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第3話【小早川探偵事務所】1

 橘くんにパチンコ屋さんに誘われてから数日が経ってからのこと、店長宅の件で会って以来、初めて長谷川さんとシフトが一緒になった。


 キッチンもホールもちょうど客が少ない時間帯で長谷川さんはキッチンスタッフと談笑している。


「おはようございます。この間は本当に助かりました」

私は深々と頭を下げた。


「いいのよ。咲耶ちゃんは店長を心配してお家に行っただけだし、元凶は興味本位でビデオをお家に持って帰った店長とお店に持ってきた佐々木くんだからね♪」

ほほ笑みながらではあるが後半は少し怒気が混ざっていた気がする。


「すみません・・・」

店長と佐々木は申し訳なさそうに頭を下げた。


「樹くんにはタダで良いって言われたけれど、菓子折りでも持って事務所にお礼に行った方がいいかしらね?」

長谷川さんは店長の方を向いて言った。


「俺の休みの日は今度の木曜で・・・その日は長谷川さんも休みか・・・すいませんが長谷川さんも一緒に行って貰えたりしますか?でも旦那さんがいる女性と二人はまずいか・・・」

店長はシフト表を見ながら呟いた。


「ちょうど大学もバイトも休みだから、私も行って良いですか?」

店長に気を使ったのもあるが小早川さんや探偵事務所に対しての興味もあり、私は手を挙げた。


「私は大丈夫よ。咲耶ちゃんが来てくれるなら助かるかな?こんなおばさんと噂になったら店長も嫌でしょうし♪」

長谷川さんはいたずらっぽく笑った。


 そこにいる長谷川さん以外の全員が『長谷川さんと噂になれるなんて光栄です』と思っていることだろう。


 そのあと来た瞳が『大学もバイトも休んで私も行く~!咲耶だけズルい!』と駄々をこねたが、長谷川さんが『わがまま言っちゃダメよ。休んだら後から大変なんだから』となだめて、瞳は今回の探偵事務所訪問は欠席となった。


 そして木曜となりバイト先の駐車場に停めてあった店長の車の後部座席に長谷川さんと一緒に乗り込む。

「長谷川さん、木花さん今日は付いてきてくれてありがとうございます。ところで小早川さんの事務所ってどの辺なんですか?」


「私も詳しくは知らなくて樹くんに連絡したら円山公園駅まるやまこうえんえきの出口で橘くんが待っててくれるみたい」

と長谷川さんが笑顔で言った。


 バイト先のレストランは白石区しろいしく南郷通なんごうどおりにあり、そこから中央区ちゅうおうくの円山公園駅へは車で30分くらいの距離である。


 車内で隣の長谷川さんからフローラルな良い香りが漂ってきて思わず、スンスンしていると、

「どうしたの咲耶ちゃん?鼻炎?」

心配するように長谷川さんが訊いてきた。


「いいえ・・・長谷川さんからフローラルなとても良い匂いがしたので、思わずスンスンしちゃいました・・・ごめんなさい。その良い匂いは香水ですか?」

私は恥ずかしくなって小声で訊いてみた。


「謝らなくてもいいのよ。エスティローダーのプレジャーズって香水なの。デパートで見つけていい香りだったから買っちゃった♪」

長谷川さんはほほ笑みながら優しく言った。


「木花さん、女の子で良かったね。オレがスンスンやってたらセクハラだったよ」

店長はそう言って笑った。


 そんな会話をしていると車は円山公園駅へ近づいていく。パーカーを着た金髪の男の子が手を振っている。橘くんだ。


 店長は橘くんの方へ車を寄せる。

「待たせちゃってごめんね。迎えに来てくれてありがとう。さぁ乗って」

橘くんが助手席に乗り込む。


「樹さんから車種を聞いていたので、すぐにわかりました。オレも今から出勤する所だったんで大丈夫ですよ」

そう言って橘くんは店長に事務所の詳しい場所を伝え、車が発進する。


「ここを左に曲がった所です。事務所の横に月極め駐車場があるのでそこに停めて下さい」


 パチンコの時にも思ったけど橘くんは説明が的確ですごく上手い。頭が良いのだろうな。などと考えていると車は駐車場に停まっていた。

車から降りて目の前のビルを眺める。ビル自体は鉄筋コンクリート造で3階建て打ちっぱなしの壁はなんだかとてもお洒落に見えた。1階は居酒屋さんで昼間なのでまだ開店していない様子だ。2階の端に『小早川探偵事務所』と小さな看板が見える。

3階は住居スペースなのだろうか?看板などは無い。


「ここ入口なんで、階段から2階に上がって下さい」

そう言うと橘くんは入口のドアを開け階段を上がっていく。


 私たちも後について階段を上がる。階段を上がるとシンプルなデザインの木製のドアがあり『小早川探偵事務所』と書いてあるプレートが貼ってある。


「樹さん、おはようございます。店長さん達を連れてきました」

そう言ってドアをノックした。


「いらっしゃいませ。皆さんよくお越しくださいました。どうぞ中に入ってください」

と穏やかな声で言われてドアが開かれた。


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