者がいる際は、攻撃を受けている、または受けると認められる状況である時には、船内の軍属者を自らの指揮下に入れ、指示を出し、助言を受け、または援護を受けることができる』っていうことも」
「……そうだ」
「だから、もしも私が助言を受けたくなったとしたら言うから、そのときまで他の乗客と同じように待機していてちょうだい」
「分かった」
後ろの方で、私と伊川の会話を聞いていた佐藤小梢が、伊川の前まで歩いてきた。
「法律論をここで蕩々と語る気はない。必要であるならば、我々を呼んでくれ。いつでも」
「司令官、それでよろしいのですか」
「軍とは、規律を重んずるところ。ここは法令に従うべきだろう。もちろん、攻撃を受けているのであれば、宇宙基本法における傭兵行為でも行うことになるだろうが」
「…分かりました」
伊川は、不承不承ながらもその場は引き下がった。
軍人が全員船橋から出て行くと、嶋山に伝える。
「嶋山、火星か地球の近い方の日本皇国当局に伝えてくれ」
「なんでしょう」
「宙賊に追われている、軍艦を派遣してくれと」
「了解です」
私がそこまで指示をすると、誰かが船橋に入ってきた。
砲兵長だった。
「船長、宙賊に追われているって言うのは本当ですか」
「本当だ」
私は砲兵長に言った。
「ちょうど伝えておきたかったことがある」
「なんでしょう」
砲兵長が額に噴き出してくる汗をぬぐいながら、私の話を聴いた。
「宙賊に襲われるという恐れも、否定は出来ない。武器の準備、並びに、準戦闘態勢を取ってくれ。その時のためのマニュアル通りにな」
「分かりました」
砲兵長はそう言って、艦橋から出て行った。
「サヴァンは、私と一緒にいてくれ。私に何かあったときは…」
「分かってます」
私に一言だけ言うと、副船長席に座った。
その時、船にかなり強い衝撃が走った。