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だって私は…………

だって私は………… その後

掲載日:2026/10/17

 ある夜会で私は出会った


 めめきゅんに似ている伯爵令息に


 彼は言った


「金の為に父と結婚するなんてね。愛も常識もない男の妻など憐れなことだ。父に飽きたら、私が相手をしてやろうか?」


 彼は婚約中である伯爵の嫡男だった


 顔は麗しいのに、心根は腐っていると思う


『あんたみたいな男が、めめきゅんに似ているなんて許せない! 泣いて詫びろ愚物が!!!』


 私は笑みを絶やさず口調も崩さぬままで、口許を扇で隠す


「ご冗談が過ぎますわよ。伯爵様に失礼で御座いましょう」


 腐っても侯爵令嬢の私


 私の父は金の他にも権力も欲していたから高位貴族との繋がりも多い


 伯爵令息ごときに、侮られる訳にはいかないのだ


 彼は屈辱を隠せぬまま、謝罪を口にする


「っ、悪かった。忘れてくれ……。私は用事があるので、失礼するよ」


 焦るように足早に踵を返す令息


 伯爵の前では従順な私を、舐めてかかっていたのだろう


『疲れるわ、社交……。伯爵だけでも最悪なのに、息子まで好色とは。伯爵家の未来は明るくないわね』


 男は顔じゃない……とは言わないけど


 めめきゅんは、めめきゅんだから素敵なんだと改めて思う


 全てを知る必要はないの


 だって推しは、存在するだけで尊いのだから


 空気みたいなものなの


『あの男(令息)はその空気を汚した、許せぬ存在だわ』


 けれど私が貴族の身分を捨ててしまったら、こんな風にあしらうことも出来ないのが事実


 時には強引に、身を汚されてしまうことがあるかもしれない


 訴えても泣き寝入りしかない事態になることも


 貴族と平民では、それほどまでに扱いの差が違う




 それでも伯爵と結婚したくない

 愛した人と一緒にいたい



 決意した私は、着なくなったドレスや装飾品を質屋に持ち込む


 母親は子を生む機械のように毎年子供を生むから、使用人の手はいつも不足している


 四女の私に構う侍女はいない


 メイド服に着替えて外に出かける私


 これで5回目


 始めての時はドキドキしたけど


 もう、動揺なんてしていない


 質屋の主人も、メイド服の私に馴れてきた


 何度も通って来るからには盗品ではなく、主人に頼まれたのだと思っているようだ


 私もその思考に乗るように話を合わせる


「奥さまにも困ったものです。ご自分の配当金だけでは満足せず、とうとう嫁ぐ際に持ち込んだ、娘時代の衣装まで換金するとは。あらっ、口が滑りました」


「言わないから、安心していいよ。こっちも秘密厳守の商売だからね。あんたも大変だな」


「私は遠縁の娘なんです。行儀見習いで来てるけど、あんまり勉強にならないわ。コキ使われているの」


「そうか……。貴族もピンキリだ。そこの家が普通だと思わない方が良いぞ。礼儀作法には気をつけなさい」


「ありがとうございます。気をつけます」


 礼をして店を去る私


「質屋の店主の方が、両親より気品があるわね。何処かの元貴族の方なのかしら? 私ってば、詮索は野暮ね」


 そう言って走る私は、気づかなかった



 質屋の店主の手の者が、私を調べていたことを



「あの娘が売っていたのは、私物だ。問題なかろう。だが平民になる気のようだな。外は危険も多いのに……」


 その声は心配のようにも聞こえた


 質屋は信用が第一


 だから下調べは欠かさない店主


 身元調べもその一環だった



「伯爵令息のような顔が好きなら、レイの顔も似ておるじゃろう。お前はあの子を見てどう思う?」


 話を振られたレイは答える


「元気いっぱいだけど、危ういな。あのままだとすぐカモられて、娼館行きが目に見えている」


「お前が運命の相手になって、守ってやるのはどうじゃ? わしはあの子が不幸になるのは見たくない。気に入ってしまったからな。ふははっ」


「ダメだろう。俺はこんな仕事をしているのに」

「質屋の従業員はダメか?」

「だって俺の元の仕事は……」

「昔は昔、今は今だ。お前の罪はわしが背負う。血は繋がらずとも親だからな」

「親父……。ありがとう。ありがとうな、っ、うっ」



 その後、侯爵令嬢だった私は逃げた


 何も持たずに、身一つで



 でも国からは離れずに、何と質屋で働いているのだ


 勿論、髪は染めているけれど


 でも他には何もしていないのよ



「メロディーはいつも元気だね。今日も目利きの勉強をするよ」

「はい、店長。よろしくお願いします」

「ほどほどにな。親父は熱中すると止まらないから」

「レイさん。心配しなくても平気ですよ。私も学ぶの楽しいですから!」

