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第3話【小早川探偵事務所】3

「話は変わるのですが、木花さん。例のビデオの件やパチンコ店で黒い影のような物が見えたそうですね?」

小早川さんは真面目な顔で訊ねてきた。


「はい。でも落ち着いて見れば誰にでも見える物なんじゃないですか?1度目の店長の家では瞳も黒い影に追いかけられて逃げましたし。」


 橘くんにパチンコ店で言われてから、地下鉄のホームやマンションの屋上など色々な所に影がある事に気が付いた。少し嫌な感じはするものの向こうから何かしてくる様子は無いので気にしないようにして過ごしていた。


「いいえ。普通の人には見えません。橘くんに確認してもらったら石永さんも見えてはおらず『カタカタ音がしたから』『咲耶が逃げたから』と言っていたそうです。僕と橘くんには見えますが、同じお寺で育った凛はまったく見えません」

落ち着いた様子で小早川さんは言った。


「でもパチンコ屋さんの時のように気にしないようで過ごせば大丈夫なんじゃ」

私がそう言い終わると


「パチンコ店の時のような自我の無い無意識の集合体のような物だけではなく、自我を持ち人に害をなす事を目的とした悪意の集合体のような物もあります。そういった物は見えない人にも憑きますが、見えているけど何もできない人の方に好んで憑きます。見えている方が恐怖心を煽れますからね」


「そんな・・・どうしたら良いのでしょうか?」

私は不安からすがるように小早川さんを見た。


「とりあえずですが、こんな物を用意しました。橘くんあれを持ってきて」

小早川さんがそう言うと奥の部屋から橘くんが布に包まれた何かを持ってきて私の前で布を広げた。


「ピンク色の勾玉まがだま・・・ですか?」


「そうです。ローズクォーツの勾玉です。橘くんの話を聞いてすぐ、出雲の方で清められた物を取り寄せました。木花さんのお名前は『木花咲耶姫このはなのさくやひめ様』から名付けられたお名前ではないでしょうか?名は体を表すでは無いですが、神様の名前を頂いているのですから、木花咲耶姫様をモチーフにした桜色の勾玉は少しだけでもご加護が得られると思います。」


「そんな霊験れいげんあらたかな物はお高いのでは・・・」

貧乏学生の私は不安になった。


「そこは大丈夫です。この前のパチンコ店で木花さんたちを利用して、荒稼ぎした人がいますからね」

小早川さんは意地悪く微笑みながら橘くんの方を向いた。同時に凜さんがキッと橘くんを睨みつける。


「お金はオレが出すから心配しないでよ・・・」

橘くんが顔を引きつらせながら言うと、凜さんが笑顔に戻った。


「ありがたく使わせていただきます。橘くん本当に良いの・・・お金出してもらっちゃって?」

私は橘くんの方を見る。凜さんに見張られている橘くんは2度大きく頷いた。


「勾玉は毎日肌身離さず着けておいてください。ネックレスにするのが邪魔にならず良いかもしれませんね。あと、寝るときは枕元に置いたり首にかけたりして眠って下さい。人間は睡眠中が一番無防備になりますから」

そう言うと小早川さんは橘くんの方を向いた。


 橘くんはメモ帳に何かを書いて渡してくれた。

「これ、何かあったら連絡してよ。樹さんか俺がすぐ行くから。でも憑かれてるときは気づきにくいんだよな・・・」


「それなら咲耶ちゃん!この事務所でアルバイトさせてもらったら?そうしたら何か悪いものに取り憑かれても気づいてもらえるし」

そう言うと長谷川さんは音が鳴らない程度に手を叩き合わせた。


「女性の依頼者さんも多いので僕と橘くんだけより、女性のスタッフが1人いた方が良いのでは無いかと考えていましたが・・・木花さんはレストランのアルバイトもあるのでは無いでしょうか?」

そう言うと顎に手を当て小早川さんは少し考えてから私の方を向く。


「正直、木花さんが辞めてしまうのは店としては痛手だけど、事情が事情だからね。しかた無いよ」

店長は残念そうに私の方を見た。


「はい・・・不束者ではありますがよろしくお願いします!!」

いつのまにか話が決まり取り残された感じではあるが、元気よく返事をする。


「なるべく危ない事には関わらせないようにしますし、探偵事務所という場所で働く事をご両親が心配なさらないようにしっかりと電話で説明させていただきます。」

小早川はそう言うと微笑んだ。


「咲耶ちゃんみたいな可愛い子なら大歓迎だよ。お姉さんとも仲良くしてね」

凜さんは満面の笑みでそう言う


「いや、姉ちゃんは仕事の邪魔しに来るだけでここの人間じゃないでしょ」

橘くんがそう言うと凜さんに「うるさい」と頭をポカリと叩かれる。


 正直なところ探偵という仕事に興味がないわけでは無いし、非日常的な現在にわくわくしている自分がいる。


 それに『私、探偵事務所で働いてるの』というのは何だか物語の登場人物のようでカッコいい。


「では詳細はまた後日ということでよろしいでしょうか?木花さんはこちらで働いていただくとして・・・橘くん、皆さんを外まで送ってくれますか?木花さんとはまた後ほどゆっくり話をしましょう」

小早川さんはゆっくりとそう言うと私たちに軽く会釈した。


 橘くんが事務所の外まで見送ってくれて、『またね』と笑顔で手を振っていた。


 私の橘くんの最初の印象は金髪でジャラジャラとアクセサリーを着けていたので怖い人なのかなと思っていた。今日の凛さんに怒られている時の表情が、少年のようで可愛いらしかった事を思い出し、そのギャップでクスリと笑った。


「樹くんだけじゃなくて、みんな大きくなったんだな・・・」

しみじみと長谷川さんが呟いた。その様子が少し寂しそうだったので理由を尋ねようか迷ったが、いつも穏やかに微笑んでいる長谷川さんのそんな表情は見たことがなかったので黙っていることにした。


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