第十一章 三つの正義
夜。
廃区画C-12。
今夜はライの他に、もう二人いた。
ガーディアンのメンバーだ。
一人は背の高い女性。もう一人は年配の男性。どちらも武装している。
そして——白峰奈緒も来ていた。
全員が顔を合わせた瞬間、空気が張り詰めた。
「白峰さんを連れてくるとは聞いていない」とライが言った。
「俺が判断した」と駿は言った。「彼女は敵じゃない。そしてお前たちの中に、俺たちを利用しようとした者がいる。それを確認したくて来た」
ライの表情が動いた。
「どういうことだ」
「白峰奈緒の通信記録が改ざんされた。バロス連合のエージェントのように見せかけた偽の記録が埋め込まれた。コードのクセがガーディアンのものと一致する」
ライが背後の二人を見た。
年配の男性が——一歩、後退した。
「動くな」と甚之助が前に出た。
空気が凍った。
ライが年配の男性を見た。
「……ドクター・ヴェルス」
「ライ」と男性が言った。「これは全体のためだ。白峰奈緒を排除しなければ——」
「俺の指示じゃない」とライは言った。低い声で。「俺はそんな命令を出していない」
「組織の判断だ。お前がいつまでも決断しないから——」
「その組織の判断を誰が承認した?」
沈黙。
「ヴェルス」とライは言った。「お前は——何者だ」
◆
ヴェルスが動いた。
瞬時に。
女性メンバーを盾にして、後退する。手に武器——小型のエネルギー兵器だ。
「どけ!」
「やらせない」と甚之助が前に出た。
エネルギー弾が放たれた——甚之助の肩を掠める。強化スーツが受けた。
「ちっ」
「甚之助!」とヨーコが叫んだ。
「大丈夫だ!」
ヴェルスが廊下に走り込んだ。
駿が追う。
◆
廃区画の薄暗い廊下を、駿が走った。
強化スーツのブースターが起動する。時速百キロに迫る速度。
ヴェルスとの距離が縮まる。
ヴェルスが振り返った。エネルギー兵器が向く。
駿は壁を蹴った。
斜めに跳んで、弾丸の軌道をずらす。天井に触れ、反転して落下する——その軌跡はどこか、重力を無視した動きだ。
「嘘だろ——」とヴェルスが呻いた。
着地と同時に、駿の手がヴェルスの手首を掴んだ。
一捻り。エネルギー兵器が床に落ちた。
「終わりだ」
ヴェルスがもがいた。
「離せ! お前たちにはわかっていない!バロス連合と協力することが——地球を守ることになる!あいつらを敵に回したら——!」
「バロス連合に取り込まれることが守ることか」と駿は言った。
「地球の多様性がなくなっても、生存できる方がいい!オムニアが言う多様性なんて——」
「ヴェルス」
ライの声が廊下に届いた。
駿が振り向くと、ライが歩いてきていた。
「ガーディアンに入った理由を覚えているか」
ヴェルスが黙った。
「地球を守るためだろ。バロス連合と繋がって、地球を内側から渡すのが守ることか?」
「……完全に排除するのは不可能だ。やつらは強すぎる——」
「強いから従う、と?」
「現実的な判断だ」
ライが、ヴェルスの正面に立った。
「それは——俺も一度、考えた」と静かに言った。「計算が正しければ、何でもしていい。強い相手には従う。そういう考え方だ。でも——」
ライが止まった。
「俺の幼なじみを殺した計算は正しかった。でも——それで俺は何も守れなかった。わかるか?」
沈黙。
ヴェルスの肩が——少し、落ちた。
◆
その後、ヴェルスは甚之助が設計した拘束具で確保された。
ガーディアンの女性メンバーが通信でEDFに連絡を入れた。
「クロス少佐に引き渡す」と駿が言った。「バロス連合のエージェントとして処理してもらう」
「少佐は信用できるか?」とライが聞いた。
「できる」と駿は言った。
白峰奈緒が歩み出た。
「証拠の提出は私がサポートする。内閣府を経由した方が、処理が早い」
ライが白峰奈緒を見た。
「……あなたに、謝らなければいけない。組織の一員がやったことだ」
「謝罪を受け入れる理由はない」と白峰奈緒は言った。「でも——同じ敵を追っているなら、それでいい」
廃区画に、少し静かな時間が流れた。
駿がライに言った。
「ガーディアンは、これからどうする?」
「変える」とライは言った。「これだけのことが起きた。変えなければいけない。でも——独りではできない」
「俺たちに頼む気か」
「……頼む気があれば、頼んでもいいか?」
駿は少し考えた。
「今夜のことを話してみる。俺だけでは決められない」
◆
三人で外に出た。
「どう思う?」と駿がヨーコと甚之助に聞いた。
「ライは信用できると思う」とヨーコが言った。「でも組織全体はまだわからない。時間をかけて見ていく必要がある」
「俺も同じ意見だ」と甚之助。「今日みたいなことが起きる組織と、深く連携するのは危険だ。でも——縁を切るのも惜しい」
「ヴェルスのような人間が内側にいたのは、組織の問題だ。でもライが変えようとしているなら——変わる可能性がある」
「様子を見る、ということか」
「そうだ」とヨーコは言った。「ガーディアンが変わるかどうか、見届けながら——俺たちは俺たちの戦い方で続ける」
駿がうなずいた。
「それで行く」
「アマテラス」の夜が、少し静かになっていた。
遠くで地球が輝いている。
守るべきものは——内にも、外にも、ある。




