第3話【小早川探偵事務所】2
事務所内はダークブラウンのフローリングで家具は濃い緑色のソファと同色で革張りの椅子が2脚置いてある。書類が収められている本棚が壁際にあり、部屋の奥に白いドアがあって、会議室か倉庫なのかと思われる。
「散らかっていてすいません。さあ掛けて下さい」
と促されて4人掛けのソファに私と長谷川さんは腰かけた。
橘くんは慣れた手つきでコーヒーカップにお湯を淹れている。
「どうぞ」
と各々の前にコーヒーが置かれ、小早川さんと店長は椅子に座った。
「さて、改めて先日はどうもありがとうございました。おかげで今はすっかり元気になりました」
そう言って店長はペコリと頭を下げた。
「本当に樹くんたちには感謝しています。お礼も兼ねて菓子折りを買ってきたのでどうぞ召し上がってください」
長谷川さんが手土産を持った手を伸ばす。
「いえいえご丁寧にありがとうございます」
小早川さんが手土産を受け取ると、包装紙を丁寧に解き菓子折りを開ける。
「これ南郷通りの有名なお菓子屋さんのじゃないですか!橘くん、皆さんにお出しするからお皿をお願いします」
小早川さんは満面の笑みでお菓子を皿に並べた。
「樹くんは子供の頃から甘い物が好きだったものね」
長谷川さんがほほ笑みながら言うと
「コーヒーには甘いものが合うんですよ」
と照れ臭そうに小早川さんがはにかんだ。
「木花さんと石永さんには先日、橘くんがご迷惑をおかけしたみたいで・・・よりにもよって若いお嬢さんを朝からパチンコ屋さんで並ばせるなんて・・・」
呆れたように頭を下げた。その後ろで橘くんはばつが悪そうに苦笑いしている。
すると部屋の奥の白いドアが勢いよく開いた。
「ちーちゃん!!やっぱりパチンコ屋さんに入り浸ってるんだね!!同じ大学の人から聞いてるよ!大学にも行かないでそんな事ばかりして!!」
「えっ!!姉ちゃん!!」
明るい髪色で長めのコートにジーンズ姿の美人さんが逃げ出そうとする橘くんの後ろ襟をつかんでいる。
「あっ、すいません」
美人さんは照れ笑いをしながら頭を下げると、白いドアの向こうへ橘くんを引っ張っていく。
「樹さん・・・」
橘くんは小早川さんに助けを求めたが、小早川さんは笑顔で手を振っている。
白いドアが閉まると「あんたはホントに・・・」と怒声が聞こえた。
「騒がしくてすいません。あれは私の従妹で橘くんの姉の”橘 凛”です」
小早川さんは苦笑いしながら頭を下げる。
「凜ちゃんか~。子供の頃しか見てないけど美人さんになったね。樹くんもいつもあんな風に怒られてたものね♪」
長谷川さんがいたずらっぽく笑った。
「子供の頃の話は勘弁してください・・・」
小早川さんは苦笑いをしている。
「ところで『ちーちゃん』って?」
私は小早川さんに質問してみた。
「ああ、それは橘くんの事です。本人は『せんしゅう』と名乗ってますが、本名は『ちひろ』。”橘 千宗”が彼の本名です。
子どもの頃から凜が『ちーちゃん、ちーちゃん』と誰の前でも言うもので、男友達に『女の子みたいだ』とからかわれてから、そう名乗っているみたいですね」
「ちーちゃんって・・・凜ちゃんの後ろをついて歩いてたちーちゃん?全然気が付かなったな~。せんしゅうって名乗ってたし。
立派になって・・・私も年を取るはずだなぁ」
長谷川さんそう言うと『うんうん』と頷いている。
「長谷川さんもまだまだお若いですし、人一倍お綺麗ですよ」
そうやってスマートに褒められて長谷川さんはフフフと上品に笑う。小早川さんは女の人慣れしているなぁと思った。
奥の部屋の怒声が収まりゴソゴソと音がしたのち奥のドアが開いた。
「お客様の前で恥ずかしい所をお見せして・・・ん?舞お姉ちゃん?」
凜さんは驚いた表情で長谷川さんを見た。その後ろで橘くんはぐったりした表情をしている。
「凜ちゃん久しぶりだね。すっかり美人さんになっちゃって♪」
長谷川さんは微笑んだ。
「舞お姉ちゃんは全く変わらないね。私たちと同い年くらいにしか見えないけど?えっ、私といっちゃんが24だから・・・30・・・」
「凜、女性の年齢を言うのは同じ女性でも失礼ですよ」
小早川さんが割って入り凜さんを窘める。
「いいよ。おばさんなのは本当なんだから気にし・・・」
そう言い終わる前にそこにいる全員が
「おばさんには見えません!!」
ぐったりしている橘くん以外の全員が反応した。
「あらあら、褒められちゃった。みんなおだて上手だね」
と長谷川さんはいつものように微笑んだ。




