プロローグ 『まだ知らない夏』
ミーンミーンミーン…。
蝉の声が響き渡る学校の校舎は、夏休みにも関わらず多くの生徒で賑わっていた。
高校3年生の涼海小夏は、夏休みの補講を受けに学校を訪れていた。
「はぁ…。」
先生の話を聞きながら、思わずため息が出る。
小夏は進路に悩んでいた。今の時期になってもまだ、自分の進路を決められずにいたのだ。
そんなとき、ふと地元の花火大会が頭をよぎる。
「花火大会かぁ。」
そんな呟きと同時に、補講終了のチャイムが鳴る。
小夏以外の生徒は、次々と帰宅を始める。
「しばらくお盆休みだね。」
「何するの?」
「花火大会は絶対行きたい。」
受験生たちのそんな浮かれた声が聞こえる。
小夏はさらに深いため息をついた。
「花火大会なんて、このままじゃ楽しめないだろうな…。」
小夏はようやく鞄を手に取り、玄関へと向かう。
後輩が部活動に励んでいる姿を見ながら、帰路についた。
家に帰ると、机の上に1枚のチラシが置かれていた。
「花火大会ボランティア 募集中!」
思わず手に取ってしまった。
何度もその文字を見つめた。
「ボランティア…。」
小夏は無意識にスマホを手にして、電話のボタンを押していた。
このときの彼女に予想できただろうか。
ーーこの夏が、二度と忘れられない夏になることを。




