第2話【パチンコ店の黒い影】2
再びパチスロ店に入り、あの空いた台が気になったので橘くんに尋ねてみた。
「札が刺さっているのにあの台だけ何で誰も座らないの?」
「よく見てみれば分かるかもしれないよ」
そう言うと橘くんは空いている台を指さした。
じっくり見ると黒い靄のようなのがコインを入れてレバーを叩くように動いている。
「え!!」
思わず声が出た。
「どうしたの!!」
瞳が声に気づき近づいてくる。
「やっぱり見えているんだね。でも大丈夫だよ。あれは何もしないから。おそらく打ってる間に亡くなった人の思念だと思う。いつもあそこの台は空いてるけど、たまに座った人も居心地の悪さからすぐに席を離れる。みんな空いてる台を不思議に思うけど、本能的に嫌だなと思う物は回避するからすぐに忘れてしまうのかもね」
橘くんはそう説明してくれた。
「お祓いしなくていいの?」
不思議に思って訊いてみた。
「店から依頼があればするけど、見えれば気味が悪いと思うだけで基本見えなければ無害だしね。多かれ少なかれ色々な所にああいった思念はあるから祓ってもきりがないよ。それに、急にパチンコ屋の中で『破ぁ!!』ってやったら俺が不審者扱いされて通報されちゃうよ」
そう言って笑いながら橘くんは自分のスロット台に向かっては歩き出した。
「えっ?何かあるの?見えないけど」
瞳は不思議そうに私たちを見ている。
「うん、でも大丈夫だったみたい」
そう言って私も橘くんの背中も見つめ歩き出した。
その後も橘くんは自分の台を打ちながら私と瞳の台の7図柄を揃える作業を忙しそうにしている。
夕方になり私と瞳は、この後バイトがあることを橘くんに伝えてた。
コインは増減をしながら結局、私が2箱、瞳と橘くんが3箱ずつとなっており、
橘くんはコインの数を数える機械に私たちが出したコインの箱を運び、機械に入れていく。
「2人のコインは併せて大体3,250枚だね。この店は等価で65,000円だから2人の取り分は・・・」
「お金はいいよ!!」
私と瞳はほぼ同時に言った。
「そう?金欠気味だから助かるけど・・・」
橘くんは申し訳なさそうに言った。
「そのお金で今度は瞳ちゃんと美味しいものでも食べて!!でもデートでパチンコ屋さんはちょっと・・・無いかな?」
と呆れたように言った。
「えっ!?これってデートだったの?石永さんから『この前のお礼に何かできる事ないかな』って言われたから、小遣い稼ぎを手伝って貰おうかと思って誘ってみたんだけど・・・」
橘くんは、きまり悪そうに頭を掻いている。
「ごめんね。気が付かなくて!!今度絶対に埋め合わせするから!!」
橘くんは焦っている様子だ。
私はそれが可笑しくて、不思議な力があって遠い存在だと思っていた橘くんを少し身近に感じた。
「これで借りが貸しになっちゃったかな~♪今度はすすきので回ってないお寿司かな~♪」
瞳はいたずらっぽく笑った。
「回って無い寿司はちょっと・・・なんとか回ってる方になりませんかねぇ?」
橘くんは手を合わせて懇願する仕草をした。
「今度古着屋さんでショッピングデートしてくれるみたいだし~、それで勘弁してあげようかな♪」
瞳は満面の笑みでそう言った。
「それは大変助かります!木花さんにも絶対何か埋め合わせするから!」
橘くんはホットと胸をなでおろし、安心したように言った
橘くんに別れを告げて私たちは地下鉄の駅に向かい歩き出す。橘くんは「それじゃあ、またね」と言ってパチンコ屋さんに戻って行った。
地下鉄の駅のホームで車両を待っていると瞳が呟いた。
「スロットってすごいね、黙って座って打ってたらあんなにお金になるなんて・・・」
正直パチンコ屋さんは煩くてたばこ臭い。スロットも最初は初めての事で興奮したが後半は作業のようで苦痛だった。
「でも・・・私はもう行かないかな。そんな簡単にお金が手に入るのも怖いし」
私がそう言うと
「確かに・・・、勝ってお金が増えることばかりじゃないだろうしね」
瞳もそう言って同意した。
橘くんの新しい一面が見られたり、瞳の恋の進展があったりと良い面もあったが・・・とにかく疲れた。まだこれからバイトが控えていると思うと少し憂鬱ではあるが気持ちを切り替えるため
「よし、今日もバイト頑張ろう!!」
と瞳に向かいガッツポーズをして地下鉄の車両へ乗り込んだ。