「仕事中毒が2人揃うから心配なのに」

「心配してくれるのね、ありがとう」

「お熱いことだ。爺には、ちと毒だわい」

「違っ、お前も勘違いすんなよ」

「(キャーー、照れ顔良き♡)……勿論ですよ」



 私とレイさんは恋人ではない


 ある時質屋の店主が言ったのだ


「ああ、忙しいなぁ。息子は無愛想で対面の仕事はさせられんし。病院にも行きたいのにな。ヤレヤレ」


 丁度私が、侯爵家を出ようとしていた時だった


「私で良ければ、手伝わせて下さい。お願いします」

「そうか、そうか。助かるよ、よろしくね」



 そんな感じで決まった就職だった


 店主さんはグレイさんと言って、息子さんはレイさんだと言う


 レイさんは、質の期限が切れた物を販売に歩いていると言う


『無愛想でも、そこは平気なのかしら?』


 疑問に思うけれど、グレイさんが交渉した後の配達なので平気らしい


「メロディーは金の髪より、茶の髪が似合うよ。ヘナ(染め粉)で変えてみないかい?」

「ええ、是非。ありがとう、グレイさん」


 変装のつもりで色を変えれば、一応私を探していた捜索人達も私をスルーしていく


 逃亡中の侯爵令嬢が堂々と、平民街で暮らしているとも思わないのは道理だ




 けれど……何かあればレイさんが守るつもりで、いつも見守ってくれていたことを私は知らなかった


 私はレイさんの気持ちを知らない


 けれどレイさんとグレイさんとの生活は楽しい


「このままでいられたら良いなぁ。私は幸せだよ」



 贅沢な宝石もドレスも、何もない暮らし


 でも心はいつも温かいの


 私の平民生活は始まったばかりだ





◇◇◇

 レイはメロディーが婚約していた、伯爵の庶子だった


 もっとも伯爵は、彼の存在も把握していないけれど


 彼は母を亡くした幼い時に、強盗の仲間に入っていた


 ある程度成長し、質屋の店主であるグレイを狙うように指示されたらしい


 必要なら殺せとも


 グレイは元騎士団の精鋭の一人だった


 彼(レイ)は捕まり、仲間も全員捕まったらしい


 彼らを束ねていた男は貴族で、貧しい人に危険なことをさせて利益を吸い上げていた


 捕まりそうになっても貴族だからと、賄賂や権力を使って見逃されてきたのだとか


 グレイは今までも仲間に協力を求め、その貴族を調べていたらしい


 自分(グレイ)がターゲットになったことで証拠が集まり、摘発が通ったのだと


 元々はレイの仲間も、貧しさから悪事に手を染めたらしい


 幸いにしてレイは下働きで、今回初めて実行犯になったのだ


 捕まった仲間達は環境と罪に応じて償いを行うことになったが、感謝していた


「俺達を使っていた貴族に逆らう者は、みんな殺されていた。逃げても追われて、拷問されたり殺されたんだ。助けてくれてありがとう。これで人として、何とか生きていけるよ」


 涙ながらに感謝する者達


 刑に応じ辛い受刑になる者もいるが、死罪にはならないようだ


 一生刑務所から出られなくても、週に1度は神父に懺悔ができると言う


 希望は繋がったのだ


 そしてレイはグレイに引き取られた


 レイはグレイの、別の仕事も手伝うことになる


 騎士団の裏仕事の手伝い


 質屋も悪事を追うツールの一つなのだ


 

「こんな俺は嫌いになったか?」

「まさか! 今までよく生き延びてくれたわね。私と出会ってくれてありがとう。誰よりも愛してるわ」

「メロディー、好きだ。世界一君を愛している♡」

「(キャー、供給過多。でも最高です)神様、ありがとう。レイに会わせてくれて♪」


 メロディーへ上目遣いに尋ねるレイ


 こんな時でも顔が良い

 そして可愛い


 でも、もし、顔が傷ついたとしても、年を経て老けてお爺さんになっても、大好きなのは変わらないと誓えるわ


『ああ、幸せだわ。平民になって良かった』 


 メロディーがこの話を聞いたのは、レイと結婚して子が生まれてからのことだ



 その時にはもう、とっくに愛していたから



 そんなメロディーも、メロディーと言う名は偽名なのだ


 本当の名前は………………


「もう昔の名前も過去も、全て捨てたもの。私はメロディーよ。貴方だけの妻なんだから」

「ありがとう。俺も大好きだよ」




 生まれた時から結婚相手は決まっていた


 けれど私はその人を選ばなかった


 そして愛する人と出会うことができた




 たとえ電化製品がなくて手が荒れ


 洗濯や料理に時間がかかり


 重労働が辛くても


 愛する気持ちの方が上回るわ



 だって私の場合は愛だけではなく、推しへの尊愛もあるのだから





 これは異世界で、愛を勝ち取った少女のお話






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